石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

キングオブコント2020感想

 Gorillazの『Feel Good Inc.』の笑い声から始まったときから一味違うなと睨んでいた『キングオブコント2020』めちゃくちゃ良い大会でした。例年通り、誰が誰に何点を入れたかはあまり興味がないので省略します。

 

滝音「ラーメン」
 さすけ演じるラーメンを食べている男と秋定演じる店員のコント。そんなラーメン屋での一幕かと思いきや、ラーメンを食べている男は大食い選手権の出場者で、秋定演じる男はただの店員ではなかったというひっくり返しはコント的で、とても気持ち良く、大会の一本目かつ一発目の笑いどころが、これで本当に良かった。
 ここで観客に気持ち良くなってもらうために、冒頭をトーンを抑えめにされている。男が真剣な顔をしていることや、ラーメンのお代わりなら替え玉だから、普通は一杯まるまる持ってこないよなという、うっすらとした違和感が実はきちんとした伏線となっているところも良い。
そこから男と店員のやりとりが広がっていき、餃子をサービスで提供するという、くだらなくて笑ってしまうところから、二人の間に友情のようなものが芽生え始めているところも好きだ。
 思ったことは、やはり、コントは会話劇として優秀であればあるほど、コントとしての動きが左右のみに留まってしまうということになってしまう。これはものすごく簡略化していえば、観客の視線の動きが左右にしか動かないということだ。これまでの傾向から言っても、そういったコントでは最終決戦まで駒を進めにくい。だからこそ、いかにしてコントを立体的にするかということが肝になってくるのだと思う。だから、面白いけどまだ決勝に行けていないコント師は大抵、左右の動き止まりになっていたりする。演劇でもそうだが、立体的であればあるほど、その気持ちよさは増してくる。
 滝音のキャッチコピーは「パワーワード錬金術師」となっていたが、さすけのツッコミは「ベロの偏差値2ぃぐらいのやつ、おるわけないやろ」「あたしだけ足軽フードファイターと思われてしまうやろ」などなど、いちいち面白かった。
例えツッコミは、コントに入れこむのはとても難しい。コントの中の登場人物は、お笑い芸人ではないからで、例えツッコミをするということ自体が、設定に矛盾が生じてしまう。そういった中で絶妙なバランスの例えが繰り出されていく。そういった制約がない漫才だったらどうなるのか、ものすごく気になってしまう。『M-1グランプリ』で見られる未来も遠くないのかもしれない。
 そんなさすけのツッコミは、霜降り明星粗品コウテイの九条のツッコミを連想させるが、大阪のこの世代の特徴なのだろうか。どこか、大喜利のフリップをめくって回答する時のようなはっきりとして聞きやすいことを意識したような声の出し方と間の置き方に近い。それから考えると、本来のフリがひとつ目のお題として、それにボケとして回答する、さらにそのボケをお題としてまた回答するというコンボになっているという二重の極み的なことになっていて、なるほどそれだと確かに強い笑いが押し出されていくことになる。
 このスタイルは、パクリとかそういうものではもちろんなく、大喜利が根付いたことによって自然と産まれてきたひとつのフォーマットということかもしれない。
 好きなくだりは「おぉーぐい選手権なのよぅ」
 
・GAG「フルート奏者の災難」
 宮戸演じる女性が河川敷でフルートを練習していたら、坂本演じる中島美嘉が現れ、驚きながらもフルートを披露していると、中島美嘉に福井演じる草野球をやっている男がぶつかって、中島美嘉と中身が入れ替わるというコント。
 四年連続でキングオブコントの決勝に進出しているさすがのGAGのこのコントは、立体的なコントとなっていた。他のファイナリストと比べても、一貫して、良い意味でバカらしさが溢れるコントをキングオブコントという大舞台で披露し続けていて、でも振り返ると毎年、そのバカバカしさの角度が違う。本当に凄いと思います。特に今年はこれまでで一番バカバカしかった。
 好きなくだりは「(草野球選手がフルートになるところ)」

 

ロングコートダディ「バイトの初日」
 堂前演じるバイト初日の新人に、兎演じる先輩が仕事を教えるコント。冒頭から、ぼそぼそとローテンションで始まり、何かが起きそうな感じの緊張がしばらく続くが、先輩の「ほら、俺、頭が悪いからさ」で、コントがゆっくりと稼働しはじめる。
 舞台上の動きがないのだけれど、脚本で揺さぶられるからそれが全く気にならない。
 脚本のなかで一番凄いのは、コントの途中で「バカだから」というセリフの謎が解けて、さらにオチでこの「バカだから」という意味がさらに深くなるところだ。
 今大会一番、誰もボケていない、誰も悪くない、ただ登場人物の日常を切り取ったらコントになったという好きなタイプのコントでした。
 先輩は新人への気遣いも出来るし、優しそうだし、きちんと場を和ますようなことも言ってくれる、本当にただ頭が悪いだけの人であるというところが素晴らしい。そして、あそこまで筋骨隆々になっているということはこの仕事をずっと続けているという真面目さまで備わっているということで、そこまで描いて初めて、観客はコントにおける彼の扱いを肯定できる。きっと彼の下半身は全く鍛えられていないに違いない。
ツッコミらしいツッコミもなく、コントコントしていないまま進み、その後、綺麗なオチに着地したのは素晴らしかった。新人の「めっちゃ頭悪いんですね」という言葉に全く先輩が怒らないのは、先輩は、ただの事実を言われただけで、文句として受け取っていないからなのかと勝手に考えてしまう。
 悪い人は出ていないのに、本当に頭が悪い人をコントに落とし込んでいることからくる溢れ出る危うさがたまらなくて、baseよしもとの地下で見たらもっと最高な、じめった良いコントでした。段ボールに書かれているラベルも無機質でたまらない。二回目以降の視聴の際は、段ボールを降ろしている時間が、より面白かったです。少しだけ頭を使わされる感じは、バナナマン単独ライブのOPコントのようでもあった。
ロングコートダディのこのネタと、クリストファー・ノーランの『TENET』は二回目からが本番。
 好きなくだりは「段ボール初めてか?」「おい、俺の前で効率の話をするな(笑)」「オチ」。

 

空気階段霊媒師」
 聖者と愚者と呼ばれていた昨年と比べて、今年は「第七世代の狂戦士」と、第七世代に入れてもらったことと引き換えに、二人とも狂人であることがばれてしまったキャッチコピーがつけられていた空気階段。もぐら演じるキングインパクトを名乗る霊媒師に、かたまり演じる男性が祖母の霊を呼び寄せてもらうというコント。
近くに出来たコミュニティFMの電波と、霊の波長が似ているから、調子が悪いとラジオになってしまうという、妙にリアリティを持つという設定は、まさに、街を歩いてい独り事を言っているおじさんは、お腹に電波を受信する機械をぶち込まれていることにしたかたまりらしい世界観の肝だ。
 空気階段の前に披露されたコントが三本とも、弱火でじっくりタイプのコントだったが、このネタで、霊媒師が上下をきって話をしだしたところから、ちょっとこれまでとは違うウケが出たという印象があった。
 特に、スマホからradikoのアプリを起動しているから、放送にラグが生じるというところをネタのギミックにしたところなんかは、愛おしい。そして、そのことで、キングインパクトが本当に霊能力者であるということの証明となり、最後にはキングインパクトが実はヘビーリスナーだったということが明かされるという、整合性の取れた脚本の美しさにうっとりしてしまう。
 後半のリスナーと電話をつなぐというところからは、二人とラジオ番組が繋がっていくという展開に入り、これまでのことを畳みかけてコントが熱を帯びていくところは、たまりませんでした。  
 好きなくだりは「(キングインパクトが、このコミュニティFMの熱心なリスナーというところ)」からの「何これ、呪われそうだー!」

 

ジャルジャル「野次ワクチン」
 後藤演じる新人演歌歌手が競艇場の営業で歌を歌うことになっているが、福徳演じる所属事務所の社長が、客席から野次が飛んでくるだろうから、今から楽屋で野次を受ける練習をしておこうと言いだすというコント。
 後藤が歌う、別に良い曲ではないのに、無駄に耳に残るメロディに、福徳の野次が入ってくる、リズムネタのようなこのネタは、冒頭数十秒でネタの説明をして、そこからまた最速で観客にこのネタのシステムと笑いどころを理解させ、それからは時間いっぱい、しつこーく、でも一直線ではない展開で観客に揺さぶりをかけながら、ガシガシと笑いを刈り取っていくという圧倒的なスタイル。空気階段で暖まった会場の空気がさらに押し上げられているのをビンビンに感じました。
 好きなくだりは「大事な電話、大事な電話」

 

・ザ・ギース「新聞配達所」
 尾関演じる新聞配達を止める年老いた先輩に向けて、高佐演じる同僚が最後に贈り物をするコント。高佐がハープを持ってきて、それをきちんと弾けるというだけで、八割は勝っているコント。とはいえ、ボケの数が少なめであるということと、ジャルジャルの後だったということで、少し点数が伸び悩んでしまった印象を受ける。
 同僚が弾いた中島みゆきの『糸』に触発された先輩が昔やっていた紙切りをやり始め最終的に二人のユニゾンになるのは、感動的でした。
 好きなくだりは「ドンキホーテの曲じゃねえか!」「紙切り!?」

 

うるとらブギーズ「陶芸家」
 八木が演じる陶芸家の師匠と、佐々木演じるその弟子のコント。陶芸家が納得のいかない皿を割るというベタな設定を見ると、ここからどう展開していくのかと構えて見てしまうが、そんなシリアスなところから、ふざけ、そしてバカバカしいいちゃつきに変化していくグラデーションが楽しいネタで、少なくとも今回の倍の尺で見たいと思わせるコントでした。
 一年経ってもそのいぶし銀なコント師っぷりは良い意味で変わっていませんでした。ただ、前回の二人の会話の妙が削られていたのはちょっと残念でした。
 好きなくだりは「いい!」「いい!」「いい!いい!」からの皿割で「なんでなんでなんで」

 

ニッポンの社長
 男子高校生がケンタウロスというコント。ケツ演じるケンタウロスの男子高校生が、ケントという本名なのに、ケンタウロスに引っ張られて先生にケンタと呼ばれているという、男子高校生ケンタウロスあるあるで突っ切るコントなのかと思いきや、辻が演じる、ミノタウロスの女性と出会うことでコントは一変する。男子高校生ケンタウロスが、顔だけミノタウロス女性に一目ぼれして恋に落ち、HYの「AM11:00」を歌い出したところで、わざわざ積み上げてきたリアリティが一気に瓦解していく。同じく、恋が芽生える瞬間をテーマとしたコントと言えば、昨年のビスケットブラザーズのネタを思い出すが、あちらは筋が通っていたことでグルーヴが産まれていくことで爆発したことに対して、ニッポンの社長のこのネタは、そういった理屈をすっ飛ばすことで爆発力を得て、その推進力で逃げ切っていた。この逃げ切る態度や潔しとするか、さらなる展開の飛躍を求めて完全に破滅してもらうのを望むかは好みで、でもここが意外と点数が上がるか下がるかの微妙な分岐点になったと思います。
 男子高校生ケンタウロスがマイクを譲った後、ミノタウロスに吠えさせるという発想は狂いが過ぎている。さらに、そこからケンタウロスが、ケンタウロスとしての声を取り戻すという展開は、物語の破綻の末に神話性を取得していた。
今大会で一番、ブレーキがぶっ壊れていたコントは間違いなくこのコントだった。
 好きなくだりは「ミノタウロスが吠えるところ」

 

・ニューヨーク「結婚式の余興」

 屋敷が演じる新郎のために、嶋佐演じるまさおが、結婚式の余興をするというコント。
 まず、ニューヨークのキャッチコピーは、「隠れ悪意のファンタジスタ」だったが、隠れというところに、考えた人のニューヨークへの愛情を感じてしまった。
ネタは、初めにピアノを弾きながら、ハーモニカを吹いて、鼻でリコーダーを吹いて、タップダンスをするという明らかに練習しすぎな余興が披露されてから、そこから余興を超えていく演目は何かという大喜利の問いへの見事な回答の積み重ねと、画ヅラのくだらなさは最高で、そして最後に千羽鶴という、三部構成となっていて、かつきちんと尻上がり的に笑いが加速していくという理想的な構成になっていて、隠れ悪意であるところの、新婦の友人の『ハッピーサマーウェンディング』いじりが不要なほどに、気持ち良く笑い転げました。
 好きなくだりは「(頭にドリルを当てるところ)」

 

ジャングルポケット「脅迫」
 斎藤演じる企業秘密を握っている男から、おたけと太田が演じる男達が脅迫して情報を得ようとするコント。小気味よく交互から斎藤に仕掛け、斎藤が決めていくという、明らかに優勝を狙いに来ているジャングルポケットだったが今一歩届かなかった。
斎藤を脅すために娘の情報を掴み過ぎているというところから、近所のゴシップにいつのまにか移行し、ホワイトボードをひっくり返して相関図にまでもっていくという流れは、徐々に盛り上がっていくようなきちんとした構成になっていると思うが、どうしても最初からテンションが高いので、後半に向けて上がっていくというカタルシスが得にくくなってしまうのと、基本的に余韻も少ないので、面白かったなーとはなっても、良いコントをみたなあ~となりにくいというのが本音だ。
 好きなくだりは「もう資格の情報じゃねーか!」

 

 決勝戦です。

 

空気階段定時制高校の教室にて」
 恐らくこのコントの元ネタは、『空気階段の踊り場』でも盛り上がった桂正和『I"s』の「きみに・・・」の回。にしても、これを賞レースの二本目でかけるという胆力、サイコゥサイコウでした。
かたまりの女装の完璧さと、もぐら演じるおじさんとその声では、笑いどころがないのに、何でこんなに笑えるというのか。理屈ではまったく説明できない。踊り場リスナー以外にもばしばしと刺さっているのは本当に不思議だ。
 かたまりは「ほんと、恋の尊さみたいなのが伝わればいいなと思って」と言っていたが、思えば、空気階段は『踊り場』を通じて、恋とエモと、嫌なことがあったら帰って良いということを伝え続けていた 
 空気階段について。昨年のやりたいこと詰め込みすぎてしまっていて、イメージとしては、改造しすぎたミニ四駆コーナリングで曲がり切れずにそのままコースを飛び出してしまったような印象があったのだけれど、今年は二本とも、ボケなどの余白を味わえるような時間も取れるくらいにはゆったりしているという体感的に尺がぴったりだったから、笑い以外の感情も得ることが出来る素晴らしいコントだった。「やさおじ」「クローゼット」と一昨年前なら優勝してもおかしくなったコント二つを別の形で上回っていて、二本目のネタをこの場でかける胆力含めて、空気階段の二人が賞レースを掴んでいる!!と興奮してしまいました。
 空気階段らしさを持って、ストレートに三位というのは大健闘です。
 好きなくだり「全部」
 
・ニューヨーク「組の事務所にて」
 ここにきて、じっくり見せるコントを持ってきたニューヨークはやっぱりコント師だった。屋敷演じる弟分が帽子をかぶっていることに、嶋佐演じる兄貴分が興味を示したことから始まるも、どんなに粘っても頑なに帽子を取らないというアウトレイジなのに自意識過剰な屋敷が可笑しいコント。
 良いコント師は全員、最終的にコントの中で人を殺したい願望があるのかもしれない。 
 好きなくだりは「俺の墓参りはよぉ、帽子とって来いよ」

 

ジャルジャル「強盗」
 後藤と福徳演じる二人が会社に強盗に入ったら、福徳はタンバリンを持ってきているわ、金庫からはタンバリンしか出ないわという、福徳のタンバリンの扱いと、後藤の慌てふためく姿がただただ面白い、リアリティも整合性もシステムも仕組みもほとんどないただただ動きの笑いに満ちたコント。
 それ以外、何も言えません。 
 好きなくだりは「音かき消します!ピーーー!!」

 

 総評
 「ほぼ無観客の審査の結果、テキストのみの面白さの比重が増えて、下手したら、コアなコントが優勝する可能性がある」と思っていて、それは滝音ロングコートダディといった大阪の若手がその波に乗っかることが出来た気はしますが、やはり、ジャルジャルがこれまでに積み上げてきた壁はあまりに高すぎました。そして二位のニューヨークも、意外と苦労人で持っているものは多かったわけですから、これもそうなるべくしてなった結果のように思えます。
 やはり、このご時世、劇場がある吉本興業が強いということは記録しておかないといけない気がします。
 審査員のさまぁ~ず三村については、点数にそこまでの違和感はないし、仮に点数が低くてもそれは問題なく、むしろ何故点数が低いのかということを知りたいので、これは単純に司会の浜田が、何で点数が低いのかを掘り下げられてなかったりするからではないだろうか。浜田が安易に三村いじりに流れていたようにも思えますし、全体的に、今回の浜田の司会はひどかった気がします。