2018年5月2日放送の『水曜日のダウンタウン』で『「箱の中身は何だろな?」特異な芸人No.1 濱田祐太郎説』が放送されていた。R1ぐらんぷり2018の覇者であり、漫談家の濱田祐太郎は、先天性のほぼ全盲目である。そんな濱田祐太郎は、バラエティのゲームでもお馴染み、『箱の中身は何だろな?』が得意であるだろうという説である。
前の週での予告を見た瞬間から、楽しみでしょうがなかった。個人的には、R1ぐらんぷりで優勝してから、全国ネットのバラエティで見るのはほぼ初めてに近い形になるが、早速「地獄の軍団」の洗礼を受けるわけである。
スタジオでの千鳥による説のプレゼンが終り、VTRがスタートする。
そのVTRで、濱田祐太郎は開口一番、「松ちゃん見てる?」と言い、それに松本は「お前は松ちゃんを見た事ないやろ」と返した。
その番組の一場面は、テレビのキャプチャ画像をツイッターにアップしてウケを取っているという一番安易な方法で承認欲求を満たしている、テレビの画像をアップしているというだけでフォロワーが多い、日常のつぶやきやボケツイートをしてもそれらの何分の一もお気に入りされていない人達もここぞとばかりにツイートし、拡散された。お前らは、稲村亜美に群がった中学生か。
それはともかくとして、このやりとりについて書いた、ヒラギノ游ゴさんという方の「松本人志が何をやっているのかって話」という駄文を目にした。
千鳥の「どういう笑い?」をマクラに使っておきながら、プレゼンターが千鳥だったことを触れないという、「隣の家に囲いが出来たってね」「あそこの長男さん、大学落ちてから十年間引きこもっていたじゃない。最近は庭にまでは出られるようになったんだけど、真夜中に全裸で庭に出て体操したり、一心不乱に正座して念仏を唱えるようになっちゃったから、お父さんが作ったのよ。お父さんももう、年金暮らしだっていうのに、余計なお金使わせちゃって。どうなるのかしらねえ。昔は幸せを絵に描いたご家族だったのにねえ。お母さんも、草葉の陰で泣いてるわよ。」「へ~」という小噺みたいに、フリで失敗しているので、もう、無視してもいいのだけれど、やっぱり腹の虫がおさまらないので、言及します。
そして、何より<盲者である濱田祐太郎は指先の感覚が優れているであろうという仮説に基づいたこの番組らしい剣呑な企画。>という時点で間違えている。この企画は、「濱田裕太郎は、日常生活が常に『箱の中身は何だろな?』状態なので、そのゲームをやらせたら最強だろう。」というものであって、単純に指先の感覚が優れているというものではない。
それからも、<このときの濱田祐太郎のボケの核は「松ちゃん」のほうで、「見てる~?」はあくまで定型文をなぞったにすぎないというか、「元気~?」でも「久しぶり~」でもいいわけだ。>と続けているわけだが、良くないだろ。「見てる〜?」じゃないと意味がない。核を間違えるな。ラヴォスの本体は右の小さいやつだし、この場合のボケの核はどう考えても「見てる〜?」であり、松本に対しての第一声が、「元気〜?」でも「久しぶり〜」でも成立するのは清原だけだ。
そもそも、大先輩に対して、ちゃん付けで呼ぶというボケは、下の下であって、濱田祐太郎を舐めているとしかいえない評価だ。濱田が今回に向けてかなり準備しているということは、対決相手として登場した、お盆でおちんちんを隠すという宇宙で一番面白い芸をやるアキラ100%に両手で握手を求めるという動線があったことからも分かるわけだから、松本への呼びかけは、十中八九、濱田が松本の胸を借りる形で仕掛けたと見て間違いない。
そんなことをする人間が、殆どのテレビ制作者が考えあぐねている中に、自分をフィーチャーしてくれたバラエティに無策で挑むはずがない。じゃなかったら、バリバラでカンニング竹山とブラサカをやってろって話だ。
その他にも、<そのボケの核「松ちゃん」を素通りして別の"おもしろいところ"を見つけてツッコんで、ツッコむことによってその言葉をボケにする、それが松本人志が近年やっている"お笑い"なんじゃないかというのがこの文章で言いたいことで、このあとのくだりはどうにか話をキレイに着地させようと模索しながら書いたものだ。続ける。>については、少なくとも、僕が中学生のころに見ていた、『ダウンタウンDX』や『HEYHEYHEY』という、対ゲストのテレビ番組ですでに見ていたので、20年前に遡るのでこれも間違えている。<"おもしろいところ"を見つけてツッコんで、ツッコむことによってその言葉をボケにする>は、番宣にきた女優や、大御所俳優にツッコミをいれるこれは、ハライチ澤部が二人の娘とアンパンマンミュージアムに行くためや、オードリー若林がアイスランドにオーロラを見に行くためを筆頭にほとんどの芸人がやってることであって、松本に限ったことではない。
ちなみに「このあとのくだりは」というのも、テキストのテクニックとして、もう賞味期限は切れている。
特に醜悪なのが、この部分だ。
<そして彼が劇場に出ていた頃やっていたお笑いは、それまでおもしろいとされてこなかったことを"おもしろいこと"に変える芸だ。この言葉は定義や解釈で簡単に戦争が起こるのであまり使いたくないんだけど、いわゆる「シュール」というやつだ。>
ヒラノギさんは平成生まれということなので、劇場でのダウンタウンは見ていないだろう。おそらくどういうネタをしていたのかも知らないだろう。知っていたとしても、『ごっつええ感じ』のコントでもいい、一つの例も出さずに、「おもしろくないということをおもしろいことに変える」という、全ての芸人がやってきたこと、やろうとしてきたことであるにもかかわらず、松本人志のみがやってきたと断言するのはライターとして怠慢以外の何者でもないだろう。すべての芸人を舐めている、まさに逆「火花」状態。
そして、シュールという言葉で戦争が起こるのは、これまたゼロ年代の終わりの話だ。今お笑いの話でのバルカン半島は、パーパーのあいなぷぅが可愛いかどうかだけ。
とにかく何回もこの文章を読んで、俺の心の中の千鳥のノブが叫んでいたのは「最後の『「ありがてえ…!」に尽きる。』だけで良かったじゃ」だったし、同じく心の中の柴田勝頼に至っては、「ボケがつまらない。以上!」だ。
アキラ100%と松本への仕掛けから察するにきっと濱田祐太郎は邪悪でクレバーな人間だ。甘いマスクと柔和な声で包みながら、その腹黒さを小出しにしながら、バラエティで色々と仕掛けていってほしい、そう願っている。対決してほしい人はまだまだいっぱいいる。ラジオはそれからでも遅くはない。
立川談志のジョークにこういうものがある。「とある外国の教授を寄席につれていって、落語を見せたんです。で、そのセンセイ、それ見て笑っていた。終わったあとに、センセイ、日本語がわかるんですか?と尋ねてみたんだ。すと、こう答えた。『いや、わからないよ。でも私は芸人を信用しているんだ』」
最近は、こういうお笑い評論が目立つし、それがウケるるのであれば、俺はもう、ルドヴィゴ療法で死ぬまでトムとジェリーを見たあとに、戸愚呂と同じ地獄へ行く。
あ、あと、松っちゃんを一番見ていないのは濱田裕太郎ではなく、角田信朗です。
間違いない!
さて、前置きが長くなってしまいましたが、僕が言いたいのは、それよりも何よりも、バカリズムの「箱でなくてもいいですもんね」である。
話を戻すと、千鳥がプレゼンをしている時に、バカリズムはすぐさま、この言葉を発した。松本の返しよりも脳をゆさぶられた。
濱田裕太郎を語ろうとすれば、どうしても、エクスキューズが出てしまう。濱田が、
R1ぐらんぷりを優勝したときに、ラジオをやってほしいという意見が散見された。これは、活躍してほしいという意味での言葉の現れかもしれないが、その裏には、視覚障害者と、耳で聞くメディアを安易に結びつける、無意識の中の差別が横たわっていると、指摘することもできる。
しかし、バカリズムのセリフは、それらを超越した視点にあるものであり、ただ、「箱の中身は何だろな?」というゲームを、目が見えない人がやった時のシステムの矛盾をついたものだ。
「視覚障害者が『箱の中身はなんだろな』をやったときのありがちなこと」「そもそも箱の中に入れられていない」と大喜利の形にしてみれば、その美しさが分かるだろう。
それだけではなく、振り返ってみるに、この返しの凄さには、本来であれば、松本人志本人が発言すべきものだったはずということが乗っかっている。
『ガキの使いやあらへんで!』でタカダコーポレーションの大貫さんが発した「女が言うのも変なんですけど、金玉の匂いがするんですよ」というゆるいボケに、「女性のほうが金玉の匂いを知っているからな」と松本は返した。
この、視点を変えるというよりももっと高次の、脳みそが向いている方向を捻じ曲げられると言い表した方が実感に近い価値観の転換こそが、松本人志の凄さである。それをバカリズムは、松本の目の前でやったわけである。
「ヒデ、そこにいるんだ」という衝撃。バカリズムは、ファンでも追うのが大変なくらい、鬼のように、作品を世に出しているが、それ故になのだろう。
逆に言えば、松本はほぼ天性に近い形で、その位置にいたわけだから、それはもう一つの教科書をつくったといわれうのもむベなるかなである。『HUNTER×HUNTER』でいえば、松本がキメラアントの王・メルエムであり、バカリズムは、感謝の正拳突き一万回で音速を超えたネテロ会長だ。
ついでに言わせてもらえれば、もう一人、そのような視点を持っているのが歌手の 竹原ピストルである。松本への思いを歌にした、「俺のアディダス」の一節の「噛み
合ってたまるか。噛みつき合うんだ。 絡めとられてたまるか。一方的に掻き回すんだ。」がある。「アディダスの広告塔」と揶揄して怒られた人とは大違いだ。土曜日の昼公演行くので、みんな挨拶しに来てね~。
有名なのでいえば、『よー、そこの若いの』の「俺の言うことを聞いてくれ/俺を含め誰の言うことも聞くなよ」ってこういうことなんだろう」もそうで、言葉で遊びつつ本質を突く。
スピードワゴンの小沢は、俺らの世代でブルーハーツとダウンタウンに影響を受けていない人はいないと言っていたが、よもや、歌手とマセキ芸能社の二人が、この視点を受け継いでいくとは思わなかった。
ちなみに今のスピードワゴンの漫才は、ダウンタウンの影響下から脱した、さながら小沢が好きな音楽のレコードにA面とB面があるように、一本で小沢と井戸田の狂気を楽しめる、二人がそれぞれ売れたからこそ出来る無二の最高な漫才となっている。
長々と書きましたが、あんまり芸人なめんじゃねえぞ、ってことです。
そんなことしていると、ハライチ岩井に嫌われている朝井リョウみたいになりますよ。