石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

慶安太平記あれこれ

 「講談って、でかい本屋行っても、入門書すらないんですよ。落語は何冊もあるし、同じくらい馴染みのない能とか狂言もある。それとかは、コーナーがあったりすることもあるのに、講談は本が一冊もないんですよね」
これは、少し前に、神田松之丞を勧めまくっていたときに、いかに講談が死んだジャンルであるかを説明するときのマクラとして使っていた言葉なのだけれども、今では、僕は人に好きなものを知られたくないので神田松之丞を勧める人にはそれなりに理解してくれる人にしか話していなかったのだけれど、そのくらいそれを話すような相手は大体、それが不要になったくらいには、『ENGEIグランドスラム』『ダウンタウンなう』に出演したり、爆笑問題伊集院光両方のファンに嫌われたりと、認知された2018年だったと思う。
 いつか、講談の入門になりそうな本でも探そうかな、なんて思っていながらも、ダラダラしているうちにその神田松之丞が入門書を上梓した。
 『神田松之丞 講談入門』は、当初は、講談を網羅できるような本にする予定だったが、途中でそれだと情報過多になってしまい、間口を狭めてしまうことになるということから、自身の持ちネタを中心としたものにして作ったと話している。ということは、これは、講談の入門でありながら、神田松之丞の講談の入門にもなっているということで、例えば神田松之丞を舞台で見たあとに、この本をめくって、そのネタの項目を調べて、話の前後や内容を確認する、もっといえば、これは見たな、あれは見ていないな、といって、神田松之丞を追っかけるための地図としても、機能する一冊になっている。スタンプラリーのように、チェックしていけるわけだ。
 それ以外にも、今後の展望、いずれは「伯」の名前が欲しいという話などとかを話していて、とても興味深かった。まだまだ神田松之丞幻想は続きそうである。
初めて、神田松之丞を見たのは、東京の神田にある、神田連雀亭というところでなのだが、そのときは「雷電爲右エ門」のネタの「谷風の初相撲」をかけていたのだが、数年の時を経て、本で確認したら、その時の記憶もよみがえってきた。

 というわけで、講談に、神田松之丞に興味があって、勉強したいという人にとってはマストな本になっていると思います。
 神田松之丞がリリースしたCD『松之丞ひとり~名演集~』には、連続物である「慶安太平記」のなかから、「箱根の惨劇」と「宇都谷峠」の二席が収録されているが、これはドラマでいえば、3話と7話だけをやっているようなものであって、単体でも面白いのだけれども、もちろん出来ることなら全部を知った方がいい。『神田松之丞 講談入門』にももちろん、解説が収録されていたので、項目を読み、概要を抑えたうえで、あらためてCDを聞きなおした。
 この「慶安太平記」というのは、日本史の教科書では、1行しか書かれていない「由井正雪の乱」についての話で、軍学者である由井正雪が、幕府転覆を図るも、失敗してしまい、最終的には自刃するというものだが、講談の「慶安太平記」は、今の言葉で言えば、ダークヒーローとでも言うべき由比小雪が、仲間を集めていくのだがそれは、さしづめ、『るろうに剣心』の京都編で、志々雄真実が十本刀を集めていくような感じだろうか、そんな少年漫画のような面白さで、現代でも充分に伝わるものだろう。
 南条範夫の『慶安太平記』も読んでみたが、そちらは、由井正雪の視点だが、謀略あり、裏切りあり、エロありと、こちらはジョージ秋山の『銭ゲバ』のようでもあって、ピカレスク要素が多かった。
 立川談志の『慶安太平記』も購入して聞いたが、こちらは、講談の『慶安太平記』とは全く異なって、なるほど~~となった。
 今度松之丞が、『慶安太平記』の通し公演をやるようで、行ける人は本当にうらやましい。