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エル・カブキ 単独ライブ「年刊実話」感想(アンケートに変えて。敬称略なのは自意識が過剰だから)

 エル・カブキの単独ライブ「年刊実話」を見てきました。
 今年一年一番楽しませてもらった漫才師の久々の単独ライブ、平日開催とか知ったこっちゃねえ、行かなきゃハドソンだろ!ということで行ってきました。
 ライブが始まり、エル・上田が大仁田厚に、デロリアン林が昔のビートたけしに扮していることに気付いた時は、やばい、ビタ一文分からないぞと焦りはしたものの、エル上田が電車での痴漢への護身術としてチキンウイング・アームロックを伝授するという漫才が始まると、不安は一気に消えて恍惚だけが残り、90分間ずっと笑っていた。
 「年刊実話」というだけあって2016年というネタの宝庫の年を、90年代後期から少し前までの芸能界のアラや、インターネット上にスペースデブリの如く漂う一行を添えながら、縦横無尽に駆け巡った90分一本勝負な漫才は、これが空中殺法を超えた四次元殺法というやつかと思わせるもので、一気にこの一年を振り返ることが出来た。
その他のネタは、解散報道から大麻、不倫といったものから、御馴染み、芸能人を掘り下げるものであったりとTBSラジオのラフターナイトで聴いていたものから、単独ライブならではの少し崩したネタまで見られて大満足だった。でたらめな手話を披露したタマサンカ・ジャンティのことを「シュワちゃん」という最高のネタが見られなかったのだけが心残りだった。
 エル・カブキはネタのマニアックさと、毒っけに焦点をあてられることが多いけれど、漫才のテンポもとても心地良い。これは漫才が上手いということもあるけれど、根っこにある爆笑問題が大好きという小さな共通点が共鳴しているような気がして、嬉しくなる。
漫才の合間に流れる幕間映像もよかった。プロレスネタだけでなく、90年代のセンスが爆発している「マネーの虎」のアイキャッチのパロディの幕間映像もよかったのだけれど、特に、水が流れ落ちている滝の映像が流れて、何だと思っていたら、最高のタイミングで「これまでの情報量が多すぎたため、癒しの映像を流しています」というテロップが流れたのは最高だと思ったと同時に、爆笑問題が単独ライブを終えたあとに、見に来ていた糸井重里が楽屋で爆笑問題の二人に「もう少し抑えてくれないと、疲れるよ」と言ったというエピソードを思い出した。
間の緩急で笑いを取る漫才は何千本と見てきたけれど、情報量の緩急で笑いを取る漫才は始めてみた。
実際笑い疲れてしまって、不意に時計を見てみた時に、一時間しか経っていなかったのには得も言われない興奮を覚えた。
 エル・カブキの漫才で、「そんなわけねえだろ!」とか、「バカなこと言うなよ!」という類のツッコミが出ないのは、デロリアン林が本当のことと、言わないでもいいことしか言ってないからで、エル上田はそんな林のことを否定しない。誰にも伝わらないだろ、という点でのみ、咎めている。彼らの嘘のない漫才は、つい先日も職場で隣の席の女性に「土人って言葉を放送している時点で、言っていいってことになりますよね」と言って苦笑いされた自分にとってはとても優しく、職場で冗談を言った後に、すぐに「や、嘘ですけどね」と間を極度に恐れる前座の落語家のような早さで保険を打つ自分にとってはとても格好良く見える。
 終演後は、普段は書かないアンケートに内容のない感想を書きなぐった。 
 その後は友人と合流し、居酒屋で、ビートたけしがタイタンライブで演じた「人情八百屋」の深読みから、バナナマンの単独ライブ「Pepokabocha」、爆笑問題の「歳時記」とかの話を、エル・カブキの漫才に当てられたこともあって、たかだかレモンサワーを二杯飲んだだけのくせに野弧禅の如くに一方的にまくしたてるように話した。
 そんな二時間ほど飲んで、西武新宿線の駅の近くに取っていたホテルへと向かっている帰りに、すれ違った集団を見ると、エル・カブキの二人と、若手と思われる人達だった。
迷ったけれども、この偶然を逃すよりはと、声をかけて、単独ライブが最高だったこと、また来年もやってほしいことを伝えた。
すいません嘘吐きました、緊張して挙動不審になって言いたいことを全く伝えられなかったです。ANNR楽しみにしています、とくらい言えば良かったな。