石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

芽むしり的ベストラジオ2019その2(10位~1位&キラーフレーズ)

memushiri.hatenablog.com

 

続きです。

10位 「令和一発目の生放送」『爆笑問題カーボーイ(2019.5.1)』
 新元号の令和になって初めのTBSラジオで放送された番組は、通常通り『アルコ&ピース D.C.GAREGE』だった。番組は、生放送反対派というカルト集団が生まれたりしていて、まるで年越しのようなノリだった。続く『爆笑問題カーボーイ』も生放送だったが、爆笑問題だけではなく、ゲストにウエストランド、24時台三兄弟のハライチ、アルコ&ピース、うしろシティの金子、まんじゅう大帝国がぞくぞくと登場し、まるで新年会のようにただただ楽しい放送になっていた。爆笑問題が楽しければそれでいいので、ランクイン。

9位 「名跡 神田伯山を襲名するための挨拶(2019.05.03)」『神田松之丞 問わず語りの松之丞』
神田松鯉に入門してから、現在の高座名である松之丞をもらった時の思い出話しから始まった名跡の襲名にまつわる裏話という、なかなかラジオ番組でも聞けない興味深いものでもあった。名跡「神田伯山」の歴史と功績については、『絶滅危惧職、講談師を生きる』の文庫版に収録されている、長井好広が書いた「伯山に「外れ」なし___講釈師・神田伯山の系譜」に詳しいが、その文章によると、先代の伯山に遡るだけでも、40年以上前の話となる。「神田伯山」という時計が再び動き出したという寄席演芸史的にも大きな意味が出てくる放送でもあった。
 師匠である神田松鯉から、神田松之丞という名前をもらった時の話から振り返りながら、真打昇進の納会での師匠とのやりとりを話し始める。
「俺の方から、で、師匠ぉ、あのぉ、名前なんですけどって言ったら、で師匠も察しがいいからさ、んんぅって、変えるのかって、あ、まぁ自分から言うことじゃないんですけどちょっと継ぎたい名前がありましてつったら、したら、俺の言うこと全部察して、伯山かっつって、まあ、はいつって、よし、分かった、じゃあ掛け合ってやるって言って。」
 それから、松之丞は、今現在、神田伯山の名前を預かっている、先代の神田伯山の弟子で過去に講釈師だった杉山という男性と直接会って話をしたという。
 落語家の事情についてある程度の知識を持っていれば、襲名したい名跡を守っている人に譲り受けに行くということはあるのだろう、ということは知識として持っていたものの、それがどういう風なやりとりが交わされるのかまでは分からなかったが、このトークで、詳細なやり取りまでは松之丞は再現こそしなかったものの、講談業界の未来についての話をかなり熱く話したようで、 そして、松之丞が神田伯山を譲り受けることになった。
 松之丞のトークから聞いている限りだが、名前を守るということは、墓守もしなければならないということにもなるようだが、それを40年以上にわたって担っていた、しかも講釈師になるという夢を破れた人間がやるということの、伝統芸能ならではのこの出来事の重みを思うと、『クロノトリガー』での、ひとりで砂漠を森に変えたロボを思い出さずにはいられない。しかも、松鯉自身が一度、伯山の名前を譲り受けることを断られているというのであるから、まるで大河ドラマのように物語が巡っている。
伝統芸能をやる者の藝の頂点というのは、基本的に60歳から70歳と言われており、それを考えると、神田松之丞改め神田伯山を30年、いや40年以上、同じ時代に生きて、その藝を楽しむことが出来るのである。 
 ところで、この話のオチは、「伯山って名前は宗家ですから、神田派のトップの名前なんで、あの、伯山を渡すということになると色んな名前が付いてきますって言うの。したらさ、見たらびっくりしたんだけどさ、俺も、桃川 如燕っていうのは多分付いてくるんじゃねえかなって思ったんだけど、その他にもなんか凄いんだよ。えぇ、神田五山、桃川三燕、桃川燕玉、桃川桂玉、柴田南玉、桃川燕国、神田松山、神田伯鯉ってもう、色んなのついてくるの。だから、伯山をもらうとハッピーセットみたいになってくんのよ。」と、これまた寄席演芸好きには刺さるけど、あんま伝わらないような素敵なものでした。

 

8位 「武道館ライブ当日」『オードリーのANN(2019.3.3)』
 犬が飼いたいけど、どんな犬を飼えばいいか悩んでいるという通常の放送の様な入りで始まった、『オードリーのオールナイトニッポン 10周年ツアー in 日本武道館』の当日に放送されたこの回がランクイン。
ライブを振り返りつつ、ルシファー吉岡や、ギース高佐、ラブレターズ溜口らが楽屋挨拶を止められたという事件について直接彼らに電話で出演しその真相を探る。
 地方公演に出演したにも関わらず楽屋挨拶にも行けなかったこのメンバーは「怒ってはいない」とはいうものの不満げな空気が完全に出ている。特に溜口がオードリーの二人に向けて放った「そっちは、かかってるかもしれないけれど、こっちは冷静です」とオードリーに冷や水をぶっかけるところはめちゃくちゃ笑いました。
 他にも、恒例の岡田マネージャーのミス話、サプライズゲストだった梅沢登美男との裏話、後半にはどきどきキャンプの佐藤光春がブースに入ってきて、話が盛り上がった。  
 まるで後夜祭のようなとても楽しい放送だった。

 

7位 「メメント金子サーガ」『アルコ&ピース D.C.GAREGE(2019.5.1)』『うしろシティ 星のギガボディ(2019.5.2)』『ハライチのターン!(2019.5.3)』

 

 『うしろシティ 星のギガボディ』で、「ヘビメタ編み物選手権」ではなく、「メメント金子サーガ」がランクイン。「メメント金子サーガ」は24時台三兄弟の番組と、収録日と放送日がバラバラなことで起きた一大時系列シャッフル物語だった。
爆笑問題カーボーイ(2019.5.1)』の令和一発目の放送で、金子は元気がなく「お笑いをやめそうになりました。アルコ&ピースとハライチに、お笑いでぼこられました」とへこんでいたが、それには理由があり、平成31年4月30日に収録された『うしろシティ 星のギガボディ(2019.5.2)』にまで遡る。
 その放送にて、「わたし、金子。令和一発目のアルコ&ピースのD.C.GAREGEに乱入してやろうと思っております。はい、この収録終って、これまあ、三時位に終わるか。で、十時間後くらいにアルコ&ピースの生放送なんです。やるじゃない。そのまんま俺出る振りして隠れてTBSに。な、いろんなトイレとか。十時間。潜伏して、で、行ってやりますよ。何すんのとかじゃねぇよ。乱入っつってんだろ。ぶっこわしてやんだよ、全て。」と高らかに宣言し、阿諏訪に「阿諏訪ぁ、十年間ありがとな」と感謝の意を伝えるその姿はまさに革命前夜だが、この決意こそが金子学の受難の始まりだった。
 続くトークゾーンでは、金子がパクさんという子に恋をしているが、その共通の知人である女性と三人で食事をしていたら、そのお店に、はんにゃ金田、ハライチ岩井、パンサー向井が来て、密会だと思われてそうでだるかったという話をしていた。
『ハライチのターン!(2019.5.3)』の岩井のトークゾーンでは、岩井サイドのストーリーが話されたが、そこからは、金子自身がトークしていたよりも、岩井の目にはすかしている感じの金子のようだった。岩井の恐ろしいところは、「今朝多分収録、今朝だから。してると思うんだよね。うしろシティさん。だから、恥ずかしくないように言い訳とかそのラジオで気がしてるんだよね。すごい外堀埋めてってっから。これ当たってたらやばいよ。外堀埋めてってっから。あの人ね。いじらせないようにいじらせないように。え、何が。別にそんなんじゃないけど、みたいな。いじられても良いような感じに、いじられてもダメージないですよみたいな感じにしてるとは思うんだけど。星のギガボディのリスナーさんね、金子さんが言ってること全部ウソですから。」と看破し、「でも例えば、この後おれらがD.C.GAREGE出るとしたら、その話するわ。金子さん来るんでしょうから。ああ、だったら俺らのほうが先手になるから、これもう将棋だから。指し合いですよ。」とさらに先を考えていたところである。
 『アルコ&ピース D.C.GAREGE(2019.5.1)』でひとしきり令和になったことを楽しんだ後に、平子がブースの外にずっといたうしろシティの金子を呼び込む。
しかし、明らかに無策の金子とアルコ&ピースはスイングせず、無茶振りをされても全く爆発しない時間がしばらく続き、ついには、ハライチもさらに飛び込んでくる。
岩井はそこで「金子が女性二人と食事していた話」をし始める。
 『ハライチのターン!』で語った岩井の策略をまだ知らないリスナーからすれば、岩井の話は突然ぶっこまれたただの暴露トークだが、この全ての放送を聞いたリスナーとここまで読んだ方には、これがもっと深い意味を持った攻撃であることが分かる。 
CMが明けても「俺らって面白くないからとか、俺なんもないからとか、自分で言って、ちゃんとしたいじりさせないような感じのところ、金子さんってあります。」「それで致死量のダメージを受けないようにしてい」と、刺し続ける。
 『爆笑問題カーボーイ』に、すでに満身創痍の金子が登場し、最終的には太田に前田ビバリーヒルズに改名させられる。
 時系列的には『星のギガボディ』、『ハライチのターン!』、『D.C.GAREGE』、『爆笑問題カーボーイ』だが、放送日の関係上、『D.C.GAREGE』、『爆笑問題カーボーイ』、『星のギガボディ』、『ハライチのターン!』と時系列のシャッフルがなされ、そのことで、うしろシティ金子が女性と飲んでいるのを芸人仲間に見つかって、ラジオに乱入して爪痕を残そうとするも、無策すぎたのでぼろぼろになった話が、一人の革命を起こそうとした男が、ぼこぼこにされて、前田ビバリへと改名させられるまでの、まるで時空をさまようカート・ヴォネガット作品のようなサーガへと変貌した放送だった。

 

 

6位 「アンガールズ田中ゲスト」『オードリーのANN(2019.7.28)』
 お笑い芸人のラジオに、一線級で活躍している同世代の芸人がゲストに来る時は、普通は、熱い話になるものだし、いやが応にも期待してしまうのだが、この回の若林と田中は一切そんな話をせず、ずっと若林が自分にタメ口を使うのはおかしいというタメ口問題や、NONSTYLE井上は「この世の最低品質の男だと思ってる」と言い放ったり、南海キャンディーズ山里は「合コンでの振る舞いが卑怯だ」と方々に悪口を田中が言いまくったりするのを、若林が上から殴りつけるようなツッコミをして、ただただ笑えるだけの話をして盛り上がっていた。そんな田中と若林のフルコンタクトで60分以上行われた殴り合いは、間違いなく2019年深夜ラジオでのベストバウトだった。
 この週は、オードリーの春日が、大会のためにお休みということで、若林の一人喋りから始まった。その話の一つに、合コンに行った話をしていたが、改めて聞けば、若林が結婚相手と出会った話であり、コンパそのものは負け戦だったように話しているが、実は電撃結婚の伏線となっていた。
 話は独身男性の悲哀についても移るが、そこでの田中が話した二つのエピソードが秀逸だった。
 「(なか卯で食事していたら)一回、夜中に停電なったの。なか卯でおっちゃんと二人で。ばーっと消えて。外見たら、外の電気は点いていんの。だから、なか卯だけブレーカー落ちてんの。俺、食べてた和風牛丼が見えなくなって。うって。したらおっちゃんが、『すいません、ちょっと今電気つけますんで』つってうろちょろしはじめたの。ブレーカーを探し始めたんだけど、どこ探してもなくて最終的に俺んとこ来て、すいません、スイッチどこかわかりますかって。いや、俺もわかんないけどつって、いちおうそっちバックヤード入らせてもらって良いですかつって。バックヤード入って、多分そのなんか更衣室みたいなとこにありますかなつって言って、入って、したら鉄の扉みたいなのガチャってあけて、俺ブレーカーあげてあげたの。」
 「俺はね、もう、ほか弁とかさぁ、なか卯とかでさぁ、テイクアウト、よし、今日これ食べようって嬉しく、嬉しく持って帰って、玄関とかでその夫婦(ロバート山本)に会ったらさぁ、急にその弁当持っていることが悲しくなってくんの。さっきまですげー良いモノだと思っていたものが、すごい価値低いモノに感じて、俺、太ももの裏にそれ隠したんだよね・・・・・・。」
 まだまだ、田中無双は続きそうだと震える放送でした。 

 あ、田中さん、テレビ越しではありますが、お年玉ありがとうございました。

 

5位 「くりぃむしちゅー上田晋也ゲスト」『オードリーのANN』

 あまりにも、この回が良すぎたので、すでに「『ガゼッタ・デロ・オワライーノ』~『オードリーのANN ゲスト:くりぃむしちゅー上田晋也』感想~」にて、『くりぃむしちゅーのANN』のいちコーナーの「ガゼッタ・デロ・オワライーノ」をパロディにして感想を書きなぐってしまったので、そちらも読んでほしいですが、どうしたって、くりぃむしちゅー上田晋也とオードリーのがっぷり四つという出来事は、豊島公会堂での「ギャグコレクション」をはじめ、初回の放送に話題が出てきたことなどを含めてどうしたって、文脈やエモを感じずにはいられないが、そこに振りきることなく、ずっと笑っていた最高の回でした。

 

4位 「鬼越トマホークゲスト」『爆笑問題カーボーイ(2019.11.12)』
 この年の『27時間テレビ』で因縁が出来た鬼越トマホークがゲスト出演した回がランクイン。だが、まずその前に、OPトークも絶品だった。太田が『ファミリーヒストリー』に出演した話をしていたのだが、その中でひとつのエピソードを披露していた。
それは、太田の母が勤めていた会社の社報に、社員の紹介が載っているが、他の社員の良いところが書かれているが、太田の母だけはあまりよく書かれていなかったが、実はそれを書いていたのは太田の母だったというエピソードが話された。
そんなシニカルを眩しすぎた愛を振りまく様子はまさに太田光の源泉であった。
 それから登場した鬼越トマホークの二人は全てがひどくて最高だった。
全員の悪口をいう鬼越の二人とそれに乗る爆笑問題の二人というそのグルーヴたるや、凄まじかった。道路に飛び出して愛を告白する武田鉄矢も跳ね飛ばすほどのブレーキの壊れたトラックに煽り運転をされる爆笑問題。まさに、煽り煽られラジオ。
あまりにも面白かったのだけれど、鬼越トマホークの未来のために、デジタルタトゥーとしてインターネット上に残ることは避けたいので、書き起こすことは避けます。
書き起こしサイトもradikoのタイムフリーもエリアフリーもないような時代に逆走するような何も書き起こせない放送がこんなに面白かったのに、なんで、こんな順位かというと、このベストラジオの判断基準のひとつに、どれだけ感想を書けるかというものがあるので、文字数の面から減点となった次第です。
 言えるとしたら、ジョニ男をちょっと嫌いになりました、くらいです。
 それからすぐに、「タイタンライブ」に鬼越トマホークのゲスト出演が決まった。その前に、ぜんじろうが出演するということが決まって、本当に落ち込んでいたのだけれども、これは、もうビートたけしのいうところの振りこの理論というところで、俄然、やる気が出てきた。タイタンライブ当日、ぜんじろうは、前回人情話をやっていたことを受けて爆笑問題に禁止と言われたようで、笑いで勝負するしかなくなって、結局最悪だったのだけれど、その後の鬼越の喧嘩を止めるくだりでギリありということにしました。
 鬼越トマホークの喧嘩を止めたぜんじろうに向かって「お前今のお笑い界に必要ねえんだよ」「そんなこと思っていないと思うんですけど社長との癒着だけでライブ出てるんで、もうちょっとウケてもらわないと困る」
 エピグラフは、<「それ喧嘩だ」「浪人組同志だ」「あぶないあぶない、逃げろ逃げろ」‥‥『二人町奴』国枝史郎>。鳥肌が立つほどにぴったりである。
 観客全員が鬼越の喧嘩をぜんじろうが止めるのを期待しているなか、EDもいつもよりタイトで、あわや無しか!?という空気の中で巻き気味で鬼越の喧嘩が始まって、よし!となったら、ぜんじろうが止める前に太田さんが鬼越の喧嘩に入ってったのは、この僕でもさすがに、太田さん違うだろ!となりました。
 悪口の数々は、ライブを見た人だけのお楽しみなので、詳しいことはお教えすることはできないが、聞くことが出来なかった人のなかには「ライブだから、ラジオよりも過激だったのだろう」と思っている人達がいるかもしれない。そんな方々に言えることは、悪口を言う相手の範囲が広まっただけで、ほぼラジオと同じ威力だったということです。

 上位の発表前に、2019年のラジオでも、キラーフレーズがいくつも産まれました。既に紹介したなかでいうと、匿名希望の「MONGOL嘘八百の小さなコアの歌」、アルコ&ピース平子の「デブのラジオにガリがやってきた」、爆笑問題太田が医者に出された三つの単語「猫、桜、電車」などがそうでした。
 その他の印象深いワードを紹介したいと思います。
 「ドリームエンタメラジオ」は、佐久間宣行が自身の番組『佐久間宣行のANN0』を、半ばギャグめかして称した言葉だけれども、テレビ東京のプロデューサーであることの利と人望を活かした、伊集院光やオードリー若林などの豪華なゲストと、そのカルチャー紹介っぷりに、あながち間違っていないことになってしまった言葉です。
 空気階段水川かたまりの「いったん、ジングルください」は、『空気階段の踊り場(2019.9.14)』にて出てきた発言。もぐらが、奥さんとの約束を破って携帯を没収された話から、そのことでライブで遅刻してかたまりだけでなくほかの出演者に迷惑をかけ、しかもライブ後にも自分に謝らなかったことなどでそのときもムカついたが、あらためてトークすることでブースでどんどん怒りが再燃してきたかたまりがクールダウンするために放送中に何度も言った言葉。改めて、もぐらがクズで、他人の心に石を積む人間であることを痛感させられた放送だった。
 オードリー若林正恭からは、『佐久間宣行のANN0』に出演した際にリスナーからinstagramに長文を投稿したことをいじるメールが来たさいの「有楽町で受け身取ると思うなよ」、「敵はこんな近くにいたか、こらあああああああ」、斜に構えていることを意味する「ハスってる」などが産まれた。
 同じく、『佐久間宣行のANN0』にゲスト出演したテレビ朝日のプロデューサー加地倫三の、『水曜日のダウンタウン』のお笑いコンビななまがりが新元号を当てるという企画の視聴率が9.4%だったことを受けての、「馬鹿でしょ。国民。」もありました。
そんななかで同率1位となった二つはこちら。
 爆笑問題の太田が、『サンデージャポン』で悲惨な事件を受けてピカソの話をしたが、そのことを神田松之丞が『問わず語りの松之丞』で、太田の評判があがったことをやっかんでか、散々いじったトークを受けて、「あいつはヤなやつだなぁー」「傷ついたわ、おれほんとに。俺ほんとに真面目に話してるのさ」と太田の返しのオチとして言った発言「人間として不良品だと思ったね。あ、これいうと炎上しちゃうんだよね」。みなまでは、い合わないが、太田の得意分野である時事ネタで全てを乗り越えた瞬間であり、ファンとして震えた一言でした。
 『深夜の馬鹿力』での長年、伊集院光の親友兼放送作家として、ブースで笑い声を響かせていた構成の渡辺くんが番組を卒業するとなかなか衝撃的なニュースがありました。その渡辺くんがブースにいる最後の放送の終りに、ナレーションとして流れた「というわけで、渡辺くんは機械の身体をもとめて、999で旅立って行きました。いつの日か渡辺くんが何処かの星で色々あってなめ茸の蓋にされるその日まで。渡辺くんFOREVER。銀河鉄道よ、永遠に。」は強く心に残りました。
 
3位 「覇王の帰還伊集院光ゲスト)」『佐久間宣行のANN0(2019.6.19)』
 伊集院光の『とらじおと(2019.05.14)』に、ゲストとして、テレビ東京のプロデューサー佐久間宣行がゲストとして登場したことをきっかけに、佐久間がパーソナリティを務める『佐久間宣行のANN0』に、伊集院光がゲスト出演した回。
 『とらじおと』と、その出演のあとに『とらじおと』にゲスト出演したことを振り返りいがら裏話をしつつ、伊集院光への思いと思い出を話していた回(2019.5.16)もとても熱くて良かったが、その流れで、伊集院光が『佐久間宣行のANN0』に出演したのだから、「昭和最後平成最初のANN水曜2部が伊集院光、平成最後令和最初の水曜2部が佐久間宣行」という文脈を抜きにしても、面白くならないはずがない。
 覇王なのに、伊集院はフルスロットルで、ニッポン放送への恨み節や悪口をぶちまけつつ、お笑いナタリーの記者と化した佐久間が伊集院光のラジオ観を引き出してくれる。
 「最近おんなじだろって思ったんだけど、朝と夜のラジオの決定的な違いってものい気付いて、まだTBSで発表してないだ、やってる当時のところだから、朝のラジオって取り組み方ね、性善説で取り組まないとなんか始まらなくて、いろんなことに違和感を感じても、この人良かれと思ってやってんだろってところからアプローチしないと、そのゲストの人とかに対せないって、夜のラジオって性悪説っていうか、なんつーの、ちょっとした違和感を、覇王って言われてることを、バカにしてるよね・・・・・・っていうトーンでいかないと、話広がんないでしょ。」など、『大竹まことのゴールデンラジオ!』にゲスト出演した回と合わせて、普段のラジオの答え合わせをしているような気にもさせられる言葉などを聞くことが出来た。
 また『深夜の馬鹿力』を立ち上げた永田守プロデューサーの話などは、ゲストに出た番組でしか聞けないものだったが、上柳昌彦の乱入などもお祭り感があって昔のしくじり話を言い合うのもあって、ラジオの過去と現在と未来が混濁した素晴らしい放送だった。

 

2位 「とんだ大バカ変態野郎がフライデー報道された」『オードリーのANN(2019.4.28)』

 『ニンゲン観察バラエティ モニタリング3時間SP(2019.4.18)』にて、オードリー春日の感動のプロポーズが放送された。日本全国で、リアルタイムで見られていたと思うと、この場で大正解だったと思っている。その番組を受けての『オードリーのANN(2019.4.21)』は、お祝いムードで、暢気にどこに家を建てるかなんて話をしている放送だった。なかでも、若林が話していた、南海キャンディーズの山里が若林に「また、ステージ上げやがったな」という連絡をしてきたという、蒼井優と付き合っているにも関わらず、やりにいっていたということは強く刻みつけたいと思います。
それからしばらくして、平成ももうすぐ終わるという時に、春日がフライデーされるという事件が起きた。お通夜モードで始まった、『オードリーのANN(2019.4.28)』だったが、10分を過ぎたあたりから、若林の怒りが沸点を迎える。
 「おれね、今までね、今までそのワイドショーのコメンテーターのオファー来たけど全部断ってんのよぉ。自分の善悪の判断に自信がないから。分からないからぁ。まともな人間じゃないと思ってるから、自分が。全部断ったんですぅ。ワイドショーのオファーはぁ。わかっ、自身が無いから。人のことを言うほどの人間じゃねえから。そぉれを、おまえ、このラジオだって、おまえ、ニュースとか時事ネタ喋んねぇでやってきて、敵はこんな近いとこいたか、こらああああああああああ。」と若林は咆哮したが、激昂しすぎた自分を反省し、キャップかけをする。
 それから、実はこれまでのやり取りを狙女のクミさんに聞いてもらっていたということが明かされ、クミさんと電話が繋がる。そのやり取りでの、クミさんの「諸悪の根源のパラダイスぅ」と若林の「時代に合わせろ、チャンネルをぉ」というキラーフレーズが出つつ、春日はクミさんにいくつかの約束をして謝罪し、とりあえずの解決を見せた。
 その後の若林のトークゾーンでは、『モニタリング』のロケで、春日の出身地である埼玉県所沢市に行って、皮肉なことにオードリーを振り返るような場所も寄るなかで、春日がずっと意気消沈していたトークをしていた。そんな状態だったが春日唯一テンションあがったのは、倉庫でキン骨マンとイワオのキン消しを見つけた時だったという。
 そのことを、クミさんに報告したときの、クミさんの返し「そんときは、キン骨マンとイワオだけの世界に入れたんでしょうね」は、若手芸人だったら、すぐに営業三つ入ってくるくらいの達者なものでした。
 『内村&さまぁ〜ずの初出しトークバラエティ 笑いダネ(2020.1.1)』にて、この放送で出ていた、春日がフライデー直後に若林の家を訪ねた話のさらにこの舞台裏の話をしていた。若林は「全部仕事無くなるだろうな」と思ったし、若林の家を訪ねた時に春日は「モニタリングの製作費を全部払って、芸人辞めます」と話していたほどにパニックになっていたという。
 それを聞いて、当時、あんまり真剣に受け止めていなかったけれども、一歩間違えたら、大変なことになっていたんだなと思いました。だから、一応言っておきますけど、フライデー、別にお前らのお陰じゃねえからな。

 

1位 「駆け抜けてもぐら」『空気階段の踊り場(2019.4.6)』

 詳しくは、すでにこのブログにて、エモいという二文字で済むことを、7000文字かけて「鈴木もぐらの恋は永遠、愛はひとつ。」という記事で紹介したので省略するが、空気階段の鈴木もぐらのその時間をかけた人生の伏線回収っぷりとクズキャラなのに口が固すぎるというその信念の重さに驚き、放送に感動したことなどから堂々の2019年のベストラジオといって間違いない。その後に、念願の『キングオブコント』にも出場、お笑い第七世代にくくられてネタ番組でも頻繁に見かけるようになる、水川かたまりが結婚するなど、昨年よりもまたもや空気階段を楽しむことが出来た一年だった。
 2019.12.14に放送した『空気階段の踊り場』では、番組イベント『空気階段の大踊り場』にてシークレットゲストである銀杏BOYZの峯田が出演したパートが放送されていたが、そこでの峯田ともぐらのやりとりがとても良かった。
 当時のもぐらの印象や思い出話をする峯田だったが、それにつられてもぐらから話そうとすると、峯田は「なんだよ、だから。いいんだよ、昔のことなんてもうわかんねえ、もう。もうこうなったら関係ないからね。おなじ、もう、あれだから。ジャンルは違うけど。もう、もうあれだよ。関係ないよ。昔どうだったとか、ね、憧れだったとか関係ない、同じ台、板の上に立ったらもう関係ない。俺はもう、こう(ファイティングポーズ)だからね。」と、同じプロとしてのバチバチ関係にあることを宣言する。だからもぐらとも普段会っていない峯田は、「連絡もしないしさ、くさいし」とべたべたした、なあなあな関係を拒否すしつつ、「だから、一千万超えたら、借金が、来ていいよ。首くくる直前。指ももう一本くらいしかなくて。いよいよ、全部やられて、もう一本しかないって時は来ていいよ。そんときはもう飯おごるよ」と話す。
 そして、もぐらのリクエストとして「夢で逢えたら」を弾き語りして歌い、万雷の拍手のなか「これからもほんと、すいません、僕が言うのもあれですけど、空気階段を末永くよろしくおねがいします」と言ってくれた。
 空気階段爆売れ前夜はもう少し続きそうだけれども、夜明け前には夜明け前の美しさがあるように来年もきっと楽しませてくれるはずだ。

 冒頭にも書きましたが、2019年のラジオはほんとうに面白い年でした。「ラジコフェス」もめちゃくちゃ楽しかったですし、まだまだ話足りないです。特に、上半期が濃密過ぎたのですが、単にドラマ性やハプニングだけじゃなく、純粋に笑える話なども多くて、リスナー冥利につきる一年でした。なかでも、総合優勝は、『オードリーのANN』です。バランスを考えて、若林がサプライズで結婚を報告した回を外したくらいです。こんなに、面白くて、グッとくる、ドラマチックな一年になるとは夢にも思いませんでした。明らかに、オードリーの第二章が始まっています。


 最後にワーストラジオですが、ネタに出来るもので言うとその期待値が高かったがゆえにスイングしなさを感じてしまった『トム・ブラウンのANNR』、まじのやつでいうと、全てを履き違えていた『弘中綾香のANNR』です。
 2020年には、『マイナビラフターナイト』の月間チャンピォンになったことでお試しでラジオをやって良かった宮下草薙のラジオや、『ANN0』枠をやったchelmicoのラジオも始まりますし、それだけではなく、『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』の真の最終回も期待してしまいますし、まだ目をつけられていないラジオスターが出てくるかもしれないと思うと、まだまだラジオ聞いちゃいますね。
 2019年から2020年の年またぎは、令和と同じく、火曜日の深夜だったのですが、20時から24時をハライチメインで、24時から25時までアルコ&ピースが、25時からは爆笑問題が担当という、好きが繋がったものでしたが、そのなかで、ハライチ岩井の「普段言わないけど、爆笑問題が一番好きなんだよ」とアルコ&ピース平子の「爆笑問題、若手好きがち」でブースが笑いに包まれるということがあっての、『爆笑問題カーボーイ』のタイトルコールを、爆笑問題と24時台三兄弟でやるというのには、じーんと来てしまいました。そんなんで始まった2020年のラジオ、面白くならないわけがありません。
 それでは、今年も頑張っていきましょう!

 ここまで読んだあなたは偉い!

 

 

 

 

 

 

2020年の目標です。
・投稿を再開する。
・お笑いについて以外は極力ツイートしない。
・同人誌2冊目の完成、noteの稼働
愛媛県に行く。
フェミニズムについて勉強する。
・「人を傷つけない笑い」などの粗い表現を憎みながら、人を傷つけないツイートを心がける。
twitterでしくじらない。
よろしくお願いします。

昨年は今回の記事も合わせると多分5万字くらい書いた気がします。もしかしたら、ブログの更新自体は少し減るかもしれませんが、今年もよろしくお願いします。
ハスらずに、かかってるくらいの感じで。

芽むしり的ベストラジオ2019その1(20位~11位)

 2019年は、テン年代の締めくくりとばかりに、ひいき目にみても、ラジオの面白さが異常な年でした。特に、今年10周年を迎えた『オードリーのANN』はさまざまな事件やイベントが起きましたし、『爆笑問題カーボーイ』も普段のトークもただただ面白い回や大事な話をしている回があったりして、いずれもリスナー冥利につきる一年でした。
 それとは別に何と言っても、『佐久間宣行のANN0』は、ゲストが豪華で、そこで聞けたお笑い話は垂涎ものだったことを始めとして、年始には想像できないことがたくさんありました。そんななかで、私的なベストラジオを選びましたので、改めて聞きなおすもよし、聞いていなかったものはなるべく合法的に聞いてみるもよしという感じで年始の暇つぶしになれば幸いです。

 

20位 「ウチらにまかせてやカルタあがり」『伊集院光 深夜の馬鹿力(2019.2.25)』
 『日曜JUNK クワバタオハラのウチらにまかせてや』は、『深夜の馬鹿力』のコーナーの、「新・勝ち抜きカルタ合戦 改」のお題の一つで、クワバタオハラがJUNKの日曜日を担当した場合、どういう放送が行われているのかを、あ行からわ行までの読み札をリスナーが考える。
 むちゃくちゃな偏見を言っていたり、健康食品をステマしてくるなど、リスナーから送られてきたクワバタオハラに関する完全な嘘、だけれどもリアルに想像できてしまい存在しないのにムカついてしまっていたクワオハカルタが、わ行に到達し、無事ゴールイン。
 テレビ東京のプロデューサーの佐久間宣行にも大きな影響を与えたという、伊集院光が生み出した架空のアイドル「芳賀ゆい」。その、存在しないものを、あたかも存在するものであるかのように構築していくという意味では、ラジオ番組『日曜JUNK クワバタオハラのウチらにまかせてや』は平成最後の芳賀ゆいだったのかもしれない。芳賀ゆいの活動期間が平成元年に産まれた事を考えると何とも味わい深い。
そのカルタが、わ行まで到達し無事ゴールインした時には、妙なカタルシスを覚えました。
 電柱理論というペンネームで採用された例でいうと「マシンガンズの滝沢くんに会った時に聞いたんやけど、うちの地区やと、ディルドは燃えないゴミで、ペニバンは、ベルト部分は燃えるごみで、ペニス部分は燃えないごみとして分別しないとあかんねんて。」や「夕飯何食べたいか聞かれて、何でもいいっていう男は、事務所が決めた雑なキャラに適当に乗っかって、さんま御殿で爪痕残そうとしてさんまさんにマジで叱られる、みちょぱの後釜狙ってる図々しい読モくずれみたいなんとお似合いや!」があります。
 昨年は、四月以降まったくメールを送れなくなってしまったので、今年は復活させていきたいなとひそかに決意しています。

 

19位 「空気階段ゲスト」『爆笑問題カーボーイ(2019.6.12)』
 タイタンライブにゲスト出演することが決まったものの、トリプルブッキングとなったことで、タイタンライブのエンディングに出られないため、急遽ゲスト出演が決まった空気階段が、『爆笑問題カーボーイ』と『空気階段の踊り場』のディレクターが越崎恭平だから実現したことであり、なんとも素晴らしい越崎マジックだ。
 空気階段の二人は、もぐらは太田光が書いた『カラス』を持ってきていて、神田松之丞にもいじられたピカソについて書かれた部分を朗読して蒸し返したり、かたまりがラジオブースに突然カレーを持ってきた話や、かたまりがタインタンシネマライブの上映館を暗誦したりと準備してきた鉄板ネタを披露し、爆笑問題に芸人としてぶつかる。それを爆笑問題が受け止める。最高のがっぷり四つだった。
 空気階段のかたまりは、大学になじめず、二カ月で中退し引きこもっていた時にずっと『爆笑問題カーボーイ』を聞きながら、『パワフルプロ野球』で選手を作る生活をしていたという。「パワプロで、ほんと太田光とか田中裕二とかつくってました。太田さんピッチャーで、田中さんキャッチャーで」という良い話の中にも笑いどころをつくったかたまりに対して、田中は「でも、俺本当はピッチャーだからね」と言いのけ、それに負けじと太田も「俺も本当はレフトだから」とかぶせて、大ファンだというかたまりに「あ、そうなんですね」と言わせるのが何とも爆笑問題だった。
 ハイライトは、太田が「賭け麻雀しているしな」に、コンマ一秒ずれなく、やっている奴らの間で「やってないよ」「やってないすよ」という田中ともぐらのユニゾン

 

18位 「伊集院光ゲスト」『大竹まこと ゴールデンラジオ!(2019.1.17)』
 文化放送大竹まこと ゴールデンラジオ!』の放送3000回記念の「大竹メインディッシュ」のゲストに、伊集院光が登場した。伊集院が『とらじおと』を引き受けた理由は幾つもあるがそのなかで一番大きな理由が、あの大竹まことが昼をやっていて、しかも続いているからだったと話す。
 大竹の「テレビのあのタイトさ、短い間でパンパンパンこれ俺一生続くのかと。年取ったらキレ悪くなるわけよ。おしっこと一緒でさぁ。どんどんキレ悪くなって。この番組はあたまコマーシャルも入れずに、だらだらだら、もう、どぉーっでもいい話をね、30分もしてるわけよ。」というラジオ観に伊集院は同意し、「(テレビを)否定はしないんだけど。よく、例えで言うのは、えぇ、知り合いのお葬式にきたお坊さんの頭が蚊に刺されてて乳首みたいだったって全部入りじゃないですか。ほんとに好きな人の葬式だから。そこ目行くたびに笑うとこじゃないしみたいな話ってラジオだけしかできないでしょ。ずっとしてる。どっちともつかないようなやつを。それはちょっとラジオだけだな。」と話す。
 そこから伊集院の「この先、どうありたくてもちょっとずつ壊れてはいきますでしょ。物忘れとかどんどん出るようになりますよ。今それが楽しい」という発言から、大竹が番組中に遠野なぎ子に「お前誰だ!」と叫んだ話になり、話題は「ポンコツになっていく」ということに移っていく。
 ポンコツになるということを、伊集院は「途中のステップのときのキツいときと、あ、これで良いんだという繰り返し」と定義するが、光浦靖子は「伊集院さんは、忘れることをずーっと恥じて、ずーっと悔しがっててほしいし、死ぬまで。そしたら、ハタから見たら伊集院さんの憧れの、やっぱり一番頭のおかしい人だって私達は思うの。ホンモンだって。」と、悔し涙を80歳くらいで流してほしいと話す。
 伊集院は、最近「いつかは深夜ラジオをたたむ」と話し、リスナーを切ながらせたりもしているが、せめて、「ラジオはちょっとそれ一緒にみんな付き合ってくれる。結果何にも起きませんでしたでも、ま、甘えかもしれないけれど、許してもらえる」と話す58歳の伊集院光が、「聞いてる人にほんとに頼るよね。聞いてる人にね、頼るというか寝そべるというか、添い寝みたいな感じだね」と話す70歳の大竹まことの境地に辿りつくまでの過程を追い続けさせてほしいと切に願ってしまう放送でもあった。

 

17位 「加地メタルジャケット」『アルコ&ピース D.C.GAREGE(2019.6.5)』

 きっかけは『佐久間宣行のANN0(2019.5.23)』にて、翌週にゲスト出演することが決まっているテレビ朝日のプロデューサーの加地倫三の話から、『アメトーーク』の収録に参加したアルコ&ピースの平子が、番組のふるまいがあまりにもひどかったがために、プロデューサーの加地に、20分ほどブチ切れられたという、通称加地メタルジャケット事件のエピソードを話したことだった。
そして、『佐久間宣行のANN0(2019.5.30)』に、加地がゲスト出演し、その真相を語った。
 「『アメトーーク』の「猫舌芸人」っていう回で、あのねぇ、平子るって言うんでしょ。普通の人が聞いても何のことを言っているのか、全く分かんない例えを、ずーと終始それを言うのよ。なんかねぇ、俺、見直したのよ、実は。しかもオンエアじゃなくて、素材を。苦痛だったよ。そしたらね、なんだっけな。カニクリームコロッケが熱いって話をね、地球のコアなんだっていうの。それが流されるじゃない。その後も何回も何回もコアコアコアコア言うのよ。それでまた違う例えをしたのんだよね。なんかね、イタリアのサッカーのトッティーだみたいな、また突然難しい例えを言ってきて、さすがに宮迫君がしびれを、限界が来て、もうコアとトッティーの例えはやめてくれって。そのツッコミも、コアが受けてないから、そのツッコミも正直滑ってんの。でも、その後もまたコア言うのよ。で、それでフロアずっとイライラして、平子が喋るたびに、お客さんだんだん引いてくのよ。それが分かるから、もぅ、ほんとにこれはダメだなと思って、終わってからまぁ、マネージャーが有吉と一緒のよく知ってるっていうのもあって、昔から、あれ、こんな感じだったっけ平子ってって。で、本人帰る前にエレベーターの前で、え、いや、え、何であんなこと言うんだい、普通に笑いを取ることは出来ないのかい。そうそれで四年くらい立つのかな。」
 これが、加地メタルジャケットの真相ということで、今回の放送に、平子をブースに呼ぼうという話に当然なって、佐久間が調整して全てオッケーになったが、平子はモンゴルにいるということで結局来ることは出来なかったという綺麗なオチがついた。
 そして迎えた、『アルコ&ピース D.C.GAREGE(2019.6.5)』。しかし、番組開始20分以上通常放送をして、リスナーが痺れをきらしそうになった頃に、平子が「気ぃ使ってんの」と酒井の笑い声で、トークが始まった。平子が概要として説明した「デブのラジオにガリが来たんですよ」はクリティカルだった。
 それから、酒井からの「チキって(怯えた)、モンゴルに行ったわけではないですよね」という確認もありつつ、平子サイドからの「少し仕事が減った時期で、爪痕を残そうともっとむちゃくちゃしていたので、加地の話は少しマイルドになっている」という真実が語られた。もちろん、リスナーからのメールもたくさん届いていたようだが、その中で震えたのは、匿名希望からの「平子さーん、MOGOL嘘800の小さなコアの歌、歌ってください」だった。
 最終的にA級戦犯は、佐久間だということになって、加地メタルジャケット真相編は幕を閉じました。
 アルコ&ピースの平子にとって2019年は、このことをきっかけに、「平子る」という言葉がテレビに輸出され、オードリーの若林には『しくじり先生』の「お笑い研究部」でその平子りのマスクを剥がされかけたり、『アメトーーク』に再び出演するようになったりと、また違った魅力が引き出された一年だった。

 

16位 「お好み焼き屋」『神田松之丞 問わず語りの松之丞(2019.4.26)』
 神田松之丞が、仕事帰りに妻とお好み焼き屋に行ったトークを始める。夜の9時過ぎに入ったお好み焼き屋には三人の先客がいて、最初は夫婦と子供の三人家族かなと思ったが、母親と思しき女性が子供に向かって言った「あたしが殴ったからって児相(児童相談所)言ったろ」という言葉が気になって、松之丞は盗み聞きしていくうちに、どこまで正確かは分からないが、母親は風俗嬢で男性は太い客だろうと推測する。
 母親は子供に「ほんとこいつ(子供)さぁ、あたしの金で食ってんだよぉ。児相につれてかれたって、世間はね、なんだかんだ偉そうなこと言って、綺麗事ばっかり言うけど、金なんか出してくんないんだから。あたしが育ててんだから。分かるか、え、分かるか。」と言う。男はタダで母親を抱きたいからなのか、子供にも媚びを売るように理解を示している振りをする。子供は母親にそんなことを言われてまでも甘える素振りを見せる。
 もちろん、フィクションではないので、この話にはオチもなく、彼女たちが店を出て話は終る。それがまたリアルだった。
 松之丞は『小幡小平次』を引き合いに出していたが、二元論で判断できないような人間のグロテスクな部分が芬芬と匂ってくるまさに講談のようなトークだった。

 

15位「チルアウト論」『東京ポッド許可局 (2019.3.19)』
 マキタ局員の「チルアウトって言葉知ってますか」という問いからはじまったこの回は、単純にまとめることが出来るような放送ではなかったが、かなり示唆に富んだトークになっていて、放送されてから何度も聞きなおしたりした。
 チルアウトというのは、身体を休めるときに聞くような音楽を表す言葉なのだが、そこは東京ポッド許可局、音楽についてではなく、現代を「情報多すぎる」「面白すぎる」「美味しすぎる」などの「すぎる時代」だとし、様々な情報の受け取り方について話していく。
 特に、サンキュータツオの「コンテストも手数多い、多めじゃないですか。で、えっとそれがひとまず落ち着くと、今度、情報削ってくっていう時代に入っていくと思うんですよね、人はね。受け皿となるような芸能というか、多分あるんだろうと。で、音楽におけるそのチルアウトっていうのは、そういう受け皿になってんじゃないですか。バラードとかね。」、「ゆるいっていうのは、ゆるいのは目が粗いの。そもそも作ったはいいものの、粗いの」、「チルっていうのはやっぱ情報の断捨離がそこにあるんだよね。もっといけるんじゃないかって思うんだけど、とりあえず抑えとみたいな。なんかそういう感じのねぇ、ギリギリでふんばってる感じっていうか。」という発言はかなり心に残ったが、なかでも、特に、「情報の断捨離」というワードを強く意識してみようと思った放送だった。

 

14位 「尖った笑い論」『東京ポッド許可局(2019.10.14)』
 もともと、お笑いについて語って良いという場を与えてくれたのが、東京ポッド許可局での「M-1グランプリ論」だったりするわけだが、いつしか、彼らはお笑いを論じることは少なくなっていった。影響下にある自分にとってそうなることは寂しくもあったが、しょうがないことでもあるだろうと思っていた。
 しかし、ここにきて急にお笑い語りを振り返るような放送をしていたのはとても意外だった。
 『アメトーーク』や『ゴッドタン』で、お笑い語りが企画として成立していたり、ナイツの塙という現役漫才師が漫才について書いた『言い訳』が売れているという2019年の現状を振り返りつつ、J-POPでも同様なことがおきているということを話すマキタは、これを良いことなのか悪いことなのかは置いておいて、成熟なのかと、タツオに尋ねる。それに対して、タツオは「そういうものが表に出てくることで、一個ステージが進んだかなっていうことはあるんですよね。まあ、それ野暮ですけど、まあ、手品師が手品のタネを発表して、で、シェアしてもうじゃあ次どの手があるかつったら、タネは分かってんのに何度見ても見事な手品か、やっぱり見た事のない手品の二種類が残ると思うんですね。で、そう考えると、どぶろっくの優勝っていうのは、揺り戻しというよりはタネが分かってて、一個フィルターが入ってるんですよ。つまり視聴者が普通の下ネタとして受け止めて笑ったんじゃなくて、下ネタかよ(笑)が入ってんですよ。だから、つっこめるんですよ。下に見れるんですよ。安全で笑えてるんですよ。」と答える。
 プチ鹿島の「お笑いが特に好きじゃない文化人とかが、何で尖った笑いをやらないんだ」と言ってくる問題に対する「お前、お笑い好きじゃねえだろ」というもっともな、でも触れざるを得ない指摘などもあったが、タツオの「オシャレな言葉のやり取りや、構造主義的なそのネタの構成、あとは、単純にネタの良しあしってことも含めてですけど、シチュエーションものとか。そういうのは、演芸ってジャンルにどんどん組み込まれていくと思う」という予見が興味深かった。
構造主義という言葉について、くしくも、今年のこのブログでの『キングオブコント』の感想に、「面白さやコントの未来という意味において、これまでの大会に引けを取らないのですが、あまりにも、多層的な構造のコントが全くもって通じなくなってきているというのを感じました。一般的には難しすぎるのかなあと思いつつも、一本調子ではないそういうコントじゃないと決勝まで行けないのに、決勝で点数が伸び悩むという捻じれ現象が生じていて、もっとその作家性を評価してほしいというのは正直言ってあります。」という構造主義の敗北について指摘していたので、この言葉が出た事は嬉しく鳴らした。
 また『M-1グランプリ2019』で印象深かった審査員の言葉に、松本人志からニューヨーク屋敷への「ツッコミは怒っていてほしい」という旨の発言と、ナイツ塙から見取り図の盛山への「漫才中、顔を触り過ぎている」という、ネタではない部分についてのことであり、これはもう、構造主義が行きついてしまったがために、そういうところまで見られるようになっているような証拠であり、また、視聴者が新たな視点を取得した瞬間だったのではないだろうか。
 また、スピードワゴンの小沢は、ぺこぱのツッコミを、松陰寺がもともとボケだから、あの特殊なツッコミをボケとしての発声できているのが良いという技術的な話をしていることも印象に残っている。
 余談だが、『爆笑ヒットパレード』でのオール阪神巨人を見ていたら、二人が好き勝手に喋っているのだけれどもどっちも聞きやすくて、凄いなと笑っていたが、特に驚いたのは、オール阪神巨人の二人が腕時計をしているということだった。『M-1グランプリ』で漫才を見ていると、腕時計が視界に入ってきて、邪魔だなと少し思ったということがあって、やっぱ漫才をやる時には腕時計は外した方が良いのかな、などと考えていたりしたので、オール阪神巨人がふたりとも腕時計をしているにも関わらず全くストレスにならないことは、時計がシックな色合いだということよりも、手の動かし方によるものが大きいのだろうと考えることが出来たことは個人的にはタイムリーだった。
 お笑い評論を書いている以上、ネタの構造だけじゃなく、これらの技術論も言語化していけるように勉強していきたいし、例えば お笑い芸人が誤読で炎上したりした場合、守るための評論ということも手にしないといけない時代になっていくので、フェミニズムやポリティカルコレクトネスなど社会の流れにコミットできるようにそこも勉強していきたいと思っている所存です。
 
13位 「詰め!もぐら将棋部!!」『空気階段の踊り場(2019.7.12)』
 空気階段の鈴木もぐらの、高校時代に入っていた将棋部の思い出話をしたこの回は、初めて聞いた時はめちゃくちゃ笑いました。
 高校生活が始まり、どの部活に入ろうか迷っていたもぐらは、将棋部のポスターを見つける。もともと将棋が好きだった、もぐらは将棋部にしようと決め、ポスターに書いてあった部室へと向かう。部室の前で、王子というあだ名の同級生とばったり会ったもぐらは、二人で一緒に教室のトビラを開くも、そこには誰ひとりいない。おかしいなと思って教室を見まわしたら、すみっこに一人の生徒がいることに気がつく。
 そんなもぐらと王子を見た先輩は、「何だ。君たち来ちゃったのか。」とアンニュイな口調で話しかけてくる。入部したいんだけれどもここは将棋部であってますよね、ともぐらが答えると、先輩は「はぁ。そうか。実はねぇ、君たち二人が来なければ僕の手でこの将棋部を潰すつもりだったんだ……。見ての通り、将棋部は僕一人しか部員がいない。僕が一年のころ三年の先輩がいたんだが、その三年の先輩が引退したあと、僕はひとりきりになってしまった。こんな部活あっても別に何にもならないし。」と続ける。
 もぐらが先輩の手元に目をやると、そこには、一冊の本があったという。そこで、「今ではメジャーなんだけど、そのころはほんとに珍しかった、ライトノベルっていうの、なんかそのアニメ小説みたいな。そっから影響を、めちゃくちゃそっから影響を受けた。もう、もろバレ。もろバレなんですよ、キャラの出所が。」という先輩の喋り方の理由が分かったところは腹抱えて笑いました。
 「君たちに、もう一度だけ時間をあげよう。僕は、この部活に入らないことを強くお勧めする。」と言う先輩に、もぐらは食いさがり、結果、先輩と一局指すことになる。
 当時のもぐらは、詰め将棋などもしていて、かなり強かったと自負しているが、先輩も強く、もぐらは劣勢となるが、途中で先輩がポカをして、もぐらはからくも勝利を収める。
 もぐらは、先輩に、将棋部をつぶそうとしていた理由を尋ねると、「僕は、君と同じように将棋がものすごく好きで、将棋部に入って、その時の先輩が、三年生ひとりしかいなくて、二年生はだれ一人いないと。その先輩しかいなくて、ただ、その先輩と指してる日々がすごく楽しかったんだと。で、その先輩も強くてめきめき二人で上達していって、ただ先輩がいなくなった時、僕の目の前に誰もいなくなったときに、その僕は本を片手に、えぇ、指すことに決めたと。だから、定石書を左手で持って、右手で一人二役やる。ていうのをずーっと一人でやってたんだって。部員が一人しかいないから。で、毎日毎日、放課後終わったら、自分で一人で本を片手にやる。っていうのを繰り返した結果、将棋くそつまんねぇってなって。こんなにつまらないものだったのか将棋は、ってなった」と答えた。 
 もぐらと王子は入部を許され、かたまり曰く「伝説の始まり方」によって再び動き出した、新生将棋部は、二年間将棋に打ち込むが、その後新入部員も来ず、全く部室にも来ない顧問に「おまえらぁ、どうせすぐ負けるしぃ、時間の無駄だから、出ない」と言われて最後の大会にも出られずに終わるという最悪なバッドエンドを迎える。
ブースには終始、かたまりの「きゃーはっははは」という悪い笑い声が響き渡っていた。
 この鬱屈した日々が、もぐらが銀杏BOYZにのめり込む一因となり、伝説の「駆け抜けて、もぐら」へと繋がっていくという意味でも味わいがある回だった。
もぐらのトークは、カット割りというかコマ割が上手く、聞いていると、頭の中に映像が浮かんでくるほどに巧みなのだが、それが堪能できた。
ちなみに同じくらいに笑ったのが、もぐらが、歯のないなべくんと相席居酒屋に行った第105回「クスリ飲んでも眠れないんですよー!」の回(2019.4.19)でした。

 

12位 「ケーキ転倒復帰」『爆笑問題カーボーイ(2019.4.3)』
 2019年3月30日放送の『ENGEIグランドスラム』の放送終了間際に、爆笑問題の太田が、ケーキの生クリームで転倒するという事故が起きた。番組でも流れてしまったその映像はなかなかに衝撃的で、すぐにSNSで広がった。とても心配したが、翌日の『日曜サンデー』で出演こそしなかったものの、無事であることが告げられて安堵した。平成を駆け抜けた爆笑問題が、平成最後のネタ番組でトリを務めたあとに、はしゃいで、ケーキの生クリームで転倒、そのまま舞台上で死んだということになったら、全く笑えなくなってしまうので、その事態を回避することが出来た事は本当に良かった。
 大事をとって、『サンデージャポン』と『日曜サンデー』は休んだものの、『爆笑問題カーボーイ』から復帰、その回の転倒直後から病院に運ばれたまでのトークが、無事を確認出来、緊張が緩和したこともあって、めちゃくちゃ笑ったトークでした。
 太田は、病院の関係者に、脳が無事かどうかの確認のために、今日の日付や名前を尋ねられるが、もともと日付という概念が薄い太田は「1320年6月20日」と答えたり、「木村拓哉」とボケるべきかどうか悩んでしまい、勝手に混乱してしまう。
 さらに、記憶を確認するために、三つの言葉を覚えておいてくださいね、と太田は言われる。
 「猫、桜、電車、この三つ、この三つをね、覚えておいてくださいね。分かりましたって言うけど、ほんとに自身無いの。自身無くて、一時間後にもっかい聞きますからって言われるから。」
 猫という言葉が出て、田中が「お、いいね」と相づちを打ったのは、どこまでも田中だ。
 田中は転倒直後に太田に「立つな!」と制したところ、異変に気がついたという。
 「俺は立つなつったのよ。全然覚えてないでしょ。で、お前はそこで黙ぁーって従ったんだよ。そこが俺はあらら、ちょっと待って、おかしいなぁ~、みょーに変だなぁーって、大人しく従ったの。」
 ここでブース内は大爆笑したところは最高だった。
 なにはともあれ、笑い話になって本当に良かった。

 

11位「ハライチ二人のおもひでぽろぽろ(2019. 07.26)」『ハライチのターン』
 今年は、様々なゲスト回が炸裂した年でしたけれど、実はそういう回の面白いところを拾うのは簡単で、難しいのはこういう平場の回が、なんとなくめちゃくちゃ良かったということを伝えることだ。
 番組恒例の「ハライチのターン!」と叫ぶのを澤部が忘れてしまうというハプニングからどこかいつもと違っていた148回目の放送は、ずっと、ノスタルジーと成長が溢れていた。
 オープニングでは、夏休みがスタートしたという話題から、自分達の夏休みがどうだったかと話す二人。ずっとサッカーの練習漬けで夏休みなんて無かったという岩井に対して、澤部は「昼起きて、『少年アシベ』と『ダイの大冒険』。一ヶ月半余裕。」「土日なんて、もう別に『マーマレードボーイ』見て、おばあちゃんの作る焼きそば食って、おしまいだよ、そんなもん」と笑う。
 フリートークゾーンでは、澤部は、前の週に行われた、ハライチが出演したライブ『デルタホース』に澤部の妻と娘が、客として見に来ていた話を始める。娘が澤部のライブを見に来たのはほぼ初めてとのことで、そのきっかけは、幼稚園でふざけている男の子に向かって「お笑い芸人みたい」と別の子が言うやりとりを見た澤部の娘が、その子に「お笑い芸人って?」と尋ねたところ「子供を笑わす人だよ」と教えてもらったという。幼稚園から帰ってきた澤部の娘は、母親にあらためて同じ質問をしてみたところ、澤部の妻は「パパのお仕事だよ」と教えたからだという。このやりとりだけでも、何となくグッときてしまう。澤部の娘がライブに向けて、洋服を選んだりして、「ガチ恋お笑いオタ」と化してしまうほどに楽しみにしているなか、岩井だけがネタを作って本番当日まで台本を渡されないというハライチのネタの性質上、「変なネタもってくんな!」と祈ることしか出来ない澤部とのコントラストがたまらない。ライブ中も、下ネタをぶちこんでくる相席スタートにイライラしたり、コーナーで自分が出したものに低評価がつかないかひやひやしたりとしていたと話す。
 ライブを終えて、澤部の娘が書いた感想を澤部が見てみると最初に「楽しい一日になりそう」と書いていて「お笑いガチオタネタ寸評OL」みたいになっていたというオチだった。
 続く岩井のトークゾーンでは、岩井は実家に帰ったついでに原市団地の近くを通ったという話をしていた。昔、岩井も住んでいたという原市団地はすっかり様変わりしていて、少し寄ってみたということで、団地にまつわるいくつかの思い出をトークした。
 原市団地というのはとても大きな団地で、国道を挟んで、同じ規模の原市団地がもうひとつあり、ある日、友達のマサシと自分達が住んでいない方の団地に冒険をしに行ったら、同じ遊具があるけれども配置が違っていたりして、ちょっとした異世界のようで、「向こうの小石みたいのを拾って持って帰ってきた」という。
 他にもマサシとの思い出話をして終わったこの回、全体的にノスタルジックで、なーんか良かった放送だった。

 

 

 続きます。

爆笑問題カーボーイの太田の挨拶で振り返る2019年

 『爆笑問題カーボーイ』では、田中裕二の挨拶のあとに、太田光が直近のニュースをネタにして挨拶をするということが恒例となっています。それを見て、その月の爆笑問題と合わせて一年を振り返りましょう。

 

(1)2019年1月
 太田がオムニバス映画「クソ野郎と美しき世界」の1編、草なぎ剛出演の「光へ、航る」により、「第61回ブルーリボン賞」監督賞にノミネート。

・1月02日放送分
「明けましておめでとうございます。私は一年中いつだってあけましておめでとうでございます。」
 新年一発目生放送。日本ボクシング連盟の山根元会長の「おはようございます。わたくしは、12時過ぎても、おはようございます。で、ございます。」より。

・1月9日放送分
「ボボタウンの、ZOZOTOWNの前澤の友達の後澤。後ろから前から。後ろから前澤。」
 ボボタウンは言い間違い。ZOZOTOWN前澤友作社長による、ツイッターを使った、百人に百万円をあげる企画が話題になったことを受けて。
太田の「ああいうの平気になっちゃったね、この国は」というコメントの重さ。

・1月16日放送分
「剛力の彼氏の前澤と申します。前澤社長は偉いね。品があるね。あれこそが品格ってもん」
 前の週に、散々悪口を言ったあとの手のひら返し。太田のコメント後に田中の「真逆の人」というのも悪い。

・1月23日放送分
ブルーリボン賞・監督賞、白石監督のノミネート仲間の太田です。」
 ブルーリボン賞・監督賞に一緒にノミネートされた映画監督の白石和彌が、ブルーリボン賞の監督賞を二年連続で受賞したことを受けて。

・1月30日放送分
「嵐の友達の、マラチンです。」
嵐が2020年末をもって、活動休止することのニュースを受けて。

 

(2)2019年2月
 タイタンライブがやたらと神回だった。

・2月6日放送分
(録音ミスのため無し、データください)

・2月13日放送分
「青汁王子の、ガマン汁王子です」
 青汁王子と呼ばれていた三崎優太が、架空の広告宣伝費を計上し、2年分で約1億8千万円の法人税の支払いを免れた法人税法違反(脱税)容疑で東京地方検察庁特別捜査部が他2名と共に逮捕し、‪3月4日に同法違反罪で起訴されたことを受けて。

・2月20日放送分
「キングの友達の、キングスティック原田です」
 投資関連会社「テキシアジャパンホールディングス」(千葉市)の実質的経営者ら10人が逮捕された詐欺事件を受けて。
サンデージャポン』でガマン汁王子といったら、プロデューサーに、さすがにそれはやめてくれと言われたそうです。

・2月27日放送分
はやぶさ2の友達の南極2です。」
 はやぶさ2が小惑星リュウグウ」への1回目の着陸に成功したことを受けて。
本放送は、イクラちゃんこと井倉光一をゲストに迎えた下ネタ祭り。

(3)2019年3月
 太田の社長への直談判により、ラジオフェスならぬ、ラジコフェス開催。

・3月6日放送分
有村架純のお姉さんのですね、イエス有村です」
 有村架純の姉の有村藍里がフジテレビ『ザ・ノンフィクション』で美容整形手術をしたことを受けて。

・3月13日放送分
カルロス・ゴーンの友達のカルロス・リベラです」
 カルロス・ゴーンが東京地方裁判所から保釈された際に、変装をしていたことを受けて。

・3月20日放送分
ゴマキの元彼のロクマキと申します。その二つ上のハチマキと申しますって言うとワケわかんない。」
 ゴマキこと、後藤真希の不倫裁判を受けて。

・3月27日放送分
イチローのですね、イチローと名前が近いっていうかね、近いですね、私はね、三郎の息子の光です。うちのおやじはしかも三郎つったって、兄貴が四郎、そのうえが五郎です。カウントダウンTVです。カウントダウンTVより、全然前ですよ」
 野球選手のイチローが、2019年3月21日、開幕シリーズとなる東京ドームで行われたアスレチックス戦2試合に出場後、引退を発表したこととその後の記者会見を受けて。

 

(4)2019年4月
 太田が、『ENGEI グランドスラム』の放送中に転倒。太田がぜんじろうに絡まれ始める。タイタンライブには、宮下草薙パーパー東京ホテイソンなどが初出演。

・4月3日放送分
「あの、太田ですけど、あなたは誰ですか?」
 『ENGEIグランドスラム』にてはしゃぎすぎた太田が、ケーキの生クリームで転倒してからの復帰一発目のラジオにて、田中への一言。
この回のオープニングトークの、転倒後から病院までの話は最高に笑えました。

・4月10日放送分
渋沢栄一の友達の、渋谷哲平です。」
 財務省が千円を北里柴三郎に、5千円を津田梅子に、1万円を渋沢栄一に、紙幣を2024年度上半期に一新すると発表したことを受けて。

・4月17日放送分
ノートルダムの鐘突き男の友達の、ノートルダムのまむし男です。うるせえ、このくたばりぞこないが、くそばばあ!」
 フランスを代表する観光名所、パリのノートルダム大聖堂にて大規模な火災が起きたことを受けて。書き起こしたら割とギリギリな友達でした。

・4月24日放送分
「平成最後のですね、ぜぜぜのぜんじろうです。宿敵のげげげのクソぜんじろうです。」
 ぜんじろうが来て二時間居座った回。ワーストラジオのひとつです。ただし、ぜんじろうトークを抜けば、太田の芸人論など興味深い話が盛りだくさんだった。

(5)2019年5月
・5月1日放送分
平成ノブシコブシの友達のですね、令和ノブシコブシです」
 令和になって一発目生放送。ウエストランドアルコ&ピース、ハライチ、うしろシティ金子がゲストに迎えたお祭りの様な放送でした。

・5月8日放送分
「二刀流大谷翔平の知り合いの、なんか復帰するということで、三刀流、右手、左手、ポコチン、三刀流。サン・トーリューです。」
 ケガで休んでいた大谷翔平が復帰した件を受けて。

・5月15日放送分 
百田尚樹の友達の、千田是也です。」
 俳優の佐藤浩市がインタビューで、安倍晋三内閣総理大臣を揶揄したと百田尚樹が言いがかりをつけた騒動を受けて。
そのなかで、太田が小説を書いていることをさらりと話していました。

・5月22日放送分
「磯野 貴理子の友達のゆうこです」
 磯野貴理子の離婚のニュースを受けて。ゆうこは、チャイルズの元メンバーの一人。

・5月29日放送分
「トランプの友達の、うの神田です。」
 トランプ米大統領が5月25日から28日まで、令和になって最初の国賓として来日した件を受けて。

 

(6)2019年6月
 神田松之丞との番組『太田松之丞』がスタート。タイタンライブには、空気階段、神田松之丞が初出演。神田松之丞効果か、シネマライブでは過去最大の動員を記録。

・6月6日放送分
関取花の友達の、借金取りです。(鳥の鳴き声をして)わしは鳥じゃけえ」
 カーボーイのリスナーである歌手の関取花の特別番組「関取花のどすこいちゃんこラジオ」がTBSラジオで放送されたことを受けて。

・6月12日放送分
蒼井優の友達の黒い巨根です。」
 南海キャンディーズの山里と蒼井優が結婚を発表した件を受けて。その後のトークでは、急に手のひらを返して、山里の好感度が上がった世間への悪態をつきまくり、めちゃくちゃ笑いました。
 翌週のタイタンライブで、トリプルブッキングになったためにEDに参加できない空気階段が、急遽ゲストに出演。最高でした。

・6月19日放送分
KANA-BOONの友達のこおろぎ75です。」
KANA-BOONのメンバーの一人が音信不通となっていたが、無事が確認されたことを受けて。
 前の週の、タイタンライブの感想トーク。神田松之丞をはじめとした、タイタンライブトーク

・6月26日放送分
「務所帰り決死隊の、それは駄目か」
 雨上がり決死隊の宮迫をはじめとした数名の芸人が、反社会勢力の忘年会へ闇営業に複数人の芸人とともに参加していたことが報じられたことで、雨上がり決死隊の宮迫らが謹慎を開始したことを受けて。
 闇営業問題について、芸人としての爆笑問題の見解も聞けた回。

(7)2019年7月

・7月3日放送分
坂東英二の友達の、バンドー太郎です。」
 スリムクラブと2700が吉本興業から無期限謹慎処分になった問題で、仲介者とされるものまね芸人のバンドー太郎が謝罪をした件を受けて。
 「モノマネなんて反社会を相手に」という太田の間違ったコメントも出ました。

・7月10日放送分
「丸山の、丸山なんだかです。」
 田中曰く、「丸山桂里奈にしとけって言ったんだよ」
 オープニングトークは、太田が、妻の光代とタイタン社員とUSJに行った話。

・7月17日放送分
「タッキーの知り合いのベッキーです。」
 『音楽の日2019』で、滝沢秀明のプロデュースした企画が放送されたことを受けて。
 オープニングトークは、ジャニー喜多川について。

・7月24日放送分
極楽とんぼの加藤の長渕のとんぼ。ぴっぴーぴっぴー。」
 闇営業問題から発展した極楽とんぼの加藤と吉本会長との話し合いの件を受けて。

・7月31日放送分
「はたけんじの友達の羽賀研二です」
 「夏の松村邦弘祭り」と称して、ゲストに松村邦弘をゲストに迎えての生放送。そのはずが、ウエストランド井口が緊急出演、いぐちんランドについて語る。松村のモノマネは、森光子が絶品でした。
 井口はチンコの画像としこり動画を流出させたことよりも、松村邦洋の出演時間を減らせたことで叩かれているから、光代社長の「カーボーイ行ってこい!」は名采配だったのかもしれない。個人的には、その件で松村から引き出されたエピソードとかもあってそれが抜群に良かったから良し。

 

(8)2019年8月
 タイタンライブにぜんじろう出演。

・8月7日放送分
マイケル富岡の友達の、マイケルジャクソンです。ぽー!」
 収録から間が空いた放送であるため、「二週間たって、どうなっているかわかんないから、なんとなくマイケル富岡に何かおきてるんじゃないかな。なんか当てずっぽうです。いちかばちかです。」との太田の弁。
ゲストは東京スカパラダイスオーケストラ

・8月14日放送分
(録音ミスのため無し。データをください)

・8月21日放送分
「宮崎の友達の喜本です。きもとさーん!」
 煽り運転の動画で話題になっていた男性が、ついに捕まったことを受けて。
 太田は、その時の一連の流れを完コピ。

・8月28日放送分
CHAGEの友達の、友達だったASKAです」
 CHAGE & ASKAからASKAが脱退したことを受けて。

(9)2019年9月

・9月4日放送分
滝川クリステルの弟の何となくクリステルです。」
 滝川クリステルが、衆議院議員小泉進次郎と結婚すること、妊娠していることを発表を受けて。

・9月11日放送分
「西川社長の友達でね、西川布団です。ふっとんじゃいました」
 日産の西川社長が辞任したことを受けて。

・9月18日放送分
ZOZOTOWNの友達の、瀬々監督です。」
 ファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOが、ヤフーに買収されることになったことを受けて。

・9月25日放送分
阿部慎之助の友達の安倍晋三です。」
 プロ野球選手の阿部慎之助が引退することを受けて。


(10)2019年10月
 爆笑問題霜降り明星の新番組『爆笑問題のシンパイ賞!!』がスタート。ちなみに同番組のプロデューサータイタンライブには、かが屋が初出演。

・10月2日放送分
「TKOの木下の友達の、目の上のたんこぶです。ほんとに目の上にたんこぶが出来ちゃった。乱暴なせんとくんって呼ばれてる。」
 色々やって、TKOの木下が、後輩にペットボトルを投げた件を受けて。
 その後のトークは、Aマッソの失敗についても。

・10月9日放送分
「金原会長の友達の鉄腕アトムです」
 テコンドー協会の金原会長登場を受けて。
 年末にかけての太田のお気に入り。

・10月16日放送分
ユッキーナの姉の、タピオカ子です。」
 木下優樹菜がタピオカ店とトラブルを起こした件を受けて。
 今年は木下元年。

・10月23日放送分
ミランダ・カーの友達の、オランダ・プーです」
 ミランダ・カーに何かあったわけではないとのこと。
 この日は即位礼正殿の儀だった。

・10月30日放送分
「徳井の友達の、チューリップの心の旅。」
 チュートリアルの徳井が、東京国税局に3年分の法人所得の約1億1800万円が無申告であると指摘されていたことを受けて。


(11)2019年11月
 NHKファミリーヒストリー太田光~亡き父が残した書 “爆笑問題とは何ぞや”~」が放送。

・11月6日放送分
菊池桃子の友達の元ラ・ムーのですね、黒人でございます。」
 菊池桃子の結婚の報道を受けて。

・11月13日放送分
マーシー、まあ、しょうがないやな。もう何回目?五度目くらい?もうね、ミニにタコだよ。このニュースは。さすがに元気出ないよ。」
 マーシーこと田代まさしの逮捕を受けて。
 鬼越トマホークがゲストに来た伝説の煽り煽られ回。
えらいもんで、twitterをフォローしている人は、この回を面白いと絶賛していたものの、どういうことを言っていたのか書き起こしをしている人は一人もいなかった。

・11月20日放送分
「別に。沢尻エリカの友達のおしり探偵のメインキャストの、太田です。」
 沢尻エリカが、麻薬取締法違反の容疑で逮捕されたことを受けて。

・11月27日放送分
「若林、オードリー、若林の友達の、年寄株です。」
 オードリー若林の結婚報道を受けて。

(12)12月4日放送分
 タイタンライブに、ぜんじろうが再び。初出場は鬼越トマホーク。
 年末恒例の『検索ちゃん』のネタ祭りでは、お笑い第七世代をフィーチャーしたりして、最高に盛り上がりました。

・12月4日放送分
「笑わない男の友達の、立たない男です。」
新語・流行語大賞の年間大賞にラグビー日本代表のスローガンとなった「ONE TEAM」が選ばれたことを受けて。
 オープニングトークは、アンタッチャブルの復活話から、『THE MANZAI』の楽屋裏の話、そして浅草での漫才大会の話と、芸人がやまほど出てくるもので、めちゃくちゃ最高でした。

・12月11日放送分
「『アナと雪の女王』パート2、大ヒットということで、3が決まりまして、JALのキャビンアテンダント
 『アナと雪の女王2』のヒットを受けて。

・12月18日放送分
「こんばんは。ザギトワの友達の、ザキヤマがくる~~。やめるやめないでもめて、参っちゃうな。可哀想だから、ほっといてやれってんだよな。」
 フィギュアスケーターザギトワが、競技会への参加を一時停止すると話したことを受けて。

・12月25日放送分
「メリークリスマス、ミスターローレンス。顔も性格も良く似た俺達は、ミスターローレンス。俺だよ、たけしだよ。」
 クリスマスを受けて。

 

以上です。
2019年の爆笑問題は、お笑い第七世代ともがっぷり四つを組む機会が多かったのですが、親子ほど年齢の離れている彼らの魅力を存分に引き出したりしていました。
タイタンシネマライブも、過去最大の動員を記録し、さらなる広がりを見せているわけですが、今年も無事皆勤賞を達成できました。
また来年も爆笑問題活動に励みたいと思います。


今年のタイタンライブのエピグラフ初出は以下の通り。

ハナコ
ふたりか三人でその遊びをしたあと、家へ帰る前に美しい作品を一つ土中にうめておきそのまま帰ることもあった
新美南吉『花をうめる』

・トム・ブラウン
おお、君等の力をかせ また、我等の頭をつかえ。
そして一つの我に合体して人間の本然をとりかえし縛いましめの糾を断ちて凡ゆる人を解放し、新しい人を創造し新しい世界を描き出そうじゃないか。
加藤一夫『プロバガンダ』

かが屋
そして女も私も双方とも、この場合のように気まずい思いをするのは、これでもう何度目ぐらいか。
高見順『如何なる星の下に』

・納言
破天荒とも言うべき表現の直接性は決して様式伝習の間から生れているのではなく、却って様式破綻から溢出る技術と精神気魄との作ったものである。
高村光太郎『美の日本的源泉』

・鬼越トマホーク
「それ喧嘩だ」「浪人組同志だ」「あぶないあぶない、逃げろ逃げろ」
国枝史郎『二人町奴』

霜降り明星
そはユダの姿、額は嵐の空よりも黒み、眼は焔よりも輝きつつ、王者の如く振舞ひしが故なり。
芥川龍之介『LOS CAPRICHOS』

ぜんじろう
はるばると海を越えて、この島に着いたときの私の憂愁を思い給え。夜なのか昼なのか、島は深い霧に包まれて眠っていた。私は眼をしばたたいて、島の全貌を見すかそうと努めたのである。
太宰治『猿ヶ島』

・ダイアン
掛け合い話の馬鹿々々しさに、お静はお勝手へ逃げ込んで、腹を抱えて笑いを殺して居ます。いいあんばいに雷鳴も遠退いて、ブチまけるような雨だけが、未練がましく町の屋並を掃いて去るのでした。
野村胡堂銭形平次捕物控 夕立の女』

空気階段
神様から、こゝへ生れて出ろと、云はれたのだから、「仕方がねえや」と、覚悟をしたが、その時から、貧乏には慣れてゐる。
直木三十五『わが落魄の記』

東京ホテイソン
大袈裟な言ひかたをすれば、これは人間の生き抜く努力に対しての、純粋な声援である。
太宰治富嶽百景

宮下草薙
「虚実の証拠」「遺伝」等の価値については世評半ばしていたようであるが、私は、ネガティブの一票を投じる。
平林初之輔『探偵小説壇の諸傾向』

・ゆにばーす
「そうはいかねえんだ。おいらの馬術は、何流にもねえ流儀なんだからね。――ほらよ、くろ、くろ! おとなしくしているんだよ。名人が乗るんだから、ヒンヒンはねちゃいけねえぜ」
佐々木味津三右門捕物帖 死人ぶろ』

・神田松之丞
どこかこの世ならぬ超然として尊貴の風姿である。その精神も肉体も、最も世俗的な野望に取りつかれていたこの男が、その外貌において、全く正反対のものを示し得たのは、彼が常にそれを意識的に習練し、後天的にカリスマ的性格を完成し得ていたからであろう。
南条範夫『慶安太平記

パーパー
しかしこの人の硬い心は
彼の弱い心を傷つけずにそれに触れることが出来なかったのだ。
堀辰雄『聖家族』

わらふぢなるお
その不気味な男が、前に「にッたり」と笑ったきり、何時までも顔の様子をかえず、
にッたりを木彫にしたような者に「にッたり」と対っていられて、憎悪も憤怒も次第に裏崩れして了った。
幸田露伴『雪たたき』

芽むしり的テン年代ベストネタ10

 もう少しで、テン年代も終わりです。個人的な「テン年代ベストネタ10」を考えてみました。なお年については、ライブなどでの初出の年でなく、基本的にはメディアにて、かけられた、もしくは初めて見たもののとなっています。順は不動です。

 

1.ラブレターズ「野球拳」(2016)
 思えば、その時々の気持ちの大きさの変化はあれど、テン年代に一番応援した若手芸人はラブレターズだったかもしれない。2011年の一月に、オードリー若林の単独のトークライブ「正しいスプレー缶のつぶし方vol.2」を観に行ったことから東京にお笑いを見に行くということが始まった。その時は、一週間以上滞在していたので、様々なライブを詰め込んだのだが、その中で出会ったのがラブレターズだった。はじめは芸能プロダクションASH&Dの事務所ライブ「東京コントメン」で、次が「どうにかなるライブつぶぞろい」というライブだった。「どうにかなるライブつぶぞろい」は、もともと別のライブをやるためにライブ会場を押さえていたが、何らかの事情でそのライブ自体が無くなってしまったのだが、そのまま何もしないのは勿体無いから、どうせなら、「別のライブをやろう」とTwitterでの呼びかけから始まったものだった。出演する芸人もTwitterで募集するという、まさにTwitterSNSのひとつとして定着しはじめた頃という感じがするライブだ。その展開の即時性に興奮したものだった。「東京コントメン」は、ムロツヨシが司会をし、夙川アトムが出ていて、アルコ&ピースがゲストだった。ライブの最後に、その当時は預かり扱いだったラブレターズが正式に事務所に所属することが発表された。
 ライブ会場に着いたはいいものの、そもそもが若手芸人が出るライブというものが初めてで、勝手も分からずうろうろしていたら、お笑いライブに慣れているであろう女性二人が、「Twitterを通してってめんどうくさいよね」的な今では考えられないことを言っていたのをやたらと覚えている。
 この二つのライブで見たのは、「大阪から来た転校生」と「じゃんけん」というネタだった。「大阪から来た転校生」は溜口が関西人に怒られるような変なイントネーションの関西弁を話す大阪から来た転校生を演じ、最後には、塚本と友達になるというハートフルなコントで、どことなく、バナナマンのコントの「バカ青春待ったなし」を彷彿とさせるものだった。「じゃんけん」は、大仰にじゃんけんをやっていた。
ラブレターズのコントに、バナナマンの匂いを感じたのは、それもそのはず、塚本はバナナマンを尊敬し、バナナマンのコントを台本に起こすことからコントづくりを始めた男だったからだ。
 その年に『キングオブコント』の決勝戦に進出、それから『オールナイトニッポン0』も始まった。単独ライブにも何度か足を運んだ。大塚の萬劇場は良い劇場だと思う。萬劇場のことを考えると、客席の真ん中の列の真ん中の位置に、何の変装もしていないピタピタの真っ白いTシャツを着た、アルコ&ピースの平子がいたことを思い出す。そんな彼らの憧れであるバナナマンにもややハマりしているという事実もあって、何度か『バナナムーン』にも出ただけでなく、今では、『日村がゆく!』ではバナナマンの日村と第七世代の架け橋もしている。
 そんなラブレターズが『キングオブコント2016』で披露したのがこの「野球拳」だ。何より、夜空にパッと咲く花火のような華々しいエネルギーを持ったコントで、ラブレターズ二人が隠れもつポップさが炸裂している。野球拳のメロディにのせて高校球児のドラマを描くという、バカバカしい、でも悲哀が詰まっている最高のコント。
 好きなくだりは「溜口のハリがあって伸びのある歌声」 

 

2.アルコ&ピース「忍者になって巻物を取りに行く」(2012)
 ラブレターズを知る少し前、『レッドシアター』で、「バイトの面接」というコントを見て、一目惚れをしたのが、アルコ andピースだ。ハスにかまえてしまうその性格から、なかなか始めてみる芸人がやっているネタにひと目惚れするということはないので、それは『爆笑オンエアバトル』でのアンガールズの「空手」にまで遡る。ネタの舞台はバイトの面接で、バイトの面接を受けている側の酒井が強気で、店長役の平子は終始、平身低頭というネタで、最後に平子がため息をつき「少子化か……」というオチで理由が分かるというものだった。
 ラブレターズが正式に所属となった回のASH&Dの事務所ライブ「東京コントメン」にもゲストとして出演していたアルコ&ピースが、そこでかけたネタは、「客引き」だった。このネタも、風俗店の客引きかと思いきや、実は献血の呼び込みだったというネタで、最後に二人して「この街では、血液が足りていません。皆さんの力を貸してください」と叫ぶものだった。より好きになった。
 その後、アルコ&ピースは、担当した『オールナイトニッポン0』の面白さや特殊性から、一部の深夜ラジオリスナーからカルト的な支持を得ていく。一時は、アルコ&ピースラブレターズが、金曜日の一部と二部に並びギャンブルフライデーなどと呼ばれるなどした。この『オールナイトニッポン0』がレギュラー化する少し前に、2012年の8月に『オールナイトニッポン0』を一度だけ担当していた。その時に平子は、『キングオブコント』で敗退したことで荒んでいて、中島みゆきの『ファイト』を流していた。それから数カ月後、『THE MANZAI』でかけたのが、「忍者になって巻物を取りに行く」だった。
 酒井が「忍者になって巻物取りに行きたいなと思って。俺忍者やるから、平子さん、白の門番やって」と一般的なコント漫才に入ろうとすると、平子が「じゃあ、お笑い辞めろよ」と返す。続けて「今俺らどういう時期だよ。ネタ番組どんどん減って、それに伴って仕事も少なくなって、それでも何くそって石にかじりついででも、この仕事やりぬくんだってそういう努力の時期じゃないのかよ。忍者になって巻物取りに行くって時期じゃないだろ!」と平子の出身地の福島県のなまりで、酒井を責めつづける。その合間合間に「忍者になって巻物を取りに行く」という言葉が挟まれる。
 そこから何度も転回をして見事な着地を成功させる。コントのトリプルアクセル
もともと、先述した「客引き」のネタのように、デッドプールよりも早く第四の壁を超える性質であったアルコ andピースのひとつの到達点のようなネタで、ネタ前に流れた紹介VTRで「学資保険とか払えなくて芸人を辞めようと思っていたところだ」と平子が泣いていたことすらも、フリとなっている。そのため、ネタの尺はそのVTRのぶん、ほかのコンビよりも長くなっているというような効果を生み出している。
 ちなみにこれと同じことをやっていたのがマイナビラフターナイトでの真空ジェシカで、マイナビラフターナイトのネタの前は、伊藤楓アナウンサーの所属事務所と名前を言った後、その芸人のコメント、そこからコンビ名や芸名を言うという流れなのだが、ここで真空ジェシカは、「プロダクション人力舎所属、川北シゲトさん、ガクカワマタさんのコンビです」という呼び込みの後の自己紹介コメントで「あの先日、医者に行ったらあと一回コンビ名を呼ばれたら死ぬって言われたんですよぉ。なんで本当に特別扱いじゃなくて申し訳ないんですけどコンビ名言わないでください。お願いします!」と言い、伊藤アナが「真空ジェシカ」とコンビ名を呼ぶ。本ネタに入ると「うぅ。(倒れる音)」「なんで!?なんでこんなことするんだよ。伊藤アナー!!」と叫ぶという、構造いじりをしていた。
 この、お笑い構造主義の最右翼に位置する真空ジェシカが先日、『マイナビラフターナイト』の2019年度の年間チャンピオンに輝いた。審査は客席投票なので、宮下草薙かが屋などの売れっ子ということを抜きにしてガチで審査して真空ジェシカをチャンピオンにする観客、チケット代を取りつつもそれと同額程度のモバイルバッテリーを来場者全員に配るマイナビというこの出来事は、何らかの社会実験か、単純に三者三様の狂気が生み出した磁場の産物なのだろうか。
 好きなくだりは、「なんでこの年の瀬に俺が城の門番になんねえといけねんだよ。俺は城の門番になるために、福島から上京したわけじゃねんだよ」。

 

3.神田松之丞「中村仲蔵」(2019)
 講釈師の神田松之丞は2020年には真打に昇進するとともに、六代目・神田伯山を襲名するので、神田松之丞としてはギリギリ滑り込む形でタイタンライブに出演したが、その時にかけたのがこの「中村仲蔵」だった。ライブビューイングという形で見ることが出来たことも、テン年代だ。
 以下は、当時のタイタンライブを見た後に書いたレポ。残しておくと便利ですね。
神田松之丞のタイタンライブエピグラフは、南条範夫の『慶安太平記』の、「どこかこの世ならぬ超然として尊貴の風姿である。その精神も肉体も、最も世俗的な野望に取りつかれていたこの男が、その外貌において、全く正反対のものを示し得たのは、彼が常にそれを意識的に習練し、後天的にカリスマ的性格を完成し得ていたからであろう。」という部分だった。
 神田松之丞が袖からのそりのそりと歩いて釈台に向かっている間、どーせマクラにタイタンライブの楽屋の弁当はどーのこーのと愚痴を入れてくるのだろうとかまえていたら、そんな助走もなく、すぐさま講談に入ったのは、とても格好良くて、ずりぃなぁとやられてしまった。
 そんな松之丞がかけたのは『中村仲蔵』。松之丞が上梓した『神田松之丞 講談入門』によると、「家柄もなく、下回りから這い上がって名題に昇進した初代中村仲蔵。『仮名手本忠臣蔵』の晴れ舞台で、当時は端役だった「五段目」の斧定九郎の役を振られる。柳島の妙見様に願をかけ、「これまでに定九郎を作る」と意気込むが、妙案が浮かばない。満願の日、雨宿りに入った蕎麦屋で、濡れそぼった貧乏旗本に出会い、「これだ!」と喜ぶ。さっそく侍の姿を移した衣装で本番の舞台に立つが、なぜか客席から喝采が聞こえてこない……。」というあらすじの講談である。
 とんでもなく良いモノをみたな、という気持ちでいっぱいになった。当時の芝居は、家柄が絶対であり、血もなく、そして才能も無いのではないかと苦悩しながら、それでも工夫でのし上がっていく仲蔵の生きざまは、現代においてはウェットすぎるほどにブルージーであるが、それだけではなく、講談という伝統芸能の世界に身を投じた神田松之丞はどこかダブって見える。『神田松之丞 講談入門』によれば、本来、「中村仲蔵」は師匠も妻も出てくるが、松之丞は、仲蔵本人の問題とするために、その二人を登場させていないという改変をしているという。
 それは、いわゆる藝柄(ニン)が乗っかっているってやつで、今後もこの神田松之丞の「中村仲蔵」のネタはどんどん変化、進化、深化していくのだろう。かつ、そこから放たれた瞬間からまた、神田伯山の物語が始まるのだとも思った。
ライブビューイングという形式で松之丞を見て始めて気がついたことだが、松之丞の太った能面みたいな顔が作るその陰影は、怪談におけるロウソクの炎のように不安定で、その揺らぎは登場人物の表情や心情を表すように千変万化し、それは表情を変えるだけでは作れない、凄みや情念などを生み出していた。これは落語でも浪曲でも能でも狂言でも歌舞伎でも、その他の伝統芸能で、効果的に使えるものではないと考えると、顔すらも講談に愛されているのかと思わずにはいられない。
 改めて、本来の時間を10分もオーバーしてもなお、密度が濃かった「中村仲蔵」は、今の松之丞でしか見られないものであったろう、そして、今後、松之丞が伯山襲名以降、名人への道をひた走るなかで、あの時見たあれ、と記憶に刻まれるものとなった。
好きなくだりは、松之丞の顔。

 

4.ジャルジャル 「おばはん絡み」(2010)
 バナナマンの「secretive person」やタカアンドトシの「欧米か」など、ゼロ年代にいくつかの名作が産まれて以降、テン年代にひとつの技術として確立した感のある、ひとつのワードで走り切るワンプッシュ形のネタの嚆矢のひとつであり、その後のジャルジャル脱構築という芸風の快進撃の狼煙ともいえるネタ「おばはん絡み」。
言ってしまえば、バスを待っているおばさんに、男子高校生が「おばはん」と言い続けて絡むという、ひとつのお題に対して様々な解答を重ねていくという構造は単純だけれども、だからこそ、そのシンプルなお題ゆえにグルーヴ感を産み出すのは容易ではない。
 タクシーを止めて、運転手に「おっさん」というというコントの奥行きを出すボケも忘れない。
 今見ても面白く、記念碑となるような一作。
 好きなくだりは「どういうジャンルの出来事やこれは」と、後藤の最後の一言。

 

5.日本エレキテル連合「未亡人朱美ちゃん3号」(2014)
 まずもってなんで売れたのかが全く分からないところから考えないといけない。本来であれば、日本エレキテル連合の「未亡人朱美ちゃん3号」は、売れるはずがないコントなのだから。
 中野演じる細貝さんが、橋本演じる未亡人朱美ちゃんを口説いている様子を見せられ続けるこのコントは、語弊がある言い方をしてしまえば、セリフをテキストにおこしてもその面白さはおそらくほとんど伝わらないし、ムーブとしての動きも展開としての動きも少ないし、リズムネタにしてはミニマルすぎるものだが、繰り返される「いいじゃあないの」「だめよ、だめだめ」には、しっかりと存在するグルーヴが何とも心地よく、終始にやにやと笑ってしまう。女性コント師二人が演じる生々しい性の駆け引きには、間違いなく狂気とエロスがベースに流れているが、そんなコントが、大衆に受け入れられているという事実こそが、俯瞰で見ると一番グロテスクでもある。
 「未亡人朱美ちゃん3号」はどうやってできたのかというと、志村けんへの憧れから志村の出身地である東村山市に住んでいた日本エレキテル連合の二人が、市内のファミレスでネタ作りをしている時に、ばばあを口説いているじじぃを見かける。じじぃの口説きに対して「そうねぇ。うーん。」と言っているサマがまるで人形の様に映った中野は、ダッチワイフにするという着想からだと以前話していたが、憧れの人と同じ街に住んだことで運命が転がり出すという、ネタに似つかわしくないほどに綺麗なエピソードもある。
 タイタンシネマライブで二カ月に一度、彼女たちのネタを見ているが、毎回外すことなく面白い。そしてもれなく狂っている。だからこそ、もはやそのレベルではないということは分かっていても、賞レースで戦う日本エレキテル連合を見てみたいということだけがテン年代に叶わなかったくらいである。
 朱美ちゃんはダッチワイフだが、人形と言えば語らなければならないのが、ゾフィーの「ふくちゃん」だ。『キングオブコント2019』でかけられた「腹話術師の不倫謝罪会見」というこのネタの本質は、記者会見という皮をかぶった公開処刑に潜む大衆のグロテスクさを浮き彫りにして茶化すというおぞましいものなのだが、それが、可愛らしい腹話術の人形がコントに出てきただけで、視聴者は誤魔化されている
 ちなみにテン年代に新しく創設された炎上賞もゾフィーの「母が出て行った」です。
このコントを見たふくちゃんならこう言ってくれるんじゃないだろうか。
 「コントって、面白いと思うことをやるものだよね。お母さんの存在価値をご飯作るだけの存在としてるってことがメインなら、お腹が好きすぎてそうなっちゃってる男の子が異常で、おもしろおかしく描いてるってことだよね。それって、常識がないと出来ないよね。じゃーぁ、問題ないんじゃない??」
 ゾフィーの上田は同い年なのだが、コント師が食えない状況を嘆いており、コント村というライブを開き、コントを盛り上げようとしている。『日村がゆく』では、「コントはこのままでは伝統芸能になる」とはからずも、落語は伝統芸能となるという立川談志と同じことを言っていたので、その熱量は推して知るべしだろう。20年代は、どうにかコント師が食えるような時代になってほしいと心からそう思う。

 

6.東京03「小芝居」(2017)
 『ゴッドタン』でくらいでしか見ることがなかった東京03が今や『アメトーーク』で飯塚悟志をフィーチャーした企画を放送、そして『ゴッドタン』にて角田と豊本をフィーチャーするという、カップリング企画まで放送できるまでになり、何らかの蓋が開いたように、東京03への世間とお笑いファンの評価の差が埋まってきた。テン年代の終りとか、やっぱりそういうの意識してんすかね。
そんな東京03のネタ「小芝居」は、単独ライブ「自己泥酔」にて披露されたコントだ。
 会社の同僚であり親友の飯塚に恋愛相談に乗ってもらっていた角田が、上司であるトヨ美と結婚することになったのでその報告会とお祝いを兼ねた飲み会で、角田は結婚の敬意まで知っている飯塚に「初めて聞いたっていう芝居をしてほしい」とお願いをする。
 この依頼を受けた飯塚は「何がヤだって、芝居するってことがヤなのに、それを全部知ってるお前に冷静に見られてるのがヤだわ。」とさらりとこれからの笑いどころを説明している所にテクニックを感じる。
 そこからは、飯塚が小芝居をしていたということがいじられるのだが、一気にオチでひっくり返る。
東京03のコントは、演劇的だと言われることもあるが、それを逆手に取ったような設定で、小芝居をやっているという芝居、小芝居をやっているということを褒められて恥ずかしくなってしまうという芝居、と、そして最後に素に戻るというこの切り替えが重なり、東京03自身への幾ばくかの批評性を与えた、メタ寄りなネタになっている。
 余談だが、『自己泥酔』に入っている「トヨモトのアレ」も絶品です。
 好きなくだりは「俺の芝居をサカナに酒を飲むな」

 

 7.爆笑問題「時事漫才」(2015)
 大分県高崎山自然動物園の猿山で産まれた猿に、英国の女王にちなんだシャーロットと名付けたところ、抗議が殺到したというニュースがあった。このことをネタにした漫才での「日本人は失礼だって言っているけど、イギリス人は怒ってない」という「猿が猿に何したって気にしない」というくだりです。前に住んでいたアパートで見ていて、笑いすぎてソファーから転げ落ちてしまいました。
 テン年代は、まさに爆笑問題が拡張した10年だった。
 タイタンライブを生で初めてみることが出来ただけでなく、新婚旅行に組み込んだりもした。その間にも、タイタンライブの100回記念、20周年記念、30周年記念の単独ライブと、それらを縦軸とした東京遠征を重ねることで、年に一回程度は生で爆笑問題を生で見ることが出来た。ライブだけでなく、ラジオはもちろん、テレビでも、語り尽くせないほどの様々な出来事もあった。
 タイタンライブのライブビューイング「タイタンシネマライブ」も地元で始まるニュースを聞いた時は飛び上がるほどに喜んだし、それが北は北海道から南は沖縄までほぼ日本全国を網羅している広がりだ。そうは言っても、行かなくなったりしてしまうのではないか、などと思ったこともあったけれど、始まってからほぼやむをえない事情を除いて、全て見に行けている。
 もう大ベテランの域なのに、霜降り明星を始めとしたお笑い第7世代という20代の若手芸人とがっぷりよつを組み喧嘩をして、負けたり勝ったりする。
ここ最近の「総理と反社とは写真を撮らないほうがいい」も負けず劣らず痺れました。令和の爆笑問題も、面白い!
 ちなみに、指原梨乃が「さしこ」と名付けた同山の猿は、その半年後に、不審な死を遂げていました。
 好きなくだりは「日本人は失礼だって言っているけど、イギリス人は怒ってない」からの「猿が猿に何したって気にしない」。

 

8.かが屋「母親へのサプライズ」(2019)
 2018年の11月ごろに、友人より、「バナナマン好きなら、好きだと思う」と紹介されたかが屋は、この一年足らずで一気に何段階もギアをあげて進んでいった。
 『キングオブコント2019』でかけた、「プロポーズ」のネタも、かが屋らしくてとても良いコントなのだけれども、襟を正して向き合うことを決めたのはその半年ほどまえに『ENGEIグランドスラム』で見た「母親へのサプライズ」というネタだった。
笑いすぎて生後一か月の赤子が起きて、妻に怒られてしまうくらい、とにかく凄かった。コロンブスの卵の様に簡単に言ってしまえば「スマホの画面がくるくる回る」ということを面白いと思うネタなのだけれども、凄かった。スマホのあるあるを持ってくるというそのデジタルネイティブなセンスが、平成育ちということを感じさせるが、この笑いの本質は、ジャンガジャンガ的な「間の抜け」による笑いなので、スマホを使っている人であれば年代を問わない全員に伝わる笑いとなっている。ちなみに、「ジャンガジャンガ的」な笑いは、ゼロ年代アンガールズの発明であり、かが屋は結成の経緯から、お笑い第七世代のバナナマンと言われることもあるが、そういう意味では、他のネタも含めてアンガールズに近い。
 ネタのセオリーに沿うのであれば、この笑いどころをネタの頭に持ってきて最後まで引っ張るのだが、かが屋の凄いところは、それをせずに、逆に前半全てを、このことを「何の打ち合わせをしているのか」などの観客に疑問をもたせるなどのフリをカムフラージュしているところだ。この勇気と技術に震える。そしてそのことで、このネタに緊張が産まれ、貯めの状態が作られる。
 そして何よりも巧みなところは、最初にスマホ上で木野花の画像がくるっと回ったときは、本当に「よくあるハプニング」だと思わせられたところだ。その後、それが繰り返されることによって、観客はここが笑いどころだと気付き、一気に貯めが開放される。
 そういった構成の妙だけではなく、何より、木野花というチョイスが素晴らしい。バナナマンの名作コント「宮沢さんとメシ」での宮沢さん、『KOC』でのバッファロー吾朗のネタでの市毛芳江を彷彿とさせる大喜利の答え。
 好きなくだりは、ネタのシステム。 

 

9.まんじゅう大帝国「来客」(2016)
 かが屋と同じく、お笑い第7世代にくくられるまんじゅう大帝国。その始まりは、アルコ&ピースのラジオ『アルコ&ピース D.C.GAREGE』でのアマチュアなのに、震えるほどウケていたというトークで、まず、ラジオリスナーに、幻想を持ったかたちで認知をされた。それから、高田文夫からの裏口入学で、爆笑問題の事務所のタイタンに所属が決まり、今にいたるわけだが、そのきっかけになった、ネタ「来客」。
 竹内の「朝家で寝てたらね、ピンポンピンポンピンポーンっていうからさぁ、おれ全問正解したんじゃないかなって思ってさ。ただねえ、全問正解のピンポンともちょっと違うかなーって感じだったんだよね」という入りに、田中は「全問正解ではなかったってこと。じゃあ、どっかで一問落としたってこと」と返す。すでにおかしいが、竹内は「どこに落としたかなーって部屋中探してたの。そしたらどんどんどんどんどんって何かを叩く音が聞こえたの。そこでね今日は祭りだーって思ったわけよ。しょうがないから閉まってあったハッピを引っ張り出してね、ハチマキを巻いてね、直足袋をどこへやったかな」と続けると、田中が「ちょっと待って待って待って、なんかおかしくない」と竹内を止める。ここでやっとツッコミがはいるのかなと思ったら、「祭りがあったの?呼べよ、誘ってくれよ!」と話しは正しい道筋にもどることなく、さらに逸脱していく。
 まんじゅう大帝国はコンビ名からして最高だ。まんじゅう大帝国という名前は、どことなく古今亭志ん生の著書『なめくじ艦隊』にも似ているし、まんじゅうといえば古典落語の「まんじゅう怖い」を連想する。
彼らの漫才のやりとりは、古典落語の「やかん」や「天災」のようで、聞いていてとても心地よい。出てきた当初からリズムと間がすでに同期と比べて高い位置にあり、そして最近はまた上手くなってきている。
 好きなくだりは「祭りがあったの?呼べよ、誘ってくれよ!」。
 
10.にゃんこスター「リズム縄跳び」(2017)
 にゃんこスターが『キングオブコント2017』でかけた、「リズム縄跳び」。
 お笑いについて、知っていれば知っているほど、考えていれば考えているほど、カウンターが綺麗に入って、死ぬほど笑ってしまう神でもあり悪魔でもあるネタ。
きちんとした構成を、スーパー3助の裏返りそうで裏返らない、ぎりぎりノイズになっていない、おぎやはぎ矢作以来の面白い叫び声と、アンゴラ村長の目を細めた顔で肉付けしていくところ。これはもうプリミティブな笑いで、だからこそ脳に直撃して笑ってしまう。突き詰めると、赤ちゃんがいないいないばあ、で何故笑うのかとかそういう類の話しになってくるので、文化人類学を勉強するか、『たけしの万物創世記』で扱うものだ。
 ハートフルなネタと見せかけておいて、縄跳びやフラフープを床に叩きつけるという音が意外に響くという暴力性もあるところもまた最高だった。
他にも、スーパー3助が全然アンゴラ村長を見ていない時があるとか、昨年のラブレターズの野球拳の流れもあったとか、または、それらが渾然一体となったからあの爆発が生まれたとか、「堂本剛の正直しんどい」よろしく、VTRを停止しながら一つ一つツッコミを入れることが出来る。ということは、お笑いの理屈から離れていないということなので、因数分解的に解説することは可能といえば可能なのですが、これはもう、このコンビが持っている要素や場、文脈全てがびたーっとはまって共鳴して笑いを増幅させているということになる。説明出来るのに、説明出来ないところに到達してしまっていた。物理学者が研究すればするほどに、神の存在を認めざるを得なくなるといった話と同じ。
 これがWikipediaの説明文を百回読んでもピンとこなかったポリリズムのことかと理解出来ましたし、あと、ここ最近鬱々としていたのだけれども、このネタを見て完全に脱出しました。
 何が面白いか分からないと怯えてる皆さん、不安を怒りに変えて自我を保つ必要はありません。僕らも何が面白いのか分かってないんですから。
そう書きなぐって、あれから二年。
 『バラエティ向上バラエティ 日村がゆく』で、ゾフィーの上田の「2019年のにゃんこスターは面白い」という発言から産まれた企画として、「にゃんこスターのここで縄跳び!?選手権」というのが開かれた。にゃんこスターが舞台に出てきて、知らない設定でコントを始め、新ネタかな、と思わせておいてからの、縄跳びが出てきて、結局リズム縄跳びを始めるというネタのその導入部分を競うその大会は、腹抱えて笑った。優しくて面白くて最高で、これだから、お笑いは素晴らしいと思った。


 以上です。
 もちろん、このほかにも好きなネタは山ほどあります。永野の「浜辺でひとり九州を守る人」や、空気階段、駆け込んできたミルクボーイや、ぺこぱなどなど。そういったものを泣く泣く削り、テン年代に産まれた意義があるものや個人的に思い入れが強い、これだという無理やり絞った10本は、やはり、メタ要素の強いネタが多く文脈に依存している傾向にあるのだけれども、でもやっぱり、その突飛な発想を表現しきるための演芸的な上手さが土台としてしっかりあるというものが好きなようです。
 炎上の件や、フェイクお笑い評論が広まったりするのを見聞きしたりすると「ネタ」を取り巻く環境はさらに難しいものになっていくという暗い見通しを立ててしまうのですが、Youtubeなどでの公式チャンネルやお笑い第七世代によるさらなるネタの活性化と良いニュースのほうも多く、いっぱしのファンとしては良いことを広めながら、お金を落としていきたいと思います。

『M-1グランプリ2019』はなぜ、過去最高の大会と言われているのか

 一文なし、参上!
 『M-1グランプリ2019』の感想を言い合う友達がいないので、感想ブログを書きました。
 今年の『M-1』の目玉は何といっても、ファイナリストが一気に入れ替わりを見せたということで、ネタを見た事ないコンビも何組もいて、それだけで、『爆笑オンエアバトル』くらいしか情報がないころの『M-1』初期のように興奮させられ、絶対面白い大会になるし、荒れるぞ!となっていました。
 実際、最高の大会でしたね。それでは感想スタートです。


1.ニューヨーク「ラブソング」
 全く日の目を見ることが出来ない下積み時代というのはもちろん苦しいだろうが、すぐ売れると言われながら、どんどん同期や後輩に先を越されるのも、それはそれでつらいのじゃないだろうか。ニューヨークはそういうイメージがある。もちろん、ネタも面白いし、可愛げもあるように思えるがいまいち世間にそれが伝わらないという感じだったが、ここにきてやっとの賞レースのファイナリストとなることが出来た。
そして、それを一番喜んでいるのは大会のスタッフではないだろうか。「持ち味は毒と皮肉。しかしそれがどこか憎めない、いやどこか痛快なのだ。さあ、一世一代のショーの幕開けだ」という紹介VTRのナレーションからはそう受け取れるし、炎上するようなことを言うかもしれないけれど多めに見てよと言わんばかりの愛のある事前フォローのようでもある。
 ネタは、「ラブソング」。嶋佐が、オリジナルの歌を歌い、それに屋敷がつっこんでいくという比較的オーソドックスなネタ。そんなネタだからこそ、ニューヨークの悪意を存分にまぶしてほしかったのだけれども、残念なのは、「オシャレ好きだけどダサい奴」のようなニューヨークの針の穴を通すようなコントロールを持った悪意がまろやかになっていて、悪いな~というよりは、悪意を拾いに行ってしまうような見方になってしまっていたところで、そこで物足りなく感じてしまった。歌に入るまでも少し長い気がして、いつネタのギアがあるかを待ちすぎてつんのめってしまった。

 ニューヨーク、こんなもんじゃないってところをまた見たい。
ダウンタウンの松本に、「最悪や!」と不貞腐れたところや、敗退することが決まったときの「youtubeやってます!」とかめちゃくちゃ笑いました。
しかも、その後のファイナリストのツッコミのキレ具合が上がったと考えると、このやりとりで、他のネタの熱が増したこともこの大会が最高になった理由の一つなんじゃないかなとも思わずにはいられない。
 好きなくだりは「ちゃんとご飯食べてるの、たまには実家帰ってきなさい」「お母さんでした!」

 

2.かまいたち「言い間違い」
 ニューヨークの紹介VTRと比べると、かまいたち二人の身長について話していて、書くことなかったんかなと思いつつも、逆に言えば、かまいたちが面白いことはもう周知の事実だからなのかもしれない。
 ネタは、山内が「USJ」を「UFJ」と言い間違えるネタ。本来であれば、軽い言い間違えというツカミ程度のボケにもかかわらず、それで4分走りきるという、握力が花山薫くらいあるから胸倉掴まれてそのままブンブン振り回されたみたいな、かまいたちだからこそ体現できるようなすごいネタだった。
 山内が「USJUFJ言い間違えたのが俺なんやとしたら、俺なんで今こんな堂々としてる?」と自ら言うように、どう考えても、逃げ切れない状況を逃げ切って、途中には濱家を困惑させるまで持っていって、最後に最初の話に戻るという美しさ。
 台本上の上手さとして、最初に山内が「UFJ」と言った後に、濱家も「UFJ」ということで、濱家が「UFJ」と発言したというアリバイを作ったことと、「さらせよ」を「サランヘヨ」と言い間違えることで、山内は言い間違えるし、それを人になすりつける人だということをかぶせて印象付けるところであり、やっぱりよくよく練られているのだけれども、それよりも、昨年よりも、システマチックになりすぎておらず、ネタを見ているというよりは、会話を聞いているという気持ちよさが勝って、その点でも昨年より、めちゃくちゃ最高の漫才という感じがしました。
 そして、この漫才に立川志らくの点数は95点と高得点を入れていたのを見て、後出しじゃんけんのようになってしまうが、やっぱりな!と思った。それは昨年の立川志らくかまいたち評を思い出しながら、見ていたので、上手さよりも面白いと感じたからだった。そんな、昨年に出来た志らくかまいたちの因縁を踏まえたうえでの、志らくの「参りました」には不覚にもグッときてしまった。
 そんな志らくは、大会後にこうツイートしていた。「怯えと自信の共存とは。私の持論。自信が10の芸は鼻に付く。怯えが10の芸は見ていられない。自信が怯えを少しだけ上回った芸こそが魅力的な芸。去年のかまいたちは自信8怯え2。今年は自信7怯え3。」と自分が感じていたことを言語化してくれていた。
 好きなくだりは、濱家が舞台を大きく使うところと「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら、絶対に認められていたと思うか?」

 

3.敗者復活枠・和牛「内見」
 今までの和牛はひとネタで0.7本のネタを2本やっているような感じで、ネタの途中で、お腹減っているからご飯食べたのに箸を動かすのがめんどくさいっていう状況になっていたのですが、今回は、0.5本のネタを2本やったようなシャープさで、とてもすっきりして良かったです。
 川西の「なんか始まってるぅ?」での漫才コントに入るのも、すっきりするための発明だと思います。
 中盤に内見に連れてこられた家に人が住んでいるというボケが4つ続くのだけれど、そこから出る時に言う「おじゃましました」が、「水田のみが言う」、「水田川西二人が言う」「川西が水田に言う」「次の展開への導入になっている」ときちんと4パターンになってるのは美しすぎます。
 好きなくだりは「お前住んでるやろ、ここぉ」からの「この部屋なんですけど、おしっこするとき座ってやらなダメなんですよ」

 

4.すゑひろがりず「合コン」
 『M-1グランプリ』において、博多華丸・大吉の大吉が、とろサーモンに決勝票を投じた理由に一番ツカミが早かったからと答えたことで、ツカミ問題というのが新たに出てきたと思うが、そういう意味では、このツカミを大会史上最速で行ったのは、すゑひろがりずだった。
 舞台上にあがってきて、階段をおりてセンターマイクに向かう、すゑひろがりず。ここまでは普通だが、出囃子のFatboy Slimの『Because We Can』に合わせて、南條が小鼓を叩いていたところで一気に引き込まれてしまった。子供が寝ているので、イヤホンで見ていたのだけれど、あまりに綺麗にマッシュアップされていた。
 作りについての話をすると、パックンマックンオリエンタルラジオ、××CLUBのように全編英語漫才というのは前例があるが、その場合は、観客は英語を翻訳しながら漫才を聞いて笑わなければならないので、英語は中学生レベルでなければ伝わらないし、またやりとりそのものを凝りすぎてしまうと、ネタが渋滞してしまうので、日本語でやる漫才よりは発想をやや抑えなければならない。
 古語漫才と言うべきか、すゑひろがりずの漫才は、それら英語漫才と同様に、合コンという分かりやすい設定に落とすことで、ネタを理解させ、見た目のギャップでも笑わせるという仕組みになっている。
 序盤の「なんぞご用で」「大吟醸をひと樽。ならびに枡四つ」「心得ました。さすらば店の者を呼んでまいります。」「お主は誰そ」「(ぽん)」なんて、現代語に訳したら、ゼロ年代に何万回も見たくだりだけれども笑ってしまうものになっている。
 そして、ネタが進むにつれて、観客がすゑひろがりずのシステムを理解していくことで笑いが増していく。そこに、合コンでのゲームとして、「お菓子の銘柄」で山手線をやり始めるが、ここからは、「故郷の母」が「カントリーマァム」、「寿返し」は「ハッピーターン」というようにクイズが入り、また違った楽しみが入ってくる。そしてさらに転回し、見事に飽きさせない漫才を見せてくれた。
 ファイナリストとして初めてそのビジュアルを見た時から、絶対に面白いと抱いていた幻想に負けないほどの面白さでした。ファイナリストの中で、一番タイタンライブに出てほしいグランプリでは堂々の一位でした。
審査員コメントとしてのサンドウィッチマン冨澤の「どう見たら良いんだっていうのはあるんですけど。僕は正直、漫才は何でも、笑わせればありだと思っているんで、あの、彼らが上位に行って、ちょっと漫才をぶっ壊してもらって、また新しいものを作り出してほしいなって」という言葉は、ある意味、大会後に出るであろう「こんなのは漫才じゃない」という論に対しての牽制でもありとても優しい理解者にもなっていた。このように、今回の審査員は基本的には審査員である前に、理解者、解説者というところもしっかりと前面に出ていて、とても良かった。
 好きなくだりは「それ、中尊寺!(ポン)」

 

5.からし蓮根「運転免許」
 昨年の敗者復活戦に出場し、今年ファイナリストになったのは、インディアンスとからし蓮根の二組だが、着実に実力をこの一年で上げてきたということがわかる。まだ20代半ばながら、からし蓮根は、場の空気に飲み込まれることなく、ネタを披露していたのだけれども、その反面、小さくまとまってしまっているような気もしました。漫才がオチに向かって一直線な感じがして、もっとストーリー的に右往左往してほしいなと思ってしまいました。
 漫才の技術やネタの構成でいえば、同年代では最高峰に、霜降り明星にも引けを取らないと思うのだけれども、だからこそ、舞台からいなくなる、教官を轢くところのような、トリッキーな笑いどころを望んでしまいました。
 もっと、熊本弁を出しても良いし、伊織の怖さをもっと出すなどして、予定調和なスカシではないノイズのようなものを入れた方が引っかかりが出来るような気がしました。
 好きなくだりは、教官を轢くところ。

 

6.見取り図「褒め合い」
 お互いを褒め合うという流れから、ラップのフリースタイルバトルを漫才に落とし込んだような漫才。ぱっぱぱっぱと掛け合い、それでもきちんと笑いをしっかりとる重めのワードをハメて行く。リリーでも盛山でも笑うという気持ちいい漫才でした。ただ、要は見た目大喜利なので、もっと内面をえぐるような、ゆさぶりが欲しかったです。

 ナイツ塙が盛山に、凄い細かいことなんですけどと前置きをしたうえで「手の動きが気になっちゃて。手が凄い動くんですよ、漫才中。髪の毛かきあげるのはしょうがないんですけど、鼻を凄いいじっちゃったりとか」と指摘していたのを聞いて、確か、オール巨人とかレベルの師匠が、博多華丸・大吉に漫才の間、「足の動き見とけよ」という指導をしたことを思い出しました。
 視覚的な情報として、意識の中に入らないとしても、観客の集中を散らしてしまうということでしょうか。
 好きなくだり「マラドーナのはとこ」「激弱のバチェラー」

 

7.ミルクボーイ「コーンフレーク」

 何よりこの漫才が面白くて興奮させられたのは、漫才の一番の醍醐味であると言っても過言ではない、知らない人の面白い会話を盗み聞きしているという気持ちよさに溢れていたからで、そしてそれは『M-1グランプリ』においては、ブラックマヨネーズにまで遡らなければならないほど、長いこと空位となっていた。そんな凝り固まってしまっていた部分を、ぐりぐりと推されたら、一気に血のめぐりがよくなったというわけだ。
 「オカンが好きな朝ごはんの名前を忘れた駒場のために、内海が一緒に考えるから、駒場からその特徴を聞き出す」という設定で始まった漫才は、駒場が特徴を「甘くてカリカリして牛乳とかかけるやつ」と伝えると、内海が「コーンフレークや」と答える。観客もその認識があるので、それだそれだとストレスなくネタを聞き続けることが出来る。内海の答えを聞いた駒場が「オカンが言うには、死ぬ前の最後のご飯はそれで良い」と言っていたという情報を伝えると、「ほな、コーンフレークとちがうかぁ。人生の最後がコーンフレークでええわけないもんね。コーンフレークはね、まだ寿命に余裕があるから食べてられんのよ」と否定する。そこからシステムを理解した観客は、右、左、右、左と視線を動かし、二人の会話に聞き惚れる。
 国民のほとんどが認識しているけれども、詳しくは知らないという存在であるコーンフレークに漠然と抱いている違和感や偏見、二人の悪意によってどんどん言語化されて暴かれていくのは、新たな快楽すらあった。
 この漫才の一番すごいところは、後半で「コーンフレークではない」と駒場が完全に否定するというところで、少し間違えれば「じゃあ、今までのやりとりは何だったんだ」と思ってしまいそうだが、これまでにミルクボーイが作り上げた空気は壊れなかった。その後の「申し訳ないな」というのもとても良い。「何言うてんのやろ」じゃなくて「情報出すの遅くて申し訳ない」ってことだと思うのですが、会話のリアリティがここにある。リアリティで言えば、駒場の、オカンから聞いた情報を思い出し思い出し喋っているぼそぼそとした話し方もそうで、それは、どこか、バナナマンの名作コント「seicretive person」での設楽統の演技のようでもあった。
 点数は、681点と、大会史上最高得点を獲得。
 大会史上最高得点といえば、アンタッチャブルの673点であり、アンタッチャブルが散々ネタにしていた点数でもあるが、そんなアンタッチャブルが復活した年に、点数が塗り替えられたというのは、いくらなんでも出来過ぎている。
好きなくだりは「あれは、自分の得意な項目だけで勝負しているからやと睨んでいる」と「コーンフレークは生産者さんの顔が浮かばへん」

 

8.オズワルド「先輩との付き合い方」

 おぎやはぎポイズンガールバンドを彷彿させずにはいられないオズワルドの漫才は、理論上は伊藤と畠中がきちんと会話できているはずなのに、畠中が会話からはみ出たときに伊藤が優しく本筋に戻すなかで幾つも生じる細かなずれが積み重なって、いつのまにか知らないうちに遠くまで連れてこられてしまう。そんな、先輩に可愛がられるための話を聞いていたはずなのに、いつのまにか、バッティングセンターで寿司を打っているという話になっていたという最高なローテンポな漫才。オズワルドは何本かネタをマイナビラフターナイトで聞いていたのですが、今回が一番笑った気がします。何度聞いてもじんわり面白い。
 中川家の礼二が「しっとりした感じって結構そのままハマらんパターンって多いんですけど、後半に尻あがりにウケテいったんで、これがやっぱ凄いな」と評していたように、伊藤が大きな声を出すのを後半まで溜めていたのも好きなところだ。
大声といえば、畠中が「え!」と大声を出して、話の流れを変えるのは、時間も省略出来るし面白いのでこちらも発明ですね。
 何より嬉しいのは、オズワルドが入る余地が『M-1グランプリ』に出来たということです。やはり、こういうイリュージョンを体現している漫才師はどうしても、テンポが遅くなってしまうので、これまでの『M-1グランプリ』では、どうにも厳しい状況に立たされていたと思うのですが、そういう意味では、オズワルドが決勝に上がれるのであれば、タイタン所属のキュウやまんじゅう大帝国もネタ次第ではファイナリストになる可能性も出てくると思えて興奮してしまいます。事実、オズワルドは、まんじゅう大帝国を見て、スタイルを変えたという情報を見かけました。
 好きなくだりは「板前ってどこを見て板前かどうか判断してるの」「昨日いたかどうかだろ」と、「回転寿司なってんな」「なってねーよ」からの「それは分かってるんだってさー」

 

9.インディアンス「おっさん女子」
 去年ファイナリストになってもよかったインディアンス。最初からギアがマックスでインディアンス爆発していたんですけど、大爆発とまでは思えなかったのは、面白さが知られているからこそなのかもしれません。
語り過ぎるのも野暮なので、こんな感じで。
 好きなくだりは「すいませーん」「いや思てたんとちゃう」

 

10.ぺこぱ「タクシー」

 割合オーソドックスな、タクシー運転手とお客という設定なのだけれども、二人のキャラとしての魅力がそれを上回る漫才だった。立川志らくの「最初見た時はね、私の大嫌いなタイプの漫才だと思っていたんだけど、どんどん好きになっていった」というコメントのように、見た目からその実力を低く見積もられそうな二人だけれども、タクシーに轢かれたあとの松陰寺の「二回もぶつかるってことは、俺が車道側に立っていたのかもしれない」あたりから、観客が二人を受け入れ、「キャラ芸人に、なるしか、なかったんだ!」で好きになっていたという、これはもうキャラ芸人として最強ということではないでしょうか。
 しゅうぺいのボケも、めちゃくちゃ面白すぎるというわけではないのだけれども、紹介VTRの通りトリッキーで、特に、何の脈略もない「急に正面が変わったのか」には、ひっくり返されました。漫才の断面図を初めて見た。
 上沼恵美子が「10組も見てくると疲れてくるですが、また活性化されました」、ダウンタウンの松本が「ノリつっこまないボケっていうかね、だから、新しいとこ突いてきましたよね」とコメントしていたように、大会の中で、オズワルドからインディアンスという流れで、漫才のジャンルを一周したかに思えたような状況で、まだこれがあったかという新しいものを見ている楽しさに溢れていて、そういう意味では、最後にぺこぱが登場したというのも効果的だった。この出順でなければ、和牛へのジャイアントキリングを成し遂げた一因ではないだろうか。
 加えて、狙ってか狙っていないのか、ノリつっこまないことで既存の漫才への批評になっているばかりか、「働き方改革って法律でどうこう出来る問題なのか」と風刺もしている。
 ネタ後の「エムワン、はじまるよー」、面白すぎませんかね。しゅうぺいは稀にみる「0点。だから100点!」という逸材ではないでしょうか。
 好きなくだりは「激しいヘタも付いている」からの「うるせえ、キャラ芸人!」「キャラ芸人に、なるしか、なかったんだ!」

 

最終決戦1組目・ぺこぱ「電車でのお年寄りへの対応」

高齢化社会」が題材であったり、「漫画みてーなボケしてんじゃねーよ。っていうけど、その漫画ってなんですか。もう適当なツッコミをいうのはやめにしよう」とやはり、風刺であり批評的というエッジを、二人がまろやかにした漫才。優しい気持ちで漫才を見ていました。
好きなくだりは「漫画みてーなボケしてんじゃねーよ。っていうけど、その漫画ってなんですか。もう適当なツッコミをいうのはやめにしよう」

 

最終決戦2組目・かまいたち「人に自慢できること」
 人に自慢できることとして、産まれてから一度も『となりのトトロ』を見た事ないということをあげる山内が、濱家の否定をことごとく交わしていく。辛くも優勝こそ逃してしまったものの、昨年の面白さだけでは説明できない何かの殻を破ったかまいたち凄すぎましたね。
 好きなくだりは「俺のトトロ見た事ないは、今からじゃどうにもなれへんよ」

 

最終決戦3組目・ミルクボーイ「最中」

 すでに観客はミルクボーイの漫才のシステムを知っているので、22秒という短時間で、オカンが分からないものを一緒に考えてあげる時間に入った。ミルクボーイのこの漫才のシステムは、仕組みを知られていたとしてもそこまで不利になるものではない。逆に、一本目よりも内海と駒場のやり取りが多く、かつ、「最中の家系図」など想像を発展させた遊びのような笑いも織り込まれているものが増えて、まさに、一本目をミルクボーイの基礎とするなら、応用編として、さらにがっつり笑える漫才になっていた。また、一本目は、コーンフレークに対する悪意と偏見というクリティカルなものに対して、二本目は、おかしの家の施工や、家系図という全くのウソの話になっていたのも細かい変化だった。
 実際に、そのやり取りの回数を数えてみたところ、一本目は、特徴を聞き出すまでが35秒、「コーンフレークやないか」「コーンフレークちゃうやないか」のやりとりは10回だったが、「モナカやないか」と「ほな、モナカとちゃうやないか」のやりとりは13回だった。
 ネタで最中を何度も何度も聞かされているなか、「こうやって喋ってたら食べたなってくる」「ほな最中とちゃうやないか。だーれも今、最中の口なってない」というくだり瞬間、頭殴られたかと思うほどに衝撃を受けました。
好きなくだりは「最中のほうがテレビ出てるか」と「だーれも今、最中の口なってない」

 同じボケ、同じツッコミを繰り返すというのはよくあるけれど、このように、同じことを肯定と否定でひっくり返し続けるというのは他にないのではないだろうか。

 

 『M-1グランプリ2019』は、こうしてミルクボーイの優勝で幕を閉じたわけだが、インターネットで感想を見てみると、今までの大会で最高だったという感想を多く見かけた。個人的には2004年が不動の一位なのだけれども、確かにそう言われても何の異論もないほどに素晴らしい大会になっていた。
 ではどうして今大会が、ここまで満足度が高いものになったのか。
もちろん、ネタが全組面白かったことだけでなく、出順が芸風に即した流れを作っていたなど様々な要因があると思うのですが、一番大きな理由は、ネタの幅が広かったということではないだろうか。明らかに、準決勝までの審査員他、スタッフから、手数重視からの脱却という明確な裏テーマがあったんじゃないかなとも思えてしまうほどに、昨年までの大会であれば、ファイナリストにはいなかったような漫才が多いように感じた。
 例えば、すゑひろがりず、オズワルド、ぺこぱがそうであり、よしんばファイナリストに残っていたとしてもよくて一組なんじゃないかと、勝手に判断してしまうほどに、『M-1グランプリ』を見る脳が、ともすれば競技的とも揶揄されるような、ボケとツッコミの応酬がギッチギチに詰め込まれた漫才が勝ち上がるという固定観念に縛られていた。
 しかし、実際には、それを覆すほどの多種多様な漫才が出てきた。
 だからこそ、それが満足度の高さに繋がったんだと思います。
 また、あまり気が進まないのですが、ペコパやミルクボーイが上位になったことで生じた「誰も傷つけない笑い」にまつわる話がまたむしかえされていたことにも一応触れておかないといけないと思います。
 この話は、賞レース後に起るトピックの一つで、風物詩みたいなものなのですが、逆を言えばそれのみを判断基準としてお笑いをチェックする人たちが、そう言い始めるのですが、それは賞レース直後にしか起らない。ということは、彼ら彼女らは、賞レースしか見ておらず、お笑いにお金も労力も時間もかけていないわけです。
 これはまさに「お笑いのない世界に住んでる人が、たまにお笑いのある世界に降りてきては傷付けない笑いを拾ってありがたがっては、またお笑いのない世界へと帰っていく。」状態なので、彼ら彼女らは、どこか他人を傷つける笑いで笑っている人達、またはそういうネタを作る人たちのことを利用して、自分達の考えが新しいモノであると確認したいだけなんです。自分達の視点が正しさという一点しかもっていないにも関わらず。
 「イッキ」を取りこんだネタが全く問題視されていないところを見ると、本当にバカなので、答えは沈黙に限るんですけど、そんな彼らよりも、他人を傷つける笑いでも笑える人たちは基本的には優しいし、そんな我々よりも、人を楽しませたいという業を背負った芸人は一番優しい人種なので、少しずつ世間の空気を取り込んではいきますので、確かに、差別的、暴力的な笑いというのはライブであっても受けにくくなっているのは現状ではあるものの、それは新しい考えでは決してないし、あいつらから啓蒙されたものではないということは強く言っておきます。まあ、どうせ、ここまで読んでねえだろうけど。
 だから、別にニューヨークや、見取り図で爆笑して、これからお笑いにハマるような中高生は何も間違っていないということを強く言っておきたいです。
だから、誰も傷つけない笑いがそれがために上位に食い込んだのではなく、正しくは、結果的に誰も傷つけなかったと推定できるようなほのぼのとしたネタが入ってくるように、多様性がある大会で、そのネタがその日の出来が良くて面白かったから上位に食い込んだ、なんです。
 ちなみに、大林素子、今年はいないのかーとお嘆きのみなさん、実は観客席にいましたので、探してみてください。
 それでは、よいお年を!(ポン!)

 

 

同人誌をBOOTHでの販売始めました。
https://memushiri.booth.pm/

 

 

テン年代のハライチ総括。あるいは、来るべき単独に向けての試論。

 ハライチの岩井勇気が『僕の人生には事件が起きない』というエッセイ本を刊行した。
 その宣伝でいくつかのインタビュー記事を読んだが、一番重要な事を言っていたのは吉岡里帆がパーソナリティを務めるJ-WAVEのラジオ番組『UR LIFESTYLE COLLEGE』だった。
 ひとつは、テレビで活躍している澤部を見て、自分にはあの立ち位置にいけないと思った時に、「じゃあ、どうすんのってなって。とにかく何かに詳しくなろうって。自分が好きなもののほうが、なお良いなって思ってアニメとかを全部網羅するようにしたんですよね。」という発言だった。岩井は、そういう行為を、「仕事のために何かを勉強するのは見苦しい」と一蹴してしまいそうで、らしくない発言のようにも聞こえたが、岩井の仕事に向かうスタンスに関する重要な証言にも思えた。実際に、『ハライチ岩井勇気のアニニャン』を始めとして、アニメを始めとしたサブカルチャー関連の仕事を増やしている。
 そしてもうひとつは、2020年に挑戦したいことを聞かれた岩井「単独ライブをやろうかな」という答えだった。芸歴13年を迎えても、単独ライブを一回もやったことない理由は、「単独ライブって結構ね、単独ライブ始まる2ヶ月くらい前からバタバタ作りだしてネタをね、で、やる感じが多いんで、大体芸人って前々から準備してってのがあんまやらないタイプが多いんで、だからね、半分くらいね、しょーじき、間に合わせだな、みたいなネタが多かったりするんで、あんまり意味ないなぁ、みたいに思ってやらなかった」からで、「単独ライブ反対派だった」と話す。
 しかし、「来年ちょっとやってみようっていうことになって、やってから文句言ってみようってなりました」と、さらりと宣言してみせた。
単独ライブをやらない理由は岩井らしく笑ってしまうものだったが、その枷を外して開かれた単独ライブは最高なものになることは間違いないだろう。
 ふと振り返れば、ハライチが『M-1グランプリ』でノリボケ漫才を披露したのは2009年の年末なので、2010年からメディアに出始めてから2019年に至るこのテン年代という十年間は、コンビ間では澤部の方がメディアの露出は多いにしても、この十年間を総合して審査した時にハライチというコンビは同年代の芸人のなかでも上位に食い込んでくるのは間違いない。だからなのかは不明だが、若手芸人にとってはあまりに当たり前な単独ライブと、二人がメインのバラエティ番組というものが、ハライチにとってのこの十年間への忘れ物となった。
 加えて、漫才師としての評価もまた、正当にくだされているのか曖昧な部分がある。『M-1グランプリ』という賞レースのファイナリストに何度も進出しているだけでなく、ネタ番組でもコンスタントに登場、また、さらば青春の光相席スタートとのライブ『デルタホース』を開いては新ネタをおろし、『タイタンライブ』にも定期的に出演している。もちろん、ネタも面白いと思われているからこそ、コンスタントに場が用意されているのだが、漫才師としてのハライチを評価する声よりも、タレントやラジオパーソナリティーへの評価の声を聞くことの方が多く感じてしまうのは、気のせいだろうか。バラエティ番組での澤部のそのキャッチーさと、岩井『ゴッドタン』などでの「腐り芸人」として「お笑い風」といった真似したくなる言葉を駆使した他の芸人への批評など、二人がそれぞれ逆のベクトルで剛腕を振るっているという、テレビタレントして、マスとニッチの両輪がガッチリと噛み合っているという最高な状態にあるからこそ、ネタの凄さに気がつかれていないと言った方がいいだろうか。
 ハライチのネタは、主要なものはおおむね見ているはずだが、特に、ここ数年の顕著な特徴として、ノリボケ漫才から始まったハライチの漫才は、ハライチの漫才だけじゃなく漫才という芸そのものをアップデートしてきているように、スタート地点からかなり遠くに到達している。しかも、あまりに自然に、軽やかに、成し遂げ続けている。
 漫才におけるフォーマットというのは、それをひとつ生み出し、モノにするには、平均的に10年はかかるとみていいだろう。それが出来れば、食えている漫才師となる可能性は一気に高まる。ハライチが凄いのは、そんなフォーマットを、ネタをおろすごとに産み出しているところであり、恐ろしいのは、そんなフォーマットを使い捨てにしているということである。この行為はコスパという面だけで考えると、あまりにも悪い。これと同じことをやっているのが、ナイツやバカリズムらであるということを考えると、やはり、岩井も天才と評さずにはいられない。
 例えば、玄米を覚醒剤のように勘違いさせるようなことを言い続ける「ダイエット」、澤部にコミュニケーション能力があるのか調べるためのテストを岩井が出すという名目であるあるを言っていくが徐々にないないになっていく「コミュニケーション能力チェック」、ジャパニーズホラー的でグロテスクな世界観に誘われる「旅館」などがあった。
 特に凄かったのは、宇宙からやってきた生物に澤部が寄生されそうになる「寄生」と、「アイドルのシステムを政治に」だ。
 「寄生」は、中盤から岩井が全く喋らなくなり澤部が一人であたふたし続けるというこのネタは、ノリボケ漫才をベースにしつつも、そもそも漫才としても新しいことをしているというもので、特に凄いのは、観客の目線は、ずっと喋り動き続ける澤部ではく、全く喋らない岩井にも向けられてしまうところにある。
 「アイドルのシステムを政治に」は、アイドルが総選挙をしているから、政治家もそれを見習って握手会などを導入した選挙をしたほうがいい、と岩井が終始、逆のことを言い続けるソリッドなネタなのだが、単純に面白いだけでなく、政治とそれにまつわるものに対して批評的となっていて、それはまさに風刺だった。


 全てのネタをメモすればよかったと思わずにはいられない。
 単独がほんとうに楽しみである。
 

おかえり、アンタッチャブル(完全版)

 今よりまだ深夜ラジオを聞いている人が 少なかったであろう10年ほど前に遡るが、間違いなく一番面白いラジオが『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』だった時期は確かにあった。裏番組は『ナインティンナインのオールナイトニッポン』という巨大な存在だったものの、聴取率調査でジャイアントキリングを起こしたこともあった。「リスナーがパーソナリティ」と謡っていたその番組は、アンタッチャブルトークはもちろんのこと、ネタメールも最高で、盛り上がっているコーナーの最後のメールを山崎が読むと「ふざけんなよ、もう終わりかよ」と柴田がよくキレていたのもたまらなかった。そんな番組も、事情を知らされないまま柴田が休業することになり、しばらくは山崎一人でゲストを迎えながらも放送を続けていたが、不完全な形で終了を迎えることになってしまった。
 ちょうどその頃と前後して、山崎はザキヤマとして『ロンドンハーツ』や『アメトーーク』でその存在感を発揮し、どんどん売れていくこととなる。ザキヤマというのは、もともとは、ラジオのノリで決まった、山崎のあだ名だったが、いつしか本当のあだ名として世間に定着していった。その後、柴田は復帰するものの、きちんとした説明がされることはおろか、すぐにアンタッチャブルが復活することはなく、その間もバラエティに出ずっぱりだった山崎との差は広まっていくばかりであった。
 柴田からは、山崎と定期的に会っているという話を聞くことはあっても、山崎からは柴田の名前すらも聞くことはなく、勝手なファン心理として、いつしか山崎を見ることを避けて、その言動で笑うことすらなくなっていた。
 先日、週刊誌のサイトで「アンタッチャブルが復活する」というニュースが流れてきた。この手のニュースに何度も騙されていたので、諦めと防衛反応から、どうせ飛ばしだろうと思うことにして、きちんと読まなかった。ただ、いつもと違うのは、何でこのタイミングでまたこんな記事が出てくるんだ、という心に引っかかったことだった。
今思えば、普段は録画や動画配信で視聴していた『全力!脱力タイムズ』を、その日はきちんとリアルタイムで見たのだから、51%くらいはその記事を信じていたのかもしれない。
 そして、その期待は裏切られなかった。
 いつもの通り、コメンテーターとして座っている柴田を、有田を筆頭に番組サイドが翻弄する。今回は、担当ディレクターがハマっているものがボードやVTRに反映されているので、そのハマっているものは何かというのを柴田にあててもらうというもので、その問題には柴田の好きな動物が答えになっていたりして、柴田を暖める。
 柴田がこの番組に出場すると、ゲストが「アンタッチャブルの漫才を見たい」と言いだすも、一回目のフォーリンラブのバービーから始まり、ハリウッドザコシショウコウメ太夫といった山崎以外の芸人が出てきて、柴田と漫才をするという流れがすでに出来上がっている。もちろん、アンタッチャブルの漫才ではないものの、柴田のツッコミが上手すぎるせいで、きちんと漫才として成立してしまう。そして、散々笑った後に、その反動で、やっぱりアンタッチャブルの漫才を思い出して切なくなってしまう。
この回も同様の流れになったが出てきたのは俳優の小手伸也だった。山崎の衣装のように白シャツに白いネクタイを纏った小手はきちんと山崎に似ていて、その地味な完成度の高さに笑いながらも、だよなあ、と諦めた。
 しかし、漫才を始めた二人だが、どうにも小手の歯切れが悪い。最終的には、小手はネタを飛ばしたあげく、「ドラマの合間で来てて、僕も大変な時期」と不貞腐れてしまう。それから漫才を続けるも、スタジオでも笑いは起らず、業を煮やした有田が「小手さん、もういい、いい。もういいですわ。ドラマの合間に来ました、みたいな中途半端な気持ちでやるんだったらもういいですよ、帰ってくださいよ、やる気ないんだったら」と小手を叱り、小手は帰ってしまう。スタジオは重い空気に包まれるが、「もう一回やります?」「一応最後までやりましょうよ」という柴田の言葉と、全力解説員のフォローもあって、「俺も言いすぎたわ」と反省した有田が小手をスタジオにもう一度呼びに行く。
 待っている間、柴田は、「そんな番組じゃないんだから。楽しくやってる番組なんだからさ。まじで。汗びっしょりかいてさ。楽しく帰ればいいじゃん」と言いながら、洋服を整えて、有田と小手を待つ。
 スタジオに戻ってきた有田と小手を見て、柴田は、「うわぁーっ」と叫んでサンパチマイクをつかみながら倒れる。それもそのはず、有田が連れてきたのは小手ではなく、本当の相方である山崎だったからだ。
 柴田は「バカ、ダメだってお前。ダメだってお前、まじでー。ダメだって。ダメだ、違う違う、バカ、ダメだって。違うって。マジで!?」と叫び続け、サンパチマイクを持ってスタジオをうろうろしながら、「ちょっと待って、これ本当に!?お前マジで。おいおいおいおい、ちょっと待てよ。こんな出方あるか。」と叫び続けるも、本当にこれからアンタッチャブルとして漫才をやると悟って腹を括った柴田は、「ちょっと本当に、この番組でやんの。おっしゃあ!!」と雄たけびを上げ、サンパチマイクをセンターにセットし、ジャケットを脱ぐ。
 「いや、ありがたいですねぇ~」
 「ありがたいね」
 歳月の重さを感じさせないほどに軽く、よくあるトーンで始まった漫才は、非凡で、圧巻で、迫力があって、誰も太刀打ちできないほどに強い、あの頃の無敵で唯一無二の漫才だった。何度も何度も見たネタなのに、10年の空白があったのに、進化すら感じさせられた。
 「アンタッチャブルの漫才の台本はペライチ」「袖で出番直前まで後輩芸人をいじったりシャドーボクシングしているのに、舞台に出たら爆笑をとっちゃう」、関東芸人の間で語られる都市伝説を思い出すが、いやいや、漫才に集中しなければと、頭を振る。
一分ほどネタを進め、程よく区切れるところで柴田が「いい加減にしろ」と漫才を終わらせようとするも、山崎は「いやいやいやまだまだまだ。まだ終わりませんから。」と、お辞儀をしていた柴田の頭を引き上げ、すぐさま漫才を再開させる。グッと来た。結局3分半ほどネタを披露した。漫才の合間に挟まれる有田の笑顔がまた何よりもたまらなかった。
 小手がスタジオからいなくなりそうな展開になったこと、番組の予告で流れていた本当に驚いている柴田の映像がまだ本編で流れていないことからも、これは本当に山崎が出てくるのかという疑念を完全には払拭できないでいたが、まさに小手の代わりに出てきたのは紛れもなく山崎で、その瞬間にアンタッチャブルが画面に揃ってしまった。
 10年近く止まっていた時計が動き出した。
 漫才でひとしきり泣き笑いしたあとに、「え、まじでアンタッチャブル復活したってことでいいの」「いや、漫才の面白さ変わらなすぎじゃない」「なんでこんなにスイングしあってんだよ。」「有田哲平かっけえよ」「シカマンの最終回、よろしくお願いします!」と様々な感情に心が揺さぶられていると、番組はいつものようにさらっと終わっていった。
 本当にアンタッチャブルは復活したのだ。今この瞬間から、「アンタッチャブルを生で見たことがない」から、「アンタッチャブルをまだ生で見たことがない」になった。
 二人が再結成をするのなら、有田哲平のもとで、と常々思ってはいたけれども、考えうる限り最高の復活劇だった。柴田は「この番組で!?」と言っていたが、この番組しかなかった。
 有田はいつから仕掛けていたのか。 
元号が変わったから。十年経ってしまう前に。この日のために、相方の偽物と三回も漫才をさせたのか。もっといえば、信憑性が低そうな週刊誌から漏れたというところも、有田が本当に待ちわびている人達に向けてのメッセージとして、わざとリークしたではないのかとまで深読みが出来る。
 それだけじゃない。山崎が出てくる直前に流された『犬神家の一族』のパロディ映像にはスケキヨが一瞬映っていたが、スケキヨといえば、青沼静馬との入れ替わりであり、小手と山崎の入れ替わりとかけていた可能性もあるといった、番組内に散りばめられた情報への考察は止まらない。
 その深読みと考察の余地こそが、有田が『有田と週刊プロレスと』で熱く語っていたようなプロレス観そのものだろう。
 何より嬉しいのは、柴田に悲壮感がないことだった。
 柴田にも色々なことがあったが、そのために世間的には評価が地に落ちたことは否定できない。それでも、正式に復帰して以降、一つ一つの仕事で結果を出してきた。事実、この番組でも、山崎が出る直前まで、柴田はひとりでガンガンに笑いを取っていた。そもそもこういうことになってしまったのも、柴田自身が蒔いた種のせいかもしれないが、それでも腐らずに笑いを取ってきたということをファンは知っているからこそ、みんなは素直に嬉しさを爆発させることが出来た。それは、奇しくも、漫才が始まる直前の柴田が言った「汗びっしょりかいてさ。楽しく帰ればいいじゃん」という言葉が表すものそのものだった。
 その日の夜、三時過ぎまで眠ることが出来なかったので、いったん起きて、ブログの記事を一気に書き、「おかえり、アンタッチャブル」とタイトルをつけてアップした。そのリンクを、ツイートすると、同じように信頼している深夜ラジオリスナーが少し前に「おかえりアンタッチャブル」という記事を更新していた。そりゃあ、この言葉しかないんだから、そんな偶然もあるよな、と思いながら、その文章を、うんうんと頷きながら読み、とりあえずの気持ちを吐き出した安心感からかすぐに眠りに就くことが出来た。
 翌朝起きると、高校の同級生から、「脱力タイムズ見た!?」というLINEが入ってきたことで、昨日のことが夢じゃないことを確認した。友人は、「記事も知らなかった」、「Twitterもやってない」、「番組の後のニュースも見てない」、ただ、毎週のルーティンとして起きてすぐ土曜日の朝に録画を見たら、アンタッチャブルが復活したという、羨ましいほどに最高のコンディションで見ることが出来たようだった。
 日曜日の『THE MANZAI』までに何度も何度も番組の録画を再生しながら、ラジオ聞きとして、このニュースへの芸人仲間の反応を見聞きしたが、何より、伊集院光の『深夜の馬鹿力』と爆笑問題の『爆笑問題カーボーイ』は、やっぱり良かった。いつだって重要なニュースについて「月曜日はさらっと、でも深く、火曜はじっくり笑いを交えて話してくれる」という持論があるが、まさに、その通りで、伊集院は事前に知っていたという話をしながら笑いを交えつつ、この件について短いながらも触れてくれたが、そのなかで何より嬉しかったのは、伊集院の口から「俺がアンタッチャブルに望むことは、シカゴマンゴの最終回やったほうが良くない?っていう。多分。ふわって終ってる気がするんだよね」と『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』の本当の最終回を放送することに言及してくれたことだった。『爆笑問題カーボーイ』は、『THE MANZAI』の楽屋話をたっぷりとしてくれた。柴田に出会ったときのことを太田は、「『おい、お前なんだよ、この間よぉ、ふざけんなよ馬鹿野郎』『いや、もう勘弁してくださいよぉ』って言ってんだけどさあ、もう嬉しそうなんだよ、柴田がとにかく。とにかく嬉しそう」と振り返ったが、それを話す太田の声も嬉しそうだった。
 そこから、そのことはさておいて、『全力!脱力タイムズ』で柴田は山崎が登場することを知っていたのかどうかで爆笑問題の二人でケンカが始まるところや、ほかの芸人たちに、アンタッチャブルの楽屋に連れていかれたら、アンタッチャブルに向かって「お前らなあ、ふざけんなよ、こうやってちやほやされるの今だけだからな!」と言ったら、サンドウィッチマンを始めとしてその場にいた芸人たちに、「なんでそんなこと言うんですか!」と総スカンを食らったというのは太田らしくて最高だった。
 人生の伏線を回収したのは、アンタッチャブルの二人だけではなかった。東京03の飯塚もそのひとりだった。『ゴッドタン』で過去に番組の企画の中で「アンタッチャブルは俺の夢だったんだよ」と柴田にキレていたことがあった飯塚は、たまたま復活直後に『佐久間宣行のANN0』にゲストで出演することが決まっており、その回では当然、佐久間と飯塚でアンタッチャブルの話が始まった。飯塚は『全力!脱力タイムズ』放送時は、東京03の単独ライブで大阪にいたので、リアルタイムで試聴することが出来なかったため、次の日の朝にTVerで番組を見始めたら、「山崎出てきて、フリスクのボケやってる一発目、あのボケ見たらぼろぼろぼろって涙出てきちゃって、あ、駄目だ俺もう今これ見終わったら、自分達の単独どこじゃないと思って、一回辞めたんです」と話してくれた。そこから、養成所時代からアンタッチャブルを見てきているが、すべっているところを見たことがない、絶対売れると思っていたので、「アンタッチャブルは俺の夢だったんだよってのは、ほんとに全然大袈裟でも何でもなく、ほんとの思いなの。だから柴田なにやってんだよって思いが強かったの」と話す。
 飯塚はそう言うが、そもそも、おぎやはぎから始まった、アンタッチャブルキングオブコメディドランクドラゴン、もちろん東京03を含んだ人力舎勢のゼロ年代における躍進こそが、カウンターカルチャーと言ってもいいくらい血沸き肉躍るほどの熱狂に値するほどのお笑いファンの夢だったはずだった。
 柴田がレギュラーとして出演している文化放送の『なな→きゅう』では、『全力!脱力タイムズ』での思考の流れや心境をしっかりと語ってくれた。
 例えば、漫才を始める前に、山崎に向かって「ありがとうございます!」と一礼したことについては、「ありがとうございますは、あんま記憶にないけど。何で言ったのか。VTRで、自分で見て確認したけど、いや、本当にありがたいと思ったんじゃない、多分。ここを選んでくれたこと、そして俺に言わないでこう、それをやろうと、本人のほうが大変じゃん、俺はもう番組あたまから出ててさ、アイドリングも出来てるけどさ、本人緊張するでしょ、さすがにあそこから出てきて笑わせますみたいな感じ。まあそういうの含めてじゃない。あとは、その関係各位に。ご迷惑をかけた人たちにだよね。のありがとうございますだよね、それは」と語る。
 そして、小手の代わりに出てきた山崎を見た瞬間については、「何をやらされるんだろうなみたいな感じだったけど、瞬時に気付いたけどね、山崎出てきて、ここで漫才を一回やって、これから復活してくのかしら、俺たちは、みたいな。俺も半信半疑だからね。」と考えたという。
 この復活劇については、番組の構成作家が自分たちも知らなかったという旨のツイートをしていたように、人力舎の社長とマネージャー、番組スタッフの中でも数名、そして有田哲平しか知らなかったという証言も得ることが出来た。
 そして、『THE MANZAI』である。二時間ほど引っ張られはしたものの、こっちは10年近く待っていたわけなので、そんな時間はロスタイムみたいなものでなんともない。
 ネタは「神対応」。『全力!脱力タイムズ』のネタとは違って、どこまでも会話が噛み合わない柴田と山崎、でもやっぱり強くて面白くてスイングしていて歯車がガッチリ噛み合った漫才だった。
 復活して以降、ずっとアンタッチャブルのことを考えていたのだけれど、記憶の扉を一番こじあけてきたのは、この漫才に出てきた『M-1グランプリ2004』に優勝したときのアンタッチャブルが獲得した点数「673点」というワードが出てきた瞬間だった。この点数は、『シカゴマンゴ』でも散々こすられてきたもので、一気に他のラジオでのネタが脳の中で繋がっていった。「柴田谷繁」「磯山さやか」「いいじゃな~い」「まあまあまあ柴田さん!」「ピンクたけし!」「二回こく」「ネツリーグ!」「粋な噂をたてられた~」「腕折れてもうたやないか!」・・・・・・。
 10年待ったのだから我がままくらい言っても良いと思うが、『シカゴマンゴ』の最終回を聞いて、山崎のボケに柴田がこらえきれず倒れ込んで床を叩いてつっこむのを見た時が、本当の本当の意味での「おかえり、アンタッチャブル」を言うことにしたいと思う。その時に、また少し泣くだろう。
 これらの復活劇をテレビで見ているであろうあの人はきっとこうツッコミを入れたことだろう。「どんだけ待たされたんだよ。俺はあみんか!」