【三四郎『一九八三』】オルタナ漫才、絶対頑張ります!

高田純次が『どうぶつ奇想天外』で、「アパート経営は全ての男の夢」だと話していたことがあるが、これまでの人生で、そしてこれからの人生においても何の影響も及ぼさないのに、なぜかずっと記憶に残り脳の容量を喰っているので、一刻も早く忘れたい言葉の一つだが、夢と言えば、ネタ番組がほとんど放送されない今、全ての若手芸人にとって夢を叶えるためには、テレ東の『ゴッドタン』のプロデューサー佐久間、テレ朝の『アメトーーク』『ロンドンハーツ』の加地と二人のプロデューサーにハマるしかない。
水曜日のダウンタウン』の総合演出をこなすTBSの藤井健太郎も同じく才気走っているのでそこも狙いにいかなければならないが、藤井は何かといえば、ジャンプ漫画のようにトーナメントを開くことを優先してしまうので、先の二つの番組として比べると、取扱説明書としての波及力は弱い。
よしんばザブングル松尾の様にハマったとしても、獣神サンダーライガーにロメロスペシャルをかけられる始末。爆笑とお笑いファンの記憶に残りはするものの、他の番組で、プロレス技をかけられるかというと怪しい。
そんななか、今最も、この二人にハマっているといえば、三四郎小宮浩信だ。小宮は「滑舌が悪い」「生意気」といじられながらも独特のワードチョイスで抗戦する小宮は、その猫のような顔つきからも、『じゃりんこチエ』に出てくる野良猫をほうふつとさせるが、実際は関東のライブシーンでは引っ張りだこで、漫才師としての実力は折り紙つきだ。
その三四郎が、ついにDVDをリリースした。『一九八三』と銘打たれた初めてのDVDは、黒一色の舞台で、ただただ漫才をするというストロングスタイルでお送りする。
鈴木あみの1stアルバム『SA』のキャッチコピー「ファースト・アルバムにして、ベスト・アルバム」を思い出させるほどに、ネタはベストといえるものだ。『SA』というタイトルは鈴木あみのイニシャルに由来するが、『一九八三』が二人の生まれた年ということを考えると、こちらもほぼ同じシステムを導入しているといっても過言ではない。
DVDを再生すると、ドリフ大爆笑のOPを歌って踊りたいという「ドリフ」では、設定もさることながら、「相方だったらツボ一緒であれよ」「ツッコんでんだから、ボケ終われよ」「ボケだったら、ツッコミの俺よりも異常であれよ」と一本目から小宮は、漫才を見ていれば見ているほどに、メタはメタでも、サイコパス診断テストの答えを聞いた時のような予想もしていなかった角度から攻め方で定石をいじる。
伊集院光が、もし自分に子供がいたら象の存在を全力で隠し続けて、良きところで動物園でいきなり象を見せて驚かせたいって言っていたけれど、同じように自分にも子供が出来たら、漫才やコントを1,000本くらい見せたあとに、三四郎の漫才に出てくる「相方だったらツボ一緒であれよ」を見せて衝撃を受けさせたい。
リア充に劇薬ぶっかけたいですよね〜」から始まる「リア充」では、その設定に待ったをかけて、発売元のコンテンツリーグの上層部に好印象をもってもらうようなネタをするよう相田が促すも、小宮は「権力のイヌか。肉球見せろ、ぷにぷにだろ。肉球に劇薬ぶっかけるんだよ」と反論する。そして、そこから、雑にあたりまえ体操ジグザグジギー日本エレキテル連合を雑にパクって、最終的にはなぜか中島みゆきの「ファイト!」を熱唱して終わる。
銀杏BOYZが『DOOR』『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』をリリースしたあとに、漫画家の古泉智浩峯田和伸と対談をした際、『DOOR』の頭の二曲「十七歳(…cutie girls don't love me and punk.)」「犬人間」を引き合いにだして、これをいいと思うかどうかってリスナーとしてふるいにかけられているように思えたという話をしていたけれど、まさにそんな二本からDVDは始まる。
ここ最近、昆虫キッズというバンドの『BLUE GOHST』というアルバムを聴いているのだけれど、そこに収録されている「Alain Delon」という曲がある。イントロのドラムと、それを追うギターの音が印象的なその曲はバチボコにかっこいいが、そのひとつ前の「ともだちが泣いている」という曲、これがまたとんでもなく不穏な曲で気持ちをざわつかせるので、最初は「Alain Delon」をメインで聞いていたけれど、ふと、その「ともだちが泣いている」から受けた圧を「Alain Delon」で解放されるという流れがものすごく快感になっていることに気がついた。なぜ、この話をしたかというと、『一九八三』の最後のネタが、その「ともだちが泣いている」を思わせるほどに、性質の異なった狂気ががっぷりよつを組んでいるようなものだったからだ。 
小宮が「映画を見まして」と話しだすが、まったく具体的な話をしようとしないだけじゃなく、映画館にいったら太った人に挟まれて肩が凝ったので、肩を揉んでほしいと相田に頼む。しぶしぶ相田が小宮の肩を揉んでいると、急に小宮が喘ぎだし、「桐島、部活やめるってよ」と叫ぶ。聞くと、映画を見てから、発作を起こすようになったという。それでも肩を揉んでほしい小宮は、発作が出ても対処法があるから大丈夫、と相田を説得するが……というもうむちゃくちゃなネタである。他のネタでうすうすは感じていたけれども、最後の最後でやっぱり、相田も完全に狂っていたことがわかるというのが素晴らしい。
後ろからぶん殴られるようなネタを見たい人には、三四郎の『一九八三』はお薦めです。