石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

ロングコートダディ単独ライブ「たゆたうアンノウン」

 


 『キングオブコント2020』で見た中で一番好きだったコントは、ロングコートダディのネタだった。堂前が演じる肉体作業のバイトに来た男が、兎演じる先輩に、仕事の内容を教えてもらうが、徐々に先輩の仕事の要領の悪さが明らかになるというものだった。仕事の要領が悪いという危ない題材でありながら、笑わせる力を持っていて、一目惚れしてしまった。「井上さん」というタイトルもいい。

 それから、もっとロングコートダディのネタを見たいと切望していたら、ロングコートダディが東京の芸人をゲストによんで行う「とんぷう」というライブがあることを知り、その配信を購入した。このライブは、関東の芸人をゲストに呼んで、ネタとトークをするという主旨のもので、初回のゲストはザ・ギースだった。ロングコートダディが披露したのは、「美術館」「ガン告知」「旅人」の3本。いずれも違った毛色のコントで最高で、ザ・ギースも3本ネタを披露し、最終的には、4人でキャッチボールをして終わるという最高のライブとなっていた。

 その結果、一気にロングコートダディの虜になってしまった。あくる日から、愛称であるところのロコディと呼ぶようになっていたほどだ。

 さらに、11月に大阪で開かれた単独ライブ「たゆたうアンノウン」も配信で視聴することが出来た。この単独がとても素晴らしかった。1時間という短い時間ながら、コントはもちろんのこと、幕間映像も凝られていて、いろんな種類の笑いがちりばめられていてかなり満足度の高いものだった。

 ラインナップは、「密葬」「OP映像」「相性の話」「宣材写真(幕間映像)」「お家でまったり」「あみだくじ(幕間映像)」「業績発表」「マユリカ(幕間映像)」「たゆたうアンノウン」。

 1本目の「密葬」は、舞台が葬式のコント。大勢の参列客の書き割りを前に、堂前が演じる喪主である妻が、挨拶するところを、兎が演じる亡くなった夫の幽霊が見守っているところから、始まる。

 妻が挨拶する中で、このコントもコロナ禍にあることが分かってくる。まずここで、ぐいっとコントの世界に引き込まれた。フィクションであると思っていたコントが、現実の世界と地続きでるあることが分かったことへの興奮と、こういうコントもするんだという驚きと感動があった。日常の中の非日常、非日常の中の日常だ。

 夫は、生前ずっと「俺は密が好きだ」と言っており、亡くなる直前まで病床で「密が見てぇなあ」と繰り返し言っていたと妻は話す。だから、葬式で、きちんと参列者には検査を受けさせ万全の対策を取ったうえで、この密を作り出したという。

 実は、人混みが嫌いな妻であったが、死んで幽霊となった夫を演じている兎は、終始、穏やかな顔で妻を見守っているのだがそれが心地よくコントのリアリティを担保している。だから2人の嗜好に差異はあろうと、分断は生じない。

 ED映像の中で、このコントのタイトルが「密葬」であることが明かされ、その巧さにもやられてしまった。

 「相性の話」は、兎演じる男と、堂前が演じる男の友情関係を描いたコントだが、兎演じる男は、とにかくやってることがめちゃくちゃなのだが、その堂々とした佇まいに、自分の中の常識を疑いそうになってしまう。

  「お家でまったり」も面白かった。むしろ、ロングコートダディの真骨頂かもしれない。ネタバラシになっしまうが、マントのようなものを羽織っている兎演じる男は、自分の部屋でスマホをいじったり、本を読んだりとまったりしていると、そこに突然、堂前が演じる美容師のような男が部屋の中に入ってきて、「まだ、終わってないんですけど」。2分もないこのコントに爆笑させられてしまった。

 「業績発表」も少し見せ方が工夫されていたネタだった。

 最後の単独の表題作コントの「たゆたうアンノウン」は、30分ほどの長尺のコント。堂前演じる男が、家賃の催促のために兎演じる男の部屋に行く。家賃の催促に来た男は、おどおどして、家賃を滞納している男は堂々としている。そんな男に誘われて部屋にあがると、部屋はがらんとして荷物や調度品がほとんどない。男は、アーティストで、そして、想像した犬も飼っている。そこから、家賃を払ってほしい男と払わない男の攻防を軸にコントは進むが、じんわりと展開していく。設定は、まるで、泥棒が盗みに入った家が、全て書き割りの変な家だったという古典落語「だくだく」のようだ。

 たゆたっている未知のものは、家具や犬のことだけではなく、人の心のように思わせる。そんな、不思議なコントは、恥ずかしげをまといつつも、ストレートに良い話に着地する。そこは、どこかバナナマンの単独ライブの長尺コントに通じるものがある。

 1時間という長くはない単独ライブのなかで、爆発的な笑いが起きにくい長尺のコントをするという強気な姿勢は、自身の表れでもあるが、それまでにコントと映像で様々な種類の笑いを取りまくっていて、すでに満足度が閾値に達しているからこそ、成立するわけである。

 言い忘れていたが幕間映像もめちゃくちゃ面白かった。映像コントの「宣材写真」「あみだくじ」、そして何より、漫才コンビマユリカの顔がスクリーンセイバーのように画面上をそれぞれ動き回る中、マユリカの2人が近づいた時だけマユリカの漫才が聴こえるという映像「マユリカ」など、全部趣向が異なっていて最高だった。

 Yogee New Wavesで統一されたおしゃれな音楽を使うところも含めて、本当に、大満足で、一生追えるコント師じゃんと大感動した。  

 ロングコートダディのコントの面白さの秘密は二つある。

 主観の強さとそれを演じる兎の凄さにある。基本的に、兎がボケ役に回るとき、主観が強い嫌なやつなのだが、どこか憎みきれないキャラになっている。それがめちゃくちゃ巧くて凄いし、堂前も攻めるようなツッコミをしないのが、ロングコートダディのコントの世界観を崩さずにいる。

 「とんぷう」でザ・ギースとトークをしているときに、「そもそも」を「もそもそ」と言い間違えていて、嘘だろ!と腹を抱えて笑ったのだが、なんとも言えないその可愛さの虜になってしまった。

 もう一つは、コントの中で、予期していないところからくるセリフがほぼ確実にはいっていることだ。こちらの感情にぐっと踏み込んできてめちゃくちゃ笑ってしまったりするようなセリフなのだが、ただ面白いだけじゃなくて、セリフが笑わせるためというよりは、本当に、その登場人物の思考のロジックに沿っていると思わせるからこそ、コントのリアリティがギリギリまで保たれている。

 井上さんが言った「どうしたぁ、段ボール初めてかあ」や、「密葬」で死んだ夫が密が好きだったということを表すエピソードとして妻が照れながら「ロッカーでしたこともあります」と話したりするところだ。『キングオブコント』で「どうしたぁ、段ボール初めてかぁ」というセリフを初めて聞いてから、この年末までずっとこのセリフのことを考えいている。

 こういったセリフがあると、コントは一気に深みと奥行きが増す。

 そしてこういうセリフは、作ろうと思って作れるものではない。

 改めていうが、まじで一生終えるコント師だと思う。

 

 

 

来年明けに、ゾフィーを迎えた「とんぷう」がある。配信もあるので、絶対に買ってください。買わなきゃ、チェだぜ!