「オードリーの小声トーク」

世に出始めた頃のタモリは、密室芸と評された。それは知的であり、ブラックであり、客とタモリとのある種共犯関係が成立する様な芸であり、一対多数のポップな笑いではなかった。

そんな密室芸が受動的な共犯関係を生み出すとしたら、能動的に共犯関係を生み出す「部室芸」があると思う。
それを先駆的に体現したのは、メンバーが野球部とサッカー部に所属しバリバリの体育会系コンビの、とんねるずだろう。
彼らはスタッフの名前をコントに取り入れ、ギョーカイ用語を自らの番組で使用し、メインだった十代を始めとする多数の視聴者を、強制的に、同じ暗号でやり取り出来る共犯者にしたてあげた。
その流れにあるのが、くりぃむしちゅーだ。
彼らがパーソナリティを務めたオールナイトニッポンでは、顧問や先輩、同級生との話を紹介し、ラグビー部だけでしか使われていなかったあだ名を、リスナーが使用し、コーナーのネタに取り入れていった。

クラスの人気者は芸人では大成しないという言葉を聞いたこともある人もいると思うが、部室で人気者だった人間というのは、お笑い芸人にも多い。
部室という空間は、学校の中にありながらも異質なところだ。クラスも違えば、学年も違う人間が集まる。
そして、ほぼ男のみとなれば、そこはもうオリジナリティのある笑いが生まれる。


今、土用の深夜に一つの部室がある。
オードリーのオールナイトニッポンだ。
TVで見られる、ポップで華のあるオードリーとは違い、DJの彼らは、出演した番組の裏側だけではなく、過去に在籍していたキサラというモノマネパブの話をし、バーモント秀樹や、ビトタケシ、くじらといった全国的な知名度が高いとは言えない芸人の名前を頻繁にトークのネタにしたり、ゲストとして出演させたりする。
そうして、リスナーとオードリーは共犯関係を結んでいく。

そんなオードリーが「オードリーの小声トーク」という本を出版した。
この本はかつて、彼らが行ったトークライブを活字化したものである。
しかし、普通のトークライブとは、少々勝手が違う。
トークライブの会場は、春日の自宅なのだ。テレビでも幾度と取り上げられた、むつみ荘の一部屋、六畳一間に客が10人。

そこで、勿論M1でブレイクするよりもずっと前にこのトークライブは幕を開け、人数もほぼ増える事なく一年間敢行された。
本の中身は、度々噴き出してしまう程面白かった。それ以上に春日、若林の人となりが分かるという意味でもかなり興味深い話がいくつもあった。


■春日の家族の話

若林:春日のおじいちゃんが面白いんだよね。

春日:そりゃちょっと言い方が悪い

若林:公園に行って木のかけらみたいなのを拾ってきて、せんべいが入っていたビニールでずーっと磨いているんだよ。で、「なんで磨いてるんすか?」って聞いたら、「木がピカピカになるんだよ」って。
すごいピカピカになってる木を、いくつも置いてんだよね、自分の部屋に。

春日:そうなのよ。私もちっちゃいころから「なんで磨いてんの?」って何度も聞いてたんだけど、いっつもその答えでね。「ピカピカになる」ってそれ以上のことは言わないし、聞けないの。

春日が小さい頃からってことと、春日と若林が仲良くなったのが高校からってことを考えると、この行為は十年近くも続けられていたと考えられると、少し怖い。と同時に、何となくケチだったり、未だに同じ家にすみ続ける春日の執着するってのは、ここから来てるのかなァと思わずにはいられない。

■若林のおじいちゃんの話

若林 オレのおじいちゃん、ちょっとおかしいんだけど。

春日 ご存命?

若林 いや、死んだ死んだ。とっくに死んだ。でね、数学の教師だったんだけど、二階が全部自分の部屋なのよ。ド田舎だから。で、3000冊くらい本があるの。

春日 すごいよね。

若林 でね、母ちゃんが言うには、「アナタちょっと似てるわ、陰湿なところが」って(笑)

春日 なんで?普通に本好きなおじいちゃんなだけじゃないの?

若林 母ちゃんに聞いたんだけど、ある日二階の窓から本を捨ててるんだって。「いらない、こんなもんはー!」って。
読んだ本をガンガン捨ててるんだって、二階から庭に。もうおかしいじゃん。

春日 怖い怖い。

若林 怖いでしょ?で、ダダダダーッて二階から下りてきて、庭に溜まった本に灯油かけて、火ぃつけて全部燃やすの。

春日 何なんだよ!何それ?

若林 で、母ちゃんが「なんで急に本燃やすの?」って聞いたら、「オレはまだ一冊も本を読んでない!」って。

春日 読んだんでしょ?なんで……本……えぇ?

若林 本質的な意味では、読めてないってことらしいんだよね。

春日 ハハハ、そういうことか。

若林 読んだんだけど、読めてないっていう。

春日 じゃ、読み直せばいいじゃん、別に。

若林 ちょっとおかしいんだな。

春日 なんで燃やす?

若林 いや、分からない。


このエピソードは、個人的には本のなかで一番好きな話なんだけれど、オードリーのラジオを聞いていない人は、すげー爺ちゃんだなぁとしか思わないかもしれない。
ベビーフェイスで通っている若林も、実はかなりめんどくさくて変わっていて、それを知っていると、さっきの春日のおじいちゃんの話同様にリンクすると思う。

特に若林は、自分や春日の机に油性マジックで、文を書きなぐる癖があるらしく、家にいて手持ち無沙汰な時は、それをしたりしているらしい。
はたから見たら、本をぶん投げて燃やすこととそんなにクレイジーさは変わらない様な気がするのだけれど……。


その他にも、事務所の後輩にドッキリをしかけた話や、昔のバイトの話と、色々な話をしているのだけれど、その中でも良くも悪くも刮目して欲しいのは、ウソトークである。
これは全くの嘘の話を、若林が春日にふって、春日がそれをかえすというものであり、まさにくりぃむしちゅーがオールナイトでやっていた無茶ぶりと同様なものだ。
ラインナップだけあげると、「ジャングルの王者だった頃の話」「全裸でエベレストに登った話」「大蛇に丸呑みされた話」「パラシュートなしでスカイダイビングした時の話」である。
これがお客さんの間でも賛否両論となった程の、悪ふざけな話となっているので、手にとって見てほしい。本当にただの悪ふざけであることを確認してほしい。


今回紹介したエピソードはほんの一部であり、かなりバリエーションに飛んだトーク群が詰まった本となっている。きっと読んだ人によって好きな話は違うだろう。ただ、きっと、読み終えた後は、オードリーと共犯関係を結べるはずだ。
そして、書き下ろされた春日のあとがきにニヤニヤし、若林のあとがきの最後の四行を読んでほしい。
この四行に、若林が詰まっている。雑誌のインタビューで「仕事がまたなくなったら、それはそれで面白いかなとは思っていますよ」と言っていた。
ジェンガというおもちゃがある。ジェンガで一番面白いのは、ギリギリまで高くなった塔からバランスを保ち、上手く一本抜いた時じゃない。
そういう時に、横から邪魔をしてゲラゲラ笑うのが一番面白い。それをオードリーは、知っているのだ。だから、信頼出来るのだ。