石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

キングオブコント2021感想

 『M-1グランプリ』が、そのタイプの漫才それぞれの現時点でのトップが集まったというように、『キングオブコント2021』も、この系統のコントのなかでのトップが集まったというものに限りなく近くなっていて、大会としてとても楽しくて、満足でした。
 ただ腹ちぎれるくらいに笑ったというのはいつもの大会と同じくらいか、ちょっと少ないくらいで、何となくの印象ですが、加点方式というよりは、減点方式で採点された気がします。そこで様々な要因で点数を落とさなかった、空気階段が優勝したような気がします。
 さて、全組の感想等を書いていきたいと思います。

 

1.蛙亭ホムンクルス
 
 蛙亭の弱点は、中野のアドリブが面白すぎること。なので、ネタをカチッと決めていなくても、設定が決まり走り出せば、ある程度ネタとして成立してしまう。恐らく今大会のファイナリストでアドリブコントをさせたら、蛙亭が優勝するだろう。だが、そんな中野の能力の高さがゆえに、イワクラが持ってくる素晴らしい設定と中野の怪演奇演ががっちり噛み合って震えるような、心に踏み込んでくるような笑いどころが生まれるはずであり、まだまだこんなもんじゃねえだろ、蛙亭、という気持ちです。
正直な事を言えば、それがここ最近の、蛙亭への個人的な評価だ。
 研究所で秘密裏に作りだされていた人造人間であるホムンクルスが脱走、博士と出会い、関係を構築していく。中野が演じる、ぬるぬるのホムンクルスというほぼ勝ちが決まっているビジュアルに加え、妙に気さくで愛らしいというその性格、「僕があなたでもそうしたと思います」とすでに気遣いができるまでに発達した知性や、生まれたばかりなのに製造番号の164を「ヒロシ」と語呂合わせをして、自分の名前にするというくだりは、これこれこういうことだよ、と興奮してしまう。
冒頭で、中野が演じるホムンクルスが緑の液体を吐くということで、最大限に引かせるというギミックが見事で、最初に中野の印象を最低値に持っていくことで、このコントの肝である、博士がホムンクルスと交流をしていくことで母性が目覚め、存在を受けいれるという、感情がマイナスからプラスへ移行していくという動きを、観客は、追体験することが出来る。キモ吊り橋効果。
 難を言えば、台本に矛盾や違和感がまだまだあるところだ。博士が「今日も特に何も変化なし、かぁ」と言っているのに究極生命体が誕生していたり、すぐに政府の舞台がかけつけたりと疑問が生じるストーリー展開だし、セリフも説明が多く、まだまだ映画や漫画あるあるの域を超えられていない。中野の髪型がツーブロックなのも邪魔だし、洋服も白いシャツじゃなくてどうにか出来たような気がして残念でならない。こういったノイズをロジカルに詰めて潰していけば、もっと純度の高く濃密なコントに進化させられる気がするのが惜しい。
 明転板付きの白衣の女性と舞台の小道具で、研究所ということはピンとくるから、「数字がおかしい」みたいに大胆に振ってもいいような気はします。
好きなくだりは、緑の液体を吐き出すところと、「すごい、もう語呂合わせが出来るの」「僕があなたでもそうしたと思います。」

 

 2.ジェラードン「転校生」

 放課後残って提出する書類を書いている転校生が、王子様な言動をするクラスメイトの二階堂シュウジに話しかけられ、少し引いているところに、その幼馴染である角狩りの女子エリナが来て、安いラブを見せつけられるというコント。
 すでに出来上がっている関係に新しい人が入ってきてそのズレを指摘するだけの構図だと、三人の関係が発展しないのでコントに奥行きが生まれにくい。そのため、ストーリーが一方向にしか進まず、笑い以外の感情が生まれず、視点が横スクロールゲームのように、ストーリーをなぞるだけで終わってしまう。こういった平面的なコントは基本的に楽しいけれど、うねりはやっぱり生まれにくい。
 素晴らしいコントは、やっぱりこのストーリーの流れに加えて、場面転換や時間の経過など、キャラの心情や舞台上にない舞台を想像させるなどの別の面を必要とする。それらが重なりシナジーが生まれることで立体的なコントとなる。視点が縦横左右と動かされると、満足度は一気に高くなる。
 ツッコミを担当する転校生が、幼馴染同士のやりとりにあまり絡んでいないということについては、小峠が審査コメントで、「ツッコミの海野が、そこまでがーっとツッコまないのが良いかもしんないですね。あれでごちゃごちゃしてて、二人がごちゃごちゃしててツッコミまでわーと喚き散らしたら、ちょっとうるさいのかなと。そこまで入らないところが、上手いなと思いました」とその先のことを話すことでクリアにしていたが、それでも、やっぱり、転校生には意義のある絡み方をしてほしかった。
例えば、この二人と転校生も幼馴染だったけれども、小さい頃に転校し、それから十数年経ってまた二人と同じ学校になったということにしたら、西本が舞台袖から顔を出して名前が分かったところから、「え、あんなに可愛かったのに、この10年で何があったの」というように、いくらでも転がっていく。
 海野もこの二人の世界に入ったほうが、人生が豊になるというような方向のオチを希望してしまう。
 エリナを可愛くないと思っている自分が間違っているのかと思ってしまうくらいに、常識を揺さぶられたかった。ただやっぱり最後の「ただ叩く」というオチの雑さに笑ってしまったということは、やっぱりこの二人にムカついていたんだなと、安心しました。
 好きなくだりは、二階堂が髪をほどくところ。

 

3.男性ブランコボトルメール

 ボトルメールという特殊なきっかけで知り合った一組の男女が、一年間の文通でのやりとりを経て、初めての出会うこととなった日のことを描いたコント。白のワンピースを着て、麦わら帽子をかぶっているという清楚なイメージを纏った女性が、酒やけした声でこてこての関西弁を喋る、性格も関西のおばちゃん的というギャップ。にも関わらず、男性が戸惑わないというギャップが心地よく、基本的に裏切りのみで構成されているのに優しい。
 舞台上で、二人が会話するだけでこんなに引き込ませるって、台本がそうとう巧みってことで、一回目は流してしまうけど、年齢を問われて「35になります。」と佐藤くんが返してからの、「うち、21やねんけど」への食い気味の「21!なんですか。え、14コ下」の間も最高だし、それから、「そんな14コ下」「そんな言い方はしてないですけど」からの「伸びたつもりはないんですけど」はめちゃくちゃ面白い。佐藤くんの人の良さが出てる。
 照明が落ちてからの佐藤くんの心のセリフの「いやぁ~好きだな~」で、ディスコミュニケーションだと思われていたのが、実はコミュニケーションが成立していたというこの展開がハマれば、もう大丈夫です。
 最後の、実は空想だったということが分かったとき、とてもがっかりしてしまった。『ハイスクール奇面組』のループエンドみたいにしなくていいじゃねえか、最悪だよ、とブチギレそうになってしまったけれども、そう思うことそのものが、すでにこの世界の取りこであり、男性ブランコの手玉に取られていたということだろう。
 男性ブランコのコントは、優しすぎると常々思っていて、腐った根性の持ち主の自分としては、いささか物足りないところがあったのだけれど、めちゃくちゃ面白いですし、審査員の松本に、「二本目を見せてよ」って言われるって相当です。
 好きなくだりは「上手いこと言うて」「ぼくいってないですよ」と、「そんな伸びたつもりはないんですけど」。

 

 4.うるとらブギーズ「迷子センター」
 
 デパートで子供とはぐれたお父さんが、迷子センターに駆け込み、呼び込みをしてもらうために職員に子供の見た目の説明をするけれども、その説明があまりに突飛で、職員はこらえ切れず笑ってしまうというコント。初見では今大会で一番笑ったのがこのコントでした。この「迷子センター」、ファンの間では、代名詞になっているようなコントで、そりゃそうかという感じですが、男性ブランコと並ぶくらい、テクニックに満ちている。
 いぶし銀を通り越して、カッコいいメタルカラーG-SHOCKのようなカラーリングになっていたうるとらブギーズコント師としてカッコいいです。強いです。
しゃがんでいるスーツを着た男性が、「もうお母さんからはぐれないようにね」と言ってから、子供の頭をぐしゃぐしゃっとしながら「迷子になっちゃだめだぞ~。じゃあね、ばいばい!」と話しかけながら立ちあがり、帰り際、お母さんに一礼、その瞬間、男が走って「すいませんすいません、あのあのあの、息子が迷子になっちゃったみたいで、探してほしいんですけど」と頼み込んでくる。この間、十数秒。流れるような美しさで、何かが始まるぞと思わせてくれる。
 お父さんのテンパリがピークに達してからの、「てぃびしのB、Cね。」というセリフからは、子への愛を物凄く感じる。お父さんが定菱のためにアップリケを買ってきて、アップリケを付けてあげて、「おい、てぃびしのBCだな」と笑って言っている、そんな存在しない情景が頭の中で描かれる。
 そして、面白いけど、これ一本では逃げ切れないんじゃないかと思いだしたあたりから、実はこのコントのB面ともいえる、職員が迷子のアナウンスをしようとするけれど、子供の見た目が変わっていることを改めて受け止めることで笑いが起きてしまうけど、それを必死でこらえる男のゾーンに展開に入る。この、笑いどころの切り替えのが美しい。シームレスってこういう時に使うらしい。八木の、笑いをこらえるという演技が上手すぎて、最初ちょっとB面に入ったことに気がつけないんですよね。そこも痺れます。
 好きなくだりは「てぃびしのB、Cね。」、「トヨタの靴なの」からの「トヨタ靴出してるんですか」

 

5.ニッポンの社長「バッティングセンター」
 バッティングセンターでバッティングをしている男子高校生に、おっちゃんが話しかけて、アドバイスをしてくる。その最中におっちゃんの体にピッチングマシンから投げられたボールが体に当たっても、呻くだけで、そのままアドバイスを続ける。
前回とは打って変わって、静かな狂気が漂うコント。神話の構造を持つ破綻寸前の世界観のネタだけでなく、うっすらと死の匂いがするコントもまた、ニッポンの社長の真髄でしょう。笑いどころとネタの仕組みが分かったあたりから、笑い続けてしまうようなところはジャルジャルに似ており、言うなれば、鬱のジャルジャル。ボールが頭に当たるというのはやりすぎて生々しいけど、絶対に必要。
 実はこのおっちゃんが本当にバッティングが上手かったというオチを知った後に、体にボールを当てるという行為を見返すと、これは、おっちゃんにはおっちゃんなりの理屈に従った行為なの、か、と思わずにいられない。常識に依拠しているから笑っていられるのに、その常識を疑いはじめてしまい、脳がくらくらしてくるような感覚がたまらない。
 そして、「おっちゃん、昔野球教えとったんやぁ」の意味が変わってくる。今は教えていないという事実から、過去に何があったのかと、奥に控えている物凄いドラマを想像せずにはいられない。
 ただ、不思議と、ラストに悲壮感はなく、むしろ少し希望に満ちている。あのおっちゃんは、これからもバッティングセンターをうろうろする。そして、いつか、おっちゃんのアドバイスをちゃんと聞く高校生が現れたら。さらに極上なコントが生まれそうだ。今大会で一番、ライフイズビューティフルな輝きを秘めているコントだと思います。
 好きなくだりは、自分からカードを入れてボールを体にあてると、オチ。


6. そいつどいつ「彼女のパック」
 
彼氏が夜遅く帰宅したら、彼女がパックをしており、その彼女の言動がホラー映画のようなことを繰りひろげていくというコント。
 設定も珍しく、そこから重ねられるボケもバカバカしくて好きなのですが、それだけでなく、こぼしたワインを拭く動きを筆頭に刺身の気持ち悪い動きや、パックが暗闇で光り空へと飛んでいくという目で見ても楽しい仕掛けも散りばめられていて盛り沢山でめちゃくちゃ面白いし、生で見たらこの倍は面白いし、楽しいだろう。
 ただ、彼氏がただ遅く帰るのが多いというだけで、あんなに凝ったことをするということがどうしてもつながらず腑に落ちなかったという意味では、彼女の動機づけが弱かった。冒頭の彼氏の登場から、彼氏は浮気をしていて復讐しているのかなということが引っかかってしまった。せめて、最後のセリフを「やりすぎちゃったみたい」にするなどしたほう良い気がした。やりすぎなので。
 好きなくだりは、こぼれたワインを拭く刺身の動きからの「拭けてるかそれ、拭けてるか?」、包丁を研ぐ音がホラー映画の効果音になるところ。

 

 7.ニューヨーク「結婚式の打ち合わせ」

 結婚式の前日、最後の打ち合わせ、その担当が全て間違っているも「おっけーぃです!」と間違いを認めないコント。
 登場人物に会話をしてほしい欲が勝ってしまっていたので、もっと先の順番なら何も考えずにゲラゲラ笑えたかもしれません。担当が話を出来ない理由が、「ギャンブルのしすぎ」というのはちょっと弱くて納得できない。ただ、そこから先の、スライドショーに出てくる写真が関係のない外国人カップルだったり、ドリルで式場を破壊するところは、破綻しきっていて、そこらへんの力強さは見事で笑いました。でも順位に納得してしまったのはやっぱり、前半がどうしても違和感があった。
 審査員席の松本を映して、柱が倒れるボケを視聴者に届けられていなかったっていう痛恨のミス、あれ何。
 好きなくだりはモンブランケーキを持ってきてから「消費、賞味、どっち」「消費と賞味、どうでもええねん!」までと、「食器ある?」とのところで嶋佐がはっきりと正面を向いた時のテープで作られた小さい目

 

 8.ザ・マミィ「道を尋ねる」
 道行く人に、大声でわめきたてている男性、そんな男性に道を尋ね続ける青年が現れて、明らかに街の異質な存在でありコントではボケとして描かれてきた、大声でわめいている男性がツッコミに回らざるをえなくなるという逆転のコント。
 正直な事を言うと、そんなに好きなネタではありません。設定は、これまでに存在したコントへの批評を志しているという意味でも悪くはないと思いますし、酒井演じる男性に、しつこく道を尋ねる林田演じる青年に「おまえすごいねえ!!」と返すところは笑ったんですが、そこから展開されるストーリーは、アラが多く、ひとつひとつで気になってしまい、入りこめない。青年が男性に固執するが見つからない。
 例えば「俺、2~30年ぶりだぞ、人と話したのぉ」と男性が叫ぶけれども、まあ、それはないだろうなと思っちゃったりした。仮にこの男性が、普段から街中で大声を出している人として、こういう人って意外と人と会話していますからね。青年がカバンを渡してその場からいなくなるのはまだ分かるとして、財布を渡していなくなり、おじさんがお金を盗るのをやめたら、青年が戻ってきて、「今の全部見てました」というのは、おじさんを試していたみたいで、あまり楽しくない。こういう風に、わらいどころとしたいところが出来て、そこへの導線がまだまだ雑。
 一見すると、交流が出来たような感じになるので、それまでのコント群でその価値観が提示されていたので、そう言う意味では、点数が伸びたのは順番に救われた面もあると思います。
 好きなくだりは、しつこく道を尋ねる林田演じる青年に「おまえすごいねえ!!」と返すところと、「春に」の合唱が始まるところ。

 

 9.空気階段「火事現場」

 完璧でしょう。コントが始まって即、設定を理解させ、そこから怒涛の展開を見せていく。かつ、ビジュアルとしての面白さにも。キングオブコントの歴史の中でも、五本の指に入る完璧さでしょう。ストーリーの動きそのものも読めないし、さらに表の顔も出てくるという、奥行きもばっちり。特に、コントの中で、窓を開けて外を見たり話しかけるって好きなんですよね。一気に、脳内でのコントの舞台が一気に広くなる。バナナマンの『思い出の価値』の影響です。    
 火事という状況の発覚から別のフロアに行くというシーン、社交ダンスの教室のシーン、消防車が到着してからのシーンと、三層にまたがっていて、ひとつひとつのお題に対して掘り下げすぎていないのですっきりしており、過去の「キングオブコント」でかけた「タクシー」のネタのような詰め込んでいる感じはない。
 もぐら演じるサキヤマが消防士であるということが分かったあと、かたまり演じるオカモトがロープを外してもらい、避難する。その時、本来であればオカモトがこの状況にうろたえてもおかしくないにも関わらず、精悍な顔をして「問題ないです、Mですから」と燃え盛るビルの中を駆け抜けるシーン、その顔つきと勇気の理由が「Mであり、実は警察であったから」というのも見事。消防士がぶよぶよの体型なわけないだろ、と思い書けるんだけど、駆けつけてきた消防隊員たちへの支持から管理職に近く、だから現場にあまり出ていないから太っているみたいな、勝手にリアリティを脳内で補完する。こうなる状態に持っていかれたら、コントとして勝ちであり、存在する世界になる。
 これまでテキストに重点が置かれていた空気階段のコント、アイマスクロープ縛られ白ブリーフ一丁M男の明転板付きからの、デブパンスト白ブリーフM男の飛び込み、パンストへの意識が薄くなりかけたところに、顔引っ張りなどなど、視覚的にも面白かった。
 好きなくだりは「火事です!」からのアイマスク外されて「誰―!?」、「私は警察官だ!」と「おい、おまえらぁ、私はサキヤマだぁ、いや、ヤマサキだ!」からの、パンストひっぱり。

 

10.マヂカルラブリーこっくりさん
 霊的な存在を信じない友人とこっくりさんをするために、「深夜の4時44分めがけて心霊トンネルのど真ん中に、机を持ってきて、合わせ鏡をしてこっくりさんをやったら、強いこっくりさんを呼び出した」という設定は、めちゃくちゃ良い。ただやっぱり、座っていた野田が吹っ飛んだあたりがピークで、その後は展開が尻すぼみになってしまった。マヂラブの良さを知っていることが裏目に出てしまった感はありますね。
 松本の審査員コメントの「やってることは『吊革』と変わらない」ではないですけど、あまりにマヂラブのネタすぎて、コントとしてというよりは、マヂラブのネタとして面白いかどうかという視点になっているなと後から思って
 好きなくだりは設定と、「明日も学校だし」「俺もだし」

 

 ファイナルステージ 一本目 男性ブランコ「レジ袋」

 お菓子を手一杯にかかげた男性が案の定お菓子を落としたので、手伝おうとしたことから始まるコント。
 「お察しのとおり、レジ袋をケチった男の哀れな末路です」も面白いし、それに対しての、「何ですか?」って返しは、本当に「何ですか?」なので良いですよね。そこからの「せわしなくさせてしまった。ランチタイムの様な」からの「何!?」の食い気味ツッコミも面白い。浦井の食い気味つっこみ、テンションもその瞬間だけあがって、またさっと冷める、静と動を体現していて凄いですよね。
 実はこの二人が子供のころに同級生だったことが分かりかけるところの「相変わらず、お菓子が好きなんだね、松田くん」「え、どうして僕の名前」「そのポーチのストラップ」「あぁ、このストラップはあの僕が小さい頃」「ほら」というくだり、「僕が小さい頃」で「ほら」と入るなど、セリフの省略も巧みで、そこはかが屋ばりにもっとフィーチャーされても良いでしょう。
 二つのコントを何度も見て、優勝に近いコンビの一組じゃないかと思わされた。みんな、男性ブランコの見方が分かったと思うので。
 しかし、男性ブランコのコントのキャラは全員に対して、こういう文章でも、くんづけをしたくなるし、何度も繰り返し見られる強度がある。
 重ね重ね、お見逸れしました、男性ブランコ
好きなくだりは「せわしなくさせてしまった。ランチタイムの様な」からの「何!?」と、松田くんが泣いてお菓子を落としそうになってそれを阻止しようと森くんが近付いて転ぶところ、「三円は最後の砦じゃない。」からの「何も守れないよ」


 ファイナルステージ ニ本目 ザ・マミィ(二本目)

 酒井演じる社長が、部下の林田を呼びとめ「なんかさぁ、今のドラマみたいじゃなかったぁ?」と言い、そこからドラマっぽい展開が繰り広げられては、それが茶化されるというコント。
 「ドラマみたい」というワンプッシュ型のコントなので、新しさはあまり感じられないけれど、ドラマだけでなく、韓国ドラマを連想させるワードを入れたりと飽きさせないような工夫が随所に見られる。
 好きなくだりは、社長から社員に話があるといってセルフBGMを流しながら自分の過去を話してからの「韓国ドラマ~」

 

 ファイナルステージ 三本目 空気階段「メガトンパンチマンカフェ」
 
 雨宿りのために喫茶店に入ったらそこは、マスターが小学生の頃に書いた漫画のコンセプトカフェだったというコント。
第4回単独ライブ「anna」より「メガトンパンチマンカフェ」。このコントを賞レースでかけたこと、そして、何より、その事実こそが嬉しい。本来のコントは、もっとだらだらしていて、それが良いのですが、そんな中でもコントの面白いところを抽出してきちんと賞レース用にブラッシュアップされている。なにより、両替のくだりが残っていることが嬉しかった。
 好きなくだりは、「火星の土、土星のわっか、ごめんなさい、これコーヒーってどれになるんですか」からの「だから、こんなものこのスペースシップには存在しない。のだが、このブラックホールの湧水というのがそれに近いであろう。」、ガロンからコロニ―への両替の説明から千円をもらってそのまま一兆コロニ―を渡してしまうくだり。


 優勝したのは空気階段。今年優勝してくれるということを期待しすぎないようにしていましたが、一夜明けてから以降、じわじわと嬉しさが込み上げてきています。空気階段が優勝した時、ラジオの名場面はもちろん、やさおじ、定時高校生の二人、ラジオネーム・ヤマザキ春のパンスト祭り、チャールズ宮城、聖・くわがた教の信者、亜空間に漂い浮気を罰する男、ソフトバンクおじさんと言った好きなキャラクターのことを思い浮かべた。彼らがいたからこその優勝だよ。
 『爆笑問題カーボーイ』で、太田光トークで、『空気階段の踊り場』で、鈴木もぐらが「素人童貞という言葉は無いと言っていて、あいつら面白いんだよ」という話を笑いながらしていたことをきっかけに聞いてみたら、「じゃない人の声のコーナー」が面白く、さらに、そのロケの音源に対してキャッキャキャキャキャと性格の悪い笑い方で大笑いしているかたまりに興味を持って聞き続けていたら、いつの間にか、素人童貞だったもぐらに彼女が出来ただ、プロポーズだ、結婚だとなってから、かたまりも含めて、どんどん二人の人生が転がっていった。ただラジオを聞いて楽しんでいるだけだったのに、とんでもないところに連れてきてもらった気分だ。後々、実は、かたまりは爆笑問題がきっかけで芸人になったこともラジオで知り、勝手に嬉しくなったのも良い思い出だ。
 大会で優勝したその翌日に、仕事で爆笑問題に優勝を報告しているというだけでも凄いドラマなのに、急遽、お祝い生放送を敢行した『空気階段の踊り場』では、これまたもぐらが敬愛する銀杏BOYZの峯田がサプライズ出演するという越崎マジックで、「エンジェルベイビー」を弾き語りをした。これほどのウイニングランは無い。草葉の陰で、ゆりありくのりく(先代)も喜んでくれているはずだ。
 鈴木、水川、夢を、そして未来はいつも面白いを体現してくれてありがとうな。もう東京ではチケットは取れないかもしれないけれど、少なくとも北海道や岡山、山形で単独ライブを打ってくれるだろうから、それだけが楽しみです。
 さて、『キングオブコント2021』は「人生の肯定」がテーマとなっていた。ここ数年の展開主義や、細工主義などを経た、コントの通過点だ。笑いが起きたところは、厳密に言えばボケではないところというものが多く、それはきっと観客が何かしらの要因で明らかな嘘では笑わなくなったということが大きく影響しているのかもしれない。もともと、そういう、登場人物がボケないコントが好きと言っていた身としては、この方向が豊かになることは嬉しい。
 ただ、今大会でかけられたコント群は、アップデートした結果であるという安易なものではなく、ウケるためのノイズを削っていったためということだけかもしれない。もうひと展開や、一つのセリフでひっくりかえすような細工を仕掛けるなどのトレンドの産物を避けただけの結果なのかもしれない。そういったことを抜きにして、現象の理由を一つに絞るのであればそれは矮小化であり、何より芸人のウケることへの嗅覚を舐めすぎだ。
 とはいえ、「人生の肯定」がテーマになっていたということ、もしくはそう思わせられたことは間違いない。ここでの肯定は、否定の対義語であり存在を認めるという意味ではなく、在るものは在る!という、もっと先の境地を指す。難しいのは、そこに完全に立脚すると、差異をあげつらうという笑いにおける絶対に逃れられない原則である暴力性が無に帰してしまい、説法となってしまう。現代の日本において常識とされているところから外れてはいるものの存在を存在するものとしつつ、そこから、笑いを派生させるために、そのズレを指摘し、最終的には全てを包み込む。
これまでのネタでも、そこに向かって突っ走ってきて、さらには、自分たちの人生すらも肯定させられ続けてきた空気階段が、今大会で優勝したのは、そんな積み重ねのアドバンテージのお陰でもあるだろう。
 他者が他者を認めることは、烏滸がましくて、おぞましい行為だ。今回はたまたま結果が上手くいったからいいものの、東京03飯塚の審査員待望論も、飯塚のコント好きを値踏みするグロテスクさがあり、そこに自覚を持っている人間がどれだけいるのか。
 見る目が無い、ライブを見ていないだとけと言われればそれまでだが、今年の大会のファイナリストの初出場組の蛙亭、そいつどいつ、ジェラードン男性ブランコを見たときに、ネタを見て笑いはするものの決勝に行くには何かが足りないと思っていたメンバーだった。それは、いつしかこびりついていた、細工や手数、展開などに重きを置いてしまっていたからであり、今大会で見て好きになったコントにはコントの自由とさらなるコントの再構築及び再解釈の萌芽があった。
 このノリでさらにコントが前進し、かつ大笑い出来るようなコントが一本でも多く誕生することを期待します。