石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

グランジ遠山の、見る前に跳べの精神

お笑いトリオのグランジの初のDVD「グランジBEST NETA LIVE」を購入して見ました。収録内容は12本のコントと、漫才が一本。
奇病にかかった息子と病院に来た母と医者のコント「我慢できない症候群」、二人の小学生がじゃんけんグリコをしているところに激烈にやべえ奴が入ってくる「THE MONSTER」、合コンに来てみると相手は二人ともお坊さんという「僧コン」、アウトレイジな人達の哀愁を描いた「初代五明組」、名曲に合わせたショートストーリー「secret base」、KOC2013準決勝でも披露した、爆弾を前にした刑事たちが出てくる「爆弾」、ヒールコンビとリングアナの「昔のことですから・・・」、ベタベタなコントに一つの妙を加えた「THE ヤクザ」、弟子入り志願が佐藤の下にやってくる「弟子にしてください」、頑固なラーメン屋親父とそこに来た客のデッドヒート「GANKO」、帰省した娘の子をあやしている所に、隣のおばさんが来て、赤ちゃんを奪い合う「隣のおばさん」。
特に好きなのは、「我慢できない症候群」、「爆弾」だった。「GANKO」のとんでもないストーリーに、佐藤が顔だけでリアクションを取るのも、くだらなくて面白い。ルミネを即完させる実力はさすがで、ネタの幅が広いなあと関心してしまった。
このDVDには特殊な特典映像がついている。通常であれば、幕間に流す映像だったり、撮り下ろしたミニ映像だったりするのだが、「グランジ BEST NETA LIVE」には、とある企画を発表された瞬間が特典映像になっていた。
それは、「DVDを半年で一万枚売らないとよしもと解雇」というモーニング娘。や、ウリナリを彷彿とさせる企画。
その中で「緊急発表記者会見の模様」では、よしもとクリエイティブ・エージェンシーの中で一万枚を超えたものの一部を紹介していたが、ロバートの「ロバートLIVE」、タカアンドトシ「欧米ツアー」、チュートリアル「チュートリアリズム」、陣内智則「NETAJIN」、フットボールアワー「ジェットボールアワー」、2012年では鉄拳「パラパラ漫画作品集」、COWCOWあたりまえ体操」だそうで、言ってみれば、脂が乗り切っているというベストのタイミングで出してはじめて、越えることが出来る壁ということがわかる。
また、IPPONスカウトという番組では、グランジ五明が出演していた。登場するなりのDVD告知には笑ってしまったが、この企画を聞いたバナナマン設楽は「一万枚無理だよね。」と言い、バカリズムも「無理無理無理」と言う。DVDをコンスタントに出している、この二人がこう話しているのを見て、はっとしてしまった。
DVDは頻繁に買うので、どこかで、とは言っても一万枚だろと、舐めて見ていた部分もあったのだけれど、この二つをみて、「ボーイズ・オン・ザラン」で、ちはるが青山に田西の奥の手をばらしていたことが分かったコマを読んだ時のように、ああ、絶対に駄目だと思ってしまった。立川談志の「あなたも落語家になれる」には、「今、落語を見る客は都内に二千人くらいで、寄席や独演会を持ち回りで見ている状態」といった旨を書いて、落語にお金を使う人というパイの少なさを指摘していたが、お笑いのDVDでもこれは同じような状態なんだろう。
ダイノジ大谷のANNに、「SCHOOL OF LOCK」のとーやま校長こと、グランジ遠山がゲストに来ていた。その時に、今回の企画を受け、自分の内と外が変わりつつあ
ることについて、色々と話していた。
まず、何故こういうことになったのかとして、そろそろDVDを出したいと考えていたグランジが、収録のためのネタライブを開催することが決まり、そのライブの後に記者会見までやるということに、こんなに押してくれることはないなって位用意してくれたことに、驚いてもいたという前置きを話した。
ライブも終わり、これから記者会見を行うという直前の舞台上のことを振り返り、「記者会見やろうと思ったら、チーフマネージャーが突然現れまして、何にも話聞いてないんですよ。お客さんも何が始まんのってなったら。会社としてはDVD、上に掛け合ったところ、実際知名度も無いと。世間的には。色々考えました、会社も。色んなことを。とりあえず色々聞かずに、これを見てくださいと。スクリーンにどーんと出たら、半年間のうちに一万枚売れなかったら解雇と。」と遠山は話す。
ダイノジ大谷が、それをのんだんだね、と言うと、「その場ではめっちゃ考えました。で、どうしたらいいんだと、これは。と思ったんですけれども、あとから三人で話し合ったら、結構みんな同じことを考えていたんですけれども、個人的には14年芸人やっているんですけれども、どっかで勝負をかけないといけないっていう。」と言った。
番組ラストでも、改めてどうですか、と大谷に聞かれると、遠山は「ヒリヒリはしてます。不安もめっちゃあります。やったことないし、ほんとにいけるのか、俺達で大丈夫なのかっていう。」、「イベントやったり、Twitterとか見たりとかしてて、いざ応援してくれている皆さんの顔見て、言葉見て、文字みて、ボス(大谷)もそうですし、同期、後輩、先輩。会うたびにみんな言ってくれるんですよ。で、その時に僕ら三人の話だけじゃなくなってて、っていう感覚で、おこがましいですけど、僕達がもちろん行かないといけないですし、僕達はゴールするつもりでいるんすけど、なんだったらちょっと周りにいる、同じようにくすぶっている芸人、面白いけど全然世に認められていない奴ら、勢いでそのままガンといけたらいいなと思いはじめている。」と熱をもって話す。
そして、遠山が選んだ番組ラストの曲はドレスコーズの「ゴッホ」。
アナーキー・イン・ザ・1K/ぼくのぼくによるぼくの国家は/ただ6畳一間の領土と/家賃差し引いて残した国家予算/地球の未来も気にせず/ぼくはここでひたすら考える/曰く、交響楽的社会/形而上学的道徳感/少年マンガ原理主義に則って/いざぼくらは進め/ド正義だ/邪魔するやつらは/いい日を選んで目ェ噛んじまえ/だけどぼくがいなくて困る人なんかいない、と毎朝思う/ぼくはゴッホじゃやなんだ/やっぱりゴッホじゃやなんだ」という歌詞は、この企画を受けて変わりつつある、ヒリヒリしている遠山のための歌のようにしか思えない。まさに起爆剤を手に入れんとするグランジ遠山のための、人生の出囃子だ。
奇しくも、東京ポッド許可局の「お笑いコンテスト論」では、お笑いコンテストの、遠心力と求心力の低下、つまり語ることの無くなりっぷりを話していた。
確かに、初めて聞いた瞬間に、まず拒否反応を示してしまった。けれども、すがるようにコンテストに出て、やっとの思いで決勝に行ってもバイトをしないといけないという、閉塞したジャンルでは、もう、この位の劇薬が必要なのかもしれない。
ライブが始まると、ライブ当日の日付が書かれた縦2m、横1.5mほどの大きな日めくりカレンダーが舞台上にある。コツコツと音を立てて歩いてきた遠山が一枚目をめくると、「本日はご来場いただきありがとうございます。」の文字、それに合わせてロックな音が鳴り出す。他の二人も登場し、交互にめくっていく。「開始」と書かれた紙へ飛び込み、最後の一枚を破ったところで本編が始まる。
三人はこの時点では、企画を知っているわけではないので全くの偶然なのだけれど、この演出は、ラジオで語っていたことも含めてグランジが乗っかったことにリンクさせてしまう。これを、現状を打破したいという願望の表れだと思うのは、あながち深読みじゃないのかもしれない。大江健三郎いうところの、見る前に跳べの精神。
今回の企画の結果がどちらに転ぼうとも、内から見ても、外から見ても面白くなるものだということは間違いない。グランジが外へと向かうためには会社が仕掛ける、あざとさ、しゃらくさも乗り越えないといけない。
それらも踏まえて、詰まるところは、楽しまないと損なのだ。
期限は半年。恐らく年が明けると、売上も伸び悩んでくるだろう。それは内の限界を指す。そうすると、問題はどう外に向けて波及させていくかということになるのだろうが、ここからはDIY、頭と身体の使いどころであって、企画の大喜利力が試される。
例えば、好感度が低いキングコング西野と品川庄司品川が二人に1000枚買ってもらったり、ピース綾部は100枚買ってそれをオークションに流すべきだと思うし、板東英二は1000枚買って経費として控除するってのはどうですかね。いざとなったら猪瀬直樹から無担保でお金を借りて、目標達成するという手もありますね。