石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

アルピーだって決勝行きたかった。

オールナイトニッポン45周年特別企画の一つ「お笑いオールスターウィーク」では、一週間のオールナイトニッポンの枠を丸々お笑い芸人がパーソナリティを務めた。
数々の名だたるお笑い芸人がオールナイトニッポンの歴史を輝かせてきたが、今回の企画で白羽の矢が立ったのは、現在レギュラー放送を担当しているナインティンナイン、オードリー、Hi-Hiに加え、テレビで活躍する千原ジュニア、COWOCOW、ハライチ、ハリセンボンバカリズムら、ネタ番組やトーナメントで話題をさらった期待の新人である鬼ヶ島、ラブレターズアルコ&ピース
そのコピーも「おもしろくてあたりまえ!」と磐石でありながら、攻めているニッポン放送の姿勢を感じた。
なかでも、アルコ&ピースはレッドシアターなどのネタ番組では常連のコント職人ながら、昨年はTHE MANZAIでは認定漫才師となり、決勝にも進出を果たした、実力派のコンビだ。
アルコ&ピースオールナイトニッポンが放送した前日は、KOCの決勝進出者の発表の日だった。しかし、準決勝まで残っていた彼らは決勝に駒を進めることができなかった。
放送が始まると、ネタを披露、そのあとに「俺たち、めちゃくちゃウケていたよなあ。」「ウケていたのに、決勝行けなかったら反省することないぜ。」と冗談混じりに愚痴りながらも、フリートークは始まった。
その後も、他の曜日は大喜利等の番組に送りやすいメールテーマに対して、自分達だけ「平子さんには昨年生まれた一琉君という息子さんがいます。けれども、本当に平子さんの息子なのでしょうか。リスナーのみなさんに一琉君の本当のお父さんを探してもらいたいと思います。」という大喜利大喜利でも、かなりクセのあるお題に対して、「作家よぉ、こんなんで大丈夫なんですか、って俺言ったよなあ」と、作家にも愚痴りだす。
活字にするとピリピリしているように感じさせてしまうのは申し訳ないけれど、深夜ラジオならではのプロレス感が心地よく、ニヤニヤ笑いが止まらない。
かと思えば、自分たちは売れ始めているので利権が絡み出す、中東からの刺客に狙われると平子さんが言い出し、プロレス感を通り抜け、茶番が始まる。
番組が始まって一時間が経過しようとしている深夜四時前、ラジオのブースに、中東からの刺客が乱入。酒井さんが凶弾に倒れ、海猿の映画のテーマ(特に興味がないので調べず)が流れてCMに入る。この4時前というのは、ネット局によっては、ここで番組は終了する時間。つまり、一部地域の人にはアルコ&ピース酒井さんは、死んでしまったままで番組が終わったことになる。どう考えても、構成に関わっている人達全員、気が狂っている。
4時の時報がなりCMが明けると、特に触れることなく、酒井さんの提供読みから始まる。どう考えても、構成に関わっている人達全員、台所にある材料で爆弾を作れるタイプ。
そのあとも、KOCの決勝を落ちたパーソナリティには罵倒するメールを送るという、笑いの定石を完全に無視して「アルコ&ピースさん、THEMANZAIがあるじゃないですか、頑張ってください」とただ応援したり、あの難しいお題のメールで正解を出すなど、週末山に行っては毒キノコを採集しているようなタイプの気が狂っているリスナーとのグルーヴで番組は進んでいく。
ここで平子さんが「罵倒されて、罵倒されて、踏みつけれられてさ、明け方さ。黄色い朝焼け見ながらさ。俺また中島みゆきの『ファイト!』聞きながら帰るんだよ。もう800回くらい聞いてんのよ。」と言うと、俺も300回くらい聞いた「ファイト!」のイントロが流れ出す。
「ファイト!」の歌い出しの「あたし中卒やからね。仕事をもらわれへんのやと書いた女の子の手紙の文字はとがりながら震えていた。」は、中島みゆきオールナイトニッポンに送られたリスナーからの葉書が元になっている。葉書の内容は、中学を出てすぐ就職をした女の子が「あの子は中卒だから事務はまかせられない」と、同じ会社の人が影で言っていたのを聞いてしまい、悔しくって泣きたかったというものだった。彼女には、このやるせない思いを打ち明ける場所は深夜ラジオしかなかったのだろう。その時のラジオネームは「私だって高校行きたかった」。
そんな彼女に対して中島みゆきは、綺麗事かもしれないけれど、と前置きしたうえで「周りのすべての人間にあなたの良さを分かってもらおうってのはそらムリなことだけど、分かってくれる人はどっかにひとりはいるかもしれないとかね。それから誰かにわかってもらおうとするとか、そういう風に思うことってステキなことじゃないだろうか。ファイト!」とエールを送る。
僕がこの歌を好きなのは、「世間とはそういうものだ」という現実を突きつけてくれるからだ。だからこそ、闘わなければならず、中指を突き立てなければならない。
大衆に溶け込んでやるか、くそったれとつぶやきたくなる。
放送が終わると、深夜と早朝のボーダラインの5時。眠たさと疲労感と笑いすぎて疲れたこの脳の感覚は、くりぃむしちゅーのオールナイトニッポンを聞いたあとに、バナナマンのWANTEDを聞いていた、大学時代の火曜日の夜を思い出す。
深夜ラジオをリアルタイムで聞くことも少なくなった今でも、こんな気持ちにさせてくれたアルコ&ピースをずっと応援したいと思った。