石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

いつも心に加藤浩次を。

テレビっ子と言えども、笑い死ぬかと思ったという体験は数回しかない。その記憶の一番古くが、小学校六年生に見た「めちゃめちゃイケてる」の「THE STAMP SHOW」での、極楽とんぼ山本のフルスイングだ。サイコロの出目がメンバーの顔になっていて、当たった人が、ハリセンで叩かれるというもの。まずは、他のメンバーが小さいハリセンで頭を叩いていく。グルーヴが生まれたころに、山本が大きなハリセンで顔面を叩く。
その回のフルスイングは、フォームも音も、叩かれて吹っ飛んだメンバーの様子も全てが美しすぎて、息ができないくらいに笑い転げた。
その美しさは、水島新司ドカベンこと山田太郎で、ストライクにすると決めていたコマを書いていたけれど、あまりにも理想的に描いてしまったために、ホームランにしてしまった時のものと同等だ。
その頃から人間関係の下手さが顕になっていた、太っちょの少年は、ブルーハーツよりも、北野映画よりも先に、極楽とんぼの暴力の虜になった。
人生で一番記憶に残っている深夜番組は極楽とんぼのバスコーンつってんだろ!」だし、TBSラジオ極楽とんぼのラジオが始まるって聞いたときは、本当にワクワクした。
 加藤浩次のエピソードで「合コンに行っていけ好かない女がいたから、チャーハンを注文し、そのチャーハンをかけた」というのは人生で聞いた芸人のエピソードの中でも好き度は十指に入る。
 ワクワクしたといえば、2013年6月15日放送した「めちゃめちゃイケてる」での企画を聞いた時は、その日が待ち遠しかった。企画は「メンバーが嫌いになった人と、直接対面する」というもの。
 ジャルジャルの場合は「陰で悪口を言われた先輩芸人H」として、ハイヒールが登場。ハイヒールのラジオ番組に呼ばれて緊張していたが、本番を終えると手応えを感じていた。ところがしばらくしたら、テレビ局のスタッフから、「ハイヒールさんに何かしたのか?ハイヒールさんが、『ジャルジャルは全然おもんなかった』『二度とつこたらあかん』って言っていたで」と言われるようになり、全く心当たりがないまま、ハイヒールに苦手意識を持つようになってしまったと。そして、ハイヒールが登場し、ハイヒール側からの反論を話したのだけれど、それが、ジャルジャル評としてやたらとクリティカルで、ずっと笑っていた。確かにジャルジャルの弱さはネタを繰りすぎているという感じがあるところで、フリートークの印象はあんまりない。予期していないところからの返しの面白さが当時はまだまだだったという意味で言っていたんだと思う。
 まず、手応えを感じていたというが、ウケていたというのは大きな間違いだと。
 福徳が「僕らは楽しくおしゃべりできたんですよ」というと、リンゴが「それはあんたらがあんたらの持ちネタ言うただけやんか」から始まり、「(ジャルジャルは)自分らの世界だけやねん。楽屋とかから出てけえへん。喋っても自分たちで終わりや。ネタして終わり。モグラたたきと一緒やねん。言うだけ言うて終わりやねん。」「(自分達の世界観持っていると思って)勘違いしてイキっていると思う。」「(ハイヒールに責められてミニコントを始めると)二人でコントしたら気ぃすむねん」「大阪のラジオは休憩やな」「だいたい可愛げがない」と、アンダルシアに憧れてのボルサリーノよろしく蜂の巣になるジャルジャル。もう一回言いますが、いくらなんでもクリティカルすぎますよ。最後に二組が握手とハグをして無事仲直り。
 そのあとは待ちに待った加藤浩次の番だが、趣旨を変えて「加藤浩次を嫌いになった人」として、番組を降板した人気モデルTこと田中美保が登場。ことの顛末は、「本能のハイキック」という深夜番組に田中美保がレギュラーとして出演するも、やんちゃすればいいと思っていた33歳の若気の至りで、第一回のレギュラー紹介の挨拶から「モデルだから声張らないわよ的な」と圧をかけ、挙げ句の果てには「なんでここにいるの?」と言い放った通称「なんでここにいるの事件」。結局、田中美保は一回で降板してしまう。
VTRが終わったあとに、ナインティンナイン矢部が「加藤さん、我々引いてましたよね」というと、「矢部さん、私も引きました」「土下座して、ほんとの謝罪お見せします」と返す。もうここから、学園祭で相方の山本が脱いで書類送検されたときのラジオ吠え魂の冒頭以来の謝罪コントが始まります。
ぼそぼそと「人に噛み付きゃいいと思っていたんで」と話し出すと、よゐこの「声張んなさいよ!」「加藤さん、なんでここにいるの?」というガヤに爆笑した。
そこから反省の意を込めてのゲザ(土下座)。BGMが森山直太朗の「生きとし生けるもの」というセンスの秀逸さ。そして卑屈な顔で「あ、あ、ありがとうごぜえやす」。
ここで終わりかと思いきや、当時のディレクターのかがりD(現めちゃいけプロデューサー)に番組を降板させてもらうことを伝えに行くと、一度止められたのだけれど、そのときに「極楽とんぼの顔に泥を塗ることになるので・・・・・」と言われたと思い返すと、二人でダブルゲザ(二人で土下座)で謝罪し、無事仲直りをする。
 いやあ、めちゃくちゃ笑った。この記事を書くために、見直してみたけどそのたびに笑った。動画サイトでしか見たことのなかった「なんでここにいるの?」事件を取り上げてくれるというだけで異常にたかまったハードルを軽々と飛び越えてしまった。
 極楽とんぼ加藤浩次という男の笑いは、本当に特殊だと思う。北海道という地域柄なのか、先達の芸人からの影響をあまり感じさせず、言語化も難しい。それでも言いようのない魅力がある。テレビがつまらないって言い切ってしまう人は、おもしろに対してのアンテナが弱いか、他人が見つけた理由を自分で見つけたように思ってしまうようなつまらない人だと思っているのだけれど、これだけは言える、極楽とんぼを飼い殺しているようなテレビはつまらないです。
 いつも心に加藤浩次がいて、気に入らないものにチャーハンぶっかけてやろうって気持ちで生きないとダメなんだよ。