石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

太田光「しごとのはなし」

先日出たばかりの太田光の新著「しごとのはなし」。これは「ぴあ」での連載をまとめ、再構成したもの。テレビブロスでのコラムをまとめた「パラレルな世紀への跳躍」「トリックスターから空へ」のような文章!という感じの文体ではなく、<ぴあの会議室だったり、赤坂のホテルの一室だったり。タバコを吸い、コーヒーを何杯か飲み、途中で遅い晩ご飯を食べたりしながら気楽にしゃべり倒したというのがその内容>とあるように「しごと」について語った、話し言葉で書かれていて読みやすいものとなっている。
<気楽にしゃべり倒した>から「仕事」ではなく「しごと」。
ただし、まえがきで、テレビ収録やラジオとかは自分のなかで仕事っていう認識がないと言っているように、「しごと」について話しているのは第一章くらいで、「せいかつ」についてのことのほうが多かった。爆笑問題のテレビやラジオ、いろいろな著作を見たり読んだりしているけれど、この本は今までのどの媒体よりも、素の太田光に近いものじゃないかなと思った。それが新鮮だった。そして、相方・田中裕二のことが頻繁に出てきて、にやにやとさせられもした。

第一章 仕事とは? 夢のはなし/田中裕二のはなし/リーダーのはなし/珈琲と煙草のはなし/プロとアマのはなし/ピンチとチャンスのはなし/ストレスのはなし

第二章 世間とは?お金のはなし/不景気のはなし/苦手なもののはなし/情報のはなし/ジェネレーションのはなし/ランキングのはなし/今できることのはなし

第三章 個性とは?発送とオリジナリティのはなし/恋のはなし/キャラクターのはなし/運のはなし/エゴのはなし/日本と世界のはなし/ピュアなはなし

第四章 表現とは?漫才のはなし/時間と締め切りのはなし/スターのはなし/言葉のはなし/エンタメとアートのはなし/嘘のはなし/テンションのはなし

第五章 人間とは?天才のはなし/記憶のはなし/親父のはなし/落語と立川談志のはなし/つまらないはなし/孤独と友達のはなし/ダメなひとのはなし


とある。特に「第四章 表現とは?」についてはここだけでも、立ち読みでもいいので読んで欲しい。なんたって、サブタイトルの「今日も猫背で考え中」からして愛おしい。ちなみによくある「ちょっとかっこいい仕草だと思ってやっていた仕草」として、中学のころは太田光に憧れて猫背で歩いていました。ただ猫背が可愛いのは、痩せぎすの人限定なんですね……。
まえがきでテレビ収録やラジオを仕事とあんまり認識していないという言っていたと書いたが、「漫才のネタづくり」「原稿書き」の二つは仕事という認識があるとも書いていた。
爆笑問題といえば2ヶ月に一回、ライブで新ネタをおろすことが凄いとよく言われる。結成20周年前後の何年か前は、このことについてのインタビュー記事をよく見たが、その時はやめる理由がない等、はぐらかしたような答えをしていた覚えがあるのだが、この「漫才のはなし」ではちゃんとしたことを書いていた。

じゃあ、なぜ漫才を続けているかといえば、たけしさんの影響が強いように思う。これはネタのスタイルうんぬんの話ではなくて、「ツービートは漫才を続けていない」ということに対してだ。俺は、芸能界に入った頃から「若い時期のたけしにそっくりだ」と言われていた。たけしさんに憧れてこの世界に入っていたから、その指摘は的を射てるんだけど、一方で、「俺は一生、たけしさんの亜流でい続けないとダメなのか?」との思いもあるじゃない?事実として、ツービートは漫才をやり続けていない。だったら、爆笑問題漫才をやり続けるのはたけしさんの亜流ではないということ。そんな想いが2ヶ月に1度のタイタンライブで、俺をマイクの前に立たせ続けてきた。まぁ、続けるという意味において、時事漫才がつくりやすかったというのもあるっちゃあるんだけど(笑)。

漫才を作り続けることは、「たけしの亜流ではないことの証明」とはっきり答えている。これだけでむせび泣けますよ!
これだけで、この本を買う理由になりますよ!

他にも立川談志チャップリン黒澤明島崎藤村と影響を受けた人物として度々名前を上げてきた人たちを初め、伊集院光とくりぃむ上田、タイタンの構成作家秋葉や野口といった人々が実名で話題にあがるのでカーボーイリスナー必読の書だと思います。
特に伊集院光と、くりぃむ上田についてしゃべっているのが「孤独と友達のはなし」というのもまた嬉しい。
<たぶん、ズレがあるのだ。俺が友達という言葉のニュアンスと世間が思うそれとは……。>と始まるこの章で、くりぃむ上田と、伊集院光について語っている。

たとえば、くりぃむしちゅーの上田のことを俺は友達だと思っているけど、仕事終わりで飯に行くことなんて年に数回程度だから。同じテレビ局でお互いが居合わせた時なんかは、「いる?」なんて言いながら上田が俺らの楽屋に来てくれて、くだらない話を散々する。しばらくして、それぞれの仕事が始まるってなると「じゃあ今度飯でも行こうよ」って別れておしまし。そういう関係性に対して「そんなの友達じゃないでしょ?」と世間が言うのなら、もうね、俺には返す言葉が見つからない(笑)

この話はほんと大好きで、その様が想像出来るのが良い。

伊集院光に対しては、

俺が思う友達のなかで、談志師匠タイプのストイックな芸の向き合い方をしているのが、伊集院光だ。伊集院は落語家出身だから、よく落語の話をしたりするんだけど、細かいところの話まで共感してくれるから、あいつと話していると孤独を感じる暇もない。

とし、「ラジオの伊集院は本当にすごい。」と紹介している。

たとえば、ある時期からラジオで流した番組をポッドキャストで聞けるようにするのが一般的になったんだけど、ラジオとポッドキャストとの差別化みたいなものなんて、俺らはスタッフに全部任せちゃうわけね。ところが伊集院はなにからなにまで全部自分でやる。おそらく、自分が世に出るきっかけとなったメディアであるラジオへの思い入れがあるからだろうけど、一切の妥協をしない。だからこそ、ラジオの伊集院はバケモノ的な人気を誇っているんだと思う。

そんな伊集院とも、食事に行くのは年に数回あるかないかとのことなので、この関係性も「友達じゃないと言われるかもしれない」と言っているのが可愛い。そもそもなんで、ご飯を食べに行かないのかというと、


ただね、俺の場合はとにかくめんどくさがり屋だから(笑)。酒を飲む習慣がないっていうのもあるんだろうけど、誰とどこで何を食うとか決めるのがとにかくめんどくさい。だったら、芸人同士の楽しい会話は仕事の現場ですりゃいいかって、爆笑問題が司会の番組では俺が悪ノリして収録時間が長くなってしまうのです。


やだ、太田さん可愛すぎる……。
収録時間が長いと言えば「検索ちゃん」がおなじみだったけれど、数年前の苦情がめちゃくちゃ来た、そしてリアルタイムで見て死ぬほど笑った「生放送で検索ちゃんをやって、太田さんがはしゃいで、用意した問題を全然できなかった」事件についても話しています。
この放送は爆笑問題関連のテレビでも1、2を争うくらい笑いました。


太田光「しごとのはなし」は、爆笑問題が好きなら手にとってみてください。