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永野の自由は撃てんよね。『ロフトプラスワン時代のネタをロフトナイン渋谷でやるライブ』感想

 コロナウィルスに細心の注意を払って、永野の単独ライブ『ロフトプラスワン時代のネタをロフトナイン渋谷でやるライブ』を見てきました。端的に言って、最高でした。

 「喉に餅がつまった新沼憲治」から始まり、ディルドを使ったコントで世界一笑える「ボロンしてることに気づかずに祭りに参加してる人」、「隣の家の二階から自分の畑に射精される人」、「横浜たそがれトランスバージョンを歌って石を投げられる五木ひろし」、MAXの『TORA TORA TORA』を流しながら永野が小さなピンクのカバンを持った女が咳をしたり股間をかきむしる「性病検査をしてない女がこっちに来る」では、ウーハーが効いた笑いが体内を駆け巡った。その他に、「崖の上でゲームの対戦のシミュレーションをするゲーマー」、「宇宙基地からB’Zの二人に指令を送る人」、「指名したキャバ嬢が休みで焦る人」、「失礼な新人女優を叱るか葛藤する萬田久子」、「LAが最高なことを国際電話で伝える女」、「箱根駅伝のゴール直前に、白バイの警官にレイプされる人」、「待ち合わせの相手が来たことに気付いた人」、「巫女さんがつけたペニバンを口に咥えさせられている人」、「レイプの天才佐藤さんを紹介する女性」などの15本のネタを淡々と続けて披露し、15分の休憩に入って第一幕は終了した。この休憩は、ライブの中で計三回挟まれたのだが、そうでもしないと、笑い疲れをしてしまい、永野が白バイに乗っている警官にレイプされて以降は、ネタが頭に入ってこなくなっていただろう。

 一回目の休憩を終えたあとの一本目は、「おみそ汁の達人」。「おみそ汁の達人」は、2019年に最初見た時、何だこのネタは何でこんなに面白いんだとしばらく笑いが止まらず、次の日まで余韻を引きずってしまったほどのコントだ。それから、「オノヨーコ天気予報」、「フェラチオされているように見えるベルトをもらってから自信を持つようになった人」、「リベンジポルノを撮るためのカメラの説明を店員に聞いている人」、「松山千春の『長い夜』と永野が同化する」。『長い夜』と永野が同化するコントに関しては、今回のライブで最も意味が分からなかった。

 第二幕でのハイライトは、スマッシュヒットした「客席にクワバタオハラを見つけた歌手」を終えた後、テレビで受けたネタに対して斜に構えたようなリアクションとそこそこの笑いをしていた観客に永野が苦言を呈してから、続いた「顔面に傷を負って再起不能になった五木ひろしの東京ドームでの復帰コンサート」では異常に盛り上がって大ウケして、永野も「これこれって感じしたのが分かった」と言っていたという流れで、会場の一体感がとんでもなかった。

 第三幕は、一番ひどかったコントの「大相撲をエンジョイする女性」、「日本人にハワイの正月のルールを教える人」、「Fatboy Slimの『Because we can』を沢尻エリカみたいに踊る」、「浜辺で九州を一人で守る人」、「クマさん応援会」だった。

 もしかしたら見られるかなと期待していた「浜辺で九州を一人で守る人」を見られて、「クマさん応援会」ではクマさんを応援出来た最後の流れは幸せだった。

 永野を最初に見たのは、今から九年ほど前に初めて行った東京のお笑いライブで、遅れて会場に入ってきた永野が、客席にいる常連の観客を見つけて、「また、お前いるのか」とからんでいた時であり、そこで恐怖を覚えたのだ、調べてみたらその前に、テレビで「見たこと無いけど『スパイダーマン』のモノマネをやる」というネタをしていたのが本当の最初だったということがある。永野は若手芸人としてテレビ出演しているにも関わらず、ずっとマスクをしていて顔を出していなかったことも思い出して、その尖りに思い出し興奮をしてしまった。

 永野とファンの関係性が時たま心底羨ましくて仕方がない。ここでいうファンというのは、ロフトプラスワンでライブをやっていたころからの十年来、永野を好きでいた人たちのことだ。この両者の間には、どうしたってテレビで見ていて好きだというだけでは太刀打ちできない、共犯関係のようなものが存在する。例えば、ネタの合間のトークでの、永野のネタの感想として「元気をもらいました」と言ってくる人を小馬鹿にしたり、セルアウトしたことを自嘲的に話してネタにしたり、それこそが永野の美学であるのだが、そういったやりとりが本当の意味で成立するのはこの両者だけのもので、テレビで要所を抑えているだけの自分は、笑いはするものの、部外者であるという寂寥感が残ってしまう。

 けれども、やはり、大好きなネタを生で見られたことは嬉しかったし、だいぶマイルドになったであろうが、当時のロフトプラスワンの空気を味わえたような気になった。

 「浜辺で九州を一人で守る人」のネタのなかに、千葉県民を容赦なく銃殺する男が空を飛んでいるカモメを見て「自由は撃てんよね」と独り言ちるシーンがある。こういう文脈で語られることこそが最も永野に嫌われるかもしれないが、このセリフを永野自身の自由さに重ねてしまい、それを聞いた瞬間、ほんの少しだけ真面目に受け取ってしまい、元気のような何かが胸の内に湧いてきたのである。

 地元に帰宅して、コントの中の、チャックからディルドを出しながら盆踊りをしている男性や、白バイ警官にレイプされる大学生や、大相撲を見ながら女性器をこねくり回している女性を反芻しながら食べた、水少なめ、ゆで時間多め、卵と焼きウインナー乗せというカスタムうまかっちゃんはとても美味しく、あらためて、色々あるけどライブに行って良かったなあと思ったのだった。