石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

M-1グランプリ2022感想(宇宙最速或いは、叩き台)

 今年のファイナリストを見た時、真っ先に思ったのは、敗者復活戦という寒空の下という舞台とおおよそ相性が悪いメンバーっぽいなということであった。ほぼ全組が、じめった発想系。原則、寒気に負けてしまう。働き方改革を無視したブラック舞台で辛酸を舐めさせられてきた漫才をフックアップすることで、さらなる漫才のアップデートと攪拌を目指す強い意志があると受け取ってしまう。

 今日は、今年一番寒い日だ。東京60WATSの「外は寒いから」を聴きながら、野呂鍋を食べて大人しく家にいるに越したことはない日であるが、そんな日に、暖かい部屋で見る、じめ発想漫才は最高かも知れない。

 大会が進行し、ネタが披露され続けていくと、舞台上には、負のエネルギーが満ち満ちることになるが、が、故に、昨年の錦鯉のように、陽のエネルギーを持つ者が、這い上がってきた瞬間、一気に反転し、まくられる可能性も出てくる。

 

カベポスター「大声コンテスト」

最近、クラフトビールにハマっていて、色々と勉強しているのですが、その飲み方は、寿司の食べ方と一緒だそうだ。それは、淡白なものから濃いものへと進んだ方が良いという意味だ。そういう意味では、今年のM-1の方向性を照らすようなネタ。決してカベポスターが薄いというわけではないのだが、そう感じた。

見たことあるネタではあるものの一個の作品として、さらに精度が上がっている。とてつもなく気持ちいい。やっていることは、おそらくほぼここ数年で変わっていないけれども、発想と表現力、見せ方、構成などが足並みを揃えてしっかりと噛み合っている。

 

真空ジェシカ「シルバー人材センター」

とかく大喜利が強い。ただ、中盤以降、ちょっとその大喜利がもちろん高いレベルではあるもの少しズレ、そしてそのズレがちょっと尾を引きつづけた印象は受けた。ただ、これがここまで点数として評価されるのも意外であった。

 

敗者復活・オズワルド「明晰夢

オズワルドと令和ロマンの戦いで、オズワルド。ギリギリで世代交代を防いだ形になるが、やはり、これまでと比べると落ちてしまった。テンション的に、今、オズワルドのネタを見たいという気持ちではなかった。たとえば、敗者復活で上位に好きだったママタルトとかだったら、もしかしたら、その陽のパワーで全てを刈り取っていたかもしれな。

オズワルド伊藤さん、サードウェーブ系のブラックコーヒーは、ベリーの味などがするので試してみてはいかがでしょうか。9hoursという赤坂のカプセルホテルに併設するコーヒースタンドは行きやすいですよ。

 

ロングコートダディ「マラソンランナー」

ロングコートダディは、おかしみに特化しているが、とてつもなくファニーな漫才でした。引き算の末に辿り着いたであろう、このフォーマット、明確に大喜利重ねる系の漫才の発明と言っても良い。「太っている人に負ける」という叙述トリック的なボケ、めちゃくちゃ素晴らしい。

 

さや香「老化」

見た目が若い人の、30超えてからの老いを感じるという話題から、「免許返納」という全く想像がつかない角度の入りで、嘘くさいボケもない。

完璧すぎた。強度が凄まじい。ところから、二人とも常識とされているものからズレていき、最終的に遠くに連れて行ってくれるという。

 

男性ブランコ「音符運び」

スタートでバカリズムの「都道府県の持ち方」を思い出してしまったけれども、男性ブランコの枠にしっかり落とし込んで、自分達のネタにしていた。男性ブランコを穏やかに思っていればいるほど、面白い。ブーメランのところなんかは、村上龍の「半島を出よ」で、刃のついたブーメランで犬を殺すシーンを思い出してよかった。

全ての音符が武器になるという、「全ての武器を楽器に」と言っている喜納正吉はこのネタを見てどう思っただろう。ところで、「ダブルメガネを侮るな」って、とんでもないルッキズムついでに言えば、平井の腕時計はキャラに似合わずデカすぎる。

 

 

ダイヤモンド「新しい日本語」

面白いんだけど、全然はまっていなくて怖くなってしまった。確かに、ボソボソと聞くべき漫才ではある。まあでも、ダイヤモンドは、たくさんフォーマットを持っているし、次があるでしょう。

ダイヤモンドは砕けないのだから・・・・・・。

すいません、野沢は冨樫義博ファンでした。

いやー、来週、富樫展行くの楽しみすぎる。

 

ヨネダ2000「餅つき」

稀代の、なにわ小吉ルックと、漫画太郎ルック、二人そろえば、穏やかな戸愚呂兄弟といった90年代からゼロ年代にかけて時代を気づいたギャグセンスを体現したヨネダ2000、新しいギャグセンスだと感じさせる、とてつもないお茶の間への鮮烈デビューだった。

山田邦子がネタ後に審査コメントとして話していたのを見て、なんか美しいものを見た気になりました。

 

キュウ「いいでしょう」

もっとグルーヴを感じる積み重ねていくネタを知っているだけに、本当に順番だけの問題かと思ってしまった。

 

ウエストランド「あるなしクイズ」

初めに、あらためてその節は大変申し訳ございませんでした。

さて。前回出場した時のこともあり、最後という順番に、またこのパターンなのか、と

首の皮一枚でファイナリストに残った。興奮しました。

 

 

ウエストランド 2本目「あるなしクイズ」

システムの説明を終わった直後に、まるでタイタンライブでBOOMER &プリンプリンが休んだから、2本連続でやることになったようでもあるのだが、その意味はそれとは全く違うものだった。まず、同じ題材であり、同じシステムのネタでありながら、説明も省略できる上に、深い度合いのネタも出来るという最高の順番。

 

 

ロングコートダディ 2本目「タイムマシン」

あまりにもファニー。テレビで見ていると、一番笑いを取っている印象を受けました。

 

さや香2本目「男女の友情」

これまでに優勝したコンビを計算し尽くしてて、自分達に落とし込んでる。この、研究しているという努力をどうとるかは人それぞれだが、ただやはりとんでもないレベルというのは間違いなく、寄席とかで見たらビビるんだろうな。

個人的には、一本目が見事すぎたから、やや見劣りはするものの、素晴らしいネタだった。

 

3本のネタを見た後、ちょっとウエストランド優勝について、少し確信を得た。というのも、宿老審査員たちが、ネタに差がない場合は、人間性が乗っかっている方に傾いてしまうのではないかということ。そうなると、やはり、ウエストランドに部があるのではないかと。

結局その通りになってしまった。

でも、震えました。

今まで見たきたものが、点から線になったことが初めてで、気持ちの収めようが分からない。

いやー、お見事でした。