石をつかんで潜め(Nip the Buds)

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あくまで普通で特別な祝祭『オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー in 日本武道館』感想

 『オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー in 日本武道館』を見てきました。

  10年前といえばフリーターだったけれど、それから社会人になった。しばらくして本当に仕事が嫌になった時の帰り道に、当時に番組のジングルとして使われていた「自分を乗り越えていけ!」を壁にボールを投げるようにツイートしたら、フォロワーが続けて、「運命を変えるんだ」、「運命を変えていけ」と反応してくれた。それを見て本当に救われた気持ちになって、また仕事を頑張ろうと思えるようになった。その仕事で得たお金で東京に行くようになって、そのフォロワーと仲良くなって、こんなことがあったんですよ、と直接、感謝の気持ちを込めた笑い話として伝えることが出来た。10年というのはそういう年月である。Kさん、Mさん、いつも仲良くしてくれてありがとうございます、今度キサラ行きましょう!
 全てが変わりすぎるには短く、何かが変わり始めるには短い10年という年月は、ライブビューイングというプラットフォームを整備してくれた。だからこそ、武道館に集まれないリトルトゥースも今回のような記念のイベントを共有することができた。これぞまさに真のエリアフリー。
 ライブビューイングはほぼ全国の会場で行われ、そのチケットも沖縄以外は即日で完売したという、この事実は、第21回超人オリンピックでキン肉マンウォーズマンをくだした以来の大事件だといっていい。あと、沖縄も最終的には九割近く埋まっていました。
 少し前なら、一人で少し早めに行って、道中にある個室ビデオで鈴木心春のDVDを借りて、彼女が池袋のギャルデリヘルを始めてもう辞めていること、かなり心を病んでいたことを知って落ち込んだことを思いながら自分磨きをして、ライブビューイングに臨んだであろうと思いますが、今回は、後輩二人と見に行ってきました。これはもう、『幽☆遊☆白書』でメガリカのライブを見に行った桑原といっても過言ではない。重ねていうが、10年とは、人を少しだけ変えることが出来る、そういう時間である。
 ライブは、観客が7人のトークライブ「小声トーク」や、各都道府県から日本武道館へとリトルトゥースが集結するというアニメなどの映像から始まり、12000人とライブビューイングの観客10000人へと広まった軌跡を感じさせるもので、その時点でうるっとしてしまったものの、二人揃ってのオープニングトークで、すぐに笑うモードに入れられて涙も引っ込んだ。
 オープニングトークの後は、フリートークゾーンがすぐに始まった。
 若林のトークゾーンでは、どきどきキャンプ佐藤満春と青森を拠点に活動しているお笑いコンビあどばるーんの小野との、イタコに会ってきた話が繰り広げられた。イタコに会う理由は、若林の父親が残した「先祖代々の墓に一緒に入れてくれるな」という遺言で、若林を含む家族三人(若林を含むというがそもそも全員若林なのだけれど、そこを汲み取ってくれる読解能力がないと、AIに仕事を取られてしまうであろう)の意見が分かれているということで、当の本人としてはどうしてほしいのか、というのを聞くということで、そのロードムービー風フリートークは、一人目のイタコで失敗したので、探しだした二人目のイタコで最後には号泣し、そのことを母親に伝えると「霊感商法みたいなことはやめなさい」と跳ねのけられたというものだった。

 春日はフライデーに撮られてしまったことのお詫びとして狙っている女、略して狙女と旅行に行って四発かましたことや、お互いの家族同士で食事をすることになった話をしていた。
 どちらもオチがバシッと決まったフリートークだった。
 もちろん、ひろしのコーナーもやってくれた。武道館のたまねぎに扮した春日が若林からの攻撃を日本の竹刀で乳首を守りながら、爆風スランプの「大きなたまねぎの下で」が流れている間に、武道館の頂上を目指すという「大きなカスネギの下で」だ。いつもの、やるやらない問答も映像で見ると趣深いものがあった。
 ビッグ・ザ・武道に扮した超人カリスマンこと、チェ・ひろしが、台車に乗った春日を押していくのだが、若林はいつの間にか肩を壊してしまっていたのでスタッフから渡されたボールを投げることが出来なくなっていた。そこでバレーボールマシンを持ってきて、それを使ってバレーボールを射出させて、春日を狙う。その後は、青銅さんの等身大パネルで春日を殴りにかかったりして、舞台上が混沌とするなか、一人のマスクをした女性が登場。バレーボールマシンを使って若林を狙い撃つ。映像のテロップには「春日が狙っているドッグカフェ店員Kさん」という文字。これまでで一番湧くオーディエンス。
 そう、まさかのシークレットゲストとして、狙女のドックカフェのKさんがお助けキャラとして登場した。若林にバレーボールマシンを使ってバレーボールを当てていたが、それが、若林がクリアしたシューティングゲームグラディウスにかかっている!というのはもはや考え過ぎだろう。

 個人的にオードリーと暴力の組み合わせが大好きなので、若林が放つ打点の高いドロップキック、棒で武道館の玉ねぎを突くところ、若林がビッグスモールンらにぼこぼこに蹴られている姿などがひろしのコーナーで見られたことが何よりも嬉しかった。
続く、ショーパブゾーンでは、ビトたけし、バーモント秀樹が恒例のネタを披露。この二人のネタについては、全く同じものをキサラで見ることが出来るはずなので紹介を割愛するとして、次いで登場した松本明子はゴンドラに乗りながら、往年のオリコン最高順位131位の名曲「♂×♀×Kiss」を歌う。それを春日がボディビルをしながらそれを追いかけるという「超兄貴」みたいな世界観を披露した。
 春日と松本がキスをしたあと、シークレットゲストの梅沢富美男が登場した。「夢芝居」を歌いあげる。それだけでも歓声をあげていたリトルトゥースだったが、そこにMCwakaがカットインしてきたところで、会場のボルテージは最高潮に達する。
 少し前の放送でしていた、梅沢富美男の舞台を見に行った若林のフリートークを思い出し、あの時は今日の件を直接頼みに行ったのかなとか思いつつ、梅沢富美男が歌う「夢芝居」と、曲間に挟まれるMCwaka梅沢富美男DISに耳を傾ける。「橋本マナミ飯にさそう」「藤田ニコルも飯に誘う」などの名ライムが飛び出した。
 曲が終り、バットを持ちだしたMCwakaを見て「やれるもんならやってみろよ」と言う梅沢。間髪いれずにケツバットをするMCwaka。またもや会場のボルテージはマックスへと到達する。完全に笑いと喜劇を分かっているその立ち振る舞い、お見それ致しました。
 梅沢富美男さん、コンビニでお酒を買うときに俺に20歳以上のボタンを押させるなとバラエティで主張していたのを見て「こんの老害が。バイトはバイトで大変なんだよ、分かるだろ」とか言って、ほんっと、すいませんでした。今度、サントリーの「こだわり酒場のレモンサワーの素」買います。
 そして、コーナーである「死んでもやめんじゃねえぞ」も行われた。『深夜の馬鹿力』ではなく、武道館で聞く、「チンポ剥けなくていいから君に振り向いてほしい」というラジオネームの味わいもさることながら、コーナーラストのネタが、「風俗店の受付、なんか睨まれているなーと感じたら、パネルの一枚が爆笑問題の宣材写真だったこと、死んでもやめんじゃねえぞ」と、最後の最後に爆笑問題が出てきたこと、それで若林が一番笑っていたことが、爆笑問題のファンとしては嬉しく、何より、高校生の頃の若林と春日が、「ギャグコレクション」というライブに爆笑問題の漫才を見にいったら、その日に限って太田が噛み噛みで、15年ほどの時を経てその話を太田本人にしたら、「それは申し訳なかった」と謝られたという最高の話を思いだした。あのトークも良かった。
 最後は漫才だった。もしかしたら、爆笑問題の血が一滴くらいは入っているかもしれない漫才は、30分と長尺で、この日のトークやこれまでのオードリーのことが入れこまれた特別な題材なのだけれども、それでも、普段のオードリーの漫才のような、でも、やっぱりそれが二つ合わさっているからこその境地にあるような漫才で、ずっとゲラゲラニヤニヤくくくくと笑っていた。
 春日が、自分は瞬間移動が出来ると言いだし、その仕組みが、魂を身体から抜いて、行きたい方向に投げるというもので、それならイタコも出来るのではないかと問われて、出来るよ、と言いだす。そこから、若林の父親を身体におろそうとするが、魂は脇から出入りするという設定がすごく良い。理由は柔らかいから。これぞイリュージョン。そして、一つの身体に二つの魂を入れるためにはもとの魂を少し詰めさせてその隙間に入れる必要がある、や、若林が「俺の方が身体が小さいんだから、俺の魂をお前に入れたら、俺の父親も入れることが出来るんじゃないか」と言いだして、魂がぐっちゃぐちゃになるという、むちゃくちゃなネタでそれを徹底的にふざけ倒しながらやるという、今日この場でしかかけることが出来ない、本当にたまらない漫才でした。
 ライブのエンディングでは、『M1グランプリ』から始まり、みんなが大好きだった『日曜×芸人』での号泣事件、『ヒルナンデス』でのイケヤの椅子騒動など、曲の垣根を超えた映像までもが流された。
 三時間半という長い時間に、これでもかと盛り込んできた、本当に楽しくて、最高だったライブだった。何よりも、普段の放送の構成に沿っているのが良かった。幕間では、番組にゆかりのある人たちからのメッセージが流れ、お馴染の音楽も流れる。少し明るくなって、若林が机に座って、軽く背を伸ばしたりする仕草やペットボトルの水を飲む姿は、きっと毎週行われているもので、それを擬似的に覗き見させてもらった。少しも飽きなかった。
 最後に、オープニングでもエンディングでも若林が春日にニヤつきながら言い放った「コンビを組んでくれてありがとうな」は、リトルトゥースの言葉でもある。
 とてつもない祝祭の後も、通常の放送は続くし、人生は続く。
 10年、20年経ってまた、大きなかすねぎの下で集まれるよう、よろしくお願いします!!それまでリトルトゥースは、子供の頃のウォーズマンのような生活をして隠れて過ごしますので。
 アディオス。