石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

伊集院光のばらえてぃー「だるまさんが動いたらみんなバラバラ」

「なるべく小さな幸せとなるべく小さな不幸せ/なるべくいっぱいあつめよう/そんな気持ちわかるでしょう」と甲本ヒロトは歌い、二十年以上も深夜ラジオの王様として君臨し続ける伊集院光はエッセイでこう書いている。
『「早くどれか一つにしたい」と思ったこともありましたが、今は「むしろ増やしてやろう」と思っています。小さいものがものすごくたくさんあったら、大きいものが一つしかないのと同じだから。』と。
どれか一つにしたいというのは、クイズ番組でも活躍し、NHKでも司会が出来る「白伊集院」と、毒舌、下ネタ、珍言を繰り広げる「黒伊集院」のどちらか。ファンは、白も黒どちらも好きであり、こと「伊集院光」にたいしては、むしろその分類を楽しんでいる。
人が人を評価するさいに、表か裏のみに分け、それを判断材料にしてしまうことは少なくない。だが人の評価というのは、当然、接した人の数だけある。
ここ数年の、伊集院光は、週休5日制を導入している。週に二日だけ働き、他の五日を気ままに暮らす。こう書くとセミリタイアしている黒眼鏡のようだが、実際はエッセイ「のはなし」の刊行、自身がほぼ全権をもっているバラエティ番組「伊集院光のばんぐみ」を放送し、小さい伊集院光を集めている最中なのである。その一つ一つをきちんとラジオのトークのネタとして還元してくれるのも、ありがたい。実際、ここ2,3年のフリートークは相当に充実している。
そんな伊集院光は今、6ヶ月連続でDVDリリースしている最中である。
コンセプトは「DVDでしか出来ないバラエティ」。その記念すべき第一段「だるまさんが動いたらみんなバラバラ」は、「のばんぐみ」よりもディープで、にわかには信じがたいがラジオよりも黒い。
企画内容はいたって単純で、伊集院光が考えたゲームをするだけ。
参加メンバーは、各々、赤いだるまを五個配られ、個室に入れられる。ゲームは8イニング制で、イニング毎にだるまを押しつけ合う。最終的に赤いだるまの数が多い順に三人が敗者となり、罰として次回のDVDの出演権を失う。
その他、細かいルールとして、1イニングに3個のだるまを1人につき1個押しつけることが可能、メッセージカードをつける、運搬は伊集院光が担当する、ミーティングの呼び出しをすることが出来る白だるまというものがある。そしてこの細かいルールが後々、フリとして効き、参加メンバーをぎゅうぎゅうに縛っていく。
そのルールの配置が絶妙なところに、伊集院光の性格の悪さ、もといクレバーさがうかがえる。
もちろん伊集院は、ただの運搬役ではない。様子見と称して、各部屋を渡り歩き、揺すぶりをかけていく。二転三転するゲームの展開は是非見ていただきたい。本当の意味でイニングがひっくり返る瞬間のなんともいえない感情は、まさにTVのバラエティでは味わえない素晴らしい映像となっている。
他に注目してほしいのは「顔」である。
伊集院光深夜の馬鹿力では「顔コレクション十面鬼」という人気コーナーがある。「喜怒哀楽、それぞれが色んな割合で交じり合った顔、もしくはそのどれにも属さない顔」になった瞬間を紹介するというもので、例えば『池上彰に「マジックミラー号について教えてください」といったら、歴代のシリーズの発売日から売上、作品の細かい内容まで説明されたときの出演者達の顔』『祖父が亡くなった際に高名なお坊さんに100万円近くのお布施を包んで授かった、それはそれは立派な戒名が、訓読すると「グレートマジンガー」になると気付いたときの俺の顔』といったネタがあり、ラジオならではの想像力をかきたてる。
メンバーの「暇をもてあます顔」「シミュレーションしすぎて、混乱し始めている顔」「まんまと伊集院の口車にのってしまった顔」「完全に勝ちに行こうとする悪い顔」の一つ一つが味わい深い。
それはまさに、いろんな感情が交じりあった、リアルな顔面模様が繰り広げられている。
「ゲーム」「人間のダメさ加減」「話術」「赤いだるま」と、小さな伊集院光が集まって、大きな伊集院光となった「だるまさんが動いたらみんなバラバラ」は、白でもない、黒でもない伊集院光を見ることが出来るDVDとなっている。