『素敵な選TAXI』と、思い出の価値

2014年10月14日から12月16日『素敵な選TAXI』というドラマが放送されていました。このドラマの脚本はお笑い芸人のバカリズム。一度、過去に『世にも奇妙な物語』で、「来世不動産」という話を一本書いていたが、今回は連続ドラマを担当することとなった。一話だけのゲストではなく、全話、お笑い芸人が受け持つのは初めてだ。
テレビ東京の深夜枠でこれをやるということだけでも凄いのに、フジテレビの火曜22時のゴールデンタイムで、主演は竹之内豊という真っ向勝負。いや、テレビ東京の深夜枠が変化球だけとは言っていません。とにかく、フジテレビのゴールデンは言い訳がきかない。そこで、勝負するバカリズムの武闘派。そして、構成作家のオークラが脚本を手伝う回がいくつかあった。その並びは感慨深いものがあった。改めて言うけれども、フジテレビのゴールデンタイムであって、下北沢でやっている単独ライブではない。
ドラマのあらすじは、竹之内豊演じる枝分(えだわかれ)はタクシーの運転手だが、その運転するタクシーは、選択し直したい過去の分岐点に戻ることができる、タイムマシーン機能を搭載した特殊なタクシーとなっている。ドラマはそのタクシーの乗客一人一人の話であり、一話完結で入りやすく、まさにバカリズム節ともいえるセリフや、展開、ネタもあり楽しかった。バカリズムといえば、『IPPONグランプリ』で見せつけた大喜利力は周知のとおりだけれども、この『素敵な選TAXI』ではその「タイムマシーンがタクシーだったら」というお題への答えを土台にし、人間ドラマがのっかっているのだから面白くないわけがない。もちろん、脚本に穴があったり、やろうとしていたことへ到達していなかったりしていた回もあったりしたのだが、そこはデビュー作ということもあるので多めに見ることができる範囲だった。
DVDは、2015年の3月に出るようだし、フジテレビのオンデマンドでも見られるので是非見てほしい。バカリズム本人は2015年にもう一度連続ドラマの脚本の仕事をしたいと話していたようだがそちらも実現してほしい。推理ものも意外に合いそうだとか、そういう夢が膨らむ。
『選TAXI』を見ると『バタフライエフェクト』という映画を連想する人も少なくはないだろう。
思いを寄せている女性と一緒になるために、主人公が分岐点にタイムリープして戻るのを何度もトライするというのがあらすじであり、一番といってもいい位に大好きな映画だ。根底にあるのは救われなさであり、終始暗いムードが漂う映画ではあるのだけれども、その中でもユーモアがあるところも素晴らしい。この映画は少し特殊で、エンディングはいくつかあり、上映時とソフト化の時点でエンディングが違っているのだけれど、好きなほうの最後は、「出会わない」という選択肢を選ぶ。
素敵な選TAXI』は全10話だったが、その最終話は、枝分が何故、この特殊なタクシーの運転手をしているのかが明らかとなる。そして、その理由の時に行った約束のために、今度は枝分が乗客となり、やり直したい選択肢がある分岐点の3か月前に連れて行ってもらう。その分岐点とは枝分が彼女と別れることとなった日のレストラン。彼女と別れる理由となったのが、彼女が「夢を掴むこと」に悩んでいるという相談をうけた時の選択の失敗なのだけれども、その分岐点に向かう途中、枝分はその夢に向かって頑張っている途中の彼女を目にする。そこで、枝分は「彼女の三か月を無駄にはできない」と言って、戻ることをやめる。『バタフライエフェクト』のラストは、物凄く理解できる。が、そこには「諦め」が横たわる。『素敵な選TAXI』は前向きだ。そこが湿っぽくなくてとてもいい。
先日、とある映画を見るために、AEONに併設されているシネマコンプレックスに行ってきた。チケットを買い、上映までの時間をAEONの中にあるスターバックスで時間をつぶすことにした。そこで、珈琲を飲みながら、年末に見た古館伊知郎の『トーキングブルース2014』のことを考えていると、飲み物を運んできた妊婦が斜め前の席に腰かける。   何の気なしに、視線を上げる流れでその人の顔を見る。高校二年生のころに、一週間だけ付き合った、未だにトラウマとなっている女の人に似ていることに気付く。すぐに目を逸らしてしまったが、また目を凝らしてよく見てみると、本人だった。
話しかけるべきかを考えた。2年前ほど話は遡ると、駅のホームで、数回ほど見掛けてはいたものの、話しかけることが出来なかったという経緯がある。今回もそうしようかとも考えたものの、さすがに距離的にも無理があると思い、息を整えてから席を立ち、声をかける。来月出産予定ということを聞き、自分が今年結婚したこと位を話した。
痩せたね、とも言われた時に「いや、もっと痩せていたんだけれど、また太ったから、厳密には高校生の頃より太ってはいるんだけれどね」という余計な回答をしてしまったことを、帰りのバイクで後悔することになる。そして一旦席に戻る。しばらくして上映時間が近づいてきたので、店を出る前にもう一度挨拶をして別れた。去り際に「『妖怪ウォッチ』見てくるわ、じゃあ、また10年後」という面白いことも言えなかった。
話している間は、意識をしはじめて、積極的に話しかけようとしても出来なかったり、話しかけることが出来ても上手に話せなかったりしていた当時の高校の体育館での会話と何も変わっていなくて、本当に時間が戻ったような感覚になった。この人はこうやって破顔するところが最高に可愛かっただということを、そういえばそうだったなと思い出しもしたりした。
TBSドラマ『ごめんね青春!』での名言「100冊読んでも分らなかったことがマックスバリューに一回行ったら分りましたよ」じゃないけれども、肥大しすぎた自意識のなかで何百回とシミュレーションをしていた機会が訪れ、実践したらやっぱり上手くいかなかった。そもそも、高校生の時も、きちんと目を見て会話は出来ていなかったのだけれども。この人にも、もちろん自分にも10年という年月の重みと価値があることをやっと理解しでき、ゴーストの六割が成仏したような気もした。
MacbookAirを開いていた旦那には一瞥もしなかったのはせめてもの抵抗でした。