石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

社会人大学人見知り学部卒業見込みを読んだ。

2013年の上半期も残りわずか。個人的に今年聞いた、お笑いに関する名言は二つある。一つは、ゴールデンボンバー鬼龍院翔ネタ番組のゲストに出演し、司会に「お笑いは好きですか?」と質問された時の答え「好きであり、憎んでいます。」だ。吉本の養成所に入って、お笑いの道を諦めた彼がそう言ったことにしびれた。自分で調理していたフグを食べていたというのもあるのだけれど。
もう一つは、レイザーラモンRGが歌手の星野源を評した言葉「精神がパンクすぎるがゆえにパンクバンドをしない男だ。」。爆音のギターよりも、細野晴臣マリンバの音に尖りを感じる、そんな男だとする。
体に電流が流れるほどの名フレーズだと思った。実際、フルフェイスをかぶった男にスタンガンを体に押し付けられていたというのもあるが、それを差し引いても名フレーズなので、しばらくは主語を変えてはニヤニヤとしていた。「大江健三郎は精神がパンクすぎるがゆえにパンクバンドをしない男だ。」「なにわ小吉は精神がパンクすぎるがゆえにパンクバンドをしない男だ。」「日蓮は精神がパンクすぎるがゆえにパンクバンドをしない男だ。」等々。もう逆に、パンクバンドをしている奴らはパンクじゃないんじゃないかと思いはじめて、この大喜利は危険だと思い、止めた。
パンクバンドをやっていないパンクな男の中のひとりであるだろう、オードリーの若林正恭の初の単独単行本「社会人大学人見知り学部卒業見込み」を読んだ。
どうしても書店で手に取りたかったので、数軒はしごをして探してみたが見当たらない。取り寄せをしてもらおうとも思ったけれど、人見知りの本を人見知りが買うために、店員と対面して、紙に記入をして取り寄せしてもらうシステムは地獄だ。結局、amazonで買った。話は変わるけど、amazonとは俺は仲良くやっているつもりなのに、未だに18歳以上かどうかを聞いてくるのは、つれなくないかと思う。
もともとはダ・ヴィンチという雑誌に連載されていたエッセイをまとめたものなので、コンビニや本屋、図書館で立ち読みをしたことと合わせて、ああ、これラジオで話していたなあと思ったりして読んでいると、一つ一つのエピソードを結構覚えていたことにちょっと驚いた。それだけ毎月の楽しみになっているってことか。
話の面白さも然ることながら、文体がすごく好きだ。対峙するといってもいいほどに熟考した先に生まれた視点や答えが、無駄を削ぎ落とされた文章は、読者の心の襞に染み込み、揺さぶりをかける。
若林も尊敬している落語家の立川談志は、とある落語を解説する文で「芸柄(にん)」という言葉を使っている。若林が他人の漫才を評するさいに用いているものでもある。
滲み出る面白さをフラと言うように、この言葉も芸人のあいだでの符丁のようなものなので、恐らく、作られたものから始まるフィクションである部分の芸風と、パーソナルな偽れない人柄、両方が混じったものを指すものだろう。平たくいえば、「その人(キャラ)がいうと、より面白い」というもの。
キャイーンの漫才の中で、天野がウドを男が好きなのかと疑うと、「あまぁのくぅん、(左手を右頬に添えて)こっちじゃないよ、(右手を左頬に添えて)こっちだよ」と返す、多分あと5000回見ても笑ってしまう流れがあるのだけれど、芸柄(にん)が出ているっていうのはわかりやすくいえばこういう事なんだろうなあと思っている。
そう考えると、ラジオやテレビで聞いた話から、若林のパーソナルな部分、作っている部分を知っている(と思わされている)不特定多数よりも狭い範囲にいる人達は、若林の文体こそ芸柄(にん)が出ていると感じると思う。
パンクというのは、心の中にいる化物やモンスターといった、運動場のはしっこで育てた悪魔が自分の心の中にいるということを受け止めることなのかもしれない。闘うか、共存するか、穴を掘って埋めるか、化物として生きるか。徒手空拳の状態のことをいうのであって、何を武器にするかは関係ないことだったんだなと、さきのRGの言葉で改めて気づかされた。
星野源は「化物」で「思い描くものになりたいと願えば/地獄の底から次の僕が這い上がるぜ」「思い描くものが明日を連れてきて/奈落の底から化けた僕をせり上げてく/知らぬ僕をせり上げてく」と歌っている。
若林は「穴だらけ」の章で、黒ひげ危機一発で穴に剣を刺していき海賊が飛び出すのを待っているのを、試行錯誤を重ねて模索している状態に似ているな、と思い、こう書いている。
「今、僕の目の前には膨大な量の樽が並んでいる。剣刺さなきゃな〜。なんせ穴だらけだから。とにかく刺して、穴の数を減らさないといけない。結婚相手や商品開発も似たようなことあるのかな?何かをして何も起こらなかった時、飛ぶ可能性は上がっている」
なんとなくつながる二つを見ながら、社会にでるって、一個一個を捌いていくことなんだよなと、悟ったフリをしてみた。
ところでラジオでも話していたけど、印税は相方と折半のようです。理由はこれまでもそうだったからと。一番パンクじゃねえか。