石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

THEW感想

 THEWを見ました。 

 『THEW』自体、始まって三年足らずで、ここまで多牌な賞レースになるとは思っていなかった。R-1グランプリが芸歴十年未満という制限をしたことで自ら、狂気の門を閉ざしてしまったことを考えると、『THEW』にガラパゴス化を突き進むという役割を託し、見終わった後、笑いというジャンルの多様性を知らしめるというどの賞レースよりも勝っていると言えるくらいになっていってほしい。

 やはり、他の賞レースと比べると、これまでに書いてきたように、ネタの粗さや、技術が足りない部分などを感じてしまうことで、どうしても、からい評価になってしまうなどの残念な点もないわけではない。何より、恋愛をネタにされると、その時点で、マイナスポイントになってしまう。

 例えば、TEAMBANANAなんかは、今更シンデレラを題材に出されても、どうにも入ってこない。フェミニズム批評では、割とディズニー作品は批判されているが、そういうものでもなく、かといって、山田独自のニンが出ている、人が分かるような、独自のロジックで、シンデレラの幻想をひっぺがしていくというものでもないので、無理していちゃもんをつけているというレベルに留まってしまっている。どうせなら、半沢直樹の妻だとか、もって時事的な題材を使って、本当に思っていることを言っていくくらいでいいと思う。あと、会話がうまく噛み合っていないので、ちょっと気を抜くと、一気に気持ちが入らなくなってしまう。

 そうなると、ああ、漫才しているなあという以上の感想にならない。

 あと、ルッキズム批判というわけではないが、単純に藤本が太っているといういじりがあったときに、あ、いらない!って拒否してしまった。単純に、そこで生まれる笑いが絶対的に必要じゃないなと思ったし、何より、TEAMBANANAの並びのルックがすでに漫才師として成立しているからで、気になっていることを処理されたという気持ちよさも生まれなかった。これは、紅しょうがにも言えるし、ターリーターキーにも言える。

 だからこそ、オダウエダなどを際立って覚えておくことが出来たけれど、そのオダウエダも後半は、発想の突飛さ、動きが舞台の中央のみで小さくまとまってしまって、振り返れば、せっかく手首を縛っていた縄から自由になったのだから、プロレスのロープを使ったアクションよろしく、上手から下手まで縦横無尽に動いても良かったのじゃないだろうか。もっと発想をダイナミックに広げても良かったのじゃないだろうかと思った。例えば、小田が植田と一緒に舞台上から、叫びながらはけていって、しばらくしたら、目玉だけをもった小田が舞台に戻ってきて、ゴムパッチンのように目玉から手を放すというように、見えないところでとんでもないことになっているというお題がさらに出来たんじゃないかと思う。KOCでのニューヨークの「結婚式の余興」のネタのように、序破急になりきれていなかった。

 一番驚いたネタは、もちろんAマッソで、漫才にプロジェクションマッピングを映し出すというだけでも凄い発想なのだが、この手法がAマッソにがっちりハマっていた。

 Aマッソに対する印象はあまり良くなく、というのも、彼女たちの漫才は、良く言えば大喜利的であり、悪く言えば、Aマッソの漫才は二人で完結してしまっていて観客に対して、開かれていないように思えて、それは漫才師としての技術というよりは表現の技術に問題があるような気がして、どうにも「見られている」という意識があまり感じられず、「伝える」ということの放棄のような気がして見ていてあまり楽しくない。ボケてツッコムというやりとりを見ても、そのビジュアルが頭でイメージされにくい。面白いことが、二人の間のみで完結しているような気がするのだ。だから、M-1の準決勝見たいな、集中力が途切れてしまうようなところでは、どうしても弱くなる。

 そんなAマッソへの苦手意識が、プロジェクションマッピングという手法によって見事に打ち消され、個人的に弱点と思っていた部分が補完されていた。ピーターパンに対して「あいつずーっと同意書書いてんねんで」というくだりは、普段のAマッソで出てくるやりとりからあまり外れていないと思うが、プロジェクションマッピングでそのイメージが映し出されることで、あ、この二人はこの面白さで繋がっているんだなと理解することが出来た。

 ダジャレをいって、二人は笑いあっているけれど、背景では二人が叩かれてるというくだりこそが、Aマッソの本質のような気がした。

 一番味があったネタは、にぼしいわしだった。

 好きな遊具が雲梯という設定に対して、導入で笑わせられ、その世界観に入ることが出来たが、だからこそ、雲梯を作りだした人の名前という大喜利に、山田のりこみたいな、細部で妥協してほしくなかったという思いも生じてしまう。

 題材が子供の頃ということと、にぼしいわしの2人の顔が漫画にしやすそうということもあって、さくらももこ的なファンタジーさを感じた。そこにさらに振り切ってもいいのかもしれない。

 にぼしいわしは、ネタとして、2人がきちんと、共有している面白いということを、ネタに落とし込んでいるという意味では、ものすごく好感をもて、今回のTHEWのファイナリストの中では、一番早く、Mー1のファイナリストになるポテンシャルを感じました。少なくとも、0票はちょっと腑に落ちない。 

 逆に一番、何の感情も湧かなかったのは、ゆりやんだ。

はなしょーのコントは、ヤンキールックでおばあちゃん子というギャップを描きたいということは分かるが、だったら、前半で孫がお見舞いに来るということをばらす必要は全くなく、おばあちゃんのお見舞いに来るんだから悪い孫ではないということになってしまうから、いくら良い行いをしても、そりゃあ、祖母のお見舞いに来るくらいなんだから、根が悪い子ではないだろうということになる。だから正直言うと、前半のフリ全てを変える必要があって、としえさんと話していて、何かしらあって席をはずし、そこに孫が来て、だるそうにスマホをいじっている姿を見て、同室の怖い男の彼女かと勘違いして勝手に怯えてたら、としえさんの孫だったことが分かって、どんどん良い子だということが分かるという構成にしたほうが、良いのではないかと思ってしまった。

 だから、「女審判」「銀行員」のコントをかけた吉住が優勝したのは当然と言えば当然の結果だったと思う。もちろん、ファイナリストのなかで一番愛着がある分、嬉しかったし、自分のセンスを信じていないので、優勝しないだろうなと思っていた。思わず、M-1三連単に、ウエストランドを入れそうになったくらいだ。 

 女審判という言葉は面白いのだけれど、そのいじりかたが多角的だったし、回想や、最後のセーフセーフなんかも面白すぎる。銀行員のコントに関しても、冒頭の銃声と、少しのセリフで、設定を観客に理解させることで、最後まで今から告白すると言いだし、狂っていると思わせておいて、「私たちに生きて帰れる保証なんてどこにもないんだよ」と正しいことを言ってくるところがたまらない。

 ちなみに、キングオブう大で、う大先生が「コントにおける贅肉」の話をしていましたが、それは、女審判における、中腰になるところです。流れ上、全く不要なんだけれど、コントの登場人物にとっては必然的なセリフや言動。逆にいえば、他のネタでは、笑いを取るワードや笑いを取るためのフリオチはあっても、こういうのがやっぱり感じられない。

 吉住のコントは恋愛をテーマに描くが、そこには、男性コンビ、男女コンビ、女性コンビですらもやっている、恋する女性をバカにしたり、斜めに見たり、否定するような視点が用いられていない。ただただ、恋愛感情が産みだす盲目さをストレートに演じるからこそ、滑稽さとその悲哀を描き、変な設定のなかでそれらがさらに輝く。

 それはまさにコメディだ。

 吉住が優勝したこと、Aマッソの仕掛け、にぼしいわしに気付けたことなど、ちゃんと見て良かったなあと思える、良い大会だったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ヒラギノ游ゴである。

『THEW』の直後に、以下のツイートをしていた。

 

女性芸人が技巧派なネタをやると「小賢しい」とジャッジされる、そういう男性ホモソーシャルの刷り込みに対して若手がどれだけ実力でNOを突きつけても、上の世代に"それを評価できる審査員がいない"というのが厄介すぎる

審査員7人のうち女性が2人、その2人も喜劇役者としゃべくり漫才なわけで、ここ数十年テレビタレントとしての稼働がほとんどで、モダンな設定のコントにどれだけ普段触れているのかどの賞レースでもそうだけど、審査員がライブの現場の潮流をどれだけ把握していて、モダンな設定のネタをどれだけ読解できるのかという

あと審査を、批評をするのなら、頼むから「好み」の話をしないでくれ…

それぞれの時代にキレキレにモダンなネタをやっていた女性芸人たちがいたはずで、評価されず残っていけなかったから今この審査員席があるとするなら

 

 

 ヒラギノさんは、『キングオブコント2020』の後、何もツイートしておらず、本当にお笑い好きなのかなと思ったりもするのですが、これらのツイートをきちんと読むと、全く具体的なことを言っておらず、ガワの話しかしていない。ネタの話が出来ないからじゃないかなと勘ぐってしまいます。技巧派なネタをやると、というのは恐らく、Aマッソのことだと思うけれども、ゆりやん、審査員はおろか、Aマッソに対しても失礼である。失礼なことを言わないというレベルまでアップデートしてほしいものだ。

 「それぞれの時代にキレキレにモダンなネタをやっていた女性芸人たちがいたはずで、」というのも憶測でしかない。

 ネタの話が出来ない、フォロワーの割には反応も少ないので取り上げる必要はないかなと思ったのですが、M-1でまた、適当なことを言って、そこは拡散されそうなので、一応ワクチン程度に書いておきました。TLで当日何か苦言を呈するようなことを言ってたら、あれ、良く見たらネタの話はしてねえなという視点で見てください。