石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

『コント「お前、ホンマ最低やな!」王決定戦』雑感

 東京に行くことが決まったので、何かライブはないかと探していた時に、見かけたライブタイトルと座組に惹かれて行ってきました『コント「お前、ホンマ最低やな!」王決定戦』。その感想と防備禄です。
 MCは、レイザーラモン。MC仕事は年に一回しかないらしく不安だということに加えて、HGが趣味の柔術のスパーリングで喉を潰していた(RG「趣味で柔術すな」)のだけれども、出演している芸人に対して、キングオブコントで見たあのネタは面白かった!といった舞台袖やテレビで見たであろうその芸人への知識や優しさを持って接していたので終始温かく、そしてそれがうまい具合にネタの最低さを引き立てるという台風が出来るメカニズムのような相乗効果を産み出していた。
 披露されるコントのコンセプトもさることながら、ネタ尺が8分というのがとても良かった。実力者達のネタなわけですから、八分でも強度が違って飽きさせず、優勝のかもめんたる以外の全てのネタも本当に面白かったです。こういう言い方はあまり好きではありませんが、コスパ良すぎでした。二回目があればぜひ行ってみてください。
 以下、ネタばれありの覚書。

ザブングル『バイトの面接』
 トップバッターでもあり、ライブの趣旨を説明するに相応しい、オーソドックスな「お前、ホンマ最低やな!」なネタでした。これを若手がやってもあそこまで面白くはならないはず。20年選手の力を見ました。
このネタは、KOCの予選で引くほどスベったとのことだったのだけれども、この日にウケたことで闇に葬られずにすみました。
 ちなみに、レイザーラモンの二人は、加藤に「カッチカチやぞ」「悔しいです」を振らずに、松尾に徳永英明を歌わせていました。

・空気階段『渡辺篤史の建もの探訪
 ラフターナイトで年間チャンピオンにもなったほどの実力の空気階段のコント。建物探訪に来た渡辺篤史が、家主の奥さんと犬、最後には家主を殺して犯すという、タランティーノでもどれか削るだろう、「これが俺らの、けものフレンズや!」という咆哮が聞こえてきそうな単独でも出来ないネタ。例えば、このライブの二回目があったとして、同じネタをやったとしても、誰も文句は言えないほどに「お前、ホンマ最低やな!」だけで言えば図抜けて一位なコントだった。
 何より怖いのは、ネタを書いているのが、水川かたまりというかわいこちゃんの方。
客席で悲鳴をあげる人が批判されるけど、コントで悲鳴が出てもむべなるかな、という感じだったし、むしろ誰か悲鳴をあげろと思った。余談ですが、ラフターナイトのエル・カブキのネタで神田うのが何回も結婚式をあげているというくだりが出たときに客席から小さな悲鳴が出たことがあるのですが、あれ以外の正しい客席からの悲鳴を僕は知りません。
 空気階段は、わらふぢなるおと合わせてコントが面白いコンビなので、いずれはKOC決勝に上がってくることは間違いないと密かに思っています。

・マツモトクラブ『ホームにて』
 バンドを辞めて地元に帰ることになったバンドマンのところに、元のメンバーが駆けつけて別れの挨拶を告げるも、実は・・・・・・という前半の多くをフリに使った贅沢なネタ。そんな信頼されているマツモトクラブだから見られるコントは、しっとりとしたビターな「お前、ホンマ最低やな」だった。
 次はツーマンライブもやっている、ルシファー吉岡とのコンビで出てもいいかもしれない。
 
かもめんたる『元彼』
 単独か何かですでにあるネタなのでしょうか。今回東京に行ったのは、バナナマンの単独ライブが理由だったのですが、前後でライブを探している時にかもめんたるが見られるこのライブに気付いた時はとても嬉しかった。ラッキーかもめんたるは、ラッキーのなかでも上位に入ります。その位、かもめんたるが好きなので、何の不安もなくネタを見たのですが、やっぱり面白すぎますね。
ネタは、家でくつろいでいる槇尾が、携帯電話の着信音で彼女が携帯電話を忘れていることに気付く。男からの電話だったので出て、自分は彼氏だと伝えるも、元彼だと名乗る男はそれを「別れた彼女が自分を諦めさせるために声色を変えて男のふりをしている」と言い張ってきかないというものでした。演技力、構成、ボケの精度とパワーと重さ、どれをとっても納得の優勝でした。
 ちなみに彼女の元彼が何だったら嫌かというと、自主製作映画を撮っていたら嫌だろうということから着想を得て作られたコントとのこと。
 改めて思いましたが、かもめんたるは、爆笑問題デビュー時のコント「進路相談室」や初期のバナナマンのような、じめっとした質感を持った陰湿なコントをやらせたら随一ですね。相手を追い詰めるネタはまだあれども、そういった感触のコントはほとんど消え去ってしまっているように思えるので、突っ切っていってほしい。最高です。

ジャルジャル『オーディション』
 福徳が扮したチャラ男番長というピン芸人が、ネタ番組のプロデューサーである後藤ところにオーディションを受けにくるというネタ。予想通り、ピン芸人は面白くないネタを見せるのだけれども、そこからの展開がまさに唯一無二のジャルジャルのコントで面白すぎた。あのグルーヴはジャルジャルしか出せないですね。ちょっとよだれ垂らすくらい笑ってしまった。噂では、作ったネタが五千を超えているらしい。衆生を救う千手観音様の五倍。だからなのか、ジャルジャルのネタを見るたびに、他の人達のネタでは到達していないところに触れられる気がする。
 通な見方としては、福徳が変なキャラクターをやっている時、後藤の“無”の表情に注目することです。あれは絶対に笑ってしまう。散々くだらないことをやった後にカタルシスを持ってくる構成まで含めてお見事でした。
秋から単独始まるみたいなので、とても楽しみです。

さらば青春の光『臓器売買』
 明転板付きでヤクザの森田が電話口に向かって関西弁で捲し立てるだけで、赤坂見附が一気にどや街の空気になる。森田がいる事務所に入ってきた東ブクロは、ギャンブル依存症で、借金が出来たので自主的に臓器を売りに来たのだけれども、かつすでにもう売るところは無いくらいに体がすっかすかな最低な奴というコント。
厳密に言うとボケていない東ブクロに、一つも外さずにツッコミまくる森田という、さらば青春の光のスタイルを貫いたコントは爆笑だけでなく、見ていて気持ちがいいです。
童貞のスティグマを背負っているのでスキャンダルの件で一切笑えなくなっていた東ブクロに対して、いつの間にか笑えるようになっていることに気付いたのも収穫でした。
 
天竺鼠『抜き打ちテスト』
 天竺鼠は最低なやつというよりは変な奴の方(コント「何かヘンな奴、来たぞ!」王決定戦)じゃないかと思っていたのですが、やはり今回の出場者のなかでも一番一筋縄でいかなかった。
教師の川原が抜き打ちテストを行い、生徒の瀬下がそれを受けるというネタの始まりは、オーソドックスなネタかと思わせておきながら、その正体は瀬下が空気椅子のような状態をキープさせられるというハードな筋肉いじめコントだった。
 椅子がなくても足を曲げたら椅子に座っているということになるというコントにおける叙述トリックのせいで、足の痛みを耐えるために大声を出したりする瀬下が、テスト中に騒いでいる最低な奴になってしまうという入り組んだ構造を持ったネタでした。
 下半身の筋トレを全くしないのでその仕組みに気付くのが遅れたことが悔やまれます。