石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

たくろう幻想を追い求めて

 M-1グランプリ2018での一番の儲けものは、敗者復活でたくろうを知れたことだった。たくろうの「面白いことを言うだろう」という空気をまといながら、本当に面白いことを言っていく、そして練習を感じさせない、そんな漫才をしていた。番組を録画していなかったので、再見出来ておらず、詳細も「後から恥ずかしがっていたというところが面白かった」という部分しか思い出せないのが残念だが、とりあえず良いものみっけた、という気持ちになった。
 そんな風にネタでひと目惚れしたのは久しぶりだったのでめちゃくちゃ興奮したと同時に、まあ、しばらくネタを見ることは出来なそうだなあなんて冷めていたのだけれど、よしもと沖縄花月のスケジュールを何となく見ていたら、たくろうが出ることに気がついた。これは、と思い、チケットを購入し、見てきました。思えば、平場のよしもと沖縄花月に来るのは初めてである。沖縄に吉本の養成所が出来ると聞いた時、完全に沖縄国際映画祭のための奴隷にされるだけじゃねえかと、いぶかっていたのだけれど、今はそこそこローカル番組や地元のイベントなどでちらほらと見るようになった。国際通りを歩いていたら、「お笑い興味ないですか!?」と呼びこみをされて、「興味あるよ・・・・・・、おめえよりな!」と心の中で唾きを吐いたことが遠い昔の様である。ただ、別に今も、せやろがいおじさんの悪口をぶつぶつ言っているので、メンタリティは何か変わったというわけではない。
 Gorillazを聞きながら、眉間にしわを寄せて『社会人が仕事もそっちのけでTVにRADIO』のM-1グランプリの感想を読んでいるという、ゼロ年代の残滓のような状態で、開演を待つ。
 観客12人というなか、ライブが始まると、まず初めに、アダージョ、OCEAN、ピーチキャッスル、カシスオレンジと、沖縄の芸人が続く。「修学旅行の夜に好きな人を話しあう。」「十回クイズ」「コンビニの店員」などなど、やっぱりゼロ年代じゃないかと思わされる題材のネタが続いたので、万引きGメンみたいな目で見てしまっていたのだけれど、ピーチキャッスルの桃原の狂人の役が良かったなど、光るものをいくつか拾うことは出来た。
 他には、相席スタートが登場。ケイさん、色々負けずに頑張ってくれ、と思いながらも、最高のちょうど良い男女漫才を堪能。
 ケイさんの「全ての男性には、多かれ少なかれ大泉洋要素がいる」という言葉は至言であり、次はこっちをドラマ化してほしいと思った次第。
 他にはチーモンチョウチュウの菊池の達者さに舌を巻くなどしたが、レギュラーに至っては、「じじいかばばあか分からない!」というあるあるや、スーパーマリオがジャンプする音とドナルドダックのモノマネという、ゼロ年代から一切アップデートされていないネタながらも、テツ&トモ、レイザーラモンHGやジョイマンという一発屋芸人仲間のネタを軽くなぞったり、島田紳助に言われて宮古島に行ったという、ここ十年のことを異常なまでに間を詰めて喋り続けてしかも笑いを一切絶えさせないという、ほぼ走馬灯のようなネタで、観客が12人ということも合わせて、親戚のめちゃくちゃ面白いおじさんが普通は一人いれば十分なのに二人いたボーナス家系のお正月みたいな幸せな空気に包まれて会場を後にすることが出来た。
 さて、目当てのたくろうである。
 「名探偵コナンメインテーマ」を出囃子に登場したたくろうのネタは「人間ドッグ」と「ねずみ講」で、めちゃくちゃ面白く、十分近くの長尺のネタを満喫して、幻想はより高まってしまった。
 たくろうの漫才は、コミュニケーション障害の人の思考が駄々漏れになって、それを優しく汲んでくれる人の会話でその一つ一つが、十万円以上の電気炊飯器で炊いた新米くらい粒だって体に入ってくる。
 ボケも「採尿しますね」「草むら行ってきます」「あ、トイレありますよ」と、文字にするとくだらないんですけど、ものすごく気持のいいテンポで言ってくるもんだから、笑ってしまう。かと思えば、「(採血のハリを刺す時に)ちくっとしますね」「ちくわっとしました。練り物くさくて」とよく分からないボケも入れてくるから、本当にずっと低温火傷のような漫才が続く。一番好きだったのは、「ねずみ講」「偏差値引くそうですね」「・・・・・・あ、ねずみ高校じゃないですよ」「鼠先輩が通っていた高校かと思いました。偏差値低そうな歌を歌ってて。歌詞書くぞってノート開いたら、ぽぽぽって書く・・・・・」ってところでした。
 本当に今後が楽しみです。