「安堂ロイド」は電波豚(ブーブくん)の夢を見るか。

2013年9月9日に放送された「SMAP×SMAP」で、SMAPがこれまでにリリースしたシングル50曲がノンストップでMIXされたメドレーを歌い切った。この9月9日という日はSMAPのデビュー日であり、今回の放送はそれにちなんだ企画なのだが、まさにそれは、愛されることが止まらない彼らの歴史だった。個人的には、1996年の「青いイナズマ」「SHAKE」から始まる「ダイナマイト」「セロリ」「FLY」あたりまでが印象深い。50曲目の「Joy!!」を歌いだすと、過去と今がクロスする。
「Joy!!」の途中でスタジオを飛び出し、客も一緒に別のスタジオへ移動するという演出もライブ感をより際立たせる。その途中にあるくす玉を割ると「2020年東京オリンピック決定おめでとう」の文字。オリンピック誘致にはSMAPは別に関係ないのだが、「Joy!!」が持つハレの力が、SMAPありがとう!という気持ちにさせる。スポーツ観戦が嫌いなのに!
この間、CMは放送されなかった。製作者、関係者の尽力とスポンサーの理解もあるだろうが、民放のテレビ局でそんなことが出来る理由は、ただSMAPだからというもので足りる。
木村拓哉主演の新ドラマ「安堂ロイド」を見た。普段なら特に木村拓哉だから見るということはしないが、「安堂ロイド」というハイスクール奇面組システムを起用したタイトル。これだけで見るべきドラマだと分かるが、「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明鶴巻和哉、「ケイゾク」「SPEC」の西荻弓絵と、興味をそそる土台。水道橋博士マキタスポーツを評した言葉「才能の渋滞」を想起させる混沌さに、第一報を聞いた時からワクワクが止まらなかった。
安堂ロイド」は、木村拓哉演じる松嶋零士が考えこんでいるカットから始まる。
見たこともない数式が、画面に浮かんでは消えていく。一つの答えに到達した松嶋はホワイトボードに数式を書き始める。松嶋は東京帝国大学の教授でワームホール理論を研究している研究者でもある。
世界に誇れる頭脳のはずが、授業は退屈のようで、席はガラガラ、生徒もやる気がない。研究室に戻り、妹の松嶋七瀬と談笑をしていると、「物理学者の御法川が殺された」というニュースを見つけると、零士は「ちょっと行ってくるね。この次は僕が殺されることになっているから。僕の理論が正しければね。まあ、残念ながら正しいんだけど。僕の理論の欠陥を見つけるか、その理論の渦に飛び込んで向こう岸にたどり着くか、そのどちらかしかない。でも、僕は負けない。守らなければならないから、麻陽のことを。」と話す。何を言っているのか分からない七瀬は戸惑う。机の上に置かれていた死亡者リストには、先ほど報じられた御法川の次に、松嶋零士、そのあとには安堂麻陽の名前がある。
零士の婚約者の安堂麻陽と、公安第仇課の刑事の葦母衣朔の紹介シーンが終わると、空港にいる零士の場面になる。「お待ちしておりました、松嶋零士様」と福田彩乃演じる謎の女性に話しかけられると、「君が僕を殺す予定の人・・・・・・。」と返す。
死亡者リストにある、搭乗中の飛行機で殺される予定と知っていたので、パスポートをシュレッダーにかけたり、監視カメラが数百台もあるところに行くのだが、ウージングアウトにより、謎の空間に飛ばされ、あっさりと零士は殺されてしまう。
七瀬と麻陽は、零士が死んだことをニュース速報で確認し、婚約者が死んだという悲しみに暮れる。
そして駅のホームで電車を麻陽が待っていると、誰もいないのに、電車が通りすぎようとした所に突き飛ばされる。
ここで場面が変わると、廃ビルのような吹き抜けた場所にいる。そこには零士と同じ姿をした男がいて、「安堂麻陽だな。すでに鑑定は終了している。」と口にする。その男は「アンドロイドARXⅡ-13。自分が助けなければ、君はさっきの電車で殺されていた」とも言う。ここで先ほどの女性がラプラスであるということが明かされ、亜空間での戦闘シーンが始まる。
ラプラスにボコボコにされ、アッパーカットを喰らう安堂ロイド。画として百点であり、こんなキムタクは見たことがない。
ここからはドラマとしてグルーヴが加速していく。致命的ダメージを受けた安堂ロイド。七瀬を殺そうとするラプラス。そこに「おばさーん。先にARXⅡ-13を先に倒した方がいいと思うんだけどなあ」と割り込む、桐谷美玲演じる謎の女性。もう一体、「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」と引き出しから飛び出るのは、ナース服を来た本田翼演じるサプリが、安堂ロイドの修復をする。そして、注射器を使い、OSをユカワOSからアスラOSに切り替え、覚醒する。このシーンも日本のドラマではなかなか見ることができないものでたまらない!未来から何かが来る時に、机の中から。これはオマージュでもパクリでもなく、相場が決まっているというものなんです。
ラプラスはこう話す。「あなたが何者かはわかりませんが、歴史を曲げることは重大な違法行為です。歴史を捻じ曲げたのは松嶋零士です。私達は彼が破壊した歴史を修復しなければなりません。そのために、その安堂麻陽を殺す必要があります。警察の公務にご協力ください」と。そしてその警察は後10体いると。
安堂は「何の問題もない。俺はその十体とも全部倒す。勝つまでやる。何度でも何度でも。それだけのこと。」と宣言し、ラプラスを倒す。
ただそのあと混乱したのか、麻陽は電車へ飛び込み自殺をしようとしてしまう。またも、安堂ロイドに助けられるが、零士がいなくてどう生きればいいのか、あの紙の通りに死ねば良かったのよと叫ぶ。すると、射殺許可をクライアントに求め受理される。
ここで一話が終わり。
零士らが誰に殺され、科学者でもない麻陽まで狙われていたのか。そして麻陽を守るために、安堂ロイドを派遣したクライアントとは誰なのか。桐谷美玲演じる女性はどういう存在なのか。葦母を初めとした警察がどう絡んでくるのか。本田翼は顔の血行が悪すぎやしないか等々の、様々な謎をぶん投げてくる感じはたまらない。
ドラマのタイトルだけじゃなく、登場人物の名前にも大好きな面白いやつで溢れている。主演の木村拓哉演じる松嶋零士は、夢と時間よりも著作権に裏切られない男の松本零士に因んでいる。大島優子演じる松嶋七瀬は筒井康隆の「七瀬ふたたび」、零士の婚約者の安堂麻陽と同じ会社の、桐谷健太演じる星新造は星新一山口紗弥加演じる小松左京子は小松左京。他には、遠藤憲一演じる、公安部第仇課特殊捜査班の刑事の葦母衣朔はアイザック・アシモフ、その部下は冨野 好雪は富野由悠季。他にも何か色々と元ネタがあるかもしれないが、アイザック・アシモフに比べ、小松左京の扱いのおざなりさがじわじわとくる。
その他にも、出てくるキーワードに「ラプラス」「バレエメカニック」「プラントル・グロワートの特異点」といった言葉が使われるあたり、「SPEC」のようでいて、庵野が「エヴァンゲリオン」に対して語ったように衒学的でもあり、たまらない。ちなみに、この言葉はNHKの「トップランナー」に庵野が出た時の発言なのだが、「トップランナー」といえば、ラーメンズが出ているのを見た土田晃之の嫁は「トップじゃないじゃん」と言い放ったというエピソードが好きだ。
テレビ好きの中で一つの最大公約数があるとすれば、それは日本テレビの土曜九時のドラマのような気がする。
この枠はジャニーズ事務所のアイドルや、若手女優をメインに起用して、視聴者のターゲットを思春期に絞っているというイメージがある。ただそうすることによって、ファンタジー色が強いものや、荒唐無稽な設定、無茶だろうと思われるような漫画を原作に使うという企画を通し、日本テレビの土曜九時は、治外法権が適用されたドラマ界の開放区となり、どこか捻りがあるが故の、記憶に残る奇作や異色作を産みだしてきた。高校生が名探偵なのも、脳が二つあるのも、漫画から男が飛び出してくるのも、未来からロボットが送られてくるのも、ヤクザが年齢を誤魔化して高校生活をやり直すのも、全てこの時間帯だからという理由で許される。
そして、そんな設定だからこそ描けるものもあり、そんな設定だからこそ浮かび上がってくる普遍的なテーマやメッセージが、ストレートに心に刺さることもある。
立川流家元の立川談志は、「江戸っ子の了見でやる落語」のことを「江戸の風が吹いている」と言った。
安堂ロイド」は言ってみれば、ジャニーズが築いてきた日本テレビの土曜九時枠という目線で見るべきだし、汐留の風が吹く異色作としてキムタク史の中では、記憶に残るタイプのドラマになるだろう。