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劇団かもめんたるの第7回公演『宇宙人はクラゲが嫌い』感想

 劇団かもめんたるの第7回公演『宇宙人はクラゲが嫌い』を見ました。今回は、いつもと違って、八嶋智人も出演していましたが、いつもと同じくらい面白くて狂っていました。
 八嶋が演じるヒデちゃんは、田舎の海沿いの街で、うどん屋を営んでいる。そのうどん屋は、田舎にもかかわらず、クラゲを粉にしてうどん粉に混ぜて作ったうどんのお陰で繁盛をしている。『宇宙人はクラゲが嫌い』は、その店主のヒデちゃんが雑誌のインタビューを受けている場面から始まる。
 そんなヒデちゃんのうどん屋の常連のマダムとその娘とスピリチュアル系な彼氏、うどん屋の店員、インタビューをしている雑誌のライターの森桃子と、再生回数が一桁代のYouTuberのう大とそれに付き合う小椋、ヒデちゃんからクラゲを粉にするときの臭いを消す技術を使ってローションにしようとしている槙尾とその彼女、謎の元プロレスラーの青年などが登場し、点と点が暴れながらも、徐々につながっていき、最後はとんでもないところに着地する。
 劇団かもめんたるは第2回公演『ゴーヤの門』以来だったのだけれど面白かった。ただ面白いだけじゃなく、あまり他の人が描いていないような、ニヤニヤから爆笑、ぐっちょんぐっちょんにグロテスクな笑いや下品な笑いまであって、これを売れている他の人がやっても嘘になるんですけど、う大は、ずっとやってきている人なので、説得力がありますよね。
 これまでもそう(物販で買った『ピンクスカイ』は最高にサイテーだった)で、明らかに観客を引かせるためにある部分があり、観客もきちんと引いているにも関わらず、あとあとそれで切なくなったりさせるという力業も見せつけられる。例えば、う大がYouTubeにアップする動画として温めている「ゴミを食べる」という案をつぶさに説明するところや、槙尾が登場し、屁に固執していることを分からせるために屁を使った言葉や槙尾の造語を連呼させるシーンなどがあるのだけれど、それが後半で、心動かされることに反転するフリになっていたりする。それでも、今回はちょっと八嶋がいるからポップだなと思ってしまった。
 実は、ヒデちゃんは、もともとは長男なのに東京でお笑い芸人をやっていたりするような放蕩息子だった。う大はその弟で、ヒデちゃんの代わりに親から引き継いでうどん屋をやっていた。ある日、ヒデちゃんは海に溺れてしまい死にかけるが、一命を取り留める。その時からヒデちゃんは、別人になったようになって、うどん屋を始め、クラゲの粉を混ぜたうどんを売り始める。ヒデちゃんに居場所を奪われたように、今度はう大が、ヒデちゃんのようにぶらぶらしてしまうということが徐々に明らかになっていく。
何より、八嶋智人の、喜劇役者としての身体能力のキレの良さ、売れている人が持つ陽のエネルギー、それを一瞬で掻き消してしまうような目の奥の笑ってなさを存分に堪能しました。目の奥が笑ってないって言葉、いったもん勝ち説ってちょっとあると思うのですが、その言葉で、「分かる!」って思わせるのもそれはそれで能力の一つでもあると思います。底抜けのない明るさを見ると、人は、勝手に躁と鬱が一気に入れ替わりそうなあの感じを想起させられる。そんな八嶋の雰囲気は、今回の役ともばっちりハマっていた。
 相方としての信頼からか、基本的にやっぱり槙尾のキャラが劇団かもめんたるの公演で一番狂っていたりすることも多いのですが、今回もそうで、槙尾が演じる先輩は、屁に固執するという田舎の狭いコミュニティを引きずったまま大人になったような人でした。
 う大が先日、「宗教の勧誘に来た人をデタラメな言葉で追い返すみたいな動画が流れて来た。それが面白いみたいな感じだった。本当にサムかった。世の中にバカにしていい人なんていないってわかんないのかな。」とツイートしていたけれども、まさにこのことが劇団かもめんたるの作品の根底に流れていて、そのため、う大の描く脚本には少数派に属する性的嗜好を持った人や汚いものが出てくるのだけれども、根っこには「そういったものを抱えても生きて行かざるを得ない人(おおよそ傷ついている人達)の一所懸命さ」に存在する。それは、博愛というような優しいモノとも違う、もっとフラットな、子供の無邪気さに近い、SF作品のような大局的な視点にたった肯定力と呼ぶべきものだ。なのでそれが狂気に転換したとき、より怖さが増す。
そのような意図的に、目を背けたくなる、存在していないと思いたくなるような汚いもので、いかに、綺麗な(俗にいう)ものを描くかということにもう大は興味があるのだろう。
 ちょうど見た回のアフタートークにて、八嶋とかもめんたる三人で話をしているのを聞けました。八嶋は劇団かもめんたるの『尾も白くなる冬』を見て、是非出演したいと思い、声をかけ、今回の出演が決まったという。
 八嶋はう大の脚本について「寓話的というか、現代に通じるところがたくさんある」、「登場人物それぞれがきちんと成長している」ということを話していました。
槙尾はう大の新たな側面として、「作品に罪はない」「私はあると思う」というやりとりのように時事ネタを取り入れていたことをあげていて、う大は、「議論してもしょうがないという気はある」と話していたのは、先述した、肯定力だ。
 基本的に、劇団かもめんたるについて、公演タイトルから何をやっているのか伝わりづらくて、二の足を踏んでいる人って多いと思うのですが、それこそ、かもめんたるの単独ライブなら行くっていう人が見ていないのであれば、めちゃくちゃもったいないと思います。2時間近い公演で、笑いだけじゃなく、間延びしない脚本とその構成力などもありますし、登場人物全員が、う大感や槇尾感があって、かもめんたるしています。
 

 11月の最終週にも第8回公演が決まっているとのことなので是非皆さんには足を運んでほしいですね。