石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

キングオブコント2019感想

台風で停電になってしまって、どうしたものかと思っていたのですが、実家で見てきました。父親はことあるごとに「好きずきだな」と言っていて、そらせやろとなりました。
キングオブコント2019』の感想と総評です。


うるとらブギーズ「催眠」
台風で停電になってしまって、実家に帰って親と見るという最悪な環境もあったと思うのですが、コントの初動で乗りきれなかったということもあり、実はそんなに高得点にピンとこないネタでした。最初、マイクトラブルかと思わせるハテナマークを観客に浮かべさせつつの、樫本の「喋っている人と一緒に喋ってしまう」というネタばらしが出てくるのだけれど、それが超能力なのか何なのかがひっかかってしまって、そこにもいまいち乗りきれなかった。もし超能力だとしたら、一回多く言うっていうことの整合性が取れないので、やっぱり何でそういう人なのかが分からないのが気になってしまった。数回見て良く感じてきたんですがやっぱりそれは拭いきれなかった。
ただ、「樫本」というチョイスされた苗字の絶妙さ、「樫本」を演じる八木の表情の演じ分け方など、絶妙に上手い。コントにおける役名ってあんまり意味がないような気もするんですけど、だからこそ、それがビタっとハマるとめちゃくちゃ気持ちいいんだと思いました。
好きなくだりは「樫本さんで遊ぶのやめてくださーい」

ネルソンズ「野球部」
きちんと笑いをとりたいところで取っていたという印象で、伝わりやすいところから変化球のようなボケまで散りばめられて積み重ねてはいるし、和田まんじゅうは面白いんだけど、やはりハナコと比べて和田ひとりの仕事が多すぎて、ユニゾンしている感じが弱いからか、いまいち爆発しきれませんでした。 
親友を売るのが「部室掃除させるぞ」「グランド整備させるぞ」という軽いものであるというのが面白い。ところも好きです。
好きなくだりは、「ちなみに俺は許してもらえたから」と、和田がキャパオーバーになって「ほんとはバスケがしたいんです」。

空気階段「タクシー」
もう、空気階段へは冷静な判断が不可能なので、決勝が決まった瞬間にもぐらとかたまりがお互いの体を叩きあうという映像を見ることが出来ただけで、感動してしまっていた。
噂には聞いていた「タクシー」のネタは、やっぱり面白くて、空気階段だった。
前半でコント的なことをして、点数を稼ぎ、中盤で本当にやりたいことのフリ、後半に展開させるという構成で、よくよく考えれば前半はそんなにいらないし、もぐらもキャラを作らずにただ変な人ってだけのほうがいいのだけれども、これがないと決勝にいけなかったと思うともどかしくもあるのだけれども、「3人いる」という怖がらせオチでもいいのに、さらにもうひと展開を加えて、「これからもコントは続く」という感じのものでとても良い。
写真を貰うさいに、一旦駄目だったけれど、日付をまたいでいたから、写真をもらえたというくだりも、いったんそこをかますところなんて好きなんですけど、評価が分かれるところなんかなーと思います。
とはいえ、点数は伸びず、そんな点数を見た後のかたまりの表情が切なくて、そんな顔すんなよかたまり~と思っていたのですが、決勝後はそんなに落ち込んでいないみたいでほんとうに良かったです。
かたまり、「お笑いのある世界に産まれてよかったです」って俺もそう思うよ。
好きなくだりは「トランペットトランペットへちまへちまへちま」。

ビスケットブラザーズ「知らない街にて」
「ずっと上ばかり見て歩いていたら全く知らない街についてしまった」男と、「ずっと下ばかり見て歩いていたら全く知らない街についてしまった」女が出会うという、意味不明系のボケが流れるように続いたと思うと、そこから、一気にその理由が解明される。それが『君の名は』を思わせるとても悲しいものであるという面白さ。そこから、昔よくあった小劇団テイストのネタの進化版というようなパートに入るという三段階の面白さがある。一人が男ではなく、女だと分かった瞬間から、きちんと女に見えるのが不思議。
オチも綺麗ですし、その前の「前を向いて歩かないと」というのも冒頭にかかっていて素敵。
好きなくだりは「あほかおまえ、当たり前や!」と、「サン」「デー」「マン」「デー」「チューズ」「デイ」「ウェンズ」「デイ」「サーズ」「デイ」「フライ」「デイ」「サタ」「デイ」

ジャルジャル「野球部」
一定の距離があると喋っている言葉が周波数の関係で、日本語から英語に聞こえてしまうというネタ。設楽さんも「思いついて作ってみても意外とちいさくまとまってしまう感じになりそうだけれど、ジャルジャルのテクニックで成立させている」と言っていたように、様々な角度のボケが詰め込まれていてとても満足感のあるコント。
途中、後藤が、逆に英語で話したら遠くでは日本語に聞こえるという逆転現象が起きるんじゃないかと提案し、その通り、日本語に聞こえるんだけど、それはむちゃくちゃな日本語だったという時の、全くリアリティの無い設定なのにそりゃそうなるよな感は凄かった。好きなくだりは「ワサビがツーン」と「ふざけてるよな」

・どぶろっく「農夫と神」
どぶろっくだから下ネタが来るんだろうとは思っていたけれど、まさにそれを上回るものが来ました。そら笑うて。
好きなくだりは「ついでに大きなイチモツをください」

かが屋「喫茶店
少し暗めの照明、真っ赤な花束を持って茫然とした顔で席に座っている客の男(賀屋)とそれを気まずそうな顔で見つめている店員(加賀)という一枚の画で、コントが始まった!と興奮した。そして「蛍の光」が流れる。そこで一瞬にして、プロポーズが失敗したということを理解させられる。ここまで一言のセリフもなし。そして、そこから回想シーンに入り、客が来店した時間まで遡り、何故、店員すらも気まずくなっているのかという今こういう状況が生まれているのかと言うことが判明する。
もちろん、「ごめんね」と彼女の言葉をサウンドで使うことなく、想像させるところとかのかが屋の手練手管は綺麗としか言いようがなく、オチまで含めて、誰ひとり悪くない、かが屋らしい良いコントでした。
店員がなぜ、あそこまで一人の客に肩入れをしてしまったのかと考えると、あのマスターはきっと、やっと開くことが出来た自分の喫茶店で一組のカップルが結婚しようとしているというドラマが起きようとしているということに舞い上がってしまったんだなと思うんですよね、で、嬉しくなっちゃって善意からケーキをあげたり応援したり、帰るのを止めようとしたりしたけれど、結局閉店まで女性は来なかったので責任を感じているとか、想像が膨らむ余地もある。
このコントで、時系列シャッフルという物語をつくるうえでのテクニックがあるということを知った若い子がいたとして、同じく、僕たちが『木更津キャッツアイ』を、『レザボアドッグス』を、『ドラえもんがいっぱい』を初めて見た時のように混乱しながらも眠れなくなるくらい興奮しているということを考えると、かが屋の未来だけでなく、もっと先の創作物のタネが巻かれたと考えるととても嬉しい。
かが屋のコントはデザインされ尽くされているものだと思っていて、そういえば、デザインって省略することだって何かで見たようなと検索していたら、MAZDAのサイトに<日本の美意識とは、これ見よがしに主張するものではなく、繊細なバランスの上に成り立っているものです。そのため、次世代デザインでは「引き算の美学」、すなわち引くこと、省略することによって生まれる「余白の豊潤」を大切にし、要素を削ぎ落としたシンプルなフォルム、そして研ぎ澄まされた繊細な光の表現でクルマに命を吹き込むことに挑戦していきます。>という文言を見つけ、これまさに、かが屋じゃん!となりました。
好きなくだりは、「賀屋が持っていた花束の絶妙なサイズ」

・GAG「彼女とその相方」
お笑いの養成所に通っている彼女(宮戸)が、その相方(坂本)と、彼氏(福井)の家に挨拶に行く。最高でした。「誰も傷つけない笑い」ということがテーマの一つにもなっているようなこのご時世に、そんなことを無視するかのように、女性をブスいじりする、わざとクオリティ低いネタを作って、それを彼氏に直接見せるというネタで、それに対して完全に彼氏が拒否することで、ブスでもないのに、ブスだと言わざるを得ないというお笑いのある種の異常性が描かれている、お笑いが好きなら誰にでも刺さるような展開もあった。かつ、坂本が元力士で、体重が150キロから45キロになっているという異色の経歴をもっているのにそれを売り出さないという
坂本が、やや大きめのジャージを着ていること、髪が長いことの理由にもなっているところとか芸が細かい。

好きなくだりは「全部このパターンなのかー」「いかついオウム返しやな」「お笑いって異常な世界やな」

ゾフィー「不倫謝罪会見」
一番笑ったコントです。不倫謝罪会見で、謝罪していた人が本音を言って暴れだすという設定までは思い付きそうなものではあるのだけれど、そこに謝罪をする人が腹話術師とすることで一気に、コントとしての広がりが出てくる。
腹話術師の不倫謝罪会見という設定でも素晴らしいのに、それに甘んじず、最大限に活かせるように、お笑いについて全盛期の古谷実漫画のようなカット割り、何より上田の顔が面白すぎる。ゾフィーのコントのいいところは、練られた台本だけじゃなくて、上田の表情や動きというムーブの笑いもピカイチな、そして今年は底に加えてカメラワークも活用して完璧な五分間だったと思います。だからこそ、腹話術という明らかに、ふくちゃん(人形)が話していることが、感動的になる。
かつ、時事漫才ならぬ時事コントとして見ることが出来て、やっぱりこういうトゲのあるコントがしれっとファイナリストに入っているということはとても良いことです。
何より、腹話術師という、たまにある「誰が誰と不倫したんだよ」という 明らかにテレビ的に売れていないであろう人まで不倫会見という処刑の場が用意されているということまで背景を考えると、あまりにも風刺がどぎつくて素晴らしい。
好きなくだりは「座れ座れ座れ。興奮して立っちゃう奴は馬鹿だ」

わらふぢなるおバンジージャンプ
面白いコントなんですけど、やっぱりわらふぢなるおが好きすぎて、見ている側としてのハードルを高くしてしまったというのはあります。
藤原の狂気が、もう自分の生き死にに向いているという意味では今までで一番クレイジーなんですけど。
何より、ネタ後のパートで、ちょっと感動したのがあんなに尖っていた藤原が、丸くなって、なるおの「やっちゃった!」をフォローしていたことでした。
好きなくだりは「投げて投げて投げて!」

ここから決勝戦です。

うるとらブギーズ「サッカーの実況」
サッカーの試合の解説中に、おしゃべりをしてしまって大事なところを見逃すというシンプルなコントなんですが、サッカーの試合の長さ分見てもいい、良い意味で5分という尺ではないという上質なコントでした。このおしゃべりも、「外国人の日本代表監督がうなぎを好きな話」「雨の日に乳首が透けていた話」「相手チームの選手の頭文字を上から読んだらオハヨウになる」といったものでとても良い。
こういった、会話として意味のない、当人たちしか面白がっていない話をつくるということは、タランティーノしかり、バナナマンしかり、実はとてもセンスがいるものなのだけれど、上手ければ上手いほど自然にその話が成立しているということになってしまうので、その技術の高さがわからなくなるという矛盾がある。しかも、そこに、二人が本当に楽しそうにきゃっきゃとやっているということを見せる演技力も必要なので、なまなかのスキルでは表現できない。
外国人の日本代表監督がうなぎを好きで、一日二回同じ店に連れていかれたんだけど、好きな食べ物を聞かれたらパスタと答えたって話、まじでどうでも良すぎて最高。
加えて、解説席という、演者のムーブとしての動きが制限される設定のなかでも、サッカーの試合を想像させたりすることで、それをカバーさせ、コントとして動きが少ないと感じさせないことで、飽きさせないようなつくりになっている。
また、サッカー選手の名前もまた、「与野」「加藤」「神林」といういかにも日本代表のサッカー選手にいそうな名前になっていて、細部への妥協の無さがうかがえる両方とも、八木が表情が切り替わる瞬間があるのですが、それが抜群に上手い。
うるとらブギーズのコントは、上手すぎれば上手すぎるほど自然すぎて褒められないというハリネズミのジレンマみたいなところはあるものの、準優勝も納得でした。
好きなくだりは「ゴール」「ゴール」「嘘でーす」

ジャルジャル「空き巣」
 後藤が空き巣に入ったら、家主の福徳とはち合わせてしまったというコント。最初は知り合いと称してやり過ごそうとする後藤はしばらく偶然が重なる形で、誤魔化せそうになるも、どんどんそれがずれていき、最後には・・・・・・という。
怪我をしてしまったので急遽二本とも変更されたネタということで、どんなネタで勝負しようとしていたのか、とても気になります。
好きなくだりは「オチ」

 

※追記

やはり、ギリありえる偶然(江口先生の名前を当てる)から、絶対にありえない偶然(ギャグを当てる)へのグラデーションはジャルジャル すぎるので、普通のオチにしてしまうと、手癖で作ったネタになってしまう。だからこそ、あんなオチに着地したのかな。

 

・どぶろっく「きこりと神様」
そらもう優勝ですわ。
好きなくだりは「見積もり」

・総評
面白さやコントの未来という意味において、これまでの大会に引けを取らないのですが、あまりにも、多層的な構造のコントが全くもって通じなくなってきているというのを感じました。一般的には難しすぎるのかなあと思いつつも、一本調子ではないそういうコントじゃないと決勝まで行けないのに、決勝で点数が伸び悩むという捻じれ現象が生じていて、もっとその作家性を評価してほしいというのは正直言ってあります。これは審査員のお笑い感が何周もしていて結局シンプルで強い笑いに点が集まりやすくなっているということなどもあるのでしょうが、やっぱりコントというのは、笑いだけではないですし、何よりそれは審査員の全員から教えられたことであるはずなのに、そこが通らないのはつらい。爆発力にかけるのも、そこが気になってそのモヤモヤを引きずってしまっていることも無関係じゃないんじゃないでしょうか。
なにより、今回目立った、総合点数のかぶりが、もう五人制の審査員の限界を迎えている気がしました。そこを救い、掬うためにも、最低でも歴代の王者から二人くらいは出すべきだと思っています。
そうじゃないと、やっぱり準決勝を見て終わってもいいかな、となってしまう。

そういえば、バイきんぐ西村は一言もしゃべってなかったですね。