石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

『オールスター後夜祭’18秋』の「長嶋一茂の家の落書」と「範馬刃牙の家の落書」問題に感動した話。

 無事、二回目が開催された『オールスター後夜祭’18秋』、最高でしたね。

 最高は最高でも、何が最高だったかは人によって分かれる、そんな最高と最高のミルクレープでした。有吉の恫喝パロディ、キャンプとか合宿で泊まった翌朝に見るまだ眠そうな同級生ぽさがマンキンだったパーパーあいなぷぅのメガネ姿など、それは人それぞれだと思います。あと、日が経つにつれて、あいなぷぅ、やっぱそうでもなかったな、と思いはじめています。
 僕が一番「最高かよ」となったのは、「長嶋一茂の家にない落書きは?」という問題から、「範馬刃牙の家にない落書きは?」という問題の流れですね。
長嶋一茂の家の落書きで一番有名な「バカ息子」という選択肢が、一問目とニ問目で、正答から誤答へと反転する。それがあまりにも見事で、あまりにも美しい。
 「範馬刃牙の家にない落書きは?」という問題を良問たらしめている理由は何か。それはこの問題が、半端に知識がある人がひっかかってしまい、ちゃんと知識がある人が正解出来るということで、それはただ、おもしろワードを軸に反転しているというわけではないということを意味する。
 「刃牙」シリーズを御存じない方に説明すると、このシリーズの肝の部分が、主人公である範馬刃牙が、地上最強の生物であり、実の父親である範馬勇次郎との「地上最大の親子喧嘩の話」というものだからである。なので、このバカ息子というのは、笑いのための選択肢ではなく、きちんと、かかっている(意味がある)ものになっている。なのに、「ない落書」。この凄さ。あまりにも計算され尽くされている。
 もっというと、「刃牙」シリーズを、うっすらと「地上最大の親子喧嘩」ということくらいしか知らないと、この「バカ息子」という選択肢に誘導されて、他の「ある落書」を「ない落書」として選んでしまう。きちんと知っている人は、連載の初期に登場する、めちゃくちゃ落書きされた家は、父親との対決がまだ世間的(この漫画の中での世間)に知られていない時であること、あの落書きがは刃牙が強すぎて近所の不良は太刀打ちできないから腹いせでやられているものという理由、この二つから、「バカ息子」という言葉だけが、「ないものである」ということが推理できる。「刃牙」シリーズは教養だからということでこの夏ずっと読んでいた僕は、この考え方で正解へとたどり着くことができました。ということは、この家のコマをビジュアルで覚えているようなマニアじゃなくても正解に到達できるのである。
 通っていた定食屋に置かれていた「刃牙」シリーズをぱらぱらと流し読み、暇つぶし程度に適当に読んでいた頃の大学生の僕だったら、正解出来なかったというわけである。
 同じように、半端な知識を持っているがゆえに間違えるという問題は、「(ともさかの『エスカレーション』を)歌っているのは?」というものがあった。ともさかりえの歌手活動といえば、一部では「さかともえり」名義であるということは常識になっているが、それを逆手に取られて、普通にともさかりえ名義であったというもの。
端な知識があるということを逆手に取られてしまい、間違ってしまうという問題。
 とまあ、このクイズにはそのくらい情報や文脈が詰まっている。だからこそ、美しいのである。
 wikipediaの「ポリリズム」の説明「楽曲中、または演奏中に、複数の異なる拍子が同時進行で用いられている音楽の状態の事である。ポリリズムのポリは「複数の」なので「複数のリズム」を意味する」を何回読んでも意味が分からなかったが、やっと分かりました。  
 こういうことですよね、中田ヤスタカさん!!
 ちなみに僕が知識と完全推理で正解出来たもう一つの問題は、「東大出身じゃないのは?」という問題。選択肢は「草野仁加藤登紀子倉本聰、松島トモコ」というもの。まず、草野、倉本は何となく消去できる。問題は、加藤松島。加藤も妖しいが、松島も、逆に・・・・・という線も捨てきれない。ただ僕は加藤が獄中結婚をしていたということを知っていたので(何で?)、この時代、獄中結婚をしたということは学生運動に関わっていた可能性が高い、ということはインテリ、ということは東大の可能性も高い!という思考の流れがあり、無事正解出来ました。
 逆手、ならぬ毒手について「毒手じゃないのは?」という問題での、正解の選択肢は『ドカベン』の土佐丸高校の犬神了であった。あとで調べてみると、『当たった時は平気でも、時間が経過するごとに痛みが増してくる「死神ボール」なる故意死球を放つなど、まさに筋金入りの殺人野球の申し子であった。』ってキャラで、やはり、きちんと「毒手」にひっかかっている。
 知識がなくても、推理力だけで解ける問題もあった。
 それは、「堀内孝雄が一番笑ったのは?」という問題で、後から考えれば、笑いのセオリーとして、最後に堀内孝雄が笑っていないというVTRを持ってきた方が一番面白い(4段落ち)。そうなると、それを引き立てるためには、3番目で堀内孝雄が一番笑っているほうが、フリオチの効かせとして真っ当、お笑いの教科書3ページ目にのっているやつを理解していれば正解に辿りつける。
 あと、「日本の通貨の単位は円ですが、単位がポンドなのは?」という問題で、その正解が「ステーキ屋さん」で「ポンド」はお金ではなく、肉の重さを表すものであったというもの。「単位とは言ってるが、通貨とは言っていない」ということと「重さの単位でもある」ということに気付き、そこからステーキを連想できると、一つだけ明らかに画像の質が違うものを選べば正解できるというクイズもあった。
 つまり、オールスター後夜祭は、毒手を一般常識としているというような点を除けば、めちゃくちゃ、知識と推理力を駆使すればきちんと正解に到達出来るという良問のオンパレードになっている。うっかりや油断、早とちりという人間の弱さを知り尽くした制作陣の頭脳が、笑いに使われているということに感謝しなければならない。ベトナム戦争などで用いられたブービートラップを思い付いたような人たちはこういう人たちだったのだろう。日本が平和で良かった。9条万歳。改憲反対。
 来年春も楽しみである。