「下北沢男の子祭り」に行ってきました。

赤いバンダナを頭に巻いて、三蓋松の定紋がついた着物を羽織っている男が舞台の下手から中央へ歩いていく。左手を頬に添えて、不機嫌そうに顔は歪んでいる。「あの世から帰ってまいりました」と客席を笑わせたのは、立川談志に扮した立川志らくだ。「観客のレベルに合わせてるんだ」「ジョークをひとつ」「キムッジョンイルッ、マンセーッ」とお馴染みの言葉が出てくる。
爆笑問題がゲストに出るということで『下北沢男の子まつり』を見てきました。志らくの挨拶のあとで、そのまま爆笑問題の漫才へと移る。
「いやあ、最近はニュースが多いですね」とほくほく顔が感じられる言葉から始まり、ここ最近の時事ネタの総ざらいだった。
みんなの党の渡辺元代表がDHCから八億円を借りた話では「どうりで最近肌が綺麗だと思った」から、「熊手に八億円使ったって、どんだけお金が欲しいんだ」や、その後に五億円を追加で借りることが出来たことについては「熊手の効果あったじゃねえか」とツッコミまくる。タモロスでは、「お前は玉ロス」だろと田中の片玉をいじり、佐村河内、小保方も当然ネタにする。『明日、ママがいない』の話題では、BPOからのバイク川崎バイクのBKBというくだりがあったけれど、太田のBKBはうろ覚えどころか、ただ手足をばたつかせているというもので大笑いした。
ノンストップの漫才は30分ほど続いた。先日DVD『爆笑問題のツーショット』の収録をやったからか、タイタンライブでの持ち時間よりも長尺で一度かけたネタだからなのか、肩の力が良い感じに抜けていて、もちろんそれでいて爆笑する良い漫才を見ることができた。最近は田中だけじゃなく、目を細くして歯をむき出して笑う太田までもが猫に近づいているように思える。
そのあとは、高田文夫爆笑問題立川志らくの四人でのトークコーナー。奇しくも全員が日蓺という話から始まったのだけれど、舞台上で一番喋っていたのが高田文夫ということに何より驚かされた。『笑っていいとも!グランドフィナーレ』についての話題を爆笑問題に振るも、話を最後まで聞かずに、他の話題を振る。自分の話をしたり、田中を茶化したり、志らくをたじろがせるその話しぶりは、爆笑問題の漫才よりも、志らくのジェットコースター落語よりも早く、めまぐるしい。とてもじゃないけれど、心肺停止により意識不明の状態が続き二か月以上集中治療室に入っていた人とはとても思えず、田中が「ペースメーカーのペースあげているんじゃないですか」と笑いながらつっこんだのもうなずける。
あまりにも情報量が多すぎて、中入りがあけたころには、日蓺出身者で爆笑問題三谷幸喜の間に羽賀健二がいたということしか覚えていなかった。自分の海馬を恨む。
志らくは、昼の部では『らくだ』をやったようだが、夜の部では『紺屋高尾』をかけた。これは当時の染物屋を指す紺屋職人九兵衛と、吉原での最高位の遊女である高尾太夫
のなりそめの噺だ。九兵衛は若くて腕のいい職人だが、ある日を境に寝込んでしまう。気にした親方と奥さんが、何か患ったのか聞いてみると、お医者様でも草津の湯でも治せない恋煩いだということが分かる。相手が誰かも尋ねると、大名などを相手にするような高尾太夫だという。
それでも、親方は九兵衛を元気づけるために、三年間仕事に打ち込み、お金を貯めたら、会えるようにしてやると話す。
その言葉に奮起した九兵衛は、布団から起き上がり、また一心不乱に仕事をするようになる。そして三年後、親方に積み立てていた給金を借りて、高尾太夫に会いに行きます、という。まさか本気にしているとは親方は一度止めるが、九兵衛の熱意に負け、吉原遊びに詳しい医者を紹介して協力をする。
太夫ともなればいくらお金を積んでも、職人では門前払いになるだろうということで、その医者の助言から醤油問屋の若旦那に扮して大門をくぐり、高尾太夫に会える。夜が明け朝になると、九兵衛の正体が本当は若旦那ではないことがばれてしまう。一度は激怒されるが、謝って本当の気持ちを伝えることによって、許してもらえる。それどころか、自分は来年三月一五日に年季があけるから、その時には私を女房にしてほしいと言い出す。
そして、花魁のいうことなんか真に受けてと職人仲間からも馬鹿にされながらも待っていた約束の日に本当に高尾太夫は訪ねてきて、二人は夫婦になる。
たまたま、立川談笑一門会でも立川談笑の『紺屋高尾』、このときは改作のほうの『ジーンズ屋ようこたん』を見ることができていたのでそちらも思い出しながら、聞き惚れていた。この噺には、一夜が明けたその時に、高尾から今度はいつ会えるのでありんすか、と聞かれた九兵衛は弱々しい声で、三年後です、と答える場面があるのだけれど、そこの声の緩急や間を聞くたびに泣けてしょうがない。この噺が生まれた時代から、今、そしてその先といった時代を超越し、永遠と一瞬のどちらも感じさせるようなフレーズだといっても大げさにはならないとさえ思える。もしかしたら、この感覚は落語を生で見るということでしか感じられないのかもしれない。
再び、四人が出てきて、エンディングトークにはいる。まだまだ元気な高田文夫が「オールナイトライブにしようか」といって観客も拍手で賛成する一幕もあったけれども残念ながら、いつだって祭りは終わる。京王井の頭線の車内で反芻した、光の中に立っていた男達の姿は三様に美しかった。