石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

THE W2023感想(アファーマティブアクションから練兵場へ)

 『THEW 2023』観ました。気になったネタの感想です。

 まいあんつのネタについて、全く笑わなかったのだけれど、それは、もともと、猿ぐつわという意味であったギャグは、ストーリーにメリハリを付与するためのものであるため、ギャグの羅列は、そもそも無理がある。とある芸人が、とある作家にFUJIWARAの原西の「背骨を引っこ抜いたら立ってられへん」を引き合いに「君のギャグはフリがないから伝わらない」と指摘されて、ぐうの音も出なくなっているところを見たが、まさに、ギャグの羅列には、その問題に直面する。加えて、ギャグをしているということが、意味のないものになってしまう。意味のある流れに意味のないものが配置されるからギャグなのだ。だから、俯瞰すると、あんなに動いているのに平坦に見えてくるし、ちょっと油断するとテンションについていけなくなって一気に冷めてしまう。

 また、ギャグの動きについて、舞台衣装であった、魔法にかかる前の家事をするための洋服のフォルムのせいで、その身体性が損なわれ、なんかどういう動きをしているのか分かりづら苦なってしまう。敵がゆったりした服を着ていたら、武器を隠していると思わなければならないし、ジュディ・オングがギャグをやったら、ビラビラを邪魔に感じてしまうだろう。あと、呼吸が荒れていたのは平場では面白くなるが、ネタの場でのあれは悲壮感が出てしまう。

 ただし、設定において、シンデレラが魔女に間違えた魔法をかけられて、無理にギャグが出てしまうという設定は、自発的にやっているよりも、やらされているという体の方が面白いと思うので、そこは考えれられていたりするので、あとは、見せ方やストーリー、緩急の問題などの話になってくる。

 ここまで書いて、自分が、まいあんつをシンプルにギャガーとして見ていることに気がついた。というのも、数年前なら、割と手放しで評価していた可能性があるからである。女性がギャグを

しているだけで、話題になったんじゃないか。もう、女性がひょうきんなことをするだけで評価される時代は、死んだとして良いのでしょうか。

 ただ、国民投票というシステムがある以上、ネタを終わった後に、さらにギャグを披露するのはマジで卑怯です。こんなことは絶対に許されない。

 ついで、はるかぜに告ぐは、1年目のコンビなのでこういうことを言ってもいいと思うけれども、おばあちゃんの形見が傘ということから岸和田いじりなど、ネタの題材やワードの使い方などから明確な金属バットフォロワーのコンビに見えるが、それだけでなく、ルックは尼神インターのようにキャラの対比が明確、フォーマットは、どこかミルクボーイやブラックマヨネーズを思わせる、会話の要所要所で、予想の斜め上の情報が小出しにされてそこを起点に会話が転がっていくスタイルで、知らんやっつらの知らん会話を盗み聞きしているという愉悦がある。これだけ見たら、鵺の赤ちゃんのような存在しないシルバニアファミリーの新作みたいな、今のところ足りないのは技術だけというコンビだった。

 今大会でのめっけもんは、エルフだった。一本目のコント「居場所」が素晴らしかった。

 久々に実家に帰省したギャルの姉が、引きこもっている妹を心配し、部屋をこっそりと覗いていると、実は配信者として活動し、それなりの評価を得ているということがわかるという展開から、配信に乱入し、。「家族が寄り添ってやらな」や「実質外出てるー」といった、ギャルのポジティブシンキングを、コントに落とし込んでいることに、新しいコントのスタイルを見たように感動した。そのアイコンの活用は、漫才の方が自由なはずなのに、その意義が十二分に発揮しているのはコントの方だったことはとても興味深い。

 ラストに、実は父親も配信を見ていたという「パパー」ってオチ、それ自体も奥行きがあってお見事だし、今週のワンピースでドラゴンがルフィのことを思っていたことがわかってコンビニで震えたくらいには、親の愛を感じる良いものだし、例えば、このコントを男性がやっても成立はするとは思うけれども、この「パパー」のトーンのなんとも言えない、ウェルメイドな良さは出せないんじゃないだろうか。

 「お茶って一個1万円するの」という姉のセリフが、設定として姉が実は妹がライバル視している1位の配信者であったということがバラされた時にウソになってしまうし、「パパも怒らんで良いって」というセリフも、本当は知っていたのかその場で知って順応したのか不明になるというノイズとなってしまったりと、脚本に穴があることは否めないが、それでもやはり良いコントだと思う。あと、配信にコメントしていた矢部くんが「やんす」を使うという無駄なパワプロくん設定はなんだったんだ。

 これらのネタだけでなく、梵天はもっとぐちゃぐちゃな漫才をしてそこから削ぎ落とし、ニンが乗ったら一気に化けそうだし、あぁ~しらきの「角刈りは蛇に懐かれる」で腹爆発したし、ぼる塾の四人体制は、なるほど、と思うくらいにはフォーメーションが完璧だったし叩きがいがあるネタだったし、本当に、大会としての価値は高まっている。

 差別を受けている人たちの現状を是正するための改善措置を積極的に取ることをアファーマティブアクションと呼び、『THEW』はその基に生まれた賞レースであり、その観点から、見た場合、その良い点として、恋愛ネタ、女芸人が「女性」をやらされているネタがほぼ淘汰されていたことは、とても良いことだと思う。スパイクの1本目や、紅しょうがの2本目、ハイツ友の会、変ホ長調など、女性の生活から見えてきたものであったり、女性が気付きやすい視点からくる発想を膨らませたものであったり、ジェンダーによる縛りからの解放された結果が、当初に望んでいた通り、ほぼ芽吹いてきたと言って良いのじゃないでしょうか。

 まだまだ他の賞レースと比べてネタが弱いことが、審査員コメントの刺さらなさ、どこか無理している感じからも伝わってくるが、大会としての次なる目標は、ここで結果を残した芸人が、他の賞レースの決勝に進出するに設定しても良いくらいに、今年は、そのネタの幅が広く、ネタの見えせ場として豊潤な土壌といってもいいくらいには、楽しい大会だった。ここを練兵場とした女芸人が他の賞レースや別のメディアで跳ねていく、それこそがアファーマティブアクションでしょう。

 もちろん、大会として問題があるわけでなく、ただ、番組側が、それをどこまで意識しているのか、ネットフリックスのリスペクト講習みたいなやつを全員が受けているのか、カウンターとしての賞レースでもあるという自覚を持っているのか怪しいところがある。

 ニューヨークの屋敷が、小綺麗な格好をしている吉住を見て、「フェミニストみたい」という発言をして批判を受けているが、これも、犯罪者を作らないような体制作りに務める義務もあるという理屈に基づけば、無駄にニューヨークを呼び込んだ番組側にも責任はあり、歴代のチャンピオンを多数連れてくるということで安っぽくなっているところに、とりあえずな売れっ子の、さらば青春の光の森田や、鬼越トマホークらを入れとこうみたいな保険をかけている方も悪く、安易な視聴率主義が透けており、基準スレスレのふるさと納税で儲けた自治体のビカビカの祭りみたいに、理念もへったくれもねえなとか思ってしまう。

 他には、元自衛官のやすこへのキャッチコピーに「アーミー(軍隊)」を使ったら憲法の解釈的に問題があるだろうとか、リークが本当なら、M-1に女性審査員2枠を先にやられてるんじゃねえよとか、なんかキングオブコントのスタッフって、THEWの観客も女性が多いことについて、なんで俺たちだけ叩かれてるんだと反省してなさそうという偏見など色々あるけど、とか言わないの~って感じになってきたので、姫ちゃんTHEW待望論という逆逆指名で締めさせていただきます。

 出たらひっくり返って笑うと思う。

 ニュートン!リンゴが落ちたところでお時間です!(松尾アトム前派出所)