石をつかんで潜め(Nip the Buds)

ex俺だって日藝中退したかった

M-1グランプリ2023 宇宙最速感想

 今年のM-1グランプリは、どこか不穏な空気を纏っていた気がしていて、最悪、誰かの大炎上があるのではないかという気持ちでいたのですが、蓋を開けてみればそんなことはなくて良かったです。ただ、なんか製作陣が爪痕を残そうとしている感じがなんかうっすら嫌でしたね。

 敗者復活戦から本戦までぶっ続けで8時間弱の放送、古くからの予選審査員の卒業などもあるが、特に立川志らくが審査員から外れたことはかなり興を削がれてしまった。立川志らく師匠の審査は、登壇の1回目から、M-1グランプリでかけられる現代漫才を、立川流の基準を持って伝統に接続させることで、その革新性が寄席演芸と地続きであることを示すだけでなく、ヨネダ2000やトム・ブラウン、ランジャタイの、いわゆる理屈の外のドガチャカな漫才を評価していたことも忘れられない。本当にお疲れ様でした。どうにかステイできなかったのか。

 さて、Bブロックが終わったあたりでめちゃくちゃ疲れてしまった敗者復活戦を振り返ると、ママタルトの楽しい漫才が仕上がりかけていたところや、圧巻のトム・ブラウン、シシガシラの、全員が差別の共犯になってしまうという意味ですごく新しいネタ、フースーヤ霜降り明星せいやが二人で漫才をしているようなネタ、ダイタクの父親のネタ、スタミナパンの馬鹿さ、今後大喜利ワードを並べるならここまで意味不明なことを言ってもらわないと困るくらい基準を上げまくってしまっている罪作りなななまがりなど、面白かったが、初めて見たコンビでは、一番、20世紀が記憶に残った。とにかく、表現力がすごかったし、あの頃のコバケンに似た左がカッコ良すぎた。あと、なんかよくわかんないけど、バッテリィズには幸せになってほしい。

 敗者復活戦のシステムについて、当初のリリースをちゃんと読まないで、タイムラインの雰囲気で分かったつもりになっていたけれど、見てみたら、思っていたのとちょっと違っていた。もしかしたら、安倍派のキックバックという名の裏金製造スキームもやってみたら違うのかもしれない。そんな新しくなった敗者復活戦は、スピーディーに進みすぎて、これまでの敗者復活戦とはかなり印象が異なっていた。これまでの方式に対して、さして悪いものであるなどとも思っていないのではあるものの、結局は人気投票になっているという批判などを吸い上げつつ、屋外での寒さ対策なども取り入れるという持続可能なものにアップデートするという意味では100点だと思うが、しかし見ていて思っていたのは、やはり、一試合目で即敗退する1組目などはちょっと可哀想だし、20組全員を背負っているという感じがなかったことによる情念が薄まっているのが個人的には物足りなかった。しかし、そのウケと審査が意外にずれていたりとかなり驚かされつつも、概ね納得の結果ではあったので、楽しかったし、まあまあ今後はこれでいくのだろうという感じであった。 

 余談ではありますが、これまでのシステムだったら、20世紀、ママタルト、トム・ブラウンに投票してそれをスクショしてから、お風呂に入って、相葉マナブを見たり見てなかったりしていましたね。

 

1組目 令和ロマン 

 結成5年で決勝へ。初めてラフターナイトで聞いてその完成度とまとまり具合に驚いてから5年くらい経つということ。

 あんまりニンに合っていなかった、くるまのバカキャラを捨てて、理論的な方向へと進む。くるまがこのタイプのネタって多分初めて見たんだけど、それなのにここまでその方向を完成させているの凄すぎる。詰め込みまくっていて途中まですごいぶち上がっていったものの、後半入口でちょっと間伸びしてしまった。ただ、この漫才において、ちょっと間が合わなかったというだけではあるものの、それなら、突っ切って欲しかった。最後立ち直したこともトップバッターなのに高得点に繋がったのだろう。

 

2組目 敗者復活 シシガシラ

 シシガシラの名作ということでそれ自体は知らなかったのだけど、やはり、今言ってはいけない言葉の代表として、看護婦、スチュワーデスという言葉や、順位をつけないなど、それ自体は、とても古いので、どうにかして、フォーマットはそのままに、そこら辺の知識は進めてて欲しかった。

 

3組目 さや香

 もうお見事すぎましたね。指摘する点が何もない。褒めるしかない。エンゾ側からしたら、ほぼ是枝映画みたいな設定になっているところも味わい深いし、目バキバキは面白かったんだけど、去年よりも漫才の展開に矛盾がないんだけど、狂気は去年の方があったかもしれない。ここを越えると、緻密な計算が見えてしまう気がする。これをどう取るかで、もう好みの問題。

 

4組目 カベポスター

 漫才の技術はさらに上がっていて、聞かせるんだけども、やはり昨年の漫才の構造の巧みさと発想と比較してしまった。

 

5組目 マユリカ

 やっていることはそんなに凝った漫才ではなく、王道なんだけど、中谷が面白いので、ちょっとそれが変わった漫才に見える。大喜利的なワードも外さないし、ボケ数も多くはないけど、満足感がある。ちょっと熱が冷めてきた会場をリセットするかのような陽の漫才はさすがだった。どこかダイアン味を感じるんだけど、キャラが認知されたら、もっと漫才が伝わるんじゃないでしょうか。準決勝でいつか見た漫才も面白かったと記憶してます。

 倦怠期ってああいうことではないんですけど、まあそれは、不倫をしているということで回収されたということにします。

 ところでマユリカの左は、ずっと不機嫌そうでしたけど、どっかから今日、連れてこられたんですか?

 

6組目 ヤーレンズ

 ヤーレンズ、令和ロマンとちょっとネタの作りがかぶるかなって思ったんだけど、令和ロマンがちょっと感じが変わっていたことと、ヤーレンズが詰め詰めになっていたことで、そんなことなく全く別物の漫才に聞こえて良かった。中盤確かに、疲れちゃったんだけど、好きなくだりを選ばせたら全員が違うやつを出しそうなくらい、ミートカーソルが広い素晴らしいネタ。

 しかし、詰め詰めになっても聞きにくくなかったりしたのは技術のなせる技だろうな。

 

7組目 真空ジェシカ

 相変わらずどこが進化しているのか分からないけれども、去年よりも面白くなっていることだけはわかる。フリとボケの配置が見事だし、ワードの精度も高い。高いんだけれど、必ずしも審査員を置いていこうという嫌な感じもしない。

 一番、観客、審査員、自分達が面白いと思うことの、三者の感性の妥結点を一番考えているのは真空ジェシカなのではないかという気になっています。

 

8組目 ダンビラムーチョ

 ネタの導入がまずかったというか、ネタのシステムの説明が全くされてなかったような気がしたのは僕だけでしょうか。天体観測が長かったというよりも、あ、そういうことなのね、とネタが始まってしばらくして気がつくという感じ。塙が寄席では受けるという基準を持ち出してきてぐっときました。これまでなら歌ネタって下に見られがちなんだけど、審査員のそういった言葉が防御シールドになるのはとてもいいですね。

 

9組目 くらげ

 ミルクボーイっぽいとは言われていたけれど、ダイヤモンドを連想しました。おそらく、ただの羅列に思わせない努力はめちゃくちゃやっている。よく見るとバカだからも っとゲラゲラ笑えるような漫才のはずなんだけれど、あんまりハマっていなかった。

 このネタは、子供が6歳になった頃に見せて、腹爆発させてやろうと思ってます。

 

10組目 モグライダー

 前回出場時の歌いじりネタを少しシステムを変えてきたのだけれど、いかんせん、モグライダーの良さであるともしげのシステムエラーがあまり起こらずに、ミスをちょうどいいくらいに重ねて、ともしげが感じるストレスが一気に解放されるカタルシスが起きなかったのが、爆発しない1番の要因だったと思う。つまりは、ともしげが調子いいからこそ、モグライダーの漫才が不調になるという。ここは、芝が博徒のようなやり方をしているので、こういうことは全然あり得るので止むを得ない。

 

 

ファイナルラウンド

 ちょっとまとめきれませんが、個人的にはヤーレンズでした。やっとヤーレンズの面白さを、ファイナルラウンド二本目で掴んだ気がします。ずっと面白いというか、くすぐりを続けられてじんわり面白いのかなというところに、中盤の最後あたりから、ぐっと大きな笑いが入ってくる。それもあまりいやらしくないというか、志村けんのひとみ婆さんみたいなラーメン屋店主が言いそうなことになってきてると思うと、ボケが脈絡のない嘘ではなくなるので、笑ってしまう。

 そういう意味では、令和ロマンの面白いところを置いておく、それこそダイジェストな作りよりは、ヤーレンズのシームレスさを評価したいなという気持ちが働いた。

 さや香の漫才については、あちゃーという気持ちに、漫才の最初になってしまったものの、これはこれでという気になってきてます。

 令和ロマン、そもそもラフターナイトでネタ聞いて、なんだこの完成度はって思って調べたら、一年目とかで度肝抜かれたから、元々超エリートなのは間違い無いんだけど、そこから地味なキャラ変などの紆余曲折を経て、まるで受験をするようにM-1優勝まで成し遂げたのは、時代の変遷を感じますよ。

 

 さーて、毎年のやつ置いておきますね。

 賞レースの感想は最低5営業日必要。

 それではまた。