石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

芽むしり的ベストラジオ2019その1(20位~11位)

 2019年は、テン年代の締めくくりとばかりに、ひいき目にみても、ラジオの面白さが異常な年でした。特に、今年10周年を迎えた『オードリーのANN』はさまざまな事件やイベントが起きましたし、『爆笑問題カーボーイ』も普段のトークもただただ面白い回や大事な話をしている回があったりして、いずれもリスナー冥利につきる一年でした。
 それとは別に何と言っても、『佐久間宣行のANN0』は、ゲストが豪華で、そこで聞けたお笑い話は垂涎ものだったことを始めとして、年始には想像できないことがたくさんありました。そんななかで、私的なベストラジオを選びましたので、改めて聞きなおすもよし、聞いていなかったものはなるべく合法的に聞いてみるもよしという感じで年始の暇つぶしになれば幸いです。

 

20位 「ウチらにまかせてやカルタあがり」『伊集院光 深夜の馬鹿力(2019.2.25)』
 『日曜JUNK クワバタオハラのウチらにまかせてや』は、『深夜の馬鹿力』のコーナーの、「新・勝ち抜きカルタ合戦 改」のお題の一つで、クワバタオハラがJUNKの日曜日を担当した場合、どういう放送が行われているのかを、あ行からわ行までの読み札をリスナーが考える。
 むちゃくちゃな偏見を言っていたり、健康食品をステマしてくるなど、リスナーから送られてきたクワバタオハラに関する完全な嘘、だけれどもリアルに想像できてしまい存在しないのにムカついてしまっていたクワオハカルタが、わ行に到達し、無事ゴールイン。
 テレビ東京のプロデューサーの佐久間宣行にも大きな影響を与えたという、伊集院光が生み出した架空のアイドル「芳賀ゆい」。その、存在しないものを、あたかも存在するものであるかのように構築していくという意味では、ラジオ番組『日曜JUNK クワバタオハラのウチらにまかせてや』は平成最後の芳賀ゆいだったのかもしれない。芳賀ゆいの活動期間が平成元年に産まれた事を考えると何とも味わい深い。
そのカルタが、わ行まで到達し無事ゴールインした時には、妙なカタルシスを覚えました。
 電柱理論というペンネームで採用された例でいうと「マシンガンズの滝沢くんに会った時に聞いたんやけど、うちの地区やと、ディルドは燃えないゴミで、ペニバンは、ベルト部分は燃えるごみで、ペニス部分は燃えないごみとして分別しないとあかんねんて。」や「夕飯何食べたいか聞かれて、何でもいいっていう男は、事務所が決めた雑なキャラに適当に乗っかって、さんま御殿で爪痕残そうとしてさんまさんにマジで叱られる、みちょぱの後釜狙ってる図々しい読モくずれみたいなんとお似合いや!」があります。
 昨年は、四月以降まったくメールを送れなくなってしまったので、今年は復活させていきたいなとひそかに決意しています。

 

19位 「空気階段ゲスト」『爆笑問題カーボーイ(2019.6.12)』
 タイタンライブにゲスト出演することが決まったものの、トリプルブッキングとなったことで、タイタンライブのエンディングに出られないため、急遽ゲスト出演が決まった空気階段が、『爆笑問題カーボーイ』と『空気階段の踊り場』のディレクターが越崎恭平だから実現したことであり、なんとも素晴らしい越崎マジックだ。
 空気階段の二人は、もぐらは太田光が書いた『カラス』を持ってきていて、神田松之丞にもいじられたピカソについて書かれた部分を朗読して蒸し返したり、かたまりがラジオブースに突然カレーを持ってきた話や、かたまりがタインタンシネマライブの上映館を暗誦したりと準備してきた鉄板ネタを披露し、爆笑問題に芸人としてぶつかる。それを爆笑問題が受け止める。最高のがっぷり四つだった。
 空気階段のかたまりは、大学になじめず、二カ月で中退し引きこもっていた時にずっと『爆笑問題カーボーイ』を聞きながら、『パワフルプロ野球』で選手を作る生活をしていたという。「パワプロで、ほんと太田光とか田中裕二とかつくってました。太田さんピッチャーで、田中さんキャッチャーで」という良い話の中にも笑いどころをつくったかたまりに対して、田中は「でも、俺本当はピッチャーだからね」と言いのけ、それに負けじと太田も「俺も本当はレフトだから」とかぶせて、大ファンだというかたまりに「あ、そうなんですね」と言わせるのが何とも爆笑問題だった。
 ハイライトは、太田が「賭け麻雀しているしな」に、コンマ一秒ずれなく、やっている奴らの間で「やってないよ」「やってないすよ」という田中ともぐらのユニゾン

 

18位 「伊集院光ゲスト」『大竹まこと ゴールデンラジオ!(2019.1.17)』
 文化放送大竹まこと ゴールデンラジオ!』の放送3000回記念の「大竹メインディッシュ」のゲストに、伊集院光が登場した。伊集院が『とらじおと』を引き受けた理由は幾つもあるがそのなかで一番大きな理由が、あの大竹まことが昼をやっていて、しかも続いているからだったと話す。
 大竹の「テレビのあのタイトさ、短い間でパンパンパンこれ俺一生続くのかと。年取ったらキレ悪くなるわけよ。おしっこと一緒でさぁ。どんどんキレ悪くなって。この番組はあたまコマーシャルも入れずに、だらだらだら、もう、どぉーっでもいい話をね、30分もしてるわけよ。」というラジオ観に伊集院は同意し、「(テレビを)否定はしないんだけど。よく、例えで言うのは、えぇ、知り合いのお葬式にきたお坊さんの頭が蚊に刺されてて乳首みたいだったって全部入りじゃないですか。ほんとに好きな人の葬式だから。そこ目行くたびに笑うとこじゃないしみたいな話ってラジオだけしかできないでしょ。ずっとしてる。どっちともつかないようなやつを。それはちょっとラジオだけだな。」と話す。
 そこから伊集院の「この先、どうありたくてもちょっとずつ壊れてはいきますでしょ。物忘れとかどんどん出るようになりますよ。今それが楽しい」という発言から、大竹が番組中に遠野なぎ子に「お前誰だ!」と叫んだ話になり、話題は「ポンコツになっていく」ということに移っていく。
 ポンコツになるということを、伊集院は「途中のステップのときのキツいときと、あ、これで良いんだという繰り返し」と定義するが、光浦靖子は「伊集院さんは、忘れることをずーっと恥じて、ずーっと悔しがっててほしいし、死ぬまで。そしたら、ハタから見たら伊集院さんの憧れの、やっぱり一番頭のおかしい人だって私達は思うの。ホンモンだって。」と、悔し涙を80歳くらいで流してほしいと話す。
 伊集院は、最近「いつかは深夜ラジオをたたむ」と話し、リスナーを切ながらせたりもしているが、せめて、「ラジオはちょっとそれ一緒にみんな付き合ってくれる。結果何にも起きませんでしたでも、ま、甘えかもしれないけれど、許してもらえる」と話す58歳の伊集院光が、「聞いてる人にほんとに頼るよね。聞いてる人にね、頼るというか寝そべるというか、添い寝みたいな感じだね」と話す70歳の大竹まことの境地に辿りつくまでの過程を追い続けさせてほしいと切に願ってしまう放送でもあった。

 

17位 「加地メタルジャケット」『アルコ&ピース D.C.GAREGE(2019.6.5)』

 きっかけは『佐久間宣行のANN0(2019.5.23)』にて、翌週にゲスト出演することが決まっているテレビ朝日のプロデューサーの加地倫三の話から、『アメトーーク』の収録に参加したアルコ&ピースの平子が、番組のふるまいがあまりにもひどかったがために、プロデューサーの加地に、20分ほどブチ切れられたという、通称加地メタルジャケット事件のエピソードを話したことだった。
そして、『佐久間宣行のANN0(2019.5.30)』に、加地がゲスト出演し、その真相を語った。
 「『アメトーーク』の「猫舌芸人」っていう回で、あのねぇ、平子るって言うんでしょ。普通の人が聞いても何のことを言っているのか、全く分かんない例えを、ずーと終始それを言うのよ。なんかねぇ、俺、見直したのよ、実は。しかもオンエアじゃなくて、素材を。苦痛だったよ。そしたらね、なんだっけな。カニクリームコロッケが熱いって話をね、地球のコアなんだっていうの。それが流されるじゃない。その後も何回も何回もコアコアコアコア言うのよ。それでまた違う例えをしたのんだよね。なんかね、イタリアのサッカーのトッティーだみたいな、また突然難しい例えを言ってきて、さすがに宮迫君がしびれを、限界が来て、もうコアとトッティーの例えはやめてくれって。そのツッコミも、コアが受けてないから、そのツッコミも正直滑ってんの。でも、その後もまたコア言うのよ。で、それでフロアずっとイライラして、平子が喋るたびに、お客さんだんだん引いてくのよ。それが分かるから、もぅ、ほんとにこれはダメだなと思って、終わってからまぁ、マネージャーが有吉と一緒のよく知ってるっていうのもあって、昔から、あれ、こんな感じだったっけ平子ってって。で、本人帰る前にエレベーターの前で、え、いや、え、何であんなこと言うんだい、普通に笑いを取ることは出来ないのかい。そうそれで四年くらい立つのかな。」
 これが、加地メタルジャケットの真相ということで、今回の放送に、平子をブースに呼ぼうという話に当然なって、佐久間が調整して全てオッケーになったが、平子はモンゴルにいるということで結局来ることは出来なかったという綺麗なオチがついた。
 そして迎えた、『アルコ&ピース D.C.GAREGE(2019.6.5)』。しかし、番組開始20分以上通常放送をして、リスナーが痺れをきらしそうになった頃に、平子が「気ぃ使ってんの」と酒井の笑い声で、トークが始まった。平子が概要として説明した「デブのラジオにガリが来たんですよ」はクリティカルだった。
 それから、酒井からの「チキって(怯えた)、モンゴルに行ったわけではないですよね」という確認もありつつ、平子サイドからの「少し仕事が減った時期で、爪痕を残そうともっとむちゃくちゃしていたので、加地の話は少しマイルドになっている」という真実が語られた。もちろん、リスナーからのメールもたくさん届いていたようだが、その中で震えたのは、匿名希望からの「平子さーん、MOGOL嘘800の小さなコアの歌、歌ってください」だった。
 最終的にA級戦犯は、佐久間だということになって、加地メタルジャケット真相編は幕を閉じました。
 アルコ&ピースの平子にとって2019年は、このことをきっかけに、「平子る」という言葉がテレビに輸出され、オードリーの若林には『しくじり先生』の「お笑い研究部」でその平子りのマスクを剥がされかけたり、『アメトーーク』に再び出演するようになったりと、また違った魅力が引き出された一年だった。

 

16位 「お好み焼き屋」『神田松之丞 問わず語りの松之丞(2019.4.26)』
 神田松之丞が、仕事帰りに妻とお好み焼き屋に行ったトークを始める。夜の9時過ぎに入ったお好み焼き屋には三人の先客がいて、最初は夫婦と子供の三人家族かなと思ったが、母親と思しき女性が子供に向かって言った「あたしが殴ったからって児相(児童相談所)言ったろ」という言葉が気になって、松之丞は盗み聞きしていくうちに、どこまで正確かは分からないが、母親は風俗嬢で男性は太い客だろうと推測する。
 母親は子供に「ほんとこいつ(子供)さぁ、あたしの金で食ってんだよぉ。児相につれてかれたって、世間はね、なんだかんだ偉そうなこと言って、綺麗事ばっかり言うけど、金なんか出してくんないんだから。あたしが育ててんだから。分かるか、え、分かるか。」と言う。男はタダで母親を抱きたいからなのか、子供にも媚びを売るように理解を示している振りをする。子供は母親にそんなことを言われてまでも甘える素振りを見せる。
 もちろん、フィクションではないので、この話にはオチもなく、彼女たちが店を出て話は終る。それがまたリアルだった。
 松之丞は『小幡小平次』を引き合いに出していたが、二元論で判断できないような人間のグロテスクな部分が芬芬と匂ってくるまさに講談のようなトークだった。

 

15位「チルアウト論」『東京ポッド許可局 (2019.3.19)』
 マキタ局員の「チルアウトって言葉知ってますか」という問いからはじまったこの回は、単純にまとめることが出来るような放送ではなかったが、かなり示唆に富んだトークになっていて、放送されてから何度も聞きなおしたりした。
 チルアウトというのは、身体を休めるときに聞くような音楽を表す言葉なのだが、そこは東京ポッド許可局、音楽についてではなく、現代を「情報多すぎる」「面白すぎる」「美味しすぎる」などの「すぎる時代」だとし、様々な情報の受け取り方について話していく。
 特に、サンキュータツオの「コンテストも手数多い、多めじゃないですか。で、えっとそれがひとまず落ち着くと、今度、情報削ってくっていう時代に入っていくと思うんですよね、人はね。受け皿となるような芸能というか、多分あるんだろうと。で、音楽におけるそのチルアウトっていうのは、そういう受け皿になってんじゃないですか。バラードとかね。」、「ゆるいっていうのは、ゆるいのは目が粗いの。そもそも作ったはいいものの、粗いの」、「チルっていうのはやっぱ情報の断捨離がそこにあるんだよね。もっといけるんじゃないかって思うんだけど、とりあえず抑えとみたいな。なんかそういう感じのねぇ、ギリギリでふんばってる感じっていうか。」という発言はかなり心に残ったが、なかでも、特に、「情報の断捨離」というワードを強く意識してみようと思った放送だった。

 

14位 「尖った笑い論」『東京ポッド許可局(2019.10.14)』
 もともと、お笑いについて語って良いという場を与えてくれたのが、東京ポッド許可局での「M-1グランプリ論」だったりするわけだが、いつしか、彼らはお笑いを論じることは少なくなっていった。影響下にある自分にとってそうなることは寂しくもあったが、しょうがないことでもあるだろうと思っていた。
 しかし、ここにきて急にお笑い語りを振り返るような放送をしていたのはとても意外だった。
 『アメトーーク』や『ゴッドタン』で、お笑い語りが企画として成立していたり、ナイツの塙という現役漫才師が漫才について書いた『言い訳』が売れているという2019年の現状を振り返りつつ、J-POPでも同様なことがおきているということを話すマキタは、これを良いことなのか悪いことなのかは置いておいて、成熟なのかと、タツオに尋ねる。それに対して、タツオは「そういうものが表に出てくることで、一個ステージが進んだかなっていうことはあるんですよね。まあ、それ野暮ですけど、まあ、手品師が手品のタネを発表して、で、シェアしてもうじゃあ次どの手があるかつったら、タネは分かってんのに何度見ても見事な手品か、やっぱり見た事のない手品の二種類が残ると思うんですね。で、そう考えると、どぶろっくの優勝っていうのは、揺り戻しというよりはタネが分かってて、一個フィルターが入ってるんですよ。つまり視聴者が普通の下ネタとして受け止めて笑ったんじゃなくて、下ネタかよ(笑)が入ってんですよ。だから、つっこめるんですよ。下に見れるんですよ。安全で笑えてるんですよ。」と答える。
 プチ鹿島の「お笑いが特に好きじゃない文化人とかが、何で尖った笑いをやらないんだ」と言ってくる問題に対する「お前、お笑い好きじゃねえだろ」というもっともな、でも触れざるを得ない指摘などもあったが、タツオの「オシャレな言葉のやり取りや、構造主義的なそのネタの構成、あとは、単純にネタの良しあしってことも含めてですけど、シチュエーションものとか。そういうのは、演芸ってジャンルにどんどん組み込まれていくと思う」という予見が興味深かった。
構造主義という言葉について、くしくも、今年のこのブログでの『キングオブコント』の感想に、「面白さやコントの未来という意味において、これまでの大会に引けを取らないのですが、あまりにも、多層的な構造のコントが全くもって通じなくなってきているというのを感じました。一般的には難しすぎるのかなあと思いつつも、一本調子ではないそういうコントじゃないと決勝まで行けないのに、決勝で点数が伸び悩むという捻じれ現象が生じていて、もっとその作家性を評価してほしいというのは正直言ってあります。」という構造主義の敗北について指摘していたので、この言葉が出た事は嬉しく鳴らした。
 また『M-1グランプリ2019』で印象深かった審査員の言葉に、松本人志からニューヨーク屋敷への「ツッコミは怒っていてほしい」という旨の発言と、ナイツ塙から見取り図の盛山への「漫才中、顔を触り過ぎている」という、ネタではない部分についてのことであり、これはもう、構造主義が行きついてしまったがために、そういうところまで見られるようになっているような証拠であり、また、視聴者が新たな視点を取得した瞬間だったのではないだろうか。
 また、スピードワゴンの小沢は、ぺこぱのツッコミを、松陰寺がもともとボケだから、あの特殊なツッコミをボケとしての発声できているのが良いという技術的な話をしていることも印象に残っている。
 余談だが、『爆笑ヒットパレード』でのオール阪神巨人を見ていたら、二人が好き勝手に喋っているのだけれどもどっちも聞きやすくて、凄いなと笑っていたが、特に驚いたのは、オール阪神巨人の二人が腕時計をしているということだった。『M-1グランプリ』で漫才を見ていると、腕時計が視界に入ってきて、邪魔だなと少し思ったということがあって、やっぱ漫才をやる時には腕時計は外した方が良いのかな、などと考えていたりしたので、オール阪神巨人がふたりとも腕時計をしているにも関わらず全くストレスにならないことは、時計がシックな色合いだということよりも、手の動かし方によるものが大きいのだろうと考えることが出来たことは個人的にはタイムリーだった。
 お笑い評論を書いている以上、ネタの構造だけじゃなく、これらの技術論も言語化していけるように勉強していきたいし、例えば お笑い芸人が誤読で炎上したりした場合、守るための評論ということも手にしないといけない時代になっていくので、フェミニズムやポリティカルコレクトネスなど社会の流れにコミットできるようにそこも勉強していきたいと思っている所存です。
 
13位 「詰め!もぐら将棋部!!」『空気階段の踊り場(2019.7.12)』
 空気階段の鈴木もぐらの、高校時代に入っていた将棋部の思い出話をしたこの回は、初めて聞いた時はめちゃくちゃ笑いました。
 高校生活が始まり、どの部活に入ろうか迷っていたもぐらは、将棋部のポスターを見つける。もともと将棋が好きだった、もぐらは将棋部にしようと決め、ポスターに書いてあった部室へと向かう。部室の前で、王子というあだ名の同級生とばったり会ったもぐらは、二人で一緒に教室のトビラを開くも、そこには誰ひとりいない。おかしいなと思って教室を見まわしたら、すみっこに一人の生徒がいることに気がつく。
 そんなもぐらと王子を見た先輩は、「何だ。君たち来ちゃったのか。」とアンニュイな口調で話しかけてくる。入部したいんだけれどもここは将棋部であってますよね、ともぐらが答えると、先輩は「はぁ。そうか。実はねぇ、君たち二人が来なければ僕の手でこの将棋部を潰すつもりだったんだ……。見ての通り、将棋部は僕一人しか部員がいない。僕が一年のころ三年の先輩がいたんだが、その三年の先輩が引退したあと、僕はひとりきりになってしまった。こんな部活あっても別に何にもならないし。」と続ける。
 もぐらが先輩の手元に目をやると、そこには、一冊の本があったという。そこで、「今ではメジャーなんだけど、そのころはほんとに珍しかった、ライトノベルっていうの、なんかそのアニメ小説みたいな。そっから影響を、めちゃくちゃそっから影響を受けた。もう、もろバレ。もろバレなんですよ、キャラの出所が。」という先輩の喋り方の理由が分かったところは腹抱えて笑いました。
 「君たちに、もう一度だけ時間をあげよう。僕は、この部活に入らないことを強くお勧めする。」と言う先輩に、もぐらは食いさがり、結果、先輩と一局指すことになる。
 当時のもぐらは、詰め将棋などもしていて、かなり強かったと自負しているが、先輩も強く、もぐらは劣勢となるが、途中で先輩がポカをして、もぐらはからくも勝利を収める。
 もぐらは、先輩に、将棋部をつぶそうとしていた理由を尋ねると、「僕は、君と同じように将棋がものすごく好きで、将棋部に入って、その時の先輩が、三年生ひとりしかいなくて、二年生はだれ一人いないと。その先輩しかいなくて、ただ、その先輩と指してる日々がすごく楽しかったんだと。で、その先輩も強くてめきめき二人で上達していって、ただ先輩がいなくなった時、僕の目の前に誰もいなくなったときに、その僕は本を片手に、えぇ、指すことに決めたと。だから、定石書を左手で持って、右手で一人二役やる。ていうのをずーっと一人でやってたんだって。部員が一人しかいないから。で、毎日毎日、放課後終わったら、自分で一人で本を片手にやる。っていうのを繰り返した結果、将棋くそつまんねぇってなって。こんなにつまらないものだったのか将棋は、ってなった」と答えた。 
 もぐらと王子は入部を許され、かたまり曰く「伝説の始まり方」によって再び動き出した、新生将棋部は、二年間将棋に打ち込むが、その後新入部員も来ず、全く部室にも来ない顧問に「おまえらぁ、どうせすぐ負けるしぃ、時間の無駄だから、出ない」と言われて最後の大会にも出られずに終わるという最悪なバッドエンドを迎える。
ブースには終始、かたまりの「きゃーはっははは」という悪い笑い声が響き渡っていた。
 この鬱屈した日々が、もぐらが銀杏BOYZにのめり込む一因となり、伝説の「駆け抜けて、もぐら」へと繋がっていくという意味でも味わいがある回だった。
もぐらのトークは、カット割りというかコマ割が上手く、聞いていると、頭の中に映像が浮かんでくるほどに巧みなのだが、それが堪能できた。
ちなみに同じくらいに笑ったのが、もぐらが、歯のないなべくんと相席居酒屋に行った第105回「クスリ飲んでも眠れないんですよー!」の回(2019.4.19)でした。

 

12位 「ケーキ転倒復帰」『爆笑問題カーボーイ(2019.4.3)』
 2019年3月30日放送の『ENGEIグランドスラム』の放送終了間際に、爆笑問題の太田が、ケーキの生クリームで転倒するという事故が起きた。番組でも流れてしまったその映像はなかなかに衝撃的で、すぐにSNSで広がった。とても心配したが、翌日の『日曜サンデー』で出演こそしなかったものの、無事であることが告げられて安堵した。平成を駆け抜けた爆笑問題が、平成最後のネタ番組でトリを務めたあとに、はしゃいで、ケーキの生クリームで転倒、そのまま舞台上で死んだということになったら、全く笑えなくなってしまうので、その事態を回避することが出来た事は本当に良かった。
 大事をとって、『サンデージャポン』と『日曜サンデー』は休んだものの、『爆笑問題カーボーイ』から復帰、その回の転倒直後から病院に運ばれたまでのトークが、無事を確認出来、緊張が緩和したこともあって、めちゃくちゃ笑ったトークでした。
 太田は、病院の関係者に、脳が無事かどうかの確認のために、今日の日付や名前を尋ねられるが、もともと日付という概念が薄い太田は「1320年6月20日」と答えたり、「木村拓哉」とボケるべきかどうか悩んでしまい、勝手に混乱してしまう。
 さらに、記憶を確認するために、三つの言葉を覚えておいてくださいね、と太田は言われる。
 「猫、桜、電車、この三つ、この三つをね、覚えておいてくださいね。分かりましたって言うけど、ほんとに自身無いの。自身無くて、一時間後にもっかい聞きますからって言われるから。」
 猫という言葉が出て、田中が「お、いいね」と相づちを打ったのは、どこまでも田中だ。
 田中は転倒直後に太田に「立つな!」と制したところ、異変に気がついたという。
 「俺は立つなつったのよ。全然覚えてないでしょ。で、お前はそこで黙ぁーって従ったんだよ。そこが俺はあらら、ちょっと待って、おかしいなぁ~、みょーに変だなぁーって、大人しく従ったの。」
 ここでブース内は大爆笑したところは最高だった。
 なにはともあれ、笑い話になって本当に良かった。

 

11位「ハライチ二人のおもひでぽろぽろ(2019. 07.26)」『ハライチのターン』
 今年は、様々なゲスト回が炸裂した年でしたけれど、実はそういう回の面白いところを拾うのは簡単で、難しいのはこういう平場の回が、なんとなくめちゃくちゃ良かったということを伝えることだ。
 番組恒例の「ハライチのターン!」と叫ぶのを澤部が忘れてしまうというハプニングからどこかいつもと違っていた148回目の放送は、ずっと、ノスタルジーと成長が溢れていた。
 オープニングでは、夏休みがスタートしたという話題から、自分達の夏休みがどうだったかと話す二人。ずっとサッカーの練習漬けで夏休みなんて無かったという岩井に対して、澤部は「昼起きて、『少年アシベ』と『ダイの大冒険』。一ヶ月半余裕。」「土日なんて、もう別に『マーマレードボーイ』見て、おばあちゃんの作る焼きそば食って、おしまいだよ、そんなもん」と笑う。
 フリートークゾーンでは、澤部は、前の週に行われた、ハライチが出演したライブ『デルタホース』に澤部の妻と娘が、客として見に来ていた話を始める。娘が澤部のライブを見に来たのはほぼ初めてとのことで、そのきっかけは、幼稚園でふざけている男の子に向かって「お笑い芸人みたい」と別の子が言うやりとりを見た澤部の娘が、その子に「お笑い芸人って?」と尋ねたところ「子供を笑わす人だよ」と教えてもらったという。幼稚園から帰ってきた澤部の娘は、母親にあらためて同じ質問をしてみたところ、澤部の妻は「パパのお仕事だよ」と教えたからだという。このやりとりだけでも、何となくグッときてしまう。澤部の娘がライブに向けて、洋服を選んだりして、「ガチ恋お笑いオタ」と化してしまうほどに楽しみにしているなか、岩井だけがネタを作って本番当日まで台本を渡されないというハライチのネタの性質上、「変なネタもってくんな!」と祈ることしか出来ない澤部とのコントラストがたまらない。ライブ中も、下ネタをぶちこんでくる相席スタートにイライラしたり、コーナーで自分が出したものに低評価がつかないかひやひやしたりとしていたと話す。
 ライブを終えて、澤部の娘が書いた感想を澤部が見てみると最初に「楽しい一日になりそう」と書いていて「お笑いガチオタネタ寸評OL」みたいになっていたというオチだった。
 続く岩井のトークゾーンでは、岩井は実家に帰ったついでに原市団地の近くを通ったという話をしていた。昔、岩井も住んでいたという原市団地はすっかり様変わりしていて、少し寄ってみたということで、団地にまつわるいくつかの思い出をトークした。
 原市団地というのはとても大きな団地で、国道を挟んで、同じ規模の原市団地がもうひとつあり、ある日、友達のマサシと自分達が住んでいない方の団地に冒険をしに行ったら、同じ遊具があるけれども配置が違っていたりして、ちょっとした異世界のようで、「向こうの小石みたいのを拾って持って帰ってきた」という。
 他にもマサシとの思い出話をして終わったこの回、全体的にノスタルジックで、なーんか良かった放送だった。

 

 

 続きます。