石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

石を掴んで潜め的ベストラジオ21

 さて皆さんおはこんばんちは。

 早速ですが、ベスラジ21です。

 

第20位 『銀シャリのおむすびラジオ』(南海放送 毎週金曜日 23:00~23:30 放送中)

 愛媛県に行きたすぎて、南海放送のラジオのタイムテーブルを眺めていたら見つけた、銀シャリの『おむすびラジオ』。今年の春から始まり、全国各地でぽつぽつと放送されているようだけど、全く情報を見かけなかったので驚き、聞いてみると、15分ずつのトーク2本で計30分という番組構成。トーンも落ち着いているけれども、そこは天才漫才師、普通に吹き出してしまうくらいに面白い。まだ聞き始めたばかりなので、どの回が良かったとかではないけれど、ランクイン。

 しかし、公式のツイッターを見ても、どこの放送局が作っているのか、なぜ南海放送だけが30分と一番長くて、他は15分とかバラバラなのか、あまりにも謎が多すぎるところだけが怖い。

 愛媛のオススメスポット、コメントに残してください。

 

第19位 『問わず語りの神田伯山』「薄毛治療」(2021年9月24日、10月1日放送)

 今日も今日とてエゴサーチをしていたら、講談の会に来たであろうお客さんが芸のことは何も言わず、髪が薄くなっていることだけを指摘していた神田伯山が薄毛治療を始めたというトークを、ニ週間かけてじっくりねっとりとした回。

 薄毛と寄席演芸、TBSラジオと薄毛トーク、毛髪の量と政治思想の関連性、ミステリー小説のようにフィナステリドという薬に辿りつく伯山、フィナステリドの副作用でEDになることを知って思春期のトラウマが蘇り、治療に行くと出会ったやたらねっとりした医者とのやりとりを再現する。話芸の無駄遣いというくらいに面白かったが、心のどこかで、伯山の身に降りかかった小さな不幸が楽しかったのかもしれない。

 翌週はさらに改めて医者に会いに行ったとのことでその話をしていたのですが、それがさらにスイングしていました。

 ところで伯山が言っていた炎上三人のあと一人誰?

 

第18位 『アルコ&ピース D.C.GARAGE』「チャンサカ実家取り壊し」(2021年5月5日、2021年6月23日放送)

 

 ついに、チャンサカことアルコ&ピースの酒井の、砂壁でお馴染の実家が取り壊されるということで、片づけに行った話。

 写真を撮るために来てもらったカメラマンがリスナーで、「うぁ~、こりゃいいやぁ~」と砂壁ばかりを撮りまくっていた話や、母親と実家を片づけていたら、母親が亡き父親が隠していた宮沢りえの「SANTAFE」を見つけた話、最終的に平子が実家の土地を買おうとしていました。

 それから一カ月ほど経って、実家の取り壊し直前に引っ越しのために実家に行った話をしていた。電話番号がすでにつながらなったことで、本当に実家が無くなるんだという現実に直面し、その日の夜はぼろ泣きしたと話す。

 チャンサカの、実家トークには散々楽しませてもらってきただけに、どうしてもそりゃあどうしたってエモくならざるを得ない回でした。

 

第17位『ハライチのターン』「オープニング」(2021年11月5日放送)

 TBSラジオ開局70周年記念特別番組に岩井が出演するということを番組冒頭で取り上げ、爆笑問題の太田とジェーンスーと共演するという話題に入ったあと、岩井が「ただねぇ、ちょっと今ねぇ、あの太田さんとは距離を置きたい感じではあるんですけど。体がぼーぼー燃えてて、あ、でも12月24日か。誰も覚えてねえか!うん、もう。もうみんな、その時の興味しかないんだからさ」と、炎上していた太田をいじる。それから、澤部が、何でこの記念特番に呼ばれていないことに対して怒り始めるも、『ハライチのターン』の放送一万回を目指す澤部は、70周年でお祭り騒ぎしていることがダサいけどね、と言いだす。

 それから、アルコ&ピースの酒井の結婚の話題となって、空気階段の二人を「水川」「鈴木」と苗字呼びするノリが出て、岩井は空飛ぶバイク「XTURISMO」を買うためにお金を貯めるから結婚できないと言いだす。リスナーから、自分達も買うので空挺団を結成しましょうというメールを読み笑いあう。

 太田いじりからの世間いじりの美しさはもちろん、新旧のノリが詰まっていて最高なオープニングでした。

 今年も、『ハライチのターン』は独自のノリが色々と生まれた。こちかめ発動条件や、天然のマイクロマジック放流とか最高だった。そういえば満島ひかりが出たのも今年だった。

 

 

第16位『空気階段の踊り場』「俺たちの平和寮」(2021年7月12日放送)

 「ABCお笑いグランプリ」決勝後に大阪のABCラジオから放送し、そのサプライズで、鈴木もぐらと同じ大学の平和寮のYが登場して、夜中に知り合いの女の子に電話をかけるかけないで遊んだりしたという平和寮の思い出を語りまくった回。これを聞いていたら、俺も寮に通っていたら何か変わっていたかなあと思わずにはいられなかった。

 

第15位 『星野源オールナイトニッポン』「オードリー若林ゲスト回」(2021年9月8日放送)

 

 横のつながりを大事にするオールナイトニッポンとしては、火曜日のパーソナリティーである星野源と、土曜日のパーソナリティーであるオードリー若林正恭が良い感じのスパーリングトーク、でも、本当の本当のところでは誰も傷つかない感じの放送で、昔から知りあいだったけれども最近互いに意識し合うようになった二人の距離が縮まった良い回だったんだろうな、と思う。

 5年くらい相互フォローでお互いに、ツイートをお気に入りしていたけど、そんなにリプライはしない二人が、ついに初めて会うことになって、ライブ前に新宿のルノアールでおしゃべりして、あのツイート良かったですねとか、あれってどういう意味なんですかと尋ねあっているような放送で、聞いていて恥ずかしさがあったが、トークの内容は、具体的なことを言っているようで言っていないという感じで、そこにはそれほど秘匿性、もしくは秘匿性を持っているという幻想を感じさせることもなく、このくらいのネタバラシをしても二人とも大きなダメージはないんだろうなという感じで、自分でもビックリするくらい刺さらなかった。どこか他人事のようで、ずっとこの一連のトークは自分には必要のないものだなと、ぼんやりと思っていた。

 ここ一年ずっと『オードリーのオールナイトニッポン』がどうにも波長が合わなくて、なんか聞いていて楽しくなかったというのが前提にあるように、単純に良かったなーなどとは言えないような複雑な感情を明確に意識してしまった。

 番組の後半、星野源が「なんかあの歌いたくなってきたなっていうのが正直ありまして、なんか歌っても良いですか」と言い出し、スタジオ内で「Pop Virus」を歌い始めると、若林がラップで入ってくるというサプライズがあった。流石にそれは驚いたし、良かった。

 単純に、自分にはもう若林に、人生の指針などを求める必要はないんだなと、そういう勝手に他者に自己を投影するというグロテスクな感情を一個捨てていたということに気がついた回でした。これまで距離を近くにしすぎていた以上、しばらくは良い感じの距離感を見つけるのには苦心すると思いますが。

 

第14位 『アルコ&ピースD.C.GARAGE』「コインランドリー論」(2021年7月7日放送)

 

 冒頭のコーナー「今日のゴシップ」にコインランドリーの話題が出たことから、かねてより、コインランドリーを使う一部の人間に対して一過言を持つ平子が、熱くなっていた。

 「コインランドリー使ってる自分のイキった目線でしょ。いや、やってる奴いんだよ、たまに。俺はそういう観点では使ってなかったよ。だから、そういう奴らがいるから恥ずかしく思いながら使ってたんだけど、昔は。なんかぁ、そういうとこに、コインランドリーにいると、なんか、家で別に干せんのに、なんかわざとコインランドリー使って、なんかねー、映画の主人公みたいな顔して、ファッションも、もっとちゃんとした服持ってるくせに、わざとずるずるっとした学生時代のジャージのズボンに、忠信ランドリーするやつがいんのよぉ〜。その忠信ランドラーのせいで、俺もなんかそう思われるのやだなぁって俺だから逆に、なんかキメキメで行ってたのよ。俺は。ドレッシーなスタイルで。忠信ランドラーになりたくなかったのよ。CHARAの世界観だとか。女子だとね。わざと駄菓子食いながら、自分のを乾くのを待つ女。俺、シモキタの近く住んでたからぁ、多かったの、当時!古着のネオンカラー使ったみてぇな、文庫本をわざとボロボロの、金閣寺読みながらみてーな!!おめー、読まねーだろ逆さじゃねーのかなんならみてーな。」と、平子の、世界観を持ってコインランドリーに来る人たちへの怒りが走る。

 そして、コインランドリーを使っていたという酒井への尋問を始め、「昔のビーサン、上はTシャツ、下はサッカーパンツ、寝癖あり」で逮捕されてしまう。 

 その後も、平子の仮想敵に対しての怒りは収まらず、挙句の果てには「全然謝ってこねえんだもん」と言い出す始末。

 平子がコインランドリーについての偏見に塗れた持論「コインランド理論」を展開した地獄の7分間でした。

 

第13位 『東京ポッド許可局』「お笑い当事者論」(2021年8月28日放送)

 2021年の4月より、土曜日の2時台へと移動になった東京ポッド許可局。また深いところに戻ってしばらくしたころに、がっつりと、批評について話してくれた回。

 ケンドーコバヤシのインタビューでの「いよいよお笑い芸人側が、お笑い論を語る時代になってきました。人気番組も今そういうものが多いじゃないですか。“芸人としての心構え”とかそういうのを語る番組が。『あ、これはもう近々破滅するな』と思っています。それは過去の色んなエンターテインメントの歴史が証明しています。一度プロレスが地に堕ちたのも、そういうところありますからね」「「これまたプロレス界からの引用になっちゃいますが、『マニアがジャンルを潰す』という言葉があるんですよ。僕もそのマニアの一人でした。先鋭化し過ぎて、何か、認めなくなってくるんですよね。『こんなの甘い』と。そんな状況になってくる。プロレス界が一回破滅する直前に、前田日明さんとかがやり始めたのがプロレスや格闘技を語ること。あれが発端でした。それと今のお笑い界が非常に似ています。正直、本当に俺はビビっています」」という発言から、お笑い語り、そして批評、評論について話し始めた回。

 プチ鹿島は、ここ最近の、本人らによるお笑い語りに対して「確かにそういう話、僕も面白くて好きなんですけど」と留保しつつ、これまでにお笑い語りをやってきた自分達との決定的な違いとして「利害当事者か否かなんですよね。僕ら、好きで喋ってたわけで、自分のことを、成功した人が自分のことを喋るって本人にその意識はなくても何ていうか、お互い助け合ってるというか、是としている感じで、つまりそれって利害の確認だけじゃないですか。利害の確認ていうか。それよりは、なんにも関係ない、なんにも売れてねーやつが、M-1を語っているほうが、なんかこう、利害は関係無いじゃないですか。その差なのかなーって思うんですよね。どっちが良いってわけじゃなくてね。だからやっぱり成功したビッグネームが、あの時はねーとかこうだったんだよねっていうのは、でもそれ自分の歴史だから、自分史観だから、なんなんだろう、評論とはまた別だよね。本人がいくら正しいって言ったとしても、そこに評論の入る隙間は絶対あるはずなんだけどね。」と話す。

 サンキュータツオは、「例えばちょっと前、鹿島さんがねぇ、そのダルビッシュ投手がツイートで『いや、そうじゃなくてこうだよ』って言ったら、それが正解になっちゃう、それって、今までどうだったんだろう、ああだったんだろうっていう議論とかも、無効化してしまうくらい、ちょっと力があると。ただ、一方で、例えば、その文芸評論とか、その例えば、アートの世界でも、著者とか作者って基本的に嘘を吐くっていう風にも言えるんです。例えばそれがスポーツ選手でもお笑い芸人でも、その小説家でも、表現した人自らが自分を自己言及するっていうのは、その、全部正直にいうはずもないし、そこも含めて演出する人もいますからね。信用して良いかどうかっていう問題がまず一つありますよね。」「M-1優勝したら、チャンピオンがその日の夜に実はこうだったって言うとか、答え合わせをすぐにしてしまうっていう、そのスピードの速さについての問題っていう、これがまぁ、二つ目の問題あると思うんです。なかなかその、考える時間も無く、またその当事者が喋って、正解も先に出しちゃうっていうのが、なんかこう、昨日のあれ見た?あれどうだったかなって語る時間も無いし、でまた他のアングルを立てる時間も余裕もないですよね、いきなり正解とされているものが公式で出ちゃうから」と話す。

個人的には、お笑い批評なんていらないと断言出来ちゃう人は、小説でも、映画でも絵画でも、批評で感動をしたことがないってだけの人なのだなとしか思わないのだけれども、そういった人たちに限ってお笑いの少しの炎上で、慌てふためく印象がある。こういう時は批評眼というのは身を守る術にも成りうるわけですよ。

 例えば、お笑い批評に限らず、批評のルールを知ることで、批評のルールを守っていないけれども、なぜかパッと見では正しいようなことを言っているようなレベルの低い批評、もしくはそれに満たない誤読や自らのアップデートに合わせた誘導を喝破することが出来る可能性がある。

 マヂカルラブリーのネタが漫才か漫才じゃないか論争を例に出すと、漫才に対して批評が出来ていれば、あれは漫才だよ何故なら云々という風にそういったコップの中の嵐に動じることはない。

 批評の仕方が分からなければ、記録から始めても良い。ベストラジオも2013年からほぼ毎年続けて、良い感じのアーカイブになりつつある。何より作品だけじゃなく、自分の感覚や文章力などの能力の記録にもなる。

 東京ポッド許可局は、そういった批評の灯を、ユーモアでもって絶やさないようにしているちゃんとした番組だと思います。

 

第12位『伊集院光 深夜の馬鹿力』「空脳コーナーの『心の仮面の話』」(2021年9月14日放送)

 

 伊集院光が夏休みを取るために録音放送となった週で、放送された空脳コーナーでの「心の仮面の話」。父親の勧めでボクシングを始めることになり、そのトレーニングの一環として「心をコントロールするために、心の中で仮面をつけろ」という教えをもらう。父が決めたルールは「闘い用の心の仮面を心の中に準備しておいて、ボクシングのスパーリングや試合の前になったら目を閉じて集中して、心の中で仮面をかぶれ。そして試合が終わったら必ず仮面を脱ぐよう。」「仮面を用途に分けて複数用意しておいてそれを心の中で専用の箱にしまっておき、使う時になったら、それぞれの箱から取り出し、使い終わったらまた専用の箱にしまう。さらに、普段、寝る前など、心が落ち着いている時に、箱から仮面を取り出し、磨いたり、手触りを確認しておくように。」「仮面のデザインは自分で考えて、それを他の人、父にさえ言ってはならない」というもの。

 そこからの展開が凄くて、空脳の中でも五指に入るほどのメールでしたので、ラジオ好きの友人からMDを借りて聞いてみてください。

 

第11位『空気階段の踊り場』「『キングオブコント優勝』直後生放送」(2021年10月5日放送)

 

 春から月曜日の深夜0時から一時間番組となり、昇格後一回目で、水川かたまりが大学を早々にドロップアウトして、ゲームとお笑いDVDを見るという無為の日々を過ごしながらも、お笑い芸人になるという夢が芽生え始めていたが自分にはそんなこと出来ないんじゃないか、いやでもこんな素晴らしい職業はない悩んでいたある日のこと、「冬ですかね、僕が19の冬、雪の降る日ですよ。外を散歩しながら、i-podを聞きながら、シャッフルしながら、外を散歩してたわけです。ああ、雪綺麗だな、東京の雪。ひとりで見る東京の雪。こんな孤独だけど雪は綺麗だな。そんななかね、i-podから流れてきた曲、その曲に押されて僕はお笑い芸人になりました。」と、THE BLUE HEARTSの『未来は僕らの手の中』をかけてきた時はぶち上がったが、『キングオブコント』で優勝が決まった瞬間はその比ではなかった。

 オープニングから、ラジオが始まったばかりの音源が流れた、優勝してから初の放送は生放送で、二人の興奮がまだまだ収まっていない様子のままこの二日間を振り返る。

 番組も終りに近づいたころ、リスナーからのメールを読む。

 「もぐらさん、かたまりさん、キングオブコント優勝、ほんとにおめでとうございます。優勝が決まった瞬間、やったーというわけでもなく、うぅぅぅぁぅとキモい泣き方をするかたまりさんにつられて、ひとりで号泣してしまいました。私は中高時代は、もぐらさんのようにぼっちで光のない青春時代を過ごし、現在はかたまりさんのように、一流大学に入ったものの周囲の生きるのが器用な人たちにいびられ、どのコミュニティでも上手くいかず、親のすねをかじりまくるという情けない生活を送っている者です。しかし、おふたりが優勝する姿を見せてくれたことで、自分みたいなダメ人間でも、明るい未来はあるのもと、人生に希望を見出すことが出来ました。お二人は全国のぼっちと引きこもりの希望の光です。生まれてきてくれてそしてこうして素晴らしい景色を見せてくれてほんとにありがとうございます。」 

メールを読み上げたあと、もぐらは「つらいよねぇ、こう、ぼっちで。その周りはね、その上手く生きる人たちはたくさんいますよ。器用なね、えー、世渡りが上手いというか、そんななか割ばっか食わされてみたいなね。うん。多分、感じなんだとおもうけど。まぁ、でもね、ぼっちではないです。一人ではないですから。えぇ、もう、メランコリーベイベー。俺がいるじゃないの。もうね。もうねぇ、あのぉ、やっぱりねぇ、ほんとになんていうの、光りがない、ぼっちとか、ひとりだとか何やっても上手くいかないってのはありますよ。私もね、ほんと電気が通らないね、四畳半の一万七千円のボロアパートでですね、布団にくるまりながらねぇ、もう、ずーっとね、布団にくるまりながら、暗いのに布団にくるまって、ね、光はどこだということで、探していたわけですけども、でもそれでももう、がむしゃらにね。もがいてもがいて、もう、がむしゃらにね、やり続けてきたことで、まぁ、こうやって皆さんの力、応援の後押しを受けてですね、私みたいな人間がですよ、私のような人間が、えー、こうしてね、キングオブコントチャンピォンなることが出来ました。えぇ、我々がね。あなただってそうじゃないですか。あなただって、そんな、胸を張れるような人間じゃないわけですから。我々も胸を張るような人間じゃない。ただコントが好きでやってきてそしたら皆が応援してくれて」と、この番組の発明である、熱をもってリスナーへ語りかけたあとに曲紹介をするというくだりに入っていき、「ぼくたちはっ、ひとりじゃないよっ。ひとりじゃないっ。俺とおまえはひとりじゃないっ」と銀杏BOYZの「エンジェルベイベー」を流そうとすると、曲がかからず、一瞬無音となる。二人がとまどっていると、ブースのドアが開く音がして、「おめでとう」と言いながら入ってきた男に、さらに驚く二人。入ってきたのは銀杏BOYZ峯田和伸だった。とんでもないサプライズ、いわゆる越崎マジックだ。

 峯田は空気階段の二人をねぎらい、「ピュアが勝つ時代になった」と宣言し、「エンジェルベイベー」を弾き語ってくれた。それは空気階段のスタートの夜だった。

こんな美しい夜を、11位にしちゃダメだろ。

 

第10位 『NICE POP RADIO』「ディスコ特集」(2021年8月13日放送)

 

 新型コロナ第五波、鬱第三十波の真っ最中であり、後年「あの夏を下回る夏はないよ」と振り返ることになることになるであろう頃に放送された、スカートの澤部渡がパーソナリティーを勤める『NICE POP RADIO』の「ディスコ特集」の回がランクイン。

 「なんてったって八月ももうお盆でございます、帰省が出来ない人も多いと思います。なのでまぁ、各自それぞれのディスコに、ディスコ、インナーディスコを用いましてね、それぞれのボリュームを持って、踊ろうじゃないかっつー、星野源さんみたいな感じになってきましたけれども、とにかく、ま、盆だし、盆踊りで、非常に良い具合のディスコサウンドをいくつかお届け出来たらと思っており、ますー」ということで、坂本慎太郎の『ディスコって』から始まりBoney M 『Daddy cool』、The Stylisticsの「愛がすべて(Can't Give You Anything (But My Love))」、Donna Summerの『Bad Girls』、吉田美奈子の『タウン』、桑名正博の『哀愁トゥナイト』、Daft Punk『Around the World』、SylVestarの『You Make Me Feel(Mighty Real)

」,Sparkの『The Number One Song In Heaven』がかけられた。

 その合間に、自らのディスコへの憧れのような感情のルーツが、電気グルーヴの『Shangri-la』でのBebu Silvettiや、『VOXXX』でArabesqueの「Hello Mr.Monkey」のサンプリングだとか、音楽にまつわる話をしながら、「ディスコミュージックっていうのがやっぱ最高だったっていうのが、今になってよく分かるって言うのが、やっぱそのディスコって場があって、で、その場が、その、なんというかフラットな場だったらしいんですよ、そのぉ、僕はディスコなんてものは一度も行かなかったし、なんだったらクラブだって、よくこの番組でクラブでこの曲かかっててさぁ、なんて言ってるんですけど、それは大体深夜の下北沢のモナレコードっていう、変なところで、聞いたりとか、そういうクラブなんで、いわゆるこうイケイケのクラブじゃなかったりするんで、そういう場があるってことがもう自分にはかなりフィクションめいたものに感じるんですけど、『ル・ポールのドラァグ・レース 』でも、ディスコってのは階級とかそういう、性別とか、ゲイであろうがストレートであろうが、なんであろうが、とにかくみんな平等にそこに音楽を求めに来て、で、そこで音楽がなって、それを楽し無ことが出来た、みたい話をしていて、うぁー、そんな場所があったら、ほんとに最高だよなぁ」と憧れを滲ませる。

 ダディクールと言われてもアスキーアートくらいしか思い浮かばないくらい音楽について詳しいことは分からないし、高校生の頃に文化祭で踊ったらあまりのダンスセンスの無さにクラスメイトの女子が腹抱えて笑ったくらい踊れない僕にも分かるくらい、どれもグルーヴィーで確かにちょっと体を動かしてしまったりと、鬱々とした心にアジャストして、最高でした。

 いつの間にか長いことナイポレを聞くことが習慣になっていたけれど、今年は特に、澤部の音楽語りやたまに出るお笑いや漫画などのカルチャーの話が挟まれるのが、とても落ち着いて、やたらと良かったです。

 その他に、ラジオと音楽といえば、「アフター6ジャンクション」(2021年10月18日放送)の「LIVE & DIRECT」でのRAM RIDERによる「緊急事態宣言があけた今だからこそ聴こう!TBSラジオ」と題された、TBSラジオの番組テーマ曲のMIXもブチ上がりました。

 『藤岡みなみのおささらナイト』は安定していい曲を流してくれますが、何と言っても、FM沖縄の『真栄原ミュージック』を聴き始めました。FM沖縄のアナウンサーの西向幸三と、『深夜の馬鹿力』と『爆笑問題カーボーイ』リスナーにはお馴染みの與古田忠が二人でパーソナリティーを務める『真栄原ミュージック』。元々、西向幸三がやっている『ゴールデンアワー』が仕事で車を運転するときに聞くのが好きで、その流れから聞いてみたら、いい感じの音楽番組、ぼーっとする時とかに聞いたりしています。

 

第9位 『ナイツ ザ・ラジオショー』「永野ゲスト回」(2021年11月18日放送)

 

 ニッポン放送の『ナイツ ザ・ラジオショー』に永野がゲストに出た回。

 「永野が来れなくなりまして、急遽、代わりに来ました、クロスフィットトレーナーのAYAです。」と一回だけウケたという挨拶から始まり、かつてはよく一緒にいたというカミナリに対しては「ブレイクしてから彼らあんま連絡が無くなっちゃってて」「個人的な付き合いはないです」、営業で一緒になる芸人に対しては「それこそ賞レース、M-1とか、あとキングオブコントとか、そういう人たちが気難しい顔で袖で喋ってんですよ。あと冨澤君がこここう何秒、じゃないけど、そういう話してて、で、俺なんか陽気な、なんか白髪の腰振り男みたいな、腰振りしてこいみてーので、誰も見てねーの俺、意外と沸かせてるんですよ、客席。だけどお前はどんな沸かせてもお前は邪道であるからみたいな扱いで、で、パーっと戻ったら、冨澤君があそこのボケがなんか、あそこ三つめがなんかとか、あーあー、白髪帰ってきたかみたいな。」と愚痴をこぼしたり、サンドウィッチマンには「トリ前が僕なんですよぉ、で、いっつもサンドウィッチマンが出てくる時、やれやれみたいな。やれやれ、ね、あの人、実は先輩なんですよ、キャリアで言うと。あんな奴が先輩なんだって笑いが、ブハハハハハみたいな。変なね腰振りも帰りましたところで、どーですか、漫才始めますかみたいな。」と、マネージャー陣には「きったねぇ口の利き方だったのに、まじめに、人を愛しましょうみたいな。」と開始数分で、ありったけの悪口を撒き散らしていたが、

 後半の畳み掛けは凄まじかった。

 「ナイツに聞きたいんですけど、あの、分かりやすく言うと、うちの東京ホテイソンとかは、舞台袖とかで、なんか、言えばここに腰振りが座って、それでいると、前で、腰振り化け物男。目の前で、背中見せて練習している感じ、二人で。あれってナイツはどう思うんですか、昨今の漫才師の姿勢。もちろん僕だって、こう見えても、それはガッという気持ちで行きますよ。真剣な顔にはなりますよ。だけど、そこまで見せるかなみたいな。あのー、ものすごい難しいことをやってるんだ俺たちはみたいな顔、カミナリとかも作るんですよ。えっ、漫才師っていうのは、そりゃ、みんなユーチューバーとか目指すぞみたいな。そんなめんどくせぇ仕事、誰もやんねぇよ。」「コント師コント師で、なんかねぇ、コントってそれこそひょうきん族とかでスリッパとかで叩いたり、お前昨日ほんとは〜とか入れたりしてたじゃないですか。医者コントでも。土屋お前は、とかプライベート言ったり、だけどなんかもう、演劇の世界からこんにちはみたいな顔で、ゾフィーとかいるんですよ、気難しそーな、絶対お前そのポーズって、俺を威嚇するためにしてんだろみたいな。」と捲し立てていると、事務所からクビを言い渡される大オチがついていた。

 自分で振っては悪口、ナイツに話を振られても悪口と、ももいろクローバー高城れに新沼謙治以外全員に悪口を言い続けるという普段の手口で、笑いを起こしては、根こそぎ刈りまくっていた永野はやっぱり最高だ。

 余談ですが今年一番笑ったのは、『マヂラブno寄席』での永野です。同じネタを三回見て、三回椅子から転げ落ちました。

 

 第8位 『伊集院光 深夜の馬鹿力』「『三遊亭圓楽伊集院光二人会』振り返り」(2021年6月15日放送)

 

三遊亭圓楽伊集院光の二人会の翌日の放送では、興奮もそのままに当日に至るまでの様々な事件をトークしてくれた、幸運が重なって落語会を見に行けた自分にとってはもちろん最高な思い出が永遠にパッケージされたようだったし自分なりのプランで本番を迎えたいのに、自らのペコマン体質が故に翻弄されたり、この半年近く夢に出てきたラモス瑠偉そっくりの落語神との別れ、漫才中に乗って来て圓楽のスキャンダルをいじりまくる爆笑問題への愚痴、そして圓楽が当日かけたネタが桂米朝の「一文笛」と桂枝雀の「行ったり来たり」というネタの凄さなど、行きたくても行けなかったリスナーも楽しめるように配慮された、最高な思い出が永遠にパッケージされたようでした。

 落語会に行って来たレポはこちら https://memushiri.hatenablog.com/entry/2021/06/15/212318

 

第7位『アルコ&ピース D.C.GARAGE』「RNジャンボジェット」(2021年6月22日放送)

 なんといっても今年のラジオのコーナー部門の優勝は、なんといっても、「Brain sleep」のコーナーでしょう。

 「スタンフォード大学で睡眠研究を行う、西野誠司先生の著書『スタンフォード式 最高の睡眠』という33万部のベストセラーから生まれた枕、ブレインスリープピローとのコラボコーナーに参りましょう。Brain sleep。このコーナーはリスナーから寝て忘れたいことを送っていただいております。」というコーナー紹介が耳にこびりついているリスナーも多いことであろう。要は、うわーとなってしまう思い出を投稿するコーナーなのだけれど、これが、『アルコ&ピース D.C.GARAGE』の世界観とリスナー層にばっちりフィットし、化け物コーナーに進化し、嵐のようにリスナーの心をかき乱しては去っていき、二度寝、三度寝と蘇った。

 そんな中でもラジオネーム・ジャンボジェットさんのメールは燦然と輝き、爆散していった記憶を記録に留めたい。

すでにラジオネームでアルコ&ピースの二人は、なぜか大爆笑するという 変な空気が充満しているなか、平子がメールを読む。

「中学の時、同級生に告ったのですが、振られました。僕は誰もいない校舎横にあった林の方に『はい、罰ゲーム終わりぃ、お前らこれで良い?』と言った後、その子に、『あ、なんかサンキューね。助かったわ。』と言いました。後から知ったのですが、実はその子は先輩の彼女で、それを知ったその先輩がキレて、それ以来学校で会うと、めちゃくちゃ睨んでくるという攻撃をされ続けました。殴られるとかじゃなかったのですが、それが逆に怖くて、僕は空手を習うことにしました。その空手教室が夏やっているバーベキューで、川エビを生で大量に食べるというボケをしたら、胃腸炎になって病院に行くことになりました。恥ずかしくてそれ以来、空手教室には行けなくなったので、家の庭を使い、教室で習った基礎練習をやっていました。空手の道着を着ながらやっていたら、塾に行く途中のクラスの陰キャがじっとこっちを見ていて、僕に向かって『達人ですなぁ』とヘラヘラしながら言ってきました。その少し後にラジオと出会いました。ブレインスリープ」

 「リスナーの申し子じゃん!」と平子がツッコミ、二人で大笑いした後、そのメールの内容のめまぐるしさに、改めて整理をするほどであった。

 しかし、今年は、アルコ&ピースはとても良かった。賞レースへの参戦もあったし、youtubeのチャンネルも自由で楽しく、なにより、『アルコ&ピース D.C.GARAGE』がなんか良かった。

 早く東京に行って、アルピーチャンネルの聖地巡礼をしたい。誰か一緒に黄金湯行きましょう。

 今年はずっと言っていたけど、アルピー二人の関係もものすごく良好で、かつ賞レースへの復帰などの外でのイベントもあり、ラジオの平場が面白いかっただけに、川崎の悪童ラジオスターの年貢の納め時という酒井の結婚はめちゃくちゃベストタイミングだと思います。

 ただし『チョコレートナナナナイト』の結婚報告回は怖くて聞けていません。

 

第6位 『東京ポッド許可局』「必要悪・不必要善論」(2021年7月25日)

 

 マキタスポーツが、とある縁切り神社に行ってきて、他者に対しての悪意ある言葉が書かれているそれぞれの絵馬を見て、その書かれている内容の悪性さにたじろぎつつも、「縁切りをどんどん来てください、受け付けますっていう。なんかさ、人のそういう、なんか悪意とかネガティブな気持ちとかを、押したてるってなかなか勇気のいることだったりしませんか。で、それは他のことも受け付けたいっていう欲の部分を省略して、看板をぼーんっと打ち立てる」ということが、ビジネス的には凄いことなんじゃないかと考えているという話を始める。

 続けて、「この番組でもずーっと昔から例えば悪性のエンターテインメントっていう言葉で言いましたけど、なんか、例えばプロレスとかにしても、なんかこう、野蛮なものとかをこう、なんか表現しているとか、出ても、面白いじゃんっていうこと。あと、凄くカロリーが高くて、体に良くないって言われてるものでも、美味しいものとの付き合い方ってあるでしょって。だから悪性っていうものの考え方が、世の中と、少なくとも俺らが、このデビューして、しかもこう東京ポッドという番組とかを始めた当時からもだんだん変わり始めてきた時に、役に立つっていうことも、その必要悪のあり方というか、ニーズ、っていうものもだんだん変わってきているなあって思うに、あ、こういうだからさ、絵馬、悪意の物凄く固まったようなものとかを見た時に、結構ショックだったし、凄く興味深いな」「両輪あって良いなということは改めて思ったけどね」と話す。

 それを受けて、プチ鹿島が「必要悪の反対って、これ言葉遊びかもしれないけど、不必要善ですよね。今こっち多いですよね。」と返すと、マキタスポーツサンキュータツオの二人は、「確かに!」と感心する。

 さらに自分が興味のないものへの向き合い方にこそ、教養や知性が現れるという話へと移っていく。

 マキタスポーツが、「知識ってただいっぱい知ってるって感じだけど、それをどう解釈するかっていうのは教養っぽくない?なんかどう使うか、みたいな。どう感じるのかっていう、センスみたいな話だけど」と話すと、サンキュータツオは「それはね、俺知性だと思う。教養っていうのは、歴史に対する畏敬の念と知らないことへの恥、自分が知らないっていうことへの恥。だからまだ知らないことがあるはずだし、自分が気づいていない、例えば、マキタさんが多分食材とかでね、にんじんまずいっていうんじゃなくて、にんじんの良さがまだ分からないっていう、俺それ教養だと思う。でも、同じこと。プロレスなんかいらないっていうのと、まだプロレスの良さが分からないっていうのは姿勢の違いじゃん。だから自分がわからないっていうことへの、恥える気持ちですよ。そこを開き直っちゃうと、急に品や教養が無いっていうものになるし、情報を得ても、その使い方っていうのは知性の問題」だと説明し、「自分のことはさておいて、なんかあげつらって、こういうとこが悪い、ああいうところが悪いって言うのは、単純に教養が無くなっているんだと思う。だって、よく人のことを裁いていい自分って思えてるねっていうことじゃないですか。だからそこに、やっぱそのプロレスなんかいらないって言い切ってしまえるだけの胆力というか、ま、ある種の下品さみたいなものを感じることはある。」と続ける。

 改めて、めちゃくちゃ重要な振り返りをしているなぁと唸った。

 東京ポッド許可局の三人に限ったことではないことではあるが、東京ポッド許可局のメンバーの良いところというか、大事だなと思うところは、ある現象に対して、流行る流行らないとか関係なく名前をつけるところにある、世にある言葉を見直すということを逐一行うところにある。

 それは、名前がない問題を見つけるという行為である。

 昔からなのかもしれないが、今は特に、どこの誰かが作ったか分からない言葉がいつの間にか広まって、みんなが勝手に乗りこなしていて、それだけでなく、乗りこなしていない人間をその言葉を使って非難するということが当たり前になっている。もっと言えば、人を殴るための武器として使っていないか、という人も多い。最低でも、原本にあたっているのかなと思ってしまう。そういった言葉を、それこそ勝手に「配給された言葉」と呼んでいるが、ちょっとみんな、たかだか配給された言葉をありがたく受け取り過ぎじゃねえかと思うことが増えた。具体例を出すとすぐ怒られるから言わないけれど、それ他人の言葉で、他人の問題提議を自分も思っていたって思いこんでるだけだぞって、まあ、そこまでは思っていないですけど、「勝手に呼んでるんですけど」ってそれに抗う行為であり、知性と教養と笑いのセンスがないと出来ない立派な行為だと思います。

 

第5位『バナナムーンGOLD』「オークラが薦めるこの夏観た方がいいバナナマンのコント十選」(2021年7月31日放送)

 

 どうにか日程を調整出来なかったのかと思わずにはいられないけれども、バナナマンの二人が、ワクチン接種後の副反応のため、冒頭に出演した後にやった企画「オークラが薦めるこの夏観た方がいいバナナマンのコント十選」。

 東京03の飯塚悟志をゲストに迎えたこの企画。

 一本目の紹介から、オークラは「オサムクラブ(『処女』)」

 「まさしくその1回目の単独ライブでやったネタ。多分ね、1回目の単独ライブの中でも四番バッターみたいなネタなの。あのね、あの、軽くコントの設定を説明しますが、設楽日村が友達同士なんですよ。で、設楽さんが一人暮らしを始めたから、日村が遊びに行くという。遊びに行ったら、そこで設楽さんが日村さんに、『オサムクラブっていうのを創ったから入らない?』って誘うの。で、オサムクラブって何なのかっていうと、結局、オサム、自分自身を敬うクラブっていう。自分自身を神と崇めて、敬ってくれないかっていう勧誘をするんだけど、日村さんがそれに興味を示すの。面白そうだねーとかって。で、儀式とか色んな内容を聞くんだけど、そんなことやってる最中、家に電話がかかってくるの。まだ、その当時、携帯とか無い時代。家電ね、家電がかかってくるんだけど、日村さんが真っ先にその電話出ちゃうの。設楽さんの家なのに。で、設楽さんがそのオサムクラブの勧誘をしながら、日村さんが電話を出ることに、ん?と思って、何で俺ん家なのに、電話出ちゃうのっていうみたいな、日村さんは一人暮らししたことないから、家の電話に一発目で出るってことに結構憧れてて。で、設楽さんがオサムクラブに勧誘する縦軸と、日村さんが勝手に電話に出ちゃうという縦軸が同時進行に進んでいって、最終的に設楽さんが『何で電話出んだよぉ』ってキレちゃうっていう。で、日村さんが泣きながら、ほんと電話出ること憧れなんだよとかっていうコントなんです。」と、当時は若手芸人が単独ライブをすること自体のハードルが相当高かったこと、二本の縦軸が同時進行するコントがいかに斬新で衝撃的だったことを交えながら語る。

 バナナマンのネタの構造の革新性と演技力の凄さを話しながら、合間に、バナナマン、そしてオークラ、バカリズムアンタッチャブルアンジャッシュなど他の同世代の芸人たちの歴史 

 紹介されたのは、オークラが設楽の家で画質の悪い資料用ビデオで見てその衝撃で全く笑えなかった「ルスデン(『Private stock』『bananaman Kick』)」、オークラがコントって練習すればするほど面白くなるんだと気づき「バナナマンハイ」という現象が生まれた「お前の姉ちゃん見たよ(「RADIODANCE』)」、オークラが前期バナナマンの最高傑作だとしている単独ライブ『pepokabocha』の中でも一番の「secretive person(『pepo kabocha』)、バナナマンそれぞれが一人二役を演じながらどんどん展開していく複雑なネタの完成度もさることながら偶然の末に出来上がったことが思い出深い「Fraud in Phuket」(『Elephant pure」)、意外にシンプルな構造のネタだけれどもそれをちゃんと笑いに出来るバナナマンを再発見した「二重思考人間」(『good Hi』)、バナナマンの魅力であるキャラクターコントと「親殺しのパラドックス」がテーマになっている星新一的な世界がちょうどよくドッキングされていて見応えがある「dumb cluck」(『DIAMOND SNAP』)、一人喋りが延々と続く「THEOMAN ISLAND」(『TURQUOISE MANIA』)、設楽が作りそうな自分の考えとか思想とか哲学的なことが入れ込まれた、ラジオで話そうなことをネタの登場人物たちが話しているような『Air head』(『Super heart head market』)、最新の単独ライブでも更なる進化を見せつけるようなコント「scrambled」(『S』)。

 一本目のコントの紹介時点では、番組開始30分で、本当に10本紹介出来るのかよ!となっていたがどうにかこうにか出来ていた。

 特に「Fraud in Phuket」は初めて見た時に度肝を抜かれたのだけど、前日の夜まで完成しておらず、せめてカンペを見ながら演じることが出来るようにと、コントの冒頭で、机に設計図を広げることを決めたら、台本がどんどん面白くなっていったという奇跡みたいな凄い体験をしたという10年以上の時を経て知ったその事実にまた度肝を抜かれてしまった。

 バナナマンがやってきたコントの歴史の中から満遍なく選出されていることが実はとんでもなく凄いことだし、併走者がここまで熱を持った上で私的な思いや文脈を抑えながら語れること、そのこと自体がとんでもないミラクルであるということを改めて感じる。

 バナナマンのコントのガイドとしても永久保存版の回です。

 本日12月17日、朝起きたら、バナナマンの単独ライブ映像20作品がNetflixで12月25日から独占配信されるというニュースを見た。あまりにも良いニュースで、一日ずっとこのことを考えていた。この放送で、バナナマンライブのエンディングにもなった星野源の『日常』の「無駄なことだと思いながらもそれでもやるのよ」の一節を紹介していたが、この行為は無駄なんじゃないかと思いを抱きながらも積み重ねてきたものが花開いた瞬間でもある。これがいかに素晴らしいことか。

 ぜひ皆さん、ネットフリックスに加入して、バナナマンのコントを見てください。

 まぁ、俺はDVD持っているから加入しないでも良いんだけれど。

 

 

第4位 『爆笑問題カーボーイ』「近未来楽しいことは何も俺はないんですよ」2021年11月24日放送 

 

 きっかけは、ラジオネーム:寂しさが生きる原動力さんからのメールの挨拶文「太田さん、僕の理想の人生を送っている人こんばんは」を受けて、爆笑問題の田中が、「そんなですか、俺がですか。そんなことはないと思います、何が理想の人生ですか。全然ですよ」と怪訝そうに答えたことから始まった。

 そこから田中はこう続ける。

「一面だけ切り取るとそうですけどね。そんなことはないですよ、全然ですよ。ほんとに。もう、そんな理想的な、ドラマみたいなほうに思っちゃうんですね。世の中の人はね。もちろん、幸せですよ。地獄とは言わないけれども。まぁーでもほんとにあのー、そんなこう夢のような毎日は送ってないです。毎日泣きたいです。豪邸に住むことが、まあそれは分かりやすい感じでは幸せでしょう。もちろん、もちろんね。」

 太田に「じゃあ、何が幸せなんですか、じゃあ」と問われると、田中は、なんだろぅなーと考えて、こう答える。

 「毎日、楽しいなあ、楽しいなぁってそれは送れれば、過ごせれば、幸せじゃないですか。で、明日楽しみだなとか。もう、だから近未来が楽しいなって思えれば、一番楽しいんですけど、近未来楽しいことは何も俺はないんですよ、今。マジで。何にも、近未来楽しみだなぁが無いんです。いや、本当にそうなんですよ。だから、なんつーの、幸せなことは日々、色々感じることはあるんですよ。子供とのやりとり。家族のこととか。色々あるんですけど。あのー、まぁ、いわゆるこう、家のこととかも色々やってるわけじゃないですか。で仕事もあって、なんだってなるじゃないですか。で、当然、まあ遊びとかも全くしてない。まあ、コロナもあったのもありますけど、無くても遊びにとかも、ま、全然行ってないですしね。だから、あの、なんつーの、歌も歌えないし。カラオケとかももう、全く行ってない。歌えない。野球もしてない。ね。で、猫とも生活してない。」

 太田が「その分、だって家族が」と言いかけるも、田中はそれを制して「そうですよ、それはそうなんですよ。でも家族も大変じゃないですか。まぁ、言ってみりゃ。幸せだし、大好きですけども。もー、毎日事件の連続で。もう、泣きそうになることばっかりあるんですよ、生活が。子供育てるって。本当にそうなのよ。もうマジで。もう、泣きそうになる。だって、なんだろ、もう今日も昼間、なんかご飯を食べるなんつって、こうやってんだけど、とにかく、三人子供がいて、三人とも全く食べ進まないんですよ。親だから食べなさいだなんだつって、色々やって、じゃこっちってやってると、その三人が床に寝転んでゲラゲラ笑い出してとかってやって、そのうち、ヤクルト持ってこいみたいな話になるから、ヤクルト飲みてーってなるから、ヤクルトあれするでしょ、一番下がこう飲んでたら、お兄ちゃんがそれを笑かして、びゃーってなって、ヤクルトがべっちゃべちゃになって、で、うわーってなって、それも俺が拭いたりなんなりして、やってて、そしたら、なんか分かんない太鼓のバチみたいのがあったら、それをこう拾ってきて、バカダカダカダカダカダカだかって、ああああああああああああみたいな、もう、あれはね本当に、もう、それを幸せなんでしょうけど、それは幸せなんですよ。」と吐露する。 

 「近未来どうなるんですか、あなたの近未来っていうのは。」と太田に聞かれると、「爆発すんじゃない。ほんっとに爆発すんじゃないかなっていう。俺が。もうなんつーの。うわーーーみたいな感じで。子育てだけではないですよ、もちろんそれは。生きていくのは大変ですよ。談志師匠も言ってたなぁー、『ノンフィクション』で。『生きていくっつーのはほんとつらいねェー』。大変ですよ、体力も無いしね。」と締めた。

 言っていることはシリアスな話なのだけれども、「歌えない」「近未来」「爆発する」など、いちいち面白すぎる言葉が出てきて、田中が話している最中は太田を始めブースはずっと大笑いに包まれていた。とはいえ、人類史上初の悩みが全くない男とも評されたウーチャカこと田中裕二にとって、歌えないことは切実な悩みであり、楽しみがないというその現実は、それは他者から見たそして自分でも思う幸せすらも飲み込んでしまうという絶望がそこには横たわっている。

 この部分を妻に聞かせてみたら、笑いながら、泣いてしまいました。

 オープニングトークも、次のライブに向けたネタ作りトークだったのだけれども、それもめちゃくちゃ笑いました。

 「未来はいつも面白い」の最悪な対義語のような現状にあるウーチャカちゃんの近未来に幸多からんことを。

 

第3位『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(2021年4月25日放送)

 

 前の前の週に読んだ、10行黒塗りされた拘置所からの手紙の続報が凄まじかった回。

「前回の黒塗りの手紙申し訳ありませんでした。どのような状態の黒塗りかは知りません。私の名前が書いてあるということで、ここの施設のクソ刑務官のオヤジに黒くされました。有吉さんの『出たら、メールください』という言葉嬉しかったです。出たら、手紙を書くつもりでした。でもやっぱり今書きます。私は求刑一年六ヶ月でした。(黒塗りのため省略)実刑一年というところです、多分。住居侵入との違いは、人が住んでいるか空き家かの違いです。私はこれまでに覚醒剤、詐欺、窃盗、道交などで逮捕され、前科七犯、前歴4件、検挙の数は16回、懲役は5回、私は去年の8月21日に、岐阜県にある女子刑務所を出所しました。両親は他界し、実家には認知症の祖母が一人で住んでいました。出所した私は携帯も家の鍵も持っていませんでした。実家に帰っても鍵がかかっていたため、その日、友人の家に遊びに行きました。友人は暴力団の男性ですが、その名の通り、言葉と右手の暴力だけの気の小さい男です。しかし、酒に酔ったその日、彼からの暴言で気の強い私は、彼を殴りました。何百倍にもなって返ってきました。手ぶらの、血だらけで、家から出された私は、初めて訪れた彼の家からの帰り道が分からず、灯りの点いた家に声をかけました。誰も出てきません。目の前に電話があったので、それを使って110番しました。地元の警察署の刑事さんが来てくれました。助かった、これで帰れる、と思いました。私は逮捕されました。目の前が真っ暗でした。刑事さん『ここ誰の家?』、私『知らない』、刑事さん『住居侵入で現行犯逮捕ね』。私は十日間拘留され、不起訴となりました。これは去年8月21日に出所した日に起きた出来事です。釈放された私は実家に帰りました。鍵はまだかかったままで電話にも出ません。私は石で窓ガラスを割って、自宅に入りました。地元の警察署の刑事さんがたくさん来てました。私は逮捕されました。目の前が真っ白でした。刑事さん『ここ誰の家?』、私『私の家』、『名義は、おばあちゃん。でも、おばあちゃん今、老人ホームにいて、ここ空き家になってるから。邸宅侵入で現行犯逮捕ね。』、私は不起訴を信じていましたが、起訴され裁判になりました。私はこの日の取り調べの間ずっと、菅田将暉さんの『間違い探し』を口ずさんでいたそうです。後日、担当刑事さんに聞きました。笑えませんでした。私は去年8月21日に出所をしました。その日に逮捕されました。きっと良いことありますよね。来年、必ずこの番組にメールします。では、お勤め、再度行ってきます。体を大切にしてお仕事頑張ってください。追伸 これは事実であり、面白い話の提供ではありません。だけど、自分のことながら面白い人生だなと思います。目指せ、偉人じゃなくて罪人!上の英雄じゃなくて、下の英雄!」

 メールを読み終えた有吉が「ダメだよ!!」とツッコミ、番組が始まる。

 これを番組で読めるというのは、擁護はしないけれども、突き放しもしないという方向に舵を切ることが出来る人は限られてくるだろう。

 素材とその後の軽いトークの旨味だけで、ランクインです。

 

第2位『爆笑問題カーボーイ』「ラフ&ミュージック振り返り」(2021年9月1日放送)

 爆笑問題が、『FNSラフ&ミュージック ~歌と笑いの祭典~』に出演し、『笑っていいとも! グランドフィナーレ 感謝の超特大号』からおよそ7年半ぶりに、ダウンタウン松本人志と共演した日の週の放送。

 何を言うんだ、という緊張感が凄かったが、ビートたけしのモノマネでのOfficial髭男dismの「アポトーシス」を太田が歌ってから始まり、高田文夫のラジオでの「いやぁー、ピリピリしてたなぁー、太田松本。ピリピリしすぎだろぉ、お前ら。太田もしょうがないんだよな、あれな、みんなが集まるとよ、興奮しちゃって抑えられなくなっちゃうんだよな。あいつ一人っ子だからよ。」という発言に「一人っ子だからじゃないよ、別に。」「そういうことじゃない」と爆笑問題の二人は笑いながら、高田文夫に喜んでもらったことに喜んでいた。

 個人的に、緊張感が一気に解けたのは、ホリケンことネプチューン堀内健の話だった。

 ホリケンは、太田には「おおっさーん、なにぃー、今日はどうすんのー。どうすんのー、たぁのしみだなー、たのしみだなー。オレ、ずっと見てるからさー。オレ、なんか自分のネタとかどぉーでもよくてさー。」と、田中には、「ゆうーじさんっ、ゆうーじさんっ。みんーなっ、期待してるよ。みんーなっ、期待してるよ」と絡んだようで、この、あまりにも想像できる堀内健の振る舞いの再現により、なんとなく、こっからは安心して笑えるトークが聞けるんだろうなとなった。

 太田は「俺はさ、世の中のことは、言ってみりゃ全て笑い飛ばしたいっていう人間だから。自分達の噂やなんか過去も含めてさ、笑い飛ばせたかなっていうのはいちばん良いよね。だってそれはさぁ、だって、そこが笑えなかったら、お前ら何なんだって話になるじゃん。」

 個人的には、太田がダウンタウン松本のことを「松本キャプテン」「松本さん」とわだかまりなく言えるようになったことだけでお釣りが出るくらいの笑い話になったと思います。

 ラジオの話から離れると、ダウンタウン爆笑問題の話題は、金玉と蟻の戸渡りの間のかゆみみたいなもんで、そのことを考えるくらいには憂鬱な気持ちを抱えたまま、金曜日にタイタンシネマライブを見に行ってきました。この日は、スペシャルゲストに神田伯山を迎えた、少しだけ特別な回。そのせいなのか、タイタン勢のネタがなんかダメダメだった。それは自分の、少なからず、映画館に来るということがストレスになっているという心理的な因子もあるだろうけど、なんかみんなあんま良くなかった。浮ついているというよりは、心ここにあらずみたいな感じで、客席もあまり乗っていなかった。

 そんななかで、始まった伯山の講談は『慶安太平記』より「鐵誠道人」。19席のなかの14席目。『慶安太平記』は幕府の転覆を計略した由井正雪の一代記だが、「鐵誠道人」は、その中でも大金を集めるために、一人の乞食坊主を利用するという、由比小説の悪辣さが描かれたパートとなっている。

 松之丞時代に出演した時にかけた、力が入り過ぎて、間もキツキツだった、でもそのギラギラさが良さでもあった「中村仲蔵」と比べて、余裕があって、でもパツパツに詰まっていて、今回も、良かったと思わずにはいられない。

 話の展開も、言ってみれば悪者が成功するという倫理観から逸脱したものでありながら、現代にも置き換えることが出来るものになっていたところもポイントが高い。よくよく着ていくと実は現代における炎上公開処刑エンターテインメントの構造を持った講談であることに気が付く。是非、youtubeで見てほしい。

 最後のスペシャトークで、「明日、ダウンタウンの松本さんと共演するんすか」と質問して、いつもの変な空気にして、きっちり講談で得た好感度貯金を切り崩して終わりました。神田伯山の、宵越しの好感度を持たないスタイルは、結果としてめちゃくちゃバランスが取れているのかもしれない。

 翌日。子供も早く寝て、『ラフ&ミュージック』を見始める。

 もちろん予想はしていたけれど、まさか、本当に最後まで待たされると思わなかった、いやでも、「寄席でも選挙でも、真打は最後に上がるもんだ」と立川談志も言っていたしとか悶々とした状態で、レモンサワーを飲みながら、ノブロックTVの生配信と、東京ポッド許可局の生配信を聞いて待っていた。そうしなければ、その三時間45分は耐えられなかったようなあまりにも冗長な時間だったけれども、いいともグランドフィナーレからの年月を思えば、ロスタイムみたいなもんと割り切るしかない。

 舞台に、比喩でもなく飛び出して来た爆笑問題。「松っちゃん見てる~」、「松本動きます」にひっかけた「太田、動きます」という、ダウンタウン松本いじりをマクラにした漫才は、なんのことはない普段の最高の漫才師としての爆笑問題だった。

 スタジオに入ってからも、きちんと「共演NG」「女子アナのステマ」「ダウンタウンのチンカス」と、ほんとうに言ってもしょうがないことを全て抑えていて感動すら覚えました。

 老害みたいなこと言うけど今よりネットが発達していないゼロ年代初頭、爆笑問題大好きで、無敵だと思っていたころに、水道橋の本読んで疑惑知ってショック受けて、そこからずっとモヤモヤしていたんですよ。いいともグランドフィナーレも敢えてリアタイしない位に。そんなアラフォーが成仏した感じです。

この二~三カ月で、伊集院光を生で見て、ダウンタウン松本と爆笑問題太田の共演をみて、何だかんだですげー年になったなと思いました。

 

第1位 『伊集院光 深夜の馬鹿力』(2021年4月6日)

 

 愚痴から始まった新年度一発目の『深夜の馬鹿力』。ブースの中で伊集院光の前の席に座って笑う担当のナオメヒヤが辞め、後輩芸人であり伊集院光のゲーム友達の埼京パンダースの河野和夫が転がりこんでくる。ラジオの帝王という呼称が広まってしまった中で、ラジオが始まったフワちゃんから「伊集院みたいになったらごめんね」と雑にいじられたことへのムカつき、そしてそのことに対して反論したらしたで、周りから大人げがないと言われるけれど、フワちゃんはそれ込みでいじってきているというその巧妙さに気が付いていない奴らへのイラつきをオープニングからトークし始める。それから、最近見ている『おしん』での悲しい展開に落ち込みながらも、どうにかドラマを見終わったら、実現出来るかは分からないけれども、朝の番組の『とらじおと』に脚本家の橋田壽賀子をゲストに招いて話を聞きたいと思っていた中での橋田壽賀子の訃報にもっと落ち込む。四川風モツのピリ辛炒めをUber eatsで頼んで、玄関に置いてもらっていたら、野良猫にぶちまけられて、そしてそれを妻に話すと、辛いもの食べて猫が可哀想だと怒られて、俺が悪いのとなったり、少し後の落語会の話し合いも兼ねて、師匠である三遊亭圓楽と寿司を食べに行った話、そしてその師匠に助けられていた、迷惑をかけていたということの詳細を30年越しに知って泣いちゃった話や、昔のことで謝りたいと思っていることが相手にとっては大したことない話だったりするという話をしつつ、フワちゃんを叩く話をするんじゃなかったと言いすぎたことをすぐ後悔する。

 冒頭からぐわんぐわんと色んな感情を揺すぶる、うねるトーク全て、これはもう「生きていくということ」そのものじゃないか。生きていくということは、誰かにムカつき、理解してもらえずにイラつき、色んなことに間に合わず、間抜けで、自分が悪くないのに怒られ、他人に迷惑をかけ、他人に助けられ、きちんと謝れない、なんであんなこと言ったんだと落ち込む。人間はそれら全てを抱えて生きていかざるを得ない。

 トークに出てきた『おしん』の中の、おしんの人生に降りかかるつらいことの数々も、伊集院がロケに行ってきた、軍艦島という存在そのものも、生きていくことであり、これらのトークのテーマのメタファーとして機能する。

 この日に出たトークひとつひとつが、一ヶ月に一回出てこれば良いくらいの濃いものだった。だからか、伊集院光本人も最後に「なんか、6時間くらい喋ったような気がすんなぁ、今日は。遠ぉーい昔のようだよ、オープニングが。」と、こぼすはずだ。

 伊集院光、ここにあり、という放送だったと思います。

 伊集院光が出演している『100分de名著』で取り上げられたことをきっかけに読んだ、オルテガの『大衆の反逆』には次のような文章がある。

 <明晰な頭脳の人間は、こうした幻影的な「思想」を振り捨てて生の現実を直視し、生のすべてが問題的であることを認め、自分が迷える者であることを自覚するのである。これこそ真理なのであるから―――つまり、生きるということは自己が迷える者であることを自覚することであるから―――その真理を認めた者はすでに自己を見出しているのであり、自己の真の現実を発見し始めているのである。彼はすでに確固たる基盤に立っているのだ。彼は、難破者と同じように、本能的に縋りつくものを探し求めるであろう。その悲劇的な、逼迫した、絶対に誠実な―――というのは自分を救わんとしているのだから―――眼差しが彼に生の混沌を秩序づけてくれるであろう。これこそ唯一の真実なる思想、つまり、難破者の思想なのである。それ以外は全て空言であり、姿勢であり、自己欺瞞である。真に自己を迷える者と自覚しない者は、必然的に自己を失う。つまり、けっして、自己を見出すことはないし、絶対に真の現実に出会いえないのである。>

 これは、伊集院光から見た、三遊亭圓楽や深夜ラジオという場であり、リスナーから見た、伊集院光や深夜ラジオという場であると受け取った。

 『爆笑問題カーボーイ』もそうだけれど、25年以上続いている番組で、ただトークが面白いというだけでなく、最終的には笑えるという程度の人生において些少な事件が適度に起きて、ずっとこんなに楽しめるというのも奇跡的であるということは重々承知している。『深夜の馬鹿力』番組としては、新しい構成作家陣が良い感じに番組に関わって活躍して、チーム感が強まって良い感じだし、個人的には「今の伊集院さんに読んでもらえたい」と思い投稿も再開したりした。

 落語、年に一回、いや二年に一回でもありがたいので続けてくれねぇかなぁ。

 ワーストラジオは、『爆笑問題カーボーイ』(2021年7月20日放送)です。楽しくなかったので。

 はからずも、今年のベストラジオは、生きていくことってのは大変だよ五連単となりました。生きていくってことは大変なんですよ。

 それでは、また来世。

 

 

 

 

 

 

おまけ

妻のウーチャカ感想

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