新宿区の百人町にある、カフェアリエという喫茶店で、「路上の詩人さんいらっしゃいvol2」というトークライブがありました。
昆虫キッズというバンドのフロントマンである高橋翔さんが、歌詞について話を聞いてみたい人を呼ぶという主旨のイベントで、今年一番聴いたアルバムが昆虫キッズの『BLUE GOHST』ということもあって見に行きました。カフェアリエに行く途中に、近くでラリー遠田のトークイベントが開かれていることもあって、行かなければ!と思ったのですが、ラリー遠田から学ぶことは何もないということを思い出しやめました。あと2014年のお笑いについて語ることはない!
今回は、トリプルファイヤーというバンドのボーカルで、作詞も担当している吉田靖直さんをゲストに迎え、進行は、音楽雑誌「MUSICA」でレビューを書いていたりするライターの佐久間トーボさん。
カフェアリエというゆったりした空間でゆるやかに始まったのだけれども、初めに、もっと吉田さんのことを知って、考えていることに近づこうという主旨で、「トリプルファイヤー吉田の100のこと」から始まった。
前もって用意されていた問題に対して、吉田さんは自分が思っている通りに答える。その答えを、昆虫キッズの高橋さんが、吉田さんが答えるであろう答えを考え、照らし合わせる。それが合致していれば、1ポイントというゲーム。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』の企画のあれですね。
1問目の「吉田の血液型は?」、2問目の「吉田が好きな食べ物は?」で高橋さんは正解を出し、スタートダッシュをきるも、その後はなかなか正解が出ず。それでも問題を重ねるごとに、吉田さんの人となり、思考の輪郭が朧げにでも掴めてくる。
その中でキーワードとして出てきたのが、「俯瞰」という言葉。小学校低学年のころからのエピソードもいくつか聞けたのだけれど、高橋さんが吉田さんのことを「早い段階で自分を俯瞰で見ているよね」と指摘していた。
『ドラえもん』を読んだ時に、出来杉君を見て、「勉強が出来るほうがかっこいいな」と思って勉強を頑張ったり、その次は面白くて笑いのとれる人を目指し足りするなど小学生の時点で意図的に自分のキャラ設定を仕向けるというのは自我の乖離すれすれの俯瞰だと思う。
100問終わったころには、吉田さんは結局掴めないということと、カレーが好きだということ、まとめサイトをたまに読むということだけが分かった。現実は『インセプション』のようには深層心理には潜り込めないですね。
少しの休憩を挟み、歌詞についてのトークコーナーに移る。まず、トリプルファイヤーの歌を流し、その歌詞について気になったところについて話すというゼミのようなスタイルで行われる。
高橋さんはトリプルファイヤーの「Jimi Hendrix Experience」という曲を流し、「君はもぎたてのトマトを食べたことがあるか」という一節について、高橋さんは「ここは自分には出ない」という話をしていた。聞くと、吉田さん自身も別にもぎたてのトマトの良さを伝えたいわけではなく、テレビを見ているとそういった場面が出てくるときに、それが一番いいという主張込みに対する違和感を言いたかったのだという。
そこから「学校の先生に殴られたことがあるか」「音楽を聞いて泣いたことがあるか」「ドストエフスキーを読んだことがあるか」「好きだからこそ素直になれない気持ちがわかるか」「ギターを弾かずにはいられなかった夜があるか」と続く。
そして、吉田さんは「同調圧力が嫌い」という話をしていた。それを聞いて、これらの歌詞を読むと、意味が逆転する。
吉田さんの視点は、マイノリティという枠組のなかでもさらに壁際にある。この歌詞のいいところは、それらの言葉に対して、反論もせず、怒りもしていないところだ。だからこそ、「そうは言っても……」という居心地の悪さが際立つ。
例えばアイドルのスキャンダルが出た時に、「アイドルなのだから恋愛するな」と「アイドルだって人間だから恋愛する」という主張がぶつかり合う。「年頃の女の子なのだから恋愛することは分かっているけれども、そうは言っても、アイドルをしている間くらいは気をつけてほしいし、それを犠牲にしてまでやることにこそ惹かれているんだけどなあ。そもそも『アイドルだって恋愛する』というのはアイドルが言ったらだめだろう。」という正論という枠組みからあぶれた個々の気持ちは行き場がない。
「トリプルファイヤー吉田の100のこと」で一番印象に残っているのが、「吉田が最も軽蔑している人は?」への答えだった。その答えの人を軽蔑している理由というのが、「社会的に認められているその人が、世間から虐げられている側に対して、明らかに嘘を吐いているところを見たから」という至極真っ当なものだった。うさんくささへの嗅覚をもっている人で、同じようにあまり怒りに共感してもらえないことが多い身として、思わず「吉田さん、いいわあ」と思ってしまった。
そのうさんくささへの嗅覚が際立っているのが、「神様が見ている」という歌の歌詞だ。
「変な顔をしている分 心がきれい」「日本海が獲れた魚は身が引き締まってる」「いじめられる側にも原因がある」「公務員が給料を貰い過ぎてる」「決勝で負けてよかった 今ならそう思える」「学生時代は巨乳がコンプレックスでした」
絶対嘘じゃん!と言いたくなるフレーズの数々だ。謙遜であったり、自分を正当化するための、意識の有無にかかわらずに見つけた納め所である言葉の欺瞞さを見抜く。吉田さんの歌詞は、それを糾弾するわけでもないところに怖さもある。
そんな感じで、イベントは終了。なかなかこういう場を見ることもないことも新鮮であって、楽しかったです。
その吉田さんは、15年1月2日にテレビ東京系列で放送する『共感百景〜痛いほど気持ちがわかる あるある〜』に出ると最後に告知をしていた。この特番はもともとあるライブ「共感百景」を、『ゴッドタン』の佐久間プロデューサーが番組化したもので、それぞれが共感できるという自由律俳句を披露するというものだ。
先述した「乖離すれすれの俯瞰」というのは、笑いととても相性が良いので、ものすごく期待してしまう。
番組を観る前に、トリプルファイヤーの音源を聞いてみるのもいいかもしれないです。